- マツモトキヨシにみる、
経営支援に資する財務・経理データの活用
~これからの財務・経理部門のあり方~ - 財務・経理業務の完全デジタル化へ向けたステップ
~テクノロジーの活用~ - 事例に学ぶ!!
先進の経営管理プラットフォームの活用方法 - ニューノーマルで活躍の場が広がる
経理財務スキル人材の可能性
マツモトキヨシにみる、経営支援に資する財務・経理データの活用
~これからの財務・経理部門のあり方~
- 基調講演
【講演者】
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株式会社マツモトキヨシホールディングス
管理本部
財務経理部長西田 浩 氏
マツモトキヨシは、1932年に創業し、2007年にホールディングカンパニーを設立した。国内子会社に関する財務・経理業務の全てを、ホールディングス財務経理部が担っている。売上高は業界5位だが、売上・利益ともに前期末の決算では過去最高を更新した。また、2021年10月に業界7位の株式会社ココカラファインと経営統合し、売上高約1兆円の企業連合が実現する予定だ。
財務・経理部門の役割は、かつては「事務方」「金庫番」であったが、これらは今後デジタル化で消滅するという危機感が必要だ。財務・経理部門が生き残るためには、経営を支援する存在にならなければならない。そのためには、経営課題の抽出と戦略立案のための経営分析が必要だ。会計や税法といった専門知識はもちろん、その専門知識を本当の意味で活かすために、業界環境も含め自社の事業理解を深める必要がある。
これからの財務・経理部門に求められる力を3つ挙げる。第一に、数字を読み込み分析する力(分析力)。第二に、現場から学ぶ力(現場力)。第三に、何を求めているか考える力(マーケティング力)。例えば、業績の情報であっても、社長と店長では知りたい情報は異なる。それぞれのニーズに合った情報を適切に伝えることが重要である。
財務・経理部門、特に責任者の役割は、最後の門番だ。投資案件などが自社の戦略に合っているのか、本当に実行して良いのかを確認・検証し、最終的なジャッジを行う立場にある。その一方で、事業への寄り添い方も重要ある。新規事業や海外事業など、社内的にまだマイノリティな事業などは特に、寄り添ってしっかりと支援する必要がある。
データは生き物であり、現場で起きていることを映す鏡だ。当社では、毎朝前日の売上データが配信されている。売上のほか、粗利益、購入客数、客単価といったデータが配信される。日々のデータから、異常値を発見し、現場の状況を確認することが必要だ。天候、気象、競合などの動向・様子から、売上の変調を読み取っていく。こうしたデータ分析は、営業部門はもちろん、財務・経理部門でも月次の分析における理解促進・効率化に役立っている。
営業面のデータ活用施策を紹介する。当社は、会員及び商品のデータを自社のプラットフォームに蓄積している。顧客接点数は延べ7,100万を超える。顧客データは、購入時点だけでなく、前後の行動も含めて分析。また、年齢など単純な属性情報ではなく、「新しいものに敏感なママ」といった価値観の軸で顧客を捉えている。こうしたデータを、自社のマーケティング、プライベートブランド(PB)開発、メーカーブランドのマーケティングに活用している。
我々財務・経理部門が行うべきことは、管理会計データの充実だ。事業を理解し、数字で明確に根拠を示す。そして、数字の理由を明確に語れなければならない。当社の管理帳票では、財務会計と管理会計の営業利益を一致させている。データは、「店舗/事業部/事業会社」「既存店/新店」「商品群」などといった軸で分類。この他、人事データも取り込み、総人時やパート・アルバイト比率などの帳票を作成・配信している。先述した営業面のデータと、管理会計データを掛け合わせて、KPI管理による経営改善につなげている。
今後の財務・経理部門は、経営意思決定を支援し、事業に積極的に関与することが求められる。加えて、BCPやコンティンジェンシープランの策定などのリスク管理も重要な役割となろう。財務・経理部門が消滅せず、逆に重宝されるためには、まず責任者が意識を変え、組織を、人を変えていかなければならない。
現在、株式会社ココカラファインとの経営統合に向け、両社で財務・経理業務の内容や会計方針などを擦り合わせているところだ。統合した会社で素晴らしい財務・経理部門を作れるよう尽力していく。
財務・経理業務の完全デジタル化へ向けたステップ
~テクノロジーの活用~
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【講演者】
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株式会社セゾン情報システムズ
経営推進部
財務経理チーム長鷲尾 武 氏
財務経理部門を取り巻く様々な環境変化の中で、特に重要なのは人材の問題だ。経理業務は汎用性が高く、比較的転職しやすいため、人材の定着が容易ではない。また、新しく採用した人材には、会社ごとの経理や会計のルールを引き継ぎ、経理スキルを育成しなければならない。更に、働き方改革により残業時間の抑制も求められている。
こうした状況の中で、いかに財務経理部門を運営していくか。私のチームでは、2019年に「モダンファイナンス組織への変革」を目標に掲げた。「桁違いの効率化」と「ペーパーレス化の完全実施・どこでも働ける環境」を実現し、浮いたリソースを企業価値向上へ振り向けていく。真の戦略組織を目指す「モダンファイナンスプロジェクト」として社内で発信・始動した。
変革の大きな契機は、会社全体で2017年に実施したオフィス移転とフリーアドレス・テレワークの導入だ。部門の例外なくフリーアドレスになり、紙の書類を収納するキャビネットも半分になった。社員が離れた場所で業務を行うようになり、細かいコミュニケーションが難しくなった。そこで、2019年に変革に着手。軌道に乗ったタイミングで2020年に新型コロナウイルス感染症が発生し、緊急事態宣言下で完全在宅決算を成し遂げた。
モダンファイナンスの実現に必要な要素は、「ペーパーレス化」「テクノロジーの整備」「在宅勤務に向けた業務設計」の3つだ。変革のステップに沿って説明する。
まず、従前の紙ベース・人手による処理を、電子データによる自動処理に変更。申請者がシステムにデータを直接入力することで、即座に「ペーパーレス化」が実現する。
自動処理に向けた「テクノロジーの整備」では、各分野に特化したシステムを導入。例えば、決算支援システムには「BlackLine」、財務管理システムには「Kyriba」を活用している。
その後、標準化されたシステムに合わせて「在宅勤務に向けた業務の設計」を実施した。
なお、システムの導入に当たってはデータの連携も重要だ。当社では、自社サービスの「DataSpider Servista」を活用して各システムをつないでいる。
決算支援システムのBlackLineは、当社にとって未知の新しいシステムだったが、まず導入してみた。PDCAではなくDCAP(決算業務→決算評価会→決算タスク見直し→スケジューリング・業務分担)で実行。すぐにペーパーレス化の効果が表れ、変革への社員のモチベーションも高まり、ポジティブサイクルが回り始めた。2019年9月に取組を始め、2019年度の第3四半期決算時にはペーパーレス化と自動承認を実現した。その後の期末決算時には、完全リモートを実現し、監査もリモートで対応。2020年度の第1四半期決算時には、各システムのデータを連携した。
完全デジタル化と在宅決算により得られた効果は、大きく4つある。
第一に、決算タスクの可視化。進捗状況がダッシュボードで可視化されるとともに、体系立ったタスク管理、目的や手続きの言語化が実現した。
第二に、電子承認による統制強化。ペーパーレス化、承認フローの可視化が実現。また、作業のログが残るためデータの信頼性が向上した。
第三に、データ連携による自動マッチング。膨大な作業の完全自動化により、効率化が実現し、信頼性が向上した。
第四に、情報の一元管理。決算支援システム(BlackLine)の中でやり取りが完結し、過去データの参照が容易になった。
モダンファイナンス実現による定量効果として、タスク管理や勘定照合といった経理業務の年間約30%削減を目標にしている。その先に目指すのは、業務を削減した分のリソースを、未来志向型の業務にシフトすることだ。過去のデータを真摯に分析し、未来を予測するために有用な情報を得ることで、経理部門の価値を示していく。
株式会社セゾン情報システムズ:https://home.saison.co.jp/
事例に学ぶ!!
先進の経営管理プラットフォームの活用方法
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【講演者】
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Tagetik Japan株式会社
シニアディレクター山本 卓 氏
CCH Tagetikは、イタリアにある経営管理ソリューションカンパニーである。提供する経営管理プラットフォーム「CCH Tagetik」の導入実績は、全世界で1,300超の顧客、75,000超のユーザーに上る。
CPMには様々な製品があるが、特色が異なる。「連結管理」「総合予算」「個別予算」「分析」といった領域に分けられる中、CCH Tagetikはワンプラットフォームで全体をカバーする唯一の製品だ。日本企業独特の細かい管理にも対応可能で、柔軟性に富む。モジュール構成は、予算管理や連結経営管理などを行う「ファイナンシャルワークスペース」と、販売・売上分析や損益管理などを行う「アナリティカルワークスペース」の二階層になっている。両ワークスペースのデータはシームレスに連携でき、グローバル・複数事業にまたがるグループ全体の経営管理が可能だ。予算・連結・開示までをカバーし、データウェアハウスとの融合も実現。CCH TagetikはそれをUnified Management Platform(統合された経営管理プラットフォーム)と呼んでいる。
CCH Tagetikの強みの一つは、会計機能の豊富さである。まず、財務諸表の整合性を保持する機能。また、勘定科目の属性設定機能により、CFの生成や投資回収管理への発展が可能。KPIの算出も容易だ。更に、データの信頼性を維持するためのガバナンス機能も充実。この他にも、ERPや他システムとの優れた連携性・連動性や、クラウドとオンプレミスの両方への対応など多くの機能を有する。
CCH Tagetikの導入事例を3つ紹介する。
まず、株式会社アドウェイズの事例。同社では、勘定科目より詳細なレベル、かつ、負担部署と予算統括部署とのマトリックスにより、本体及び国内外グループ会社の予算を管理していた。全てExcelで行い、変化の激しいビジネスに管理会計が追いついていなかった。そこで、予算管理サイクルの短縮、管理単位の詳細化、管理会計システムの新規構築を実施。お客様の2名も含めてわずか5名の小規模な体制の下、約3か月でリリースした。この結果、集計期間及び計画サイクルの大幅な短縮と、見える化が実現。計画の制度が大幅に向上した。
次に、日本サニパック株式会社の事例。ポリ袋の製造・販売を行う同社では、伊藤忠グループに入って以降、損益管理だけでなく設備投資計画や資金計画も重要になった。これに伴い、販売・生産・在庫計画、外貨、原料相場の管理も複雑になったが、管理はExcel頼みの状態だった。また、PL計画から資金計画への整合にも課題があった。このため、確実に整合が取れるよう、計画策定方法の見直しを実施。併せて、非財務・子会社・過去情報を同一システムで管理できるよう、情報を統合化。この結果、作業工数が大幅に削減され、分析などの本来業務に注力できるようになった。
続いて、ドイツの自動車メーカーであるDaimler社の事例。同社が戦略的プランニングプロセスで必要としたものは、①詳細かつ統合的な管理、②機能修正への柔軟な対応、③強力なシナリオ分析とシミュレーションだ。そこで、新しいシステムをCCH Tagetikで開発することになった。自動車業界に特徴的な製品別ライフサイクルの損益管理では、様々なシステムから様々な形式のデータを収集し、合理的な基準でコストを製品に負担させる必要がある。そのために、「大量データ対応」「ETLを標準装備」「様々な計算処理機能」といったCCH Tagetikの特性を自動車関連の様々な企業で活用いただいている。
最後に、これからの経営管理システムの方向性を2つにまとめる。まず、拡張性を活かした「経営管理のプラットフォーム」であること。そして、高い柔軟性を活かした「現場のための経営管理ツール」であることだ。企業の皆様には、経営管理インフラを整備し、効率化、可視化、そしてスピードアップを推進していくことが重要である。
Tagetik Japan株式会社:https://www.tagetik.com/jp
ニューノーマルで活躍の場が広がる経理財務スキル人材の可能性
- 特別講演
【講演者】
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流創株式会社
代表取締役
フリーランステレワーカー・ビジネス書作家前田 康二郎 氏
2011年に一人会社として流創株式会社を設立。それ以前の約15年間は企業に所属し、経理や株式上場(IPO)など様々な経験を蓄積。独立後は、経理業務を外注で請けながら、企業の顧問や社外役員、ビジネス書の執筆などを行っている。
これまで、経理のテレワーク化を阻害してきた要因は、「思い込み」だ。経理は、以前からテレワークが可能な職種である。しかし、多くの企業では「経理は毎日フルタイムで、全員が会社の自席に着座するべき」という考え方が根強くあった。今般の新型コロナウイルスによって、その考え方に変化が訪れている。売上が減少する中でコストを削減するため、デジタル化、テレワーク化、外注活用の動きが出てきている。
デジタル化により生まれる「空き時間」や「待ち時間」を、いかに有効活用するか。例えば、資格取得の勉強(自己啓発)、他社の経理業務への従事(副業)、他部署業務の請負(社内副業)、起業(兼業)などがある。多様な経験は、本業である経理業務にフィードバックされ、新たな発想にも繋がる。機会があれば、本業の枠を越えて経験の幅を広げることを推奨する。
経理のスキルは、通常の業務以外でどのように活かせるか。
まず、社内では、新規事業への積極的関与が挙げられる。売上・利益に関与することで、業務評価に繋がるインセンティブ要素も加わるだろう。コロナ禍で既存事業がダメージを受けている企業が売上を伸ばすためには、新規事業の開発が主となる。数字の抜けや甘さを出さないために、経理部が最初から参画し、定期的に経営陣に提案することが望ましい。
他方、社外でのニーズはどうか。まず、純粋な作業代行。そして、経費削減、資金繰り、業務改善などのアドバイス。更に、経営者の提案・提言も考えられる。経理は、比較的業界を横断して仕事がしやすい分野だ。ただし、社外で存分に活躍するためには、人脈・営業力・交渉力・コミュニケーション力といった「知識以外のもの」も必要となる。
これからの経理は、従来の経理処理にプラスアルファで何ができるかが重要だ。特に求められるだろう能力を2つ挙げる。
一つ目は、文章力。チャットツールの活用が広がり、文章を書く機会が増している。特に経理は難しい文章になりがちだ。1回の読み流しで全員が理解でき、かつ、不快でない文章作成能力が求められる。
二つ目は、共感力。経営者の考えに共感する力だ。常に売上・利益を考えている経営者に寄り添うに当たり、数字を扱う経理は他部署より有利だ。ただし、経理目線だけでは足りない。経営者の目線に立って提案・提言する必要がある。そのためには、ビジネス書を読んで視座を高めること、新しいものを試す好奇心、情報収集力が求められる。
最後に、テレワーク活用のポイントを紹介したい。対面とはコミュニケーションの状況が異なる中、特にマネジメントする立場から見たコツを6つ挙げる。
第一に、「上から下への確認」ではなく「下から上への報告」スタイルとすること。
第二に、信頼できない人材を無理に雇用するより、信頼できるフリーランスを活用すること。作業単価や社会保険料などのコスト削減にも寄与する。
第三に、スキルの浅い社員には、Web上で同席すること。
第四に、指導・注意をする場合は、上司目線ではなく同僚目線で行うこと。対面より柔らかい伝え方が望ましい。
第五に、マイノリティの意見を見落とさないこと。
第六に、提出物の期限を厳守すること。これが何より重要だ。全員が100%完遂しなければ、生産性の高いテレワークは不可能である。今後、デジタル化・テレワーク化が進めば進むほど、期限厳守、自立・自律の能力が重要になっていくだろう。