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INSURANCE FORUM 保険規制の動向とリスクマネジメントの高度化<アフターレポート>

2017年11月21日(火)、セミナーインフォ主催「INSURANCE FORUM 保険規制の動向とリスクマネジメントの高度化」が開催された。保険会社にとって、高まる社会的期待に応え役割を果たしていくために、長期的に安定した経営基盤を確保することは極めて重要な経営課題である。本フォーラムでは、金融庁監督局参事官 栗田照久氏による保険監督行政を概括した基調講演を皮切りに、保険会社にとって継続的な重要課題でありながら近年も進化を続けるERMや、初の国際的統一資本規制としてその動向に注目が集まるICSについて解説を行い、200名を超える参加者が熱心に聴講した。

INSURANCE FORUM 保険規制の動向とリスクマネジメントの高度化<アフターレポート>
  1. 保険監督行政の諸課題
  2. 保険ERMの新たな潮流
  3. ICS(保険資本基準)の開発動向と資本管理への活用
  4. 保険会社のグローバル資本規制の動向と経営管理

保険監督行政の諸課題

栗田 照久 氏
基調講演
金融庁
監督局 参事官
栗田 照久 氏

平成28事務年度金融レポートの中から、保険会社等に関連する課題を紹介したい。

大手生保の基礎利益は危険差益に支えられて安定推移しており、また保証性商品の拡充で収入保険料も増加傾向にあることから、保険業界は安定しているように見える。しかし、家計の実収入に対する保険料の割合は既に減少傾向にあり、保険会社の収入保険料と生産年齢人口世代の総所得との高い相関関係を考慮すると、今後国内生保市場の縮小は避けられない。保険料収入減少に加え、IT技術の進展による競争激化などの経営環境変化にタイムリーに対応し、持続可能なビジネスモデルを構築することが、業界全体としての課題だ。

顧客本位の業務運営についても課題が多い。死亡保障中心の商品から複数の保障を組み合わせた総合保険商品へと、近年商品の売り方が大きく変化している。

サービス提供の実施状況に関する調査では、例えば、医療費助成制度やガン罹患率などの説明の場面で顧客への情報提供が不十分なケースが見られた。また、投資性の強い保険契約における代理店手数料の開示が、一部の金融機関代理店においては全く行われていないことも明らかとなった。保険会社から乗合代理店に支払われる募集手数料やインセンティブ報酬については、役務やサービスへの対価性が乏しいものが見られるほか、金額も高額化している。質・量ともに、顧客に対して合理的な説明ができるよう対応が急がれる。

個人生保の中で大きなシェアを占めている契約者配当商品については、保険会社の内部留保蓄積のため、配当還元が制約される状況がしばらく継続すると予想されるが、将来的に契約者間での公平な配当を可能とする態勢が整備されているか、実態把握が必要だ。

資産運用能力の向上も保険会社にとって重要なテーマと言える。長期の保険負債を前提に資産サイドを選択せざるを得ないという大きな制約に加え、外国証券投資が増加傾向にあることを踏まえると、自らの保険負債の質の改善にも留意し、商品政策と一体となった適切なリスク管理の下、資産運用の高度化に取り組むことが必要だ。

ERMへの取り組み状況については、大手生損保を中心に、資本配賦などを通して全社ベースでリスクとリターンのバランスを取る体制が整備・運用されつつある。今後は、セグメント別、商品別のバランスを考慮するなど、更に進化していくことを期待している。

他にも、銀行に比べて取り組みが遅れている障がい者の利便性向上や、ヒューマンエラーを防止するための保険金支払業務プロセス最適化など、様々な課題が当レポートにてまとめられている。

金融庁では、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成による国民の厚生の増大を金融行政の目標として様々な取り組みを行っており、平成29事務年度金融行政方針においては、金融庁の組織文化やガバナンス改革により、外部の意見や批判を行政に反映させるための仕組みの構築などを目指している。また、検査・監督のあり方も、「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へと見直を進めており、「検査・監督基本方針」の策定を急いでいる。

健全な金融システム確保に向けては、人口減少や低金利環境の継続にも耐え得る持続可能なビジネスモデルの構築、経済や市場の変化に対応しうるリスク管理の高度化、金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮の3点を重点課題としている。ガバナンスについて言えば、近年大手保険会社がM&Aにより海外業務を急速に拡大している状況下、明確な海外事業戦略の下、海外買収先を管理する実効的な仕組み構築や海外経営人材の確保・育成も重要なテーマとなるだろう。

保険ERMの新たな潮流

後藤 茂之 氏
【講演者】
有限責任監査法人トーマツ
ディレクター
後藤 茂之 氏

金融行政方針の中でも、ERM態勢の強化は、顧客本位の業務運営や持続可能なビジネスモデルの構築と並んで、重要なテーマとなっている。これらは相互に関係しているため、各テーマで期待されている方向性がどのように連動するのかを理解し、全体として有機的な対応をとることが重要だ。金融モニタリング有識者会議におけるトピックをERM経営の観点と結びつけると、「リスクガバナンスの強化」、「フォワードルッキング経営の強化」、「リスクカルチャーの浸透」などのキーワードとつながる。

ERMの高度化は内部監査における重要課題となっている。内部監査には、単なる保証機能だけではなく提言機能も求められている。これを踏まえ監査計画に織り込み、実現に向けて効果的な経営資源の確保・分配を検討しなければならない。

経済価値ベースの枠組みの導入はどのような変化をもたらすか。IFRS17の導入により、海外保険会社や他業界との比較、将来予測に基づく経営管理が可能になるなど、新たな効果が期待される。

それと同時に重要なテーマになるのが、経済価値数値、特に予測・見積りの信頼性をいかに確保していくかという課題だ。前提条件や枠組みの違いによって、各数値には、現行会計で扱う確定数値とは異なり、差異が生まれることとなる。その差異の原因の特定と、そこから何を読み取り、経営にどう活かすかという視点が今後の競争力を左右していくだろう。監査実務においても、会計基準への準拠や不正操作の有無の確認に加え、予測の妥当性に関する確認が必要となる。これにはアクチュアリーやIT領域の専門家の関与の拡大が想定される。

予測・見積りの信頼性確保のためには、ガバナンスがより重要となる。内部モデルの採用は、他社と全く同じ枠組みでの比較可能性においては標準式に対して劣後するが、リスクナレッジを集大成し、エマージングリスクや様々な脅威に直面した際のインパクトを見通し、適切な対策を打つ、すなわちERMの実効性の点ではメリットが大きい。

非清算店頭デリバティブにおける規制も変化している。規制の対象会社は、変動証拠金に加えて当初証拠金授受の義務を負うこととなった。その際、取引相手とリスクについて合意し、翌日に担保を提供する必要がある。今後のリスク管理の意思決定と行動には一層のスピードアップが要求される。

ロボティクス、AIの活用によりビジネスプロセスはますます自動化されよう。これによりサイバーセキュリティ強化の必要性はさらに高まる。保険の基礎は統計にあるため、AIの活用範囲は拡大していくが、価値観を伴った判断などAIがカバーできない領域が存在し、人との共存が新たな課題となるだろう。

同時に、テクノロジー対応を目的とするオープンタレントエコノミーの普及、海外展開の加速に伴うリスクカルチャーの浸透やガバナンス強化のため、人的資本への関心は一層高まっていく。米国ではミスセリング防止のため、販売目標を設けず顧客への貢献度で報酬を評価する事例がある。インセンティブ・報酬制度を高度化しガバナンスシステムにおける経営ツールとして有効活用することは戦略課題となるだろう。

保険業界をとりまく様々な環境変化は、今はまだ入り口の段階にある。今後発生が予想される一つひとつの変化に対し本質を見極めて対応していかなければ、全体としての対応を誤ってしまう。ERMの枠組みは、それらを体系的に検討するにあたって非常に重要かつ有用な手段であるといえる。

ICS(保険資本基準)の開発動向と資本管理への活用

髙橋 隆司 氏
【講演者】
有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部 ディレクター
髙橋 隆司 氏
島本 大輔 氏
【講演者】
有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー部 マネージャー
島本 大輔 氏

保険資本基準(ICS)はIAISの国際保険規制におけるComFrameの一要素で、IAIGsの対象となる保険会社グループに対して適用される。ICSではEUソルベンシーⅡの評価・監督手法に近い考え方がとられており、経済価値ベースで再評価したバランスシートにおける適格資本と所要資本を比較する。2017年にICS Version1.0が完成し、今後は、2019年のICS Version2.0完成と、その後5年間のモニタリング期間を経て、2025年の導入が予定されている。

Version1.0では、割引率の選択肢の高品質資産(HQA)オプションなどへの絞り込みや、いくつかのリスクにおけるアプローチの変更やリスク係数の見直しなどが行われた。2016年のコンサルテーション・ペーパーからの主な変更点としては、この割引率やリスク係数のほか、現在推計を超えるマージンの計算における資本コスト率、適格資本の算入制限などが挙げられる。

Version2.0に向けては課題も多く残っている。例えば、負債の評価方法として、現在は市場調整アプローチと調整GAAPアプローチが併存しているが、これらを段階的に統一していくことが最終目標とされている。今後、US GAAP保険会計がIFRSに近い評価方法を用いた会計基準にすることが検討されている点を考慮すると、これらは市場調整アプローチに収斂していく可能性があると考えられる。

また、各種規制、EV、IFRSそれぞれで規定が異なっている負債の割引率を踏まえると、ICSの割引率が今後どのように収斂していくかに注目したい。内部モデルの使用は、現状要件未確定ではあるものの、ICP17やEUソルベンシーⅡに準じたものとなると考えられる。その他、相互会社が発行する金融商品の取り扱いなどの適格資本の分類や、ComFrameに定性的基準として含まれているERMやORSAとのバランスについても、Version2.0開発の中で引き続き検討される予定である。

保険契約の会計基準であるIFRS17は、2017年5月に最終基準化し、ICSに先行して2021年の適用が予定されている。ICSとIFRS17は、共に経済価値ベースの負債を採用する点で親和性が高い一方、規制と会計における考え方の相違から、事業費や割引率、リスク調整などで一致していない点もある。資本管理の実践にあたっては、規制資本、経済資本、会計資本の3つのバランスへの配慮が不可欠となるため、この観点からも、ICSとIFRS17との相違点の正確な把握は重要なポイントとなるだろう。

ここまでは海外の動向であった。翻って日本を見てみると、規制と会計の双方で、海外と同様に経済価値ベースの基準の導入が今後本格化する可能性がある。規制面では、IAIGsグループとそれ以外でICSの適用方法が異なるか否かに注視が必要である。また、会計面では、経済価値ベースの資本規制導入にあわせてIFRSが織り込まれるか否かについて注目したい。

日本における経済価値ベースの資本管理は、内部管理、即ち経済資本から導入されたため、保険会社で活用されている資本管理上のKPIは、現行の規制・会計ベースのものと、EVを含む経済価値ベースのものとが混在している。そのため、現在はダブルスタンダードで管理せざるを得ず、資本管理上の最適解を見出しにくい状態にあるが、今後はICSやIFRS17の導入により、規制資本、経済資本、会計資本の3つがより整合的になっていくことが想定される。経済価値ベースの規制・会計に基づく資本管理の実践にあたっては、これら3つの測定方法の類似点・相違点を十分に理解したうえで、活用することが重要となる。

保険会社のグローバル資本規制の動向と経営管理

青木 章 氏
特別講演
東京海上日動火災保険株式会社
業務企画部 部長
青木 章 氏

IAISが検討している国際規制の枠組は、全保険会社を適用対象とする保険基本原則(ICP)、国際的に活動する保険グループ(IAIGs)に適用されるComFrame、さらに、グローバルなシステム上重要な保険会社(G-SIIs)に適用されるG-SIIs規制という形で、保険会社の分類に合わせて3階層となっている。

その中で、G-SIIsやIAIGsに適用される予定の国際的に統一された経済価値ベース資本規制であるInsurance Capital Standard(ICS)がどのような制度となるかは極めて重要な論点である。

バーゼル規制の対象となる銀行やソルベンシーⅡ規制が導入されている欧州保険会社と比較すると、日本の保険会社におけるERMと規制の関係はやや事情が異なると認識している。銀行においてはバーゼル規制がERMに先行して発展し、欧州保険会社ではソルベンシーⅡの制度構築と連動しながら各社のERMが発展した。これに対し日本の保険会社では、国際的な資本規制の枠組みや本邦における経済価値ベース資本規制が存在せず、各社でERMを発展させてきた経緯にある。従って、今後導入される経済価値ベース規制が各社のERMとどのような差があり、どのように対応すべきかがポイントとなる。

経済価値ベース規制の検討にあたっては負債の評価が極めて重要であり、超長期のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出するが、この際の割引率は現在のICS案は欧州ソルベンシーⅡと同様、リスクフリーレートへのプレミアム付加や、終局金利の適用など、資本規制としては合理的であるとしても、純粋な経済価値ベースでの評価を企図するERMとの比較では、やや手前に着地することになりそうである。

昨今の国際的な金融規制の動向に目を向けてみると、先行する銀行監督規制においては、バーゼルⅡでリスク管理の高度化や内部モデル導入を進めたにも関わらず金融危機を防ぐことができなかったことを背景に、バーゼルⅢでは資本の絶対量引き上げやシステミックリスク規制の導入など、規制強化の流れとなった。トランプ政権下の米国では規制見直しの方向が色濃く、また欧州でも過剰規制の悪影響を憂慮し成長戦略に舵が切られるなど、規制の牽引役であった金融安定理事会においてもその流れは鈍化してきている。

本邦金融庁のスタンスも変化しており、静態的な規制に過度に依存せず、動態的な監督に軸足を移していくとしている。特に経済価値ソルベンシー規制の本邦への導入については、昨今の低金利、マイナス金利の影響もあって慎重なスタンスを示している。このようにICSを取り巻く環境は、国内外において、急いで導入すべきという圧力は弱まっていると認識している。

こうした中で、11月初にIAISが発表した新スケジュールによるとICS Version2.0は、2020年以降2段階で導入されることとされている。当初5年間のモニタリング期間を経て、各国の行政介入手段として導入されるのは2025年となる。今後、本邦ソルベンシー規制として導入されるにあたっては、具体的な行政介入手段の内容や非IAIGsを含めた適用対象、現行のソルベンシー規制との関係など、検討されるべき課題が残っている。

当社としては、ERMにおける負債評価はより市場整合的で、リスク評価はよりリスクセンシティブであるべきと考えている。ICSの着地点は、純粋な経済価値との比較ではやや手前になると見込まれている。今後、監督者や投資家、格付機関といったステークホルダーが各数値をどのように評価するかについて見極めながら、現在はERMをベースに行っている保険会社の経営上の意思決定を、ERMと規制、どちらをベースに行っていくのか判断を迫られる時期が来るだろう。

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