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IoTが銀行の融資サービス業務にもたらす影響

スマートバンキングが加速している。人工知能やクラウドコンピューティングが銀行業界で徐々に普及し始めている中、次のフロンティアとしてIoTのバンキングへの応用が注目されている。IoT機器の活用によって銀行が収集できるデータ量は爆発的に増加し、融資サービスを始めとする銀行業務の幅を大きく広げるだろう。本稿では、れまでの銀行融資の一般的なスキームと課題について説明した上で、その課題をIoTによってどのように克服できるのかについて解説する。

IoTが銀行の融資サービス業務にもたらす影響
  1. はじめに
  2. IoTがもたらす情報の対称性
  3. IoTを活用した融資サービス① 法人融資
  4. IoTを活用した融資サービス② 個人融資
  5. IoT化の先にあるもの

はじめに

銀行のデジタルトランスフォーメーションとそれに伴う顧客体験の向上は、様々な場所で起こっている。

例えば、アナリティクスの面では人工知能やクラウドコンピューティングを活用して、主に個人向けサービスの質の向上が試みられている。

また日常生活のモバイル化に呼応する形で、銀行のモバイルアプリケーションは預金・送金や為替振替・証券取引など様々なサービスをモバイル上で提供するようになった。こうした一連の変化は、既存サービスの内容を維持したまま、より各顧客の属性や周辺環境にフィットした形で提供することに重点を置いている。

一方で、既存サービスの内容を拡大させる可能性を秘めた技術革新も起こり始めている。それが今回の記事で紹介する銀行融資のIoT化である。

これは顧客の資産にセンサーを取り付け、リアルタイムで収集した物理データを活用することで、顧客のニーズにより寄り添った融資サービスを提供するために用いられる。

IoTがもたらす情報の対称性

これまで個人が銀行からお金を借りるには、不動産を担保に入れることで融資を受けるか、或いは年齢や職業・年収などの属性情報を銀行側に提供し、一定限度額の下で融資を受ける形が一般的であった。

企業の場合には会社保有の土地を不動産担保として入れるか、もしくは財務諸表等を基に融資判断してもらうことが多く、融資額が大きければ大きいほど審査時間も必然的に長くなる。こうした銀行融資時の課題は以下の3点に集約される。

  1. 担保対象として利用できるモノが限られている
    →担保対象は資産価値の高い不動産など個数が限られている場合が多い。
  2. 融資時のリスクマネジメント・計算のために利用できる情報が限られている
    →現状として、顧客の属性情報や財務諸表等の構造データのみが使われることが多い。
  3. 大きな融資を受ける際には時間的なロスが発生する
    →巨額の資金需要が発生した際には、より煩雑な審査プロセスが必要とされる場合もある。

融資対象が銀行に完全な情報を公開している保証はなく、優良な融資対象と問題のある融資対象を完全に区別することは至難の業である。そのため、銀行はリスクマネジメントのために高めの利率及び低い融資限度額を設定せざるを得ないのである。

この問題は単に顧客の利益を損なうだけでなく、銀行の利益最大化という観点からも問題である。優良な融資対象にとっては割にあわないような利率設定は結果的に優良顧客の流出につながるからである。

そうした課題を解消するツールとしてIoTが注目されている。担保対象として不動産がよく用いられる理由は単価が高くかつ資産状態等の情報を容易に把握しやすいからである。

一方で、単価が高くても様々な場所を移動しながら利用される資産(以下:動産)である自動車や産業機械・大型貨物は資産状態の把握等が難しく、銀行の融資対象として十分に活用されてこなかった。

しかし、IoT機器の普及によって、単価の高い動産を担保として個人顧客や法人顧客に対して融資を提供するサービスがここ1,2年で実行され始めている。

これはIoTセンサーを通じて動産の資産状態をリアルタイムで収集することで、銀行側が適切な情報収集・リスクマネジメントをしながら資金を融資できるようになったからである。情報の非対称性の改善において、IoTは金融業界から高い期待を寄せられている。

IoTを活用した融資サービス① 法人融資

その一つの例が2018年10月にStandard CharteredとHuaweiが発表した「IoTを活用した融資」である。Standard Charteredは、中国の企業Huaweiと共同で、リアルタイム情報収集とスマートコントラクトを実現するIoTセンサーの開発に取り組んでいる。

同行は、顧客の資産の内、資金調達判断に使用される可能性のあるモノ・商品のデータを蓄積するために、HuaweiのクラウドベースのIoTプラットフォームである「Ocean Connect」を試験的に運用している。

通常、銀行が企業に対して融資を行う際には紙や電子メールでの契約が手動で取り交わされて交渉が成立し、資金移動(トランザクション)が行われる。

しかし本サービスでは、紙または電子メールを手動で取り交わす手間を省き、収集されたIoTデータが特定の基準を満たされた時にクラウド上でリンクされた銀行および企業のAPIを通じて自動で資金移動が完了される。

このサービスでIoTを活用することで、企業が融資をより迅速に受けられるようになる。加えて、融資時の判断材料の豊富さは必要な資金調達を得られる可能性を高める。こうした銀行による資金調達の決定へのIoTデータ利用は今後さらに加速するだろう。

他の例として、ドイツのコメルツ銀行が挙げられる。融資した資金によって購入された機械にIoTセンサーを取り付けて情報収集を行い、実際の使用状況に応じて融資した企業の返済条件を調整している。このサービスは、設備投資向けの従量課金型ローンとして注目されている。

オーストラリアのコモンウェルス銀行もまた、農作物などの資産をより効率的に購入・管理するためにIoTとブロックチェーン技術を組み合わせたサービス構築を試みている。

IoTを活用した融資サービス② 個人融資

IoTを活用した個人融資の有名な例としては自動車向けIoTサービス開発を手がけるグローバルモビリティサービス(GMS)の試みがある。

本サービスはフィリピンの低所得者層向けに前払い方式で自動車を提供したことで話題を呼んだ。利用者が週単位で自動車利用料金を負担する仕組みであり、従来リースの対象者とはならなかった、個人顧客や中小零細企業がメインターゲットである。

このシステムでは、IoT機器を通じて燃費やスピード、運転経路、ブレーキ状況などの情報を把握し、料金体系と連動させている。仮に料金の未払いが生じた場合、ネット経由でエンジンを遠隔制御して資産保全を図る。これにより与信審査の時間とコストを大幅に削減することができる。

日本国内の銀行でも導入が始まっている。その一例が西京銀行の提供する「GPS装置付きマイカーローン」である。GMS社が提供するエンジン遠隔制御サービスを活用することで、自動車ローン返済促進のプロセスを自動化し、銀行業務の簡略化に成功した。

このシステムによってエンジン遠隔起動制御によるローン返済促進など、与信管理業務の高度化を実現できる。これまでの銀行のアナリティクスにおいては顧客の属性情報を頼りに信用スコアリングを行っていた。

しかし、顧客の属性情報のみに依存しない新たなスコアリングモデルを構築できるようになったことで、これまで利用が難しかった若年層や年金受給者などより多くの層に対して適切なリスクマネジメントを行いながらローンやリースを行うことが期待される。

IoT化の先にあるもの

これまでの例でみてきたように、IoT機器の活用によって信用リスクマネジメントにおける銀行側のコストは大いに削減されるだろう。銀行にとって、顧客の属性情報以外の豊富なデータをIoT機器を通じて獲得できるようになる意味は大きい。

一方で、顧客側にとっても、データを銀行に提供する代わりに、自己の資金需要に見合った融資額・融資形態を選択できるようになることは非常に魅力的だ。

IoTを基盤としたシステムは、借り手のニーズに応じて融資額、金利、または融資契約に基づく債務条件等を柔軟に設定できるようになる。さらに情報、契約、債務不履行の事象をIoTを通じて効果的に監視することで、貸し手は信用リスクをより適切に管理できる。

銀行のIoT化は今後融資サービスだけに留まらない、あらゆる資金移動を著しく円滑化させる可能性を秘めている。IoTをベースとした金融プラットフォームは、クラウド上に構築されることが多いため、オープンAPIを通じたビジネスロジック設計および調整が容易に行える。

今後、若者の消費需要を喚起することや中小企業の積極的な設備投資を後押しできるような仕組みは必要不可欠である。IoTを活用したスマートバンキングには純粋に顧客満足度を向上させるだけでなく、日本経済を活性化させる一つのカンフル剤としての役割も期待したい。

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