企業のためのデジタルマーケティングのすすめ-潮流と全体像を学ぶ

企業のためのデジタルマーケティングのすすめ-潮流と全体像を学ぶ

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デジタルマーケティングは、ただホームページを構えるだけの時代から、顧客一人ひとりを認識し、その生涯価値を高めるツールへと進化した。オムニチャネルを活用してカスタマーエクスペリエンス・ジャーニーを創出し、ビッグデータを駆使して効率的な施策を実施する。本稿では、その全体像をわかりやすく解説する。

  1. デジタルマーケティングとは
  2. マーケティングの潮流
  3. 顧客識別マーケティング ①会員制サービス
  4. 顧客識別マーケティング ②金融機関のロイヤルティプログラム
  5. カスタマーエクスペリエンス・ジャーニーの創出
  6. デジタルマーケティングにおけるビッグデータ活用
  7. デジタルマーケティングの取組み度合いを計るチェックリスト
  8. デジタルマーケティングのリスク

デジタルマーケティングとは

「デジタルマーケティング」という経営用語が巷に溢れている。これらの戦略について、明確な定義は特にないが、簡単に説明すると以下のようになる。

デジタルマーケティング

デジタルマーケティングとは、デジタルでマーケティングを行い、デジタルでビジネスを遂行・検証するための戦略のことである。

具体的には、ターゲットとなる顧客層をデジタルにIT(主にID)で捉えてマーケティングの方向性を立案し、その顧客層に対して、商品・サービスの貴重な体験をデジタルにIT(主にWeb)で提供することができ、さらにこれらの結果をデジタルにIT(主に分析システム)で検証できるもの全てが関連する。

デジタルコミュニケーションとの違い

デジタルマーケティングをよくプロモーション(広告宣伝など)の関連で語られることが多い。プロモーションに限った内容は、主に「デジタルコミュニケーション」の用語の方が釣り合うと考えられる。

マーケティングの4Pについては既に説明する必要はないであろうが、これはあくまでも「売り手の視点」である。これを「顧客の視点」で語ると4Cで表現でき、そのコミュニケーション部分において、デジタルなツールであるSNS、スマホ・アプリなどのツールが、デジタルコミュニケーションを促すと言える。

デジタルコミュニケーションの位置付け

マーケティングの潮流

マーケティングの潮流

インターネットのWebサイト上でのマーケティングは、Webマーケティングと呼ばれ、WebサイトやWeb技術を応用したマーケティング手法として、主にプロモーションが主体であった。

これらは「個」の顧客をターゲットとしたマーケティングに発展し、結果として会員制サービスとなり、デジタルマーケティングの源流となっている。

また、eビジネス(ネットビジネス)、ビッグデータビジネス、事業者サイト間でシングルサインオンや属性情報、機能・サービスの連携を行うID連携、Online to Offline(O2O)のオムニチャネルなど、このデジタルマーケティングを構成する大きな要素として発展してきた。

▼筆者:安岡寛道氏の関連著書
「ポイント・会員制サービス」入門 – 会員組織の構築と改善、成功のポイントと未来戦略

角川インターネット講座9 ヒューマン・コマース グローバル化するビジネスと消費者

顧客識別マーケティング ①会員制サービス

顧客識別マーケティング ①会員制サービス

顧客を育成するOne to One型マーケティング

現代は、ニーズが多様化し、立上期の遠洋漁業型だけでなく、常に育成する「養殖漁業型」(One to One型)のマーケティング(会員制サービス)が必要な時代である。「養殖」と言うとお叱りを受けるかもしれないが、顧客(会員)が見えるマーケティングのたとえとしてのイメージでとらえて貰えれば良いであろう。

マーケティングは遠洋漁業(マス)型から養殖漁業(One to One)型へ

会員制サービスには、ポイントプログラムを始めに、昨今ではソーシャルネットワークサービス(SNS)、IDを付与して疑似的な会員として扱う簡単なサービスからVIP会員向け優遇サービスまで、多々存在する。

ポイントプログラムの目的

これらの会員の取引データが集まるとビッグデータとなり、昨今のあらゆる技術(AI、IoT、Retailtech、Fintechなど)を活用して、新たなサービス展開、ビジネス・市場創出にも繋げられる。

例えば、会員制サービスの代表的なポイントプログラムについて、これを導入することにより、購買履歴などを採取し、次の販促につなげる。この大きな目的は、①顧客囲い込み ②優良顧客化 ③新規顧客獲得 ④相互送客である。

なお、ポイントに影響を受ける消費者は、決して庶民だけではなく、世帯年収が1,000万円~1,500万円になるまでは、年収が高くなるほどポイントによる影響を受ける人が多くなるという結果がある(※)。これらの顧客セグメントをもとにターゲティングすることができる。

参考文献:安岡寛道、『「ポイント・会員制サービス」入門 -会員組織の構築と改善、成功のポイントと未来戦略-』、東洋経済新報社、2014年6月。

ポイントの類型

また、ポイントには、大きく2種類あり、流通ポイントと行動ポイントが存在する。後者を用いた顧客の利用度合いなどでロイヤルティを計り、優遇サービスを提供するロイヤルティプログラムは、前者のポイントプログラムを導入した事業者で、その導入の検討に入る場合が多い。

優遇サービスは、会員組織を提供する事業者において、できるだけ固定費の中で、優良会員向けの優遇策を取り入れている場合が多い(※)。

「流通ポイント」と「行動ポイント」

参考文献:安岡寛道、『「ポイント・会員制サービス」入門 -会員組織の構築と改善、成功のポイントと未来戦略-』、東洋経済新報社、2014年6月。

ロイヤルティプログラムは企業価値の算出にも役立つ

なお、ロイヤルティプログラムなどで顧客を識別すると、一人の会員の生涯価値(LTV)を算出することが可能になる。そのため、企業価値の算出も概算で可能になる。

例えば、ネット関連事業者の場合では、マーケットアプローチ(比較対象となる企業や業界を基準として企業価値を算出する方法)で見ると、1ID(会員数)あたりで、約1,000〜3,000円の価値(2015年頃)を有し、規模拡大は企業価値向上の一つの方法にもなり得る。

会員制サービスの到達点である金融ビジネス

デジタルマーケティング戦略を遂行すると、その会員制サービス事業者の多くは金融ビジネスに行きつく。これは、大手ネット系事業者、大手流通事業者などの事例を見ると分かる。

大きな狙い(目的)としては、自社の決済の内製化(自社カード、電子マネーなどの提供)により、コスト低減を行う。その後、その決済の源流である金融のビジネスにまで進出し、収益を上げていくという流れであり、楽天などは典型的な事例であろう(※)。

参考文献:三木谷浩史監修、安岡寛道、『角川インターネット講座 9巻ヒューマン・コマース ~グローバル化するビジネスと消費者~ 第2部「グローバル時代の企業マネジメント」 第5章「ECにおけるエコシステムの確立」』、193-238頁、KADOKAWA /角川学芸出版、2014年10月。

顧客識別マーケティング ②金融機関のロイヤルティプログラム

顧客識別マーケティング ②金融機関のロイヤルティプログラム

金融機関、特に多くの銀行では、ロイヤルティプログラムを公式/非公式で展開している。ロイヤルティを、取引年数等×ローン×預り資産で優遇条件を規定し、手数料や金利、各種交換などの優遇サービスを提供している。

なお、ロイヤルティ向上の方法論として、まずはロイヤル(優良)顧客像を決めて、そのロイヤルへの上げ方を考え、それを助長する優遇サービスを行うことである。銀行の場合は、主に預金、ローンの金融商品のサービスが基本であるが、あらゆる業種においても同様に考えられる。

金融機関(銀行)におけるロイヤルティプログラムとその基準(例)

カスタマーエクスペリエンス・ジャーニーの創出

カスタマーエクスペリエンス・ジャーニーの創出

顧客に対して、ポイントやクーポンのようなインセンティブを織り交ぜ、デジタルコミュニケーションツール(アプリ、SNSなど)を使い、商品・サービスの貴重な体験を提供する。そうした顧客の誘導により、顧客情報の取得と体験の提供を繰り返し、最適な購買環境をストーリー化していく。

こういった流れをカスタマーエクスペリエンス・ジャーニー(消費経験の旅)と呼ぶが、この流れを自然体にどう作っていくかが、デジタルマーケティングの収益化の肝でもある。

カスタマーエクスペリエンス・ジャーニーと訴求ツール(例)

オムニチャネル化の必要性

カスタマーエクスペリエンス・ジャーニーを創出するためには、チャネルを融合(オムニチャネル化)するべきである。なぜならば、消費者(一人の顧客)を中心に接点を考えることが重要であり、各チャネルが相互に繋がり、有機的に働くことになるからである。

これらは、既に当たり前のチャネル戦略でもある。例えば、専門性の高い某GMSでは、一人の顧客を覆うように、店舗と店舗を通販部門が連動する(店舗横断となる)ことで、ネット通販の成長を促した。つまり、通販部門が融合チャネルとなった。

オムニチャネル化に使えるツール

ツールとしては、例えば、既にスマホ・アプリに搭載されたビーコン技術により、店舗に近づくと反応して呼び込み、集客から商品購入の動機を作り、店内での回遊率や回転率を上げたり、リピート(再来店)を促進したり、ECへの購入に誘導することも可能である。

また、LINEやFacebookなどのSNSでのクーポンや情報提供から、自社サイトに呼び込み、サービスを提供し、次の購買に近づけていくこともデジタルマーケティングの一つとなる。

今後は、上記のようなSNSだけでなく、現在流行のPokemonGOなどのゲーム要素を持ち合わせたVR/ARを活用し、位置情報や人間関係性から、自社の購買に呼び込むような流れも数多く登場してくるのではないかと考えられる。

デジタルマーケティングにおけるビッグデータ活用

デジタルマーケティングにおけるビッグデータ活用

IDで捉えた顧客層(会員)に対して、取引の結果をデジタルに分析システムで検証するということは、昨今の言葉で表すと、会員のビッグデータ分析・活用ということになる。

ビッグデータの活用は、昔から言われてきたデータベースマーケティングの延長、進化形の一つであり、技術革新によって大量のデータを迅速に行えるようになってきたが、最終的に戦略・施策に活用される。

ビッグデータ活用のステップ

ビッグデータのうち、特に顧客情報の活用で変化を捉え、戦略・施策の立案から選択、実施を効果的・効率的にも行える事例は多い。例えば、主活動として、顧客のフロントに立ったコミュニケーションから、バックエンドの活動、さらにその支援の活動まで、数多くの事例がある。

顧客情報のビッグデータ活用(例)

デジタルマーケティングの取組み度合いを計るチェックリスト

デジタルマーケティングの取組み度合いを計るチェックリスト

簡単にデジタルマーケティングを俯瞰してきたが、最後に自社の取組みの度合いを確認する項目を挙げておこう。下記のような3つの項目を見て、自社のデジタルマーケティング度を計ることで、自社の「攻め」の取組みが明確となる。

①ターゲットとなる顧客層をデジタルに(IDで)識別

顧客(会員)をIDで識別して、優良顧客/一般顧客、成長顧客/脱落顧客などを選別しているか?

②貴重な体験をデジタルにWebサービス(またはアプリ)で提供

アプローチできる顧客(会員)に、どのようなサービス(例:優遇策)・コンテンツを提供しているか?

③デジタルに(ビッグデータ活用で)分析・検証

検証したデータをもとに、次のターゲット顧客(会員)を選別し、新たな施策を展開しているか?

あくでもこれらを行い、収益をあげていくことが目的となるが、デジタルマーケティングの取組みが出来ているか否かの確認を行えれば良い。

デジタルマーケティングのリスク

デジタルマーケティングのリスク

個人情報の漏洩、プライバシー侵害

リスクとして留意すべき事項を簡単に説明しておく。デジタルな顧客データを活用することからも分かるように、個人情報の漏洩、プライバシー侵害などが挙げられる。

個人漏洩に関しては、予防策や起こった時の対策も考えておき、事態収拾のために起こった時から収束までのある程度の全体を見据え、「先手を打つ」ことも重要である。

これが出来てない事業者が多いため、発生後の混乱に繋がっている。また、漠然とした混乱のイメージしかなく、実行時に過度に怖がり、デジタルマーケティングのスタート地点にも立てていない事業者も多い。

主な予防策と事後対策

主な予防策として、個人情報を取得・利用する際に、利用規約の説明、匿名化、従業員の認識の徹底などを行っておく必要がある。

また、漏洩時の主な対策として、状況の告知(謝罪)、今後の対策の告知、更なる拡散の防止措置なども可能な限り事前に考えておく必要がある。

なお、漏洩が起こった場合には、画一的ではないが、訴訟を起こされ賠償額支払を命じられないよう、訴訟の未然防止のためのお詫び(一種の補償)として、千円相当の商品券を送付している場合もある。(コストは、金券費用に加え、発送対応業務などを含めると数倍になる。)

以上のような自社の「守り」の取組みも事前に明確にしておく必要がある。

▼筆者:安岡寛道氏の関連著書
「ポイント・会員制サービス」入門 – 会員組織の構築と改善、成功のポイントと未来戦略

角川インターネット講座9 ヒューマン・コマース グローバル化するビジネスと消費者

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