スマート農業とは?IoT×農業が変えるアグリビジネスの未来


スマート農業が日本の農業を救うかもしれない。通信機器と小型センサーで最適な時期を見極め自動で収穫をする収穫ロボットや、様々な地形で活躍する農業用ドローン、農地を自動で走る自動運転農機、温室を一定の環境に保つ環境制御技術など、スマート農業は農業の生産性に革命をもたらす技術となりえるのか。本稿は、その概要と課題に迫る。

  1. スマート農業とは
  2. 日本農業の救世主として期待されるスマート農業
  3. スマート農業技術の例 ①農業ロボット
  4. スマート農業技術の例 ②農業用ドローン
  5. スマート農業技術の例 ③自動運転農機
  6. スマート農業技術の例 ④環境制御技術
  7. スマート農業の普及における課題
目次

スマート農業とは

スマート農業とは

スマート農業とは、農林水産省の「『スマート農業の実現に向けた研究会』検討結果の中間取りまとめ」(平成 26 年3月公表。以下、「中間取りまとめ」という。)の定義によれば、「ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業」である。近年、スマート農業は、農業関係者だけでなく他産業関係者や消費者の注目を集めている。この背景には、我が国の農業をめぐる状況と、技術進歩の状況を挙げることができる。

– 参議院
スマート農業の推進

農林水産省によるスマート農業の定義

  1. 超省力・大規模生産を実現

    トラクター等の農業機械の自動走行の実現により、規模限界を打破

  2. 作物の能力を最大限に発揮

    センシング技術や過去のデータを活用したきめ細やかな栽培(精密農業)により、従来にない多収・高品質生産を実現

  3. きつい作業、危険な作業から解放

    収穫物の積み下ろし等重労働をアシストスーツにより軽労化、負担の大きな畦畔等の除草作業を自動化

  4. 誰もが取り組みやすい農業を実現

    農機の運転アシスト装置、栽培ノウハウのデータ化等により、経験の少ない労働力でも対処可能な環境を実現

  5. 消費者・実需者に安心と信頼を提供

    生産情報のクラウドシステムによる提供等により、産地と消費者・実需者を直結

▼筆者:三輪泰史氏の関連著書
次世代農業ビジネス経営 成功のための“付加価値戦略”
植物工場経営 – 明暗をわける戦略とビジネスモデル

日本農業の救世主として期待されるスマート農業

日本農業の救世主として期待されるスマート農業

スマート農業への期待

成長産業の一つとして位置付けられている日本の農業だが、長期的トレンドから見ると厳しい状況に置かれている。離農者と耕作放棄地が急増する中、農業産出額は10兆円から8兆円台にまで減少している。産業、職業としての魅力が欠如しており、結果としてヒト・モノ・カネが農業に集まらないのである。

そこで近年、農業のビジネス化の切り札として、ICT/IoTを活用した「スマート農業」が期待を集めている。ICTやロボット技術を活用することで農業従事者の減少による労働力不足を補うとともに、さらには農作業の効率化・省力化・高品質化を実現しようと試みられている。

技術革新がスマート農業を支える

技術革新によってスマートフォンやタブレットPCなどの高性能なモバイル端末が急速に普及した。

加えて、通信機器やセンサーの小型化・低価格化が進んだことで、各機器と端末をネットワーク化するIoT(Internet of Things)が実用化された。様々な機器にセンサーと通信機器を備えることで、統合的で高度な管理ができるようになっている。

このような通信技術の革新を農業に取り込んだものが、スマート農業である。

農業の効率と生産性に革命をもたらす新たな農業モデル

アベノミクスの一環として農業が成長産業に位置づけられ、その一環として各省庁からスマート農業、先進農業に関する政策が打ち出されている。

農林水産省は、2013 年 11 月に「スマート農業の実現に向けた研究会」を立ち上げ、スマート農業のロードマップ作りを進めてきた。農林水産省や内閣府が主体となって実証事業が全国各地で精力的に進められており、一部技術については商品化の目途がついている。

スマート農業は単なる労働力の代替ではない。長らく、農業従事者の減少は課題として捉えられてきたが、見方を変えれば農業従事者一人当たりの利用可能なリソース(特に農地)が大幅に増加することを意味している。

より広大な農地を適切に管理可能なスマート農業を活用すれば、集積性の高い新たな農業モデルを作り上げることが可能なのである。

農業ICTの長期トレンド

スマート農業技術の例 ①農業ロボット

スマート農業技術の例 ①農業ロボット

農作業の自動化を実現する農業ロボットの実用化が進んでいる。多くの企業や研究機関が精力的に開発を進めており、一部は既に商品化に至っている。

代表例が収穫ロボットである。収穫ロボットにはロボットアームが設けられ、先端に画像センサーや距離センサーなどの各種センサーが取り付けられており、センサー情報を活用して熟度を判別し、収穫適期のものを選別して摘果する機能を備えている。

このように作業の効率化に加え、味のバラツキを押さえて一定品質を確保することで付加価値向上に資する。

2016年3月に農水省が「ロボット農機の安全性確保ガイドライン」を策定・公表したことを受け、今後さらに研究開発・商品化が加速するだろう。

スマート農業技術の例 ②農業用ドローン

スマート農業技術の例 ②農業用ドローン

様々な分野での利用が進むドローンを、農業分野でも圃場情報の収集や種子散布などで活用する動きが進んでいる。ヘリコプターと比べて小回りが利き、操縦性、安全性に秀でており、今後の普及が期待されている。

ただし、ドローンの耐荷重は数kgから数十kg度のものが多く、農業者が期待している農薬や肥料などの重量物の散布といった農作業には必ずしも適さない。始めに、凹凸の大きな農地や高低差が大きい果樹園などでの情報収集や軽量物の散布から導入が進むだろう。

スマート農業技術の例 ③自動運転農機

スマート農業技術の例 ③自動運転農機

トラクターやコンバインなどの農機の自動走行の実用化が進んでいる。既にGPSによる運転支援が商品化され、有人機と無人機の協調運転(農業従事者が運転するトラクターに無人機が協調して半自動運転するシステム)も実用化が進んでいる。

一方で農機の完全自動運転については発展途上である。技術面は実用化レベルに近づいているが、技術以外のハードルにより普及が阻害されている。

例えば、農場内で自動運転した際の事故の責任の所在についてルールが明確化されなければ、現場への導入は難しい。また、法規制により近隣の区画の農地へ移動する際に公道を自動運転する際には自動車と同様の厳しい規制が適用される可能性もある。

政府は 2020 年までに自動走行トラクターを実用化する方針を打ち出しているが、円滑な普及のためには関連する法規制の緩和が不可欠である。

スマート農業技術の例 ④環境制御技術

スマート農業技術の例 ④環境制御技術

施設園芸ではIoTによって栽培設備を自動制御し、温室内の環境を最適化する環境制御システムが実用化されている。複数の機器を一つの制御盤やパソコンで複合管理することが可能であり、さらに、最近では相互に影響する設備を統合的に制御するシステムが注目されている。

近年の急激な低コスト化により、栽培施設内に多数のセンサーを配置し、無線LANなどで栽培設備とともにネットワーク化することができるようになった。また、スマートフォンやタブレットPCのような可搬型情報端末が一般的に普及したことにより、栽培施設内のセンサー情報の閲覧や設備・機器の遠隔操作が容易に可能となった。

環境制御技術の代表例が植物工場は全国的に急速に普及が進んでおり、一般消費者からの認知度も高まっている。

スマート農業の普及における課題

スマート農業の普及における課題

導入コストの低下

期待高まるスマート農業だが、迅速な普及のためには、それが「儲かる農業」に貢献する必要がある。

一般的なトラクターなどの農機は数百万円から1000万円超であり、それに自動運転機能を付与すると、手の届かない価格になってしまうことが危惧される。省力化のために自動運転農機や農業ロボットを導入する際には、初期投資及び運転経費が、導入により低減される人件費よりも低いことが最低条件となる。

OSやミドルウェアの標準化

また、農業ロボットの開発においては標準化が欠かせない。OSやミドルウェアを標準化すれば開発コストを削減でき、また汎用部品の活用により生産コストを削減できるが、現状の研究開発では企業・機関が単独で進めている事例が多く、効率的な標準化が進まないことが課題として挙げられる。

システムや汎用部品の標準化及び自動運転・無人作業などに関する規制緩和の2点が、スマート農業が今後急速に拡大するか否かの鍵を握っているといえる。

▼筆者:三輪泰史氏の関連著書
次世代農業ビジネス経営 成功のための“付加価値戦略”
植物工場経営 – 明暗をわける戦略とビジネスモデル

三輪 泰史 氏
寄稿
株式会社日本総合研究所
シニアスペシャリスト
三輪 泰史 氏
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