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5年間で3.75倍に!? 世界中で進むデジタルペイメントを読み解く

銀行のスマートバンキング化の動きが加速している。その中でも特に注目すべきは「デジタルペイメント」だ。日本政府も2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を公表し、デジタル上での資金のやり取りの重要性は高まってきている。デジタルペイメントは現在どの程度世界で活用されているのか、銀行や顧客にとってのメリットは何なのか、今後銀行はこの流れにどのように対処していくべきか解説する。

5年間で3.75倍に!? 世界中で進むデジタルペイメントを読み解く
  1. スマートバンキングに必要な技術
  2. 代表的なデジタルペイメントの種類
  3. デジタルペイメントの取引額と市場促進要因
  4. デジタルペイメント時代に銀行はどう対応していくか

スマートバンキングに必要な技術

最先端ICT技術の発展に伴い、従来は実店舗のみでしかできなかった各種銀行業務が、モバイルやインターネットを通じて実施できるようになってきており、「スマートバンキング」と呼称されている。スマートバンキングに必要な技術は、以下の6つに大別できる。

  1. 効率的な資金決済の手法であるデジタルペイメント
  2. 安全性を担保するサイバーセキュリティ
  3. 非構造化データを含む、多種多様なデータを分析するアナリティクス
  4. 柔軟なインフラ運営を可能にするクラウドコンピューティング
  5. データ収集の効率化や顧客体験向上をもたらすIoT(Internet of Things)
  6. 利便性をもたらすモバイル

デジタルペイメントは、物理的なお金を用いずに支払いを実施するアクションの総称である。Amazonでの支払いや、ATMを用いた振込みもデジタルペイメントの一種である。このデジタルペイメントが、近年非常に注目されるようになっている。以下、特に注目されているデジタルペイメントについてみていく。

代表的なデジタルペイメントの種類

① インスタントペイメント

まず一つ目は「インスタントペイメント = リアルタイムの小額支払い」だ。インスタントペイメントを定義する特徴として、下記の3つが挙げられる。

  • 365日24時間体制で支払いが可能
  • リアルタイムで資金のやり取りができる
  • 支払い側も受け取り側も、リアルタイムで支払い状況の確認ができる

オンライン上で支払いを実施しても、それが受け付けられるのに1日もしくはそれ以上かかり、フラストレーションを感じた経験がある人は少なくないだろう。ビジネスのスピードが高速化している現在、支払いも「いつでも」「リアルタイムで」実施できるようにする必要がある。

EUでは、欧州中央銀行がTIPS(TARGET Instant Payment Service)というイニシアティブを実施している。これは、国をまたいでもインスタントペイメントが実施できる仕組みを構築し、欧州全体でインスタントペイメントを実施できるようにすることを目的としている。

アメリカでも、NACHA(National Automated Clearing House Association:全米自動資金決済センター)を中心にインスタントペイメントの導入が進んでいる。給与、年金、企業間の支払い等に関して、インスタントペイメントの実現がどんどん進んでいる状況である。

② インビジブルペイメント

次にあげられるのはインビジブルペイメントである。これは、カードナンバーや銀行口座などを提供することなく支払える仕組みのことを指す。

スマートフォンやPCを活用した支払いは、実際のキャッシュを用いた支払いよりシンプルでスムーズなことはいうまでもない。しかし、それでも毎回カードナンバーや口座番号を入力するのはかなりの手間だ。インビジブルペイメントは、その手間すら削減してしまう。具体的な例としては、スマートフォンアプリを一度ダウンロードすれば、店内で商品を手にとって店外に出るだけで自動的に支払いが行われる「Amazon Go」がわかりやすいだろう。インビジブルペイメントのプロバイダーとしては、Adyen(オランダ)、Samsung(韓国)、Stripe(アメリカ)、Ingenico(フランス)などがあげられる。

③ P2Pペイメント

最後にもうひとつ、P2Pペイメントを紹介する。P2Pは「Peer-to-Peer」の略称であり、他者を介在させず1対1で支払いができることを示している。

この領域の先駆者としてはPaypal社があげられる。Paypal社の独自プラットフォームを利用し、金融機関を介在させずに個人間で支払いと受け取りができる。Paypal社が介在しているので完全なPeer-to-Peer決済ではないものの、銀行を通じた支払いよりもはるかに早く、手数料も安く済む。この分野のメインプレイヤーはTransferWise(イギリス)、Square(アメリカ)、Wepay(アメリカ)等である。Paypalも、P2P決済に特化したVenmoというサービスを運営している。

P2P決済は、銀行のネットワークが未発達である国や地域で発展しやすいという特徴がある。アフリカではM-PESAというケニア発のP2Pペイメントプロバイダーがおり、アフリカ内外でビジネスを徐々に拡大させている。

デジタルペイメントの取引額と市場促進要因

フロスト&サリバンは、デジタルペイメントの中でも特にモバイルを活用したペイメントに着目して調査を実施している。全世界でのモバイルペイメントの取引額は、2021年には約2兆2,715億ドルに達すると見られている。これは、2016年の約6,359億ドルの3.57倍にもなる。最も取引総額が大きくなるのはアジア太平洋地域で、ついでヨーロッパ、北米、アフリカおよび中東地域と続いていく。どの地域でも、毎年2桁%を越える成長率で取引総額が伸びていく予想がされている。

デジタルペイメントがこのように大きく発展している背景はなんだろうか。フロスト&サリバンでは、下記の3つに分けて市場促進要因を説明している。

デジタルペイメントプロバイダーの視点:クラウドによるコスト削減およびスタートアップへのサポート

AWSやMicrosoft Azureなどのパブリッククラウドベンダーの台頭により、アプリケーションの運用・導入コストを格段に下げられるようになった。また、フィンテック関連のスタートアップ企業の設立については、大企業や国がサポートをする事例が、どの地域にも見られる。これらの要因により、デジタルペイメント市場への参入が比較的容易になっている。

デジタルペイメント活用企業の視点:データ解析による高度なマーケティング需要

デジタルペイメントにより、銀行や小売店は顧客の活動を定量的に把握することができる。「いつ、どこで、誰が、何を、いくらで購入したのか?」というデータの回収量や精密さが向上し、それを用いて新たなマーケティング施策の立案や検証に活用することが可能となる。デジタルペイメント導入時に少々コストがかかったとしても、このメリットを魅力に感じる企業は少なくないだろう。

顧客の視点:モバイルデバイスの一般化とクロスボーダー取引コストの削減

デジタルペイメントを活用するためには、それを使うためのデバイスを有する必要がある。特に先進国を中心にスマートフォンやタブレットが普及し、先進国以外でも大多数の人がフィーチャーフォンを持つようになってきている。これらのデバイスを用いて簡単にアプリケーションをダウンロードし、ストレスなくデジタルペイメントを活用できるようになってきた。モバイルデバイスが一般化したことにより、デジタルペイメントが使いやすくなったことも市場拡大の一因であるといえる。

また、グローバル化の進展に応じて国境を越えた取引(クロスボーダー取引)が増えたことも、デジタルペイメントの成長促進要因といえる。現状、銀行を介してクロスボーダー取引を実施すると、時間がかかり、かつ手数料も非常に高くつく。デジタルペイメントであれば、この時間や手数料等のコストを大きく削減することができ、顧客にとっては大変魅力的である。

デジタルペイメント時代に銀行はどう対応していくか

銀行が今後デジタルペイメントを武器としてビジネスを拡大していくためには、APIを公開して多数のモバイルペイメントプロバイダーや小売店との連携を深めていくことが必要となるだろう。過去のリテールバンキングにおいては、支店数そのものが差別化要因となっていたが、デジタル化が進展した現在、それは大きな要因とはなりえない。そのような現実世界でのプレゼンス向上よりも、デジタル上でのプレゼンス向上を目指す必要がある。

銀行が自ら使い勝手のよいモバイルアプリケーションやWebサービスをつくり、自行の口座を開いてもらうトリガーとするやり方も考えられるが、銀行で抱えているリソースだけでのアプリケーションやソリューション開発には限界がある。それよりも、自行の口座を使って決済をするためのAPIを無料で公開していく取り組みのほうが実現性が高いように見受けられる。三菱UFJ銀行はすでにこの取り組みを実施しており、銀行API、証券API、投信情報APIをWebサイトを通じて提供している。

IT投資を増やしてデジタルペイメントやモバイルペイメントのアプリケーションを充実させることも重要だが、各行員がデジタルの価値を理解し、積極的に顧客への説明やサポートを実施することも不可欠になるだろう。そのやり取りの中で、顧客が今銀行に求めているものは何なのか、それをテクノロジーを生かしてどう解決すべきなのか、積極的に提案していくべきであろう。

もちろん、自行のみでそのアイディアを実現することが難しいこともあるだろうが、その場合は現在勃興しているフィンテック企業と協力し、新たなソリューションを開発していくという手段をとるのもよいかもしれない。

デジタルペイメントは、今後もより広がっていくだろう。銀行は、ただデジタルペイメントアプリケーションを開発するのではなく、それにより顧客に与えるベネフィットや新しく生じる競争優位性について、真剣に考え抜く必要がある。

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【 寄稿 】
フロスト&サリバン ジャパン

伊藤 祐 氏

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