令和6年度税制改正大綱における企業向けのポイント
(1)賃上げ促進税制の強化
賃上げ促進税制の強化は、企業が従業員に対する給与を増やすことで、法人税を一定額差し引く仕組みのことです。大企業、中堅企業、中小企業の改正後の税制は以下の表の通りです。
<賃上げ促進税制の拡充及び延長>
企業規模 | 継続雇用者※4 給与等支給額 (前年度比) |
税率 控除額 ※6 |
教育 訓練費 ※7 |
税額 控除率 |
両立支援 女性活躍 |
税額 控除率 |
最大 控除率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
大企業 ※1 |
+3% | 10% | +10% | 5% 上乗せ |
プラチナくるみん or プラチナえるぼし |
5% 上乗せ |
35% |
+4% | 15% | ||||||
+5% | 20% | ||||||
+7% | 25% | ||||||
中堅企業 ※2 |
継続雇用者 給与等支給額 (前年度比) |
税率 控除額 |
教育 訓練費 |
税額 控除率 |
両立支援 女性活躍 |
税額 控除率 |
最大 控除率 |
+3% | 10% | +10% | 5% 上乗せ |
プラチナくるみん or えるぼし三段階目以上 |
5% 上乗せ |
35% | |
+4% | 25% | ||||||
中小企業 ※3 |
全雇用者※5 給与等支給額 (前年度比) |
税率 控除額 |
教育 訓練費 |
税額 控除率 |
両立支援 女性活躍 |
税額 控除率 |
最大 控除率 |
+1.5% | 15% | +5% | 10% 上乗せ |
プラチナくるみん or えるぼし二段階目以上 |
5% 上乗せ |
45% | |
+2.5% | 30% |
脚注
※1)「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上」又は「従業員数2,000人超」のいずれかに当てはまる企業は、マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届出を行うこと
が適用の条件。それ以外の企業は不要。
※2)従業員数2,000人以下の企業(その法人及びその法人との間にその法人による支配関係がある法人の従業員数の合計が1万人を超えるものを除く。)が適用可能。ただし、資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業は、マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届出が必要。
※3)中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等)又は従業員数1,000人以下の個人事業主が適用可能。
※4)継続雇用者とは、適用事業年度及び前事業年度の全月分の給与等の支給を受けた国内雇用者(雇用保険の一般被保険者に限る)。
※5)全雇用者とは、雇用保険の一般被保険者に限られない全ての国内雇用者。
※6)税額控除額の計算は、全雇用者の前事業年度から適用事業年度の給与等支給増加額に税額控除率を乗じて計算。ただし、控除上限額は法人税額等の20%。
※7)教育訓練費の上乗せ要件は、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の全雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合に限り、適用可能。
※8)繰越税額控除をする事業年度において、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加している場合に限り、適用可能。
引用:令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について P8 (経済産業省)
改正によって従来の賃上げ要件を維持しながら、控除率の見直しによって、賃上げを促進できる環境を整えることが狙いです。また、赤字決算の多い中小企業は、これまで賃上げ促進税制の恩恵を受けられなかった背景から、繰越控除制度を新設し、賃上げ実施年度に控除しきれなかった金額を5年間繰り越すことを可能としました。
(2)特定税額控除不適用規定の見直し
大企業に向けて特定税額控除不適用規定の見直しを実施します。以下の表が改正内容です。
<特定税額控除不適用規定改正内容>
要件 | 現行 | 改正 |
---|---|---|
所得金額 | 対前年比で減少 | 変更なし |
継続雇用者の給与等支給額 | 対前年増加率1%以上 | 変更なし |
国内設備投資額 | 減価償却費の30%超 | 減価償却費の40%超 |
※ 要件が強化される法人についての要件(いずれかの要件に該当しないと特定税額控除規定の適用を受けることができない)
制限の対象となる特定税額控除の税制は以下の通りです。
- 研究開発税制(総額型、オープンイノベーション型)
- 地域未来促進税制
- 5G投資促進税制
- カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
- デジタルトランスフォーメーション投資促進税制
(3)事業再編投資損失準備金制度の拡充
現行の事業再編投資損失準備金制度とは、一定の要件を満たした事業者がM&Aを行い、株式を取得した際に、取得対価の70%以下の金額を準備金として積立できる制度です。
新制度の概要は以下の通りです。
【事業再編投資損失準備金新制度概要】
- 「特別事業再編計画(仮)」の認定を受けた事業者が対象である
- 購入する株式の金額が1億円以上100億円以下であることが要件である
- 準備金として積立できる金額は、初回が株式取得価額の90%、二回目以降は100%とする
- 措置期間を最大10年間と大幅に長期化する
上記の改訂によって、今後の成長に向けて動いていきたい中堅・中小企業が、複数のM&Aによってグループ化を目指し、グループ一体となった成長を実現できる環境を整えたい狙いです。
(4)国内投資促進税制
戦略分野国内生産促進税制
日本経済の底上げを目指し、戦略物資を国内生産の促す税制である「戦略分野国内生産促進税制」では、以下の5つの分野への投資を促進するための減税制度です。
<対象分野>
- 半導体
- 電気自動車
- グリーンスチール
- グリーンケミカル
- SAF
アメリカでのIRA法やCHIPS法、ヨーロッパにおけるグリーン・ディール産業計画などに対応し、戦略分野における投資を国内に向けさせることを目指します。
対象の法人が事業適応計画の認定を受け、産業競争力基盤強化商品の生産をするための設備の購入が税制の対象です。
税額控除の期間は、事業適応計画の認定から10年間となっており、控除ができない場合でも3~4年間の繰越控除が可能です。
イノベーションボックス税制
イノベーションボックス税制は、無形資産である特許や著作権などに対して国内投資を促す制度のことです。国内の法人企業に対して特定特許検討の譲渡・貸付を行った際、対象となった事業で得られた課税所得の30%を控除する仕組みになっています。
国外への投資は制度の対象外となっており、国内投資のみが対象となっているのが特徴です。
制度の実施は2025年4月から7年間適用予定です。
スタートアップ関連税制等
スタートアップ関連税制とは、新規でビジネスを始める起業家に対して、政府が税制面から支援を行うものです。本章ではスタートアップ関連税制の中でも、ポイントとなる「ストックオプション税制」と「エンジェル税制」について解説していきます。
<ストックオプション税制>
ストックオプション税制では、新株予約権の行使など株式の取得に係っていた経済的利益に対する非課税枠が以下のように緩和されます。
項目 | 現行 | 改正 |
---|---|---|
設立から5年未満の株式会社 | 1,200万円 | 2,400万円 |
設立以後5年以上20年未満の会社で、 以下のいずれかに該当する会社・未上場の会社 ・上場後5年未満の会社 |
1,200万円 | 3,600万円 |
適用対象となる新株予約権に係る契約の要件については、「新株予約権を与えられた者と当該新株予約権の行使に係る株式会社との間で締結される一定の要件を満たす当該行使により交付される株式(譲渡制限株式に限る)の管理等に関する契約に従って、当該株式会社により当該株式の管理等がされること」の要件を満たす場合、「新株予約権の行使により取得をする株式につき金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託等がされること」の要件を満たすことが不要になります。
<エンジェル税制>
エンジェル税制とは、スタートアップ企業に対して投資を行った個人投資家に対して、税制上の優遇措置を講ずる制度のことです。
特定の中小企業が発行した株式を取得した際に、取得に要した金額の控除と発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除等について、以下の措置が講じられます。
- 適用対象となる特定新規中小企業者に該当する株式会社等により発行される特定株式の取得に要した金額の範囲に、当該特定株式が当該株式会社等により発行された一定の新株予約権の行使により取得をしたものである場合における当該新株予約権の取得に要した金額が加えられます。
- 中小企業等経営強化法施行規則の改正を前提に、適用対象に、特定新規中小企業者に該当する株式会社等により発行される特定株式を一定の信託を通じて取得した場合が加えられます。
- 本特例の適用を受けた控除対象特定株式に係る同一銘柄株式の取得価額の計算方法について、特定新規中小会社が発行した株式を取得した場合の課税の特例の適用を受けた控除対象特定新規株式に係る同一銘柄株式の取得価額の計算方法と同様とする見直しが行われます。
(5)交際費の損金不算入制度の除外措置拡大
元来、損金不算入となっていた5,000円以下の飲食費の範囲を、1人あたり10,000円以下に引き上げるものです。なお、中小企業の定額控除限度額は年間800万円までとなっており、この全額を損金算入可能とする特例措置を3年間延長することとしています。
(6)外形標準課税制度の対象拡大
資本金1億円超の法人を対象とした外形標準課税制度は、資本金の額をもとにして課税を行うものです。同制度は2004年度から実施されましたが、コロナ禍をきっかけに大企業が税制対策として資本金1億円以下に減資を行い、課税から逃れる事態が多発しました。
そのため、資本金1億円超の現行基準を維持しながら。対象範囲を拡大するよう改訂されています。具体的には、以下の通りです。
<対象範囲>
- 前事業年度に外形標準課税の対象であること
- 当該事業年度に資本金が1億円以下であること
- 当該事業年度に資本金と資本剰余金の合計額が 10 億円を超えること
さらに100%子法人に対しても、以下のすべてに該当する法人が対象となります。
<対象範囲>
- 資本金と資本剰余金の合計額が 50 億円を超える外形対象法人の100%子法人等
- 当該事業年度に資本金が1億円以下であること
- 当該事業年度に資本金と資本剰余金の合計額が 2億円を超えること
(7)国際最低課税(グローバル・ミニマム課税)
国際最低課税(グローバル・ミニマム課税)とは、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業が対象となる、一定の適用除外を除く所得について各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組みのことです。
日本においては、「所得合算ルール」「軽課税所得ルール」「国内ミニマム課税」の3つのルールの導入が検討されており、令和5年度税制改正では「所得合算ルール」に係る法制化が行われています。
(8)事業承継税制の特例承継計画提出期限を2年延長
法人版事業承継税制は、2018年1月から10年間の特例措置として設けられたものです。非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度とも呼ばれ、特例承認計画を提出すると、事業承継時の贈与税および相続税の猶予割合が100%に引き上げられ、現金負担が実質ゼロになります。
現行で2024年3月までだった特例承継計画の提出期限を、2026年3月末までと2年間延長する変更がされています。
(9)将来的な法人税率引き上げの示唆
「令和6年度税制改正大綱」では、「今後、法人税率の引上げも視野に入れた検討が必要である。」と明記されており、将来的な法人税増税が明記されています。こうした中長期的な税率について明記しているのは、非常にめずらしく注目を集めています。
背景には2015年以降、法人実効税率を引き下げたものの、投資や賃上げには至らず、内部留保に回されてしまっている点が触れられています。さらに「税制改正大綱」の中では、「近年の累次の法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない。」と記載しており、法人税の減税には至らない考えを明確にしています。
まとめ
税制改正大綱は例年12月中旬に政権与党の税制調査委員会が、各省庁等の要望を取りまとめます。取りまとめられた税制改正大綱を基にして、政府が12月下旬に「税制改正法案」として閣議決定、翌年1月以降の通常国会に提出、可決されれば、4月以降に施行されます。
大綱で自社に関連するポイントを押さえておき、改正後に素早く対応ができるように準備しておくことが大切です。
- 寄稿
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株式会社セミナーインフォTheFinance編集部