「お得・便利・悩み解決」の3要素を押さえ ニッチなニーズを掘り起こす


サブスクリプション(以降、サブスク)とは、もともと雑誌や新聞の定期購読を指す言葉だったが、最近はモノやサービス、ソフトウェアやデジタルコンテンツなどを毎月一定額や従量で支払う契約全般を、サブスクリプションサービス/サブスクリプションビジネス(以降、サブスクビジネス)と呼ぶようになった。多様な業種が注目するサブスクビジネスのポイントや今後の展望について関係者に聞いた。

  1. 顧客データを持つIT企業と親和性高い
  2. 想定と現実のユーザーギャップはアンケートや取材で軌道修正
目次

顧客データを持つIT企業と親和性高い

従来から月額契約サービスを展開していたスポーツクラブがサブスクと名乗り始めるなど、国内のサブスクの定義は現在非常にあいまいだ。一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会事務局長サブスクエバンジェリストの杉山拓也氏は、「サブスクは、消費者のニーズに対して提供される形態の一つで、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が唱える『ジョブ理論』を考え方のベースとする。

例えば庭の芝生が伸びた時、消費者の選択肢は、①芝刈り機を買う(購入)、②芝刈り機を借りる(レンタル・サブスク)、③芝を刈ってもらう(サービス・委託・サブスク)の3択だ。②③はサブスクになり得る」と話す。

一括契約の場合は高額なモノやサービスも、サブスク形態、つまり毎月の継続契約にすることで、消費者の手が届く範囲の価格設定ができる。

例えば、トヨタ自動車が2019年2月に公表した「KINTO(キント)」は、クラウンやレクサスが月額料金で乗れるサービスだ。レクサスなどの高級車はある程度の収入がないと購入は難しいが、月額であれば乗れる人が増える。

このように、サブスクはブランド力はあるが高額な商品の利用の敷居を下げる効果が期待できる。サブスク型と従来の売り切り型のサービスの違いは主に3つある(図表1)。

1つ目は価格設計。売り切り型は原価と販売管理費を土台にブランド価値を付加して価格設計するのに対し、サブスク型はユーザーが継続利用してくれる定額のラインを見極める必要がある。

2つ目は競合優位性。売り切り型は品質と価格で差別化するが、サブスク型はサービスに対して満足感や納得感がなければすぐに解約されてしまう。

3つ目は事業の成長。売り切り型は「販売数×単価」で測れるが、サブスク型はユーザーの継続が前提で、どんなに単価が高くても継続率が低いと事業として成立しない。

金融業界においては、積立型の投資信託など毎月定額を投資するという概念は古くからあるが、サービスに対価を支払うのではなくあくまでも自分のお金を運用するため、サブスクと定義するかは今後の市場の受け入れ方次第だろう。最近注目を集めている金融関連サブスクサービスと言えば、定額型のクラウドファンディングなどが挙げられる。また、サブスクに近いサービスに、機械や設備を購入せずに借りて利用する「リース取引」がある。

両者の違いは、リース取引は原則解約できないのに対し、サブスクは基本的に自由解約という点だ。どんなサブスクサービスでも、継続させるための施策の根拠となるデータが必要となり、さらにデータを活用したタイムリーなアクションが不可欠だ。

「実際、いまサブスク市場に参入しているほとんどはIT企業だ。サブスクビジネスには、顧客層および顧客行動の分析が欠かせない。消費者行動や資産情報といったデータを持つFinTech企業との親和性は高いと言える。

FinTechが金融業界に参入し市場を再構築していった時と同じように、サブスク市場でも技術やマーケティングに長けたIT企業が各分野に参入し、市場に影響を与えつつある」(杉山氏)。企業がサブスクを手掛けるメリットは、安定した継続収益が確保できる点だ。

解約率や新規獲得率はだいたい一定のため、一定数を把握できれば今後の収益が読めて投資がしやすくなる。また、顧客との継続的な接点を持てるという利点もある。

一方で、サービスが黒字化するまでにかなりの時間を要するという点は留意したい。サブスクは、ユーザー数が増えれば増えただけ仕入れが増えるが、収益はじわじわとしか増えない特性がある。損益分岐点を超えればひたすら利益が出続けるモデルだが、サブスク事業を成功させるには最初の数年間を耐え切る体力が求められる。

杉山氏は、「スタートアップ企業は資金調達が前提になるが、サブスクサービスの収益化までの期間などに対する金融機関の理解は進んでおらず、説明が難しいという話をよく聞く。赤字対策として、サービス開始当初はリース契約でサービスやモノを仕入れ、サブスクで得た収益でリースを相殺しながら赤字を軽減したり、遊休資産・遊休在庫を活用したりするなど、各社様々な工夫を施しているようだ」と説明する。

想定と現実のユーザーギャップはアンケートや取材で軌道修正

サブスクビジネス成功の秘訣として、同振興会では「ONB(おんぶ)」を掲げている。ONBとは、「お得であること」「悩み解決につながること」「便利であること」だ。この3要素が揃っていないとサービスとして成り立たないという。「中でも『N=悩み解決』は重要だ。

例えば、ランチやディナーの食べ放題サービスを提供するRYM&Co.社の月額制弁当テイクアウト『ポットラック』では、利用者は事前に予約し店では弁当を受け取るだけなので、混雑時に並ばず済むといった時間の効率化も図れる。このように、サービスの裏側で不便を解消できる仕掛けを備えるタイプが伸びている」(杉山氏)。他方、ターゲットユーザーの設定も成功を左右する要素となる傾向が強いという。ビジネススーツのサブスクとして注目を集めたAOKIの定額レンタルサービス「suitbox」は、開始半年で撤退した。

クラウドファンディングで目標額を達成してサービスをスタートするなど滑り出しは好調に見えたが、集まった利用者はAOKIが想定した若年層ではなく40代が中心で、既存店舗の顧客層とシェアを奪い合う形となったのが撤退の最大要因と推測される。

一方で、レナウンのスーツのサブスク「着ルダケ」は順調に拡大中だ。利用者はAOKI同様40代以上が多いが、同社はあらかじめこの年代をターゲットとしていた。AOKIとの大きな違いはスーツの価格帯だろう。レナウンのスーツは高価格で、既存顧客は高所得ビジネスマンが中心だった。

しかしサブスク形態なら、購入は難しくても定額なら良いスーツを着たいという新規顧客を取り込める。「どの企業も、想定ユーザーと実際のユーザーには多少のギャップが生じる。軌道修正を行うことで収益化した事例もある。サブスク事業がなかなか軌道に乗らない際は、アンケート調査やインタビュー取材を実施し、ユーザーニーズを探るのも大切だ」(杉山氏)。

杉山氏は、「当振興会は、どんなサービス・モノでもサブスク化が可能だと考えている。IoT技術によりモノとサービスは今後融合していくだろう」と述べる。2019年4月、三井不動産が世界初の本格的なMaaS(MobilityasaService)のプラットフォーム「Whim(ウィム)」を展開するMaaSGlobal社に出資した。MaaSはあらゆる交通手段を統合し、シームレスな移動体験をもたらす新概念だ。

「MaaSに不動産大手が投資したということから、街全体の出来事を定額化できる可能性が高まっている。衣・食・住すべてが定額になれば、固定収入に対して固定支出という概念が出てくるはずだ。この段階で、金融との兼ね合いが重要になってくる。流動化する支出を固定化し、残りの部分をどう運用するのかは、まさに金融業界に求められるサービスだろう」(杉山氏)

杉山 拓也 氏
寄稿
一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会
事務局長
サブスクエバンジェリスト
杉山 拓也 氏
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