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金融仲介機能の発揮と金融システムの安定<広島銀行>

人口減少や低金利環境の影響により地域金融機関の経営が厳しさを増す中、金融庁の「令和元年事務年度金融行政方針」(以下、金融行政方針)では「金融仲介機能の発揮と金融システムの安定の確保」の重要性が指摘された。監督官庁からの指導を受け、各金融機関が持続的なビジネスモデルを模索する中、広島銀行が打開策として着目したのは「デジタルトランスフォーメーション」による地域経済の活性化だった。同行のデジタル戦略部 部長 瀬尾浩一氏に、取り組みの全容を聞いた。

金融仲介機能の発揮と金融システムの安定<広島銀行>
  1. デジタル化の推進に向け社内体制の強化へ
  2. 多様な企業との連携を深める銀行APIの公開

デジタル化の推進に向け社内体制の強化へ

地方銀行の経営環境は厳しさを増している─。2019年8月に公表された「金融行政方針」によると、全国の地銀105行のうち45行は、顧客向けサービス業務の利益が2期連続の赤字、そのうち27行は5期連続赤字となり、地銀の黒字転換の進まない状況が指摘されている。

他方、急速に進展するデジタル化の流れを受け、新たな競争も生まれ始めている。金融機関を取り巻く環境は決して楽観視できるものではない。しかし、こうした環境においても金融機関には、「金融仲介機能の発揮」と「金融システムの安定」を両立すべく、持続可能なビジネスモデルの構築が求められている。

とりわけ、地域金融機関には地元企業や個人との結びつきを強め、地域社会の活性化につながる変化を意識する必要がある。そのヒントとなるのが、デジタル技術の活用だ。

広島銀行 デジタル戦略部 部長 瀬尾浩一氏は、「いまや、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みは、金融機関にとって重要な経営戦略の一つとなりつつある。当行の強みである『地域顧客とのリレーション』『地域を中心とした膨大なデータ』とデジタル技術を掛け合わせれば、逆風をビジネスチャンスに変えていけると考えている」と語る。

2016年8月、広島銀行は非金融ビジネスを含めた新ビジネスの創出を目指して中長期的な検討を行う「新事業開発推進室」を立ち上げた。2018年2月に同室は「金融のデジタル化」の中核を担う組織として「デジタルイノベーション室」へと生まれ変わる。デジタルイノベーション室の役割は、新技術の活用により新たな価値を生み出すこと。新ビジネスの企画・立案・推進をはじめ、新たなテクノロジーの調査・研究・活用を担当する組織だ。

2019年4月には、キャッシュレス決済の企画などの機能を統合し、「デジタル戦略部」を新設した。このように、同行は経営トップの主導のもと、より迅速かつ挑戦的な「デジタルトランスフォーメーションへの取り組み」を推進すべく社内体制を強化してきたのだ。

多様な企業との連携を深める銀行APIの公開

同行の「デジタル戦略部」では、「地銀×デジタル×地域社会」の最適解を導くための主要な戦略として、①既存サービス・チャネルの抜本的見直し(新技術の活用、顧客の行動変化への対応)、②「地域金融機関として」強みを生かしつつ、あるべきモデルを模索し、他業態とのアライアンスを含めた新ビジネス・オープンイノベーションを創出、③データの利活用の促進の3つを掲げ、デジタルイノベーションの取り組みを進めている。

瀬尾氏は、「社会インフラの一翼を担う金融機関として、デジタル化は早急に対応すべき優先課題であるとの認識のもと、『銀行アプリのリリース・高度化』をはじめ、『キャッシュレス決済サービスのラインナップ化・逐次投入』、『RPAの導入』など、既存のサービスやチャネルの抜本的な見直しに向け、様々な施策に取り組んでいる」と話す。

同時に、同行は地域金融機関として地域経済の活性化に資するビジネスモデルの構築を進めている。例えば、「データの利活用」に着目し、地元を中心としたあらゆる産学官との連携により、オープン・イノベーション型の新ビジネス創出を目指した挑戦を続けている。

同行のデジタルイノベーションの取り組みの具体的な事例として、「オープンアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)公開」「広島地域データ連携基盤の構築実証事業」、「事業性融資審査へのA(I 人工知能)活用」などがある(図表)。

同行の「API公開」では、残高照会や取引履歴の照会などの銀行サービスの一部をAPIとして外部企業へ公開している。瀬尾氏は「今後も API のラインナップを拡充しつつお客さまの利便性向上に資するチャネルの多様化を進める。また、オープン・イノベーション促進の観点から、多様な企業との連携・協働を図る中で、新サービスを生み出し新たなお客さま価値の創出を目指す」と語る。

2つめの事例の「広島地域データ連携基盤の構築実証事業」とは、同行の目指すデータの利活用促進の一環として進められている事業だ。

広島県は、AIやあらゆるモノがネットにつながるIoT、ビッグデータなど、最新のテクノロジーを活用することで広島県内の企業が新たな付加価値の創出や生産効率化に取り組めるよう、産学官連携による実証実験事業として、「ひろしまサンドボックス」を構築している。

同行は、ソフトバンクや中国電力、イズミとともに「ひろしまサンドボックス」で採択された「地域データ連携基盤構築実証事業」に参画。広島県における企業間のデータ流通の促進や県民の利便性向上に資するサービスの構築に向け、2018年10月より実証を行っている。

3つめの「事業性融資審査へのAI活用」は、同行が2017年2月より開始した小規模事業者向けの事業性融資審査へのAI活用に向けた実証実験だ。銀行の本業の一つである事業性融資へのAI活用の検討は、業界内でも先駆的な取り組みと言える。実現すれば、スピーディーかつ低コストでの融資が可能となる。

そのほか、地域に根差した取り組みとして、同行は広島県と連携し、「広島地域の循環プラットフォームとして地域経済の活性化に寄与する」のコンセプトのもと、異業種が連携できるイノベーションハブのブランド「YEN HIROSHIMA(えんひろしま)プロジェクト」を立ち上げた。

「YEN HIROSHIMAプロジェクト」の“YEN”には、①通貨の“円”、②地域内循環プラットフォームの“円”、③人・企業のつながりの“縁”という、3つの意味が込められている。

瀬尾氏は「銀行が提供できるサービスと外部の企業のサービスを融合することにより、広島県を中心とする地域経済の活性化や、同地域に拠点を置く企業の働きやすさにつながるイノベーションを創出していく狙いがある」と語る。

「5年~10年後の地域の法人・個人のお客さまにとって何が必要か、地域金融機関として何をすべきか」─。金融機関に共通する中長期的な課題への対応次第で、今後、業界内の立ち位置は大きく変わるだろう。瀬尾氏は「当行としては、デジタル戦略を今後10年間の最も基本的かつ重要な戦略と位置付け、注力していく方針だ」と強調する。

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【 インタビュー 】
広島銀行
デジタル戦略部
部長

瀬尾 浩一 氏

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