FINANCE FORUM テクノロジーの進化とウェルスマネジメントの展望<アフターレポート>


2018年2月21日(水)、セミナーインフォ主催「FINANCE FORUM テクノロジーの進化とウェルスマネジメントの展望」が開催された。顧客本位の業務運営の確立・定着に向けた取り組みやつみたてNISAの開始など、近年投資家にとって安定的な環境が確立し、貯蓄から資産形成への流れが拡がることが期待される。一方AIやロボティクスなどのテクノロジーはめざましい発展を遂げ、ウェルスマネジメント業界を取り巻く環境も大きく変化している。本フォーラムでは、金融庁による基調講演を皮切りに、テクノロジーの先端を走る企業による示唆に富んだ講演、ゆうちょ銀行による取組事例を通じ、ウェルスマネジメントの未来を展望した。

  1. 顧客本位の業務運営の確立と定着について
  2. ウェルスマネジメントの潮流変化と今後の方向性 ~真の顧客本位の実現に向けて~
  3. 遺伝的アルゴリズムによる相続財産の最適分割案の提案コンサルティングの実際
  4. 郵便局ネットワークと資産形成文化の構築
目次

顧客本位の業務運営の確立と定着について

水野清司氏

基調講演

【講演者】
金融庁
検査局 総務課
主任統括検査官

水野 清司 氏

日本は米国に比べ、家計金融資産残高の増加率や、その中で株式や投資信託が占める割合が低水準に留まっている。米国では好調な市場環境に加えて、税制優遇措置による確定拠出年金の普及が投資信託の増加を後押ししたこともあり、家計の金融資産の構成は預金や株式に加え、投資対象が広く分散された投資信託をバランスよく保有する形となっている。一方、日本では企業型DCで運用される投資信託の規模が極めて小さく、長期の積立投資が進んでいないこともあり、投資信託販売はハイリスク商品の割合が高い。

日本においては、基準価額の変動が大きく売買タイミングの見極めが難しいテーマ型投信が売れ筋となっているが、顧客がブームに流され、高値掴みをする傾向がある。

また、投信全体の残高の過半を占める毎月分配型商品は、複利効果が働きにくいほか、元本取り崩しによる分配で運用原資が目減りし、運用効率が下がるという問題点があるが、この事実を顧客の約半数が認識しておらず、販売会社が顧客に十分情報提供しているか疑問がある。特に地域銀行においては、資産形成という目的にそぐわないテーマ型や毎月分配型の投信を積立方式でも販売しているところが散見される。

一般に、アクティブ運用投信はインデックス運用投信よりも信託報酬が高く、それに見合うだけのリターンが得られるか否かがポイントとなるが、日本の株式アクティブ運用投信の過去10年間のリターンは、約3分の1がマイナスとなっているほか、7割がインデックス運用投信の平均リターンを下回っている。

それにも関わらず、アクティブ運用投信は売れ筋の大半を占め、顧客のコストに対する意識の低さも指摘されている。特に近年、販売上位の商品が手数料の高い商品にシフトしつつあり、サービスの対価としての手数料の妥当性を、今一度立ち止まって確認することが求められる。

グループ内に銀行などの販売会社を持つ日系運用会社の多くは、販売会社から役員を数多く受け入れるなか、独立社外取締役の設置が遅れており、経営の独立性が十分確保されていないように見える。こうした運用会社が近年設定した投信を見ると、テーマ型など販売会社が売りやすい商品を継続的に組成している様子が窺われる。

このような投信販売の実態を踏まえ、金融庁としても国民の安定的な資産形成に向けて様々な取り組みを行っている。

昨年3月に公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」は、昨年末までに930あまりの金融事業者が採択し、定着度合を客観的に評価するための成果指標(KPI)の公表も進んでいる。KPIの中には、運用損益別顧客比率や長期・積立・分散投資の販売状況など、その金融事業者が目指す販売などの方向性が相当程度端的に示されているといえる好事例も多く見られ、この動きは金融庁としても歓迎したい。

今後の取り組みについては、昨年11月に公表した平成29事務年度の金融行政方針で次のようにまとめている。顧客本位の業務運営の確立と定着に向けては、モニタリングを通じ、金融機関の取組方針が真に顧客本位のものとなっているか確認するほか、顧客に対し長期的にリスクや手数料などに見合ったリターンを提供しているかなどを示す、比較可能なKPI等の公表による金融機関の取り組みの「見える化」を一層進めていきたいと考えている。

投資への関心が薄い層に対する長期・積立・分散投資の促進に向けては、職場単位でのつみたてNISA導入や、ネットメディアなど新たな情報チャネルの活用などを予定している。また、家計金融資産の多くを保有する退職世代等に対する金融サービスのあり方も重要なテーマのひとつとし、検討を進めている。

ウェルスマネジメントの潮流変化と今後の方向性 ~真の顧客本位の実現に向けて~

武藤惣一郎氏

【講演者】
アクセンチュア株式会社
金融サービス本部
マネジング・ディレクター

武藤 惣一郎 氏

昨今のウェルスマネジメントを取り巻く環境は大きく変化しており、金融機関は抜本的な変革のタイミングを迎えている。

市場・規制面では、顧客本位の業務運営がグローバルトレンドとなっており、日本においても「顧客本位の業務運営に関する原則」に基づき、より一層の徹底が求められるだろう。また、長期安定的な資産形成を目的とした投資スタイルの普及などによって金融資産の回転率低下や手数料低下が進めば、既存の資産運用ビジネスのフィープールは低下する可能性が高いと考えている。顧客本位の徹底と企業の成長をいかに両立していけるかが、ひとつの大きなテーマとなるだろう。

顧客面では、2018年2月に当社独自でサーベイを実施した。正確でタイムリーな情報をパーソナライズされた形で求める投資家にとって、現在金融機関が提供している一般的で膨大な情報は満足度が低い。また、全ての年代で金融機関からアドバイスを受けることを望んでいるが、各年代の3割から4割程度が、金融機関のアドバイスが顧客本位ではないという印象を持っている。金融機関の情報提供やアドバイスの転換は喫緊の課題だ。

競合面では、オンライン証券は対面証券を上回る勢いで顧客基盤を拡大している。投資家のカスタマージャーニーを見ると、大手金融機関などによる広告で商品・サービスを認知した後、投資家自身によるサイト検索などで理解を深める過程を経て、最終的にはオンライン証券を選択している構造となっている可能性がある。「理解」フェーズにおいての取り組みがポイントとなるだろう。また、海外では、株式の取引手数料を無料化するなど、新しいビジネスモデルを持つプラットフォーマ―が台頭している。

これらを踏まえ、求められる変革の方向性を3点示したい。

1点目としては、対面チャネルにおける「アドバイスモデルの転換」だ。事務や非営業業務部分をデジタル活用などにより削減し、「商品ありきの提案から顧客理解に基づく提案」、「金融に関するアドバイスからライフに関するアドバイス」など、あるべきアドバイスモデルへの転換が必要と考えている。「顧客理解に基づく提案」を実現する上では、顧客のターゲティングから情報管理、提案、取引までをシームレスで管理できるプラットフォームを活用することが有効だ。

導入にあたっては、既存のCRMなどを極力活用しながら画面やロジックの一部のみを改修する手法をとることで、導入コストを抑える工夫も可能だ。実践の際は、まず目指すべきアドバイスモデルを定義して、それを試行し、評価制度の見直しなども含めて施策を整理していくことが重要だろう。

2点目としては、非対面チャネルにおける「デジタル世代への本格対応」だ。デジタル世代を捕捉する上では、「理解」のフェーズへの打ち手として、外部サイトからの顧客流入を強化するWebマーケティングや、ヒューマン・アドバイザーによるサポートと、デジタルを組み合わせてハイブリッド・アドバイスモデルに取り組むことが有効と考えている。実践の際は、現状把握をした上で、ネットチャネルの目指すべき姿を定義し、施策の優先順位を整理することが重要だろう。

3点目として、「本社・専門部門の生産性向上」も不可欠だ。日本でもRPAやBPM活用による業務効率化は長く取り組まれてきたが、次の段階としては、デジタルソリューションを前提とした業務プロセスの再構築など、オペレーティングモデルの改革が必要だ。労働実態とコストの直視から始め、経営戦略としてゴールとKPIを明確化した上で、業務部門やIT部門と連携しながら、トップダウンアプローチで試行部署や試行結果を踏まえた全社展開を意思決定することが有効なアクションとなるだろう。

遺伝的アルゴリズムによる相続財産の最適分割案の提案コンサルティングの実際

北山雅一氏

【講演者】
株式会社キャピタル・アセット・プランニング
代表取締役
公認会計士税理士
日本証券アナリスト協会検定会員

北山 雅一 氏

当社は、FinTechによる豊かな老後の創造と円滑な相続・事業承継の実現をミッションとして、金融機関向けシステムインテグレーションや、資産管理プラットフォームの提供および相続・事業承継コンサルティングを行っている。金融リテール分野において、ライフプライニングやアセットアロケーションなどの様々なプロダクトを、PC、クラウドその他あらゆる環境で提供しており、昨年はIDC FINTECH TOP100にもランクインした。

日本の家計金融資産は米英に比べて伸び率が低く、また、株式や投信などの保有比率も低いことから運用益がほとんど得られていない。死亡保障に重点を置く現在のライフプランシステムではなく、今後は人生100年時代への対応が最重要課題であるが、公的年金減額や医療費及び介護費用高騰などの長寿リスクへの対応は、世界基準から見るとガラパゴス化している日本人の預金偏重型アセットアロケーションでは不可能に近い。

一方、相続税率は最高55%という高さで、相続税負担は世界に類を見ない大きさとなっている。毎年50兆円もの資産が次世代へ移転していくという大相続時代に突入している日本においては、リスク許容度に合わせた適切なアセットアロケーション、円滑な財産分割、相続税納税準備、相続税対策などが求められている。

直近の事業承継税制改正で、相続税と贈与税の納税猶予の対象となる非上場株式の範囲が大幅に拡充されたことにより、今後日本の中小企業経営者向け相続対策は、事業成長戦略重視、アセットアロケーションによる資金運用重視へと変わる。当社では、世界で最も重い相続税課税からコアビジネスのアセットを守り、2世代3世代にわたる事業成長を実現することが、日本のプライベートバンキング・ウェルスマネジメントの世界での資産保全戦略だと考えている。

当社のソリューションを紹介したい。資産家マーケットに対しては、Wealth Management Workstationという資産管理プラットフォームを提供している。これは、非上場株式も含め、個人が保有する全資産を時価評価して家計貸借対照表を作ることで、相続税未払金という見えざる債務の見える化を目的としている。

現在では多くの金融機関などで利用され、登録資産残高は1兆1,168億円にまで達した。財産分割シミュレーションでは、相続対象となる財産明細を元に、目標分割割合や目標キャッシュフローなど様々な条件を設定すれば、遺伝的アルゴリズムを活用したAIによる解析を経て、最適解を瞬時に導き出せるよう設計している。

オープンAPI経由で銀行が保有する各種情報と連携し、戦略設計の全てをAIで実行することで、プライベートバンカーがより一層、顧客リレーションに集中できるようになれば良いと考えている。

マスマーケットに対しては、長寿リスクに対応したライフプランの設計をロボ・アドバイザーで完結する、LIFE SWEETというシステムをスマホ上で提供している。他のアプリのデータや機能と連携することで、銀行や証券会社の預かり資産の時価合計や、家計簿分析を反映した、よりパーソナライズされたライフプランの提供を実現した。また、生涯資産運用に重点を置いている点もポイントで、終身保険、収入保障保険、投資信託の同時提案を可能としている。

今後、単品商品の販売を行う金融機関の地位は低下し、預貯金、生保、投信、年金の組み合わせ販売が主流になると見ているが、顧客に対し最適な組み合わせを提案出来るインテリジェントアドバイザーは少ないのが現状だ。そのような中において、AIで最適組み合わせの導出が可能な当社のソリューションは、重要な役割を果たすと考えている。

郵便局ネットワークと資産形成文化の構築

吉田浩一郎氏

特別講演

【講演者】
株式会社ゆうちょ銀行
営業部門 コンサルティング営業部
部長

吉田 浩一郎 氏

郵便局は明治4年に創業して以降、郵便貯金、簡易保険などの創設を経ながら、国策としての貯蓄・保険文化を奨励するという役割を担ってきた歴史があるが、日本の家計金融資産の過半を預貯金が占める現在の状況を鑑みると、これからは資産形成を文化として定着させていくことが、我々に課された次の使命だと認識している。貯蓄から資産形成への流れを加速させるため、特に投信利用者の間口拡大に力を入れており、今回はその状況と施策を紹介したい。

郵政グループでは、2005年から投信の窓販を開始した。特にここ数年は拡大基調となっており、2017年度は、推計で販売額7,600億円、残高1兆7,000億円、保有口座数87万口座と、民営化以降最高の実績を見込んでいる。

郵便局は約24,000の店舗を持つが、セーフティネットとして全国どこからでも概ね徒歩圏内に存在するように配置された経緯から、立地は人口分布と乖離しており、また、大半が社員5名未満の小規模店舗だという特徴があるため、膨大な拠点数が必ずしも投信の新規口座獲得に効率的に機能しているとはいえない。

近年投信の販売は拡大基調にあるとはいえ、貯金の活性口座に占める投信口座は未だ1%程度に留まっており、まだまだ拡大の余地は大きいものと捉えている。これまで長い時間をかけて蓄えてきた既存の預貯金を、投信に移すという行動は、顧客にとってなかなか難しいという現実はあるものの、例えば定期性預金の満期に合わせ、投資をひとつの選択肢として提案するなど、工夫の余地は多くある。普通のお客さまの普通の感覚を汲み取ることが大事だ。

これまでの投信販売では、市況や個別ファンドの説明に多くの営業負荷がかかり、資産形成に関する気づきの提供やライフプランニングなど、本来のコンサルティングに時間を割けていなかったことを反省点としており、基本に立ち返るべく取り組みを開始した。昨年より、投信の取り扱いを行っていない局の一部を「紹介局」とし、窓口で手軽に利用できる紙ベースの分かりやすいアプローチツールを用意することで、紹介局でもニーズ喚起が出来るようにし、投信取扱局へのトスアップを強化する仕組みを構築している。

顧客基盤の拡大には、新しく投資を始めていただくためのニーズ喚起が最も重要だと考えていることから、毎月の新規口座開設者数の推移を重要な指標として施策を推進してきた。その結果、今年度は概ね右肩上がりで推移しており、販売額に占める新規顧客の割合は、15年度は約4分の1程度だったのに対し、足元では約半数にまで強化することが出来た。

しかし一方で、年代別の貯金残高と投信残高を比較すると、40代以下の若い世代では未だ投信シェアが低く、今後この世代に対していかにアプローチしていくかは大きな課題だ。特にこの世代はつみたてNISAのターゲットでもあるため、例えば、子どもの誕生をきっかけに子ども名義の貯金口座開設に訪れる顧客に対し、投信のニーズ喚起を積極的に行うなどの工夫を考えている。

日本で資産形成が文化として根付かない理由のひとつには、投資に対して能動的に動く人々と、受動的な人々の二極化があると考えている。今後は、圧倒的な数存在する中間層が、これらのどちらに傾くかがポイントとなるといえるが、金融機関としても様々なテクノロジーを駆使して、この層をできるだけ惹きつける努力をする必要があるだろう。

当行としても、新たな金融プレーヤーとの連携も積極的に行いながら、取り組みを進めていきたい。そして、高齢者を支える現役世代がより少なくなるこれからの時代に備え、公助から共助、自助へと国民の意識が変革し、自助努力で資産を育てることが可能となるように推進することも、我々金融機関の責務だと考えている。

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