FINANCE FORUM 金融機関のビッグデータによる新たな価値創造<アフターレポート>

FINANCE FORUM 金融機関のビッグデータによる新たな価値創造<アフターレポート>

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2019年5月30日(木)、セミナーインフォ主催「FINANCE FORUM 金融機関のビッグデータによる新たな価値創造」が開催された。かつて経験したことのない環境変化に金融業界の競争が激化する中、各金融機関では、顧客行動データの分析によるCX(顧客体験)の向上や新たな金融サービスの開発、経営陣の効果的な意思決定を支援する観点等から、データ活用に力を入れている。特に最近ではAI/IoTといったテクノロジーの進化により、ビッグデータの効果的/効率的な活用が着目されている。本フォーラムでは、日本銀行金融機構局金融高度化センター長の菅野浩之氏に「データを活用した金融の高度化 ~AIの利活用を中心に~」についてご講演いただいたほか、三井住友銀行の事例をはじめとした先進企業各社より最新のトレンドや国内外の事例について紹介した。

  1. データを活用した金融の高度化~AIの利活用を中心に~
  2. 金融機関におけるデータレイクの活用~変化する顧客接点の在り方と将来予測~
  3. AI の魔法を解く、真の業務活用の方法と事例
  4. 金融機関におけるビッグデータ活用のグローバルトレンドと顧客の保有情報に付加価値をつけて顧客に利活用いただくための情報基盤とは?
  5. 様々な顧客接点を「人軸」で捉え、一人ひとりに合わせた体験を提供するCX(顧客体験)の考え方とは?
  6. SMBCグループにおけるデータ利活用と情報銀行への取組み

データを活用した金融の高度化

~AIの利活用を中心に~

菅野浩之
基調講演
【講演者】
日本銀行金融機構局
金融高度化センター長
菅野 浩之 氏

デジタル化の進展は、金融機関にとって、異業種参入や低価格化を招くリスク・脅威であり、チャンスでもある。近年、ITやAIの活用が大手行を中心に加速しつつあるが、地域金融機関ではなお戸惑いがあるようにも窺われる。

日本銀行は、セミナーの開催等を通じて、金融機関がデジタル化にどう向き合っていくかを考える材料の提供に努めている。昨年末には、取引先を対象に、IT・データ活用に関するアンケート調査を行い、その結果を「金融システムレポート」(2019年4月号、5月発刊の別冊)で公表した。IT・データ活用の狙いをみると、大手行では、新規顧客の開拓などの収益強化も意識する一方、地域金融機関では、業務の効率化・コスト削減を最優先する姿勢だ。顧客データを活用できているとする先は、大手行で約5割、地域金融機関は約3割に止まっている。

こうしたなか、AIに関しては、大手行を中心に、顧客対応や市場取引・資産運用、マーケティング、信用評価、コンプライアンスといった場面で活用が拡がっている。地域金融機関でも、実証実験を経て、実装化する例が徐々に増えているが、結果的に「コストが見合わない」との判断に至るケースもあるようだ。AIの特長は、人間では処理できない膨大なデータを使って、精度の高い予測判断を高速かつ高頻度で継続的に行える点にある。ただ、AIの活用には人間の介在が不可欠であり、人間とAIが「協働」するのが現状だ。

こうしたAIに期待される効果の一つは、業務の効率化だ。例えば、日々大量に行われる取引の不正検知にAIを活用すれば、職員の業務量を大幅に削減できる。結果として、収益部門の強化や働き方改革の手段ともなる。もう一つは、収益力の改善だ。マーケティングや信用評価にAIを活用すれば、新規顧客の取り込みや貸倒れの抑制につながる。大量かつ多様なデータを超高速で分析して機動的に取引を行うことで、資産運用の成績が向上する可能性がある。

もっとも、AIには課題もある。その一つがAIに取り込むデータの整備だ。紙の情報をデータ化し、既にあるデータも規格を揃えてデータベースに投入する必要がある。大量の取引ログや顧客との会話音声など、活用できていない情報はまだたくさん残っている。

IT・AIの活用に当たっては、情報管理などコンプライアンスの確保も大切だ。この点、デジタル化は外部との接点拡大を伴うため、サイバーセキュリティ対策の強化が欠かせない。

また、システム基盤の整備や人材育成も重要だ。AI(エンジン)は総じて高額で、ともすれば費用対効果が見合わない。AIのコモディティ化(低廉化)を待つのか。それとも、外部委託や共同化で対応し、あるいは、先を見据えて他社と差別化できるAIの開発に挑むのか。人材についても、専門の職員を雇用し育成するのは容易ではない。基本は外部委託に頼りつつも、委託先をガバナンスできる人材を確保するといったバランスの取り方もあろう。自らの経営資源やスキルを踏まえた経営判断が将来の競争力を大きく左右する。ポイントは「身の丈」にあったAIの活用だ。

こうした視点から経営上の課題となる一例を挙げたい。AIは、その特長から、地域金融機関が強みとしてきた中小企業や個人向けの短期・小口融資などを、申込から審査、実行までをインターネット経由で一貫して行うのに適している。AIの活用で手間が減り地理的制約を超えられれば、ここに大手行や他地域の金融機関が進出してくる可能性がある。AIによるコスト削減もあって低金利競争が生じるかもしれない。これに地域金融機関はどう対抗すべきか。前述したとおり、何らかのかたちでAIを導入し、他地域への進出を含め同じ土俵で戦うのか。それとも、地域密着の強みや目利きの力を活かして迎え撃つのか、大きな判断が問われる。

※講演者の役職名は、講演当時のものを記載しております。

金融機関におけるデータレイクの活用

~変化する顧客接点の在り方と将来予測~

丸山雅実
【講演者】
日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部
クラウドソリューションアーキテクト
丸山 雅実 氏

金融機関を取り巻く経営環境の変化に対し、データ活用やデータ基盤の整備は非常に重要だ。マイクロソフトでは、今後、データを収集し、AIで分析してインサイトを作り、APIを通じて金融サービスを提供する時代が来ると予見しており、テクノロジーを通じて金融機関に貢献ができると考えている。

例えば保険会社では、より細かい生活のリスクに応じた保険商品が求められるようになってきた。これまでは開発が難しかったが、フィンテック企業や新たなサービスのデータをシームレスに集め、AIを活用することで新たなサービスが実現できる時代が到来している。データ活用においてはデータ量・種類の増加にも対応する必要がある。企業の持つデータが企業内データからウェブ・SNSといった企業外に広がれば、データは指数関数的に増えていく。また、統計情報を見ても、データ量・種類とも幅広い範囲で活用するのが重要になってきているのが分かる。しかし、日本銀行の調査によれば、約半数の金融機関がデータをうまく活用できていないという。

金融機関におけるクラウド利用は近年非常に活発になっている。例えばSWIFTのような非常にサービスレベル・セキュリティレベルの高い金融サービスを提供する企業でも次世代の送金プラットフォームとしてクラウドを検討しており、共同でPoCを進めている。欧州のチャレンジャーバンクでは勘定系システムを弊社クラウドで運用している事例も出てきている。これらの業務システムとあわせて、データレイク、AI基盤を利用すれば既存業務+αの拡張が容易である。

クラウドでデータ基盤を利用する目的として多いのは、コスト削減、AIによる業務高度化、外部のサービスとの接続だ。業務的には経営ダッシュボードやマーケティング・不正検知・リスク管理・事務効率化といったところに使われ始めている。従来のデータ基盤は表形式のデータの保存ツールであるデータウェアハウスを利用するのが主流だったが、最近はデータレイクという考え方も取り入れるケースが増えている。データレイクとは、あらゆるデータを元データのまま保存しておく大容量・低コストのストレージのことだ。データウェアハウスは高コストだが、誰にでも使いやすくなっている。一方、データレイクはデータの中身を理解しながら使うことが必要なので、データサイエンティストやデータエンジニアなど利用者は限られるが低コストで使える。このように、両者は用途が全く異なるので、どちらかを採用するよりはハイブリッドに両方使うのが一般的だ。

従来のデータ分析はデータに何がなぜ起きたか、現状を説明するレポーティングであった。今後は、AIを使って将来予測を行いそこから意思決定をするケースが増えるだろう。データウェアハウスは前者に、データレイクは後者に向いていると考えられる。

保険会社では、契約者の属性、請求や支払といった限定された情報を中心に扱っていたが、日常生活にかかわる行動の情報まで入手し活用するには、データレイクが適している。既存のデータウェアハウスでこれらを扱おうとすると、容量の逼迫、表形式以外のデータの取り扱い、最新のAI技術の適用などで課題が多い。またROIが見えにくく投資予算の確保も難しい。

これらの課題に対し、当社サービスのオンデマンドのクラウドデータウェアハウスを利用しコスト削減を図り、余剰予算でデータレイクを構築されるケースがでてきている。データレイクでは健康増進系の新たなサービスやSNS系のデータなどを取り込んで、AIを活用することが目的だ。必要に応じて拡張できるPaaS型のAIサービスを採用することでスモールスタートも実現している。今後は、保険会社の引き受けリスクや支払いにおける不正検知、商品開発、顧客の解約予兆、営業のターゲットリスト作成など様々な業務への展開を視野にいれており、広く活用が進むだろう。

講演企業情報
日本マイクロソフト株式会社:https://www.microsoft.com/ja-jp

AI の魔法を解く、真の業務活用の方法と事例

田村孝廣
【講演者】
株式会社セゾン情報システムズ
テクノベーションセンター
DX Initiative Leader 工学博士
田村 孝廣 氏

AIには「ディープラーニングそのもの」「知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」などさまざま定義があるためか、「AIにデータを入れればよい結果が出てくる」との誤解も多い。AIには、人間の知能そのものをもつ機械を作ろうとする「強いAI」と、人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする「弱いAI」の2種類がある。ここでは、「弱いAI」について解説する。

AIを実現するには、「ルールベース」と「機械学習」の2つの方法がある。ルールベースとは、第2次AIブームの花形だったもので、「if ~then~」を使って人間がルールを記述するものだ。会計・機械制御・物理シミュレーションなど、ルールが確立している分野では効果が非常に高い。逆に、ルールが不明瞭・複雑な部分はルールが書けないので不得手であるという弱点も持っている。

機械学習とは、第3次AIブームの花形であり、データからルールを構築するもので、誤差逆伝播法などで実現する。ルールベースとは異なり、不正検知や異常検知、売上予測など、到底ルールが立てられないようなところでもデータからルールを作り上げてくれる。ルールが不明瞭・複雑でも効果を発揮できるのが機械学習のメリットだが、良質なデータがなければ無力というデメリットもある。機械学習は万能なように見えるが、決して万能ではない。ルールベースもまだまだ現役である。

低予算でAIシステムを構築するには、古いAIを使うのもひとつの手段だ。具体的な方法としては、まず大まかにルールベースで自動化し、次に匙加減をAIで最適化する。この方法のメリットは、ルールベースで行うため、大きな間違いをすることはない点だ。また、開発期間は非常に短い。当社では最初のローンチまで3ヶ月で仕上げた。大規模なサービスの開発でも軽量のAIが使えるので大掛かりなサーバーが必要なく、PCで安価に作ることができる。徐々にAIに完全に置換することもできる。目的関数を変えたくてもデータから自動的にルールを書き換えてくれるので、AIに置き換えると非常にフレキシビリティが出てくる。AIでルールを最適化できるメリットは、病理検査や製造業・アスリート支援などの場面で生かされている。

ただ、AIは単独で使用することはできない。AI予測システム構成を例にすると、まずPythonなどで整形した学習させるためのデータを入れる。学習が終われば、これをデプロイして初めてデータを業務活用できる。デプロイした後は、弊社のデータ統合開発環境であるDataSpider Studioが役に立つ。

使い方は非常に簡単で、エクセルのファイルを読み込めば、それを文字コードに変換したり、計算してアクセスに書き込んだり、アイコンで表現できる。アダプターを使って簡単なプロパティを設定すれば、アイコンを配置するだけでクラウドのデータもどんどんつながる。また、プログラミングも不要で、DataSpiderでは少数のアイコンを配置するだけで良いので開発期間が短くなる。こういうものでAIの前後を固めることで、AIの真の業務活用ができるのだ。

さらに、DataSpiderはDataRobotともつなげることができる。DataRobotとは、データファイルをドラッグ&ドロップし、ターゲットを指定すれば数分~数十分で機械予測モデルが自動的に生成されるものだ。金融業界では、たとえば年収や持ち家、築年数など与信審査に利用するような属性データをkintoneから読み取ってDataRobotに入れ、それをもとに貸倒危険率をDataRobotが予測してkintoneに再表示することができるのだ。

弊社はAIを周辺システムとつなげることで真の業務活用をするサポートをしている。お客様の予算に応じたご提案も可能なので、ぜひお気軽にご相談いただきたい。

講演企業情報
株式会社セゾン情報システムズ:https://home.saison.co.jp/

金融機関における
ビッグデータ活用のグローバルトレンドと
顧客の保有情報に付加価値をつけて
顧客に利活用いただくための情報基盤とは?

浦郷猛
【講演者】
マイクロストラテジー・ジャパン株式会社
ディレクター
浦郷 猛 氏

日本では最近、決済系のアプリケーションの開発が盛んに行われており、テクノロジーによるキャッシュレス化が加速度的に増加している。大手金融機関がベンチャーを支援する枠組みもできつつある。その流れの中で、外部の力や環境によって、デジタル変革が金融の世界でも起こっているのだ。

そのため、データを活用する力をいかに企業として備えるかが重要である。今、大手金融機関でもデータサイエンティストが足りないと言われているが、最終的にデータを活用するのは、データサイエンティストではなくビジネスユーザー(コンシューマー)だ。さまざまなフロントラインでデータを活用していくシーンがあるので、お客様側でデータを活用することもある。その中でビジネスユーザーはどういう人なのかをきっちり捉えた上で、データを提供することが求められる。

データの利活用に求められるプラットフォーム基盤には、「ビジネスコンシューマー志向」「多様な分析ニーズに対応」「高機能」の3つの要素がある。

1点目の「ビジネスコンシューマー志向」では、使いやすさとわかりやすさが求められる。MicroStrategyでは、書籍のように章立てされた情報にアクセスできるDossier(ドシエ)や求める情報が素早く見つかるようサポートするLibrary(ライブラリー)などの機能を基盤に実装している。またどのデバイスでも表示が最適化される仕様や、チャット形式でBIを使ってミーティングできる機能も備えている。会話履歴がすべて残るので、コンプライアンス上問題ないかチェックも可能だ。

2点目の「多様な分析ニーズに対応」では、分析リテラシーに差がある、データサイエンティストからビジネスユーザーまで異なる分析ニーズに応えることが求められる。日本の金融機関では、SASやSPSSで作られたAIのモデルが多いが、欧米では8割以上PythonやRに変わっている。MicroStrategyでは、PythonやRなどで作ったモデルをDataRobotなどと連携できることにより、そのままコーディングなしで使える。また、優秀なデータサイエンティストのモデルをラッピングして登録することで第三者が使える「部品化」が行われており、初心者からデータアナリストまで利用することができる。また、単にグラフを作るだけでなく、いろんな形で表現する「ビジュアリゼーション」も主流になってきた。MicroStrategyだけでは表現できないようなビジュアリゼーションを、外部と連携して表示できるようにしている。また、さまざまなデータソースと連携できるのも重要だ。MicroStrategyには、セールスフォースやフィットビットクラウド、サーベイモンキーなどのアプリケーションと連携できるAPIもある。

3点目の「高機能」については、データ量が大きくなってくると、処理を高速化させるアーキテクチャが必要だ。MicroStrategyは、これまで大規模データを利用するユーザーのニーズに応えるべく開発され続けており、数百ペタバイトのデータ処理を実行されているユーザーにも対応している。MicroStrategyは、データをすべて部品化して、シングルメタデータで体系化された再利用可能な部品群(スキーマオブジェクト)として管理できるようにしている。こうすると、データの整合性が担保できる上に、ユーザーは部品として登録されていたものを再利用できる。企業もデータの資産化が可能だ。

基盤として重要なのがセキュリティモデルである。MicroStrategyであれば、ソフトウェアのレベルですべて部品単位でのセキュリティ権限を付与できるのだ。機能レベル、行レベルという形でセキュリティをセットすることも可能である。

全体のITのトレンドには、AWSを取り巻くエコシステムと既存の業種業態を破壊するUberizationという2つの潮流がある。設備投資をせず、もともとあるパーツを使ってビジネスを組み立てていくオンデマンドのビジネスもでてきている。こういった中で、金融業界でもデータの力を活用できるかどうかが、デジタル変革への鍵となろう。

講演企業情報
マイクロストラテジー・ジャパン株式会社:https://www.microstrategy.com/jp

様々な顧客接点を「人軸」で捉え、
一人ひとりに合わせた体験を提供する
CX(顧客体験)の考え方とは?

金田拓也
【講演者】
株式会社プレイド
Business accelerator
金田 拓也 氏

プレイドの提供するCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」は、ウェブサイトやアプリを利用する顧客の行動をリアルタイムに解析して一人ひとり可視化し、個々のお客様にあわせた自由なコミュニケーションをワンストップで実現する。これまでは、自社のサイトの来訪者数や購入割合など、「点」の情報しか見えていなかった。KARTEであれば、訪問者の今の気持ちや、どんな行動をしているのかがリアルタイムで可視化できる。サイトやアプリでKARTEを活用いただければ、訪問者の行動を人軸で解析し、その人にあったアクションも提供できる。

KARTEは多くのツールと連携可能な点も魅力だ。ツールやプロダクトに分散した顧客データを人軸で整理・解析できる。タッチポイントで分断していた顧客の行動が「線」で見えるようになり、長期的な関係構築を図れるようになるはずだ。

わたしたちの問題意識は、オンラインで享受する体験における「人」の不在にある。リアルの店舗では来店するお客様の顔が見える。商品を眺めるなかでの表情の変化をもとに、その人が何を求めているのかを察することができる。しかし、今までの多くのサイトでは訪れる顧客の顔が見えず、購買を喚起することに終止したり、誰彼構わず一様のコンテンツを表示したりしてしまうなど、お客様を「ひとりの人」として見ることができていなかった。FORRESTER社の調査によれば、先進的にCXに取り組む企業はそうでない企業に比べて事業収益が大きく伸びている。リアルの店舗でのコミュニケーションをオンラインでも行いつつ、オンラインとオフラインの境界自体を溶かしていくことで、企業やブランドへのロイヤルティを上げることも期待できる。

一口にCXといっても、扱う商品・サービスの特徴や業種によって求められる体験は異なる。金融業界のサイトを考えると、その顧客が初回訪問者なのか、継続的に訪問するヘビーユーザーなのかなど、その人の利用状況やフェーズを適切に把握し、それに合わせてコミュニケーションを取ることが重要だ。金融機関の申し込みフォームでは、手続きにつまずいてしまう方も多いという。そのような顧客の想定される懸念に対して、例えばチャットでの質問を促したり、FAQを提示したりするなど、プロアクティブに手を差し伸べることが機会損失を防ぐ手段として有効である。問い合わせ対応にチャットを利用している金融機関も多いが、定型回答で対応できる質問にはチャットボットを使いすばやく対応する一方で、深くコミュニケーションを取るべき顧客にはきちんと向き合いオペレーターのリソースを最適化すれば、顧客体験の価値を向上させることができるし、ビジネスインパクトも大きくなるはずだ。

サイトには、訪れるユーザーの行動データが大量に蓄積されている。しかし、そのデータは顧客体験の向上のために活用し、その結果としてビジネスの収益に貢献して初めて資産となる。データは適切に使えなければむしろ「負債」となってしまう。KARTEを活用するクライアントの皆様が、「自分たちの顧客が本当に望んでいることは何なのか?どのようなコミュニケーションをとれば、良い体験を提供することができるのか?」という課題に真剣に向き合える環境を整えていきたいと考えている。

プレイドではよく「溶かす」という言葉を使う。インターネット上でも人を人として理解することができるようにし、オンラインとオフラインの境界を溶かす。データ活用を阻害するツールの分断や、組織間の壁を溶かす。実際に顧客はどのような背景を持ち、ウェブでどのような行動をとっているのか。店頭に来るまでにどのような行動をとっていたのか。「今・ここ」に至るまでの文脈を人軸で把握し、その瞬間にあったコミュニケーションを提供する。わたしたちが既存の境界をKARTEで溶かしていきながら、人が中心の新しい顧客体験の創出を目指している。

講演企業情報
株式会社プレイド:https://plaid.co.jp/

SMBCグループにおけるデータ利活用と情報銀行への取組み

宮内恒
特別講演
【講演者】
株式会社三井住友銀行
データマネジメント部 副部長
宮内 恒 氏

SMBCグループは、現在データの利活用を進めている。また、他社と共同してデータを利活用する可能性も探っている。さらには、新たな取組みとして情報銀行事業への参入も検討している。

情報銀行とは、個人のためにパーソナルデータを管理し、個人の意思に基づいてデータの利活用を行う事業だ。パーソナルデータから得られる便益は個人が享受すべきだが、自分でそれを収集管理して活用することに時間と労力を割くのは難しい。そこで情報銀行が、個人の代わりにパーソナルデータの収集管理や利活用をサポートする。情報銀行の扱うデータの領域は幅広いが、中でも医療・介護・ヘルスケア分野は、便益が直接的で分かりやすく、非常に注目すべき分野だ。

SMBCが情報銀行に取り組む理由となった社会課題は、パーソナルデータが勝手に使われているのにも関わらず、自分には全く利益がもたらされることがないという不安・不満が顕在化していることだ。

その点、社会的信用を長年培ってきた銀行が運営する情報銀行なら、個人の方に安心して自分のパーソナルデータを預けていただけるのではないか。

昨年、情報信託機能の認定指針が発表され、それにもとづく実証事業の公募があった。そこでSMBCが中心となって「情報信託機能を用いた個人起点での医療データ利活用実証事業」を総務省に提案し、採択された。

実証事業では、SMBC・阪大病院・日本総研の3者で、医療データのポータビリティを実証した。目指すポイントは3つある。まず1つ目は医療データを個人に返すこと、2つ目は個人の意思に基づき医療データを共有すること、3つ目は個人が自らの意思でデータを利活用し便益を得ることだ(2つ目、3つ目は検討のみ)。現在、さまざまな医療機関・薬局で自分の医療データが扱われているが、それらがまとまって自分のところに返ってくることはない。そこで、個人を起点に医療データをまとめることにより、有意義に使えるようにしたいとSMBCでは考えたのだ。

阪大病院と協議し、対象を阪大病院を受診している妊婦とした。子どもが生まれたら情報銀行のアカウントを作り、生まれた瞬間から医療データを蓄積、子どもが大きくなったら渡してあげる、というのが想定しているシナリオだ。

実施にあたり、最も苦労したのが、患者さんに説明する為の資料作りだ。オーストラリアには、My HealthRecordという国民PHR(PersonalHealth Record)がある。その説明資料を一つひとつ読み解き、我々のコンセプトに焼き直して分厚い説明資料を作成した。それを元にして、チラシやコンセプト動画も作った。そして、阪大病院の中に場所を借りて、患者さんに説明するためのブースをつくり、動画を流すためのモニターも設置した。その結果、実証対象の妊婦以外も含め、開始1カ月で100人以上の方に来ていただいた。

今後は、対象を妊婦さんだけでなく阪大病院の患者全体に拡大したい。将来的には、個人・情報銀行・病院のようなデータ提供事業者・データ利活用事業者の4者による経済圏を確立するのが目標だ。

情報銀行が社会システムにビルトインされる一つの形として、データ利活用型のスマートシティを展望している。データを利活用することでさまざまな社会課題が解決され、それによって住みやすい街になっていく。パーソナルデータをどう扱うかが課題になるが、情報銀行を活用すれば、皆が納得できるかたちで利活用を進められるのではないだろうか。

SMBCは、情報銀行とパーソナルデータの利活用を通して、人々の豊かな生活の実現に貢献したい。