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ビジネスチャンスとしてのIR(統合型リゾート)

2020年1月、カジノを含む日本版統合型リゾート(日本版IR)の事業者を規制・監督する「カジノ管理委員会」が発足した。国が認定するのは全国で最大3カ所。日本におけるIR実施に向けた道のりは、「3枠」を巡る自治体の選定作業に移る。参入を目指す事業者およびIR誘致に取り組む自治体の現状と見通しを有識者に聞いた。

ビジネスチャンスとしてのIR(統合型リゾート)
  1. インバウンドを加速させる“コト消費”の器
  2. IR事業者は大型の資金調達へ地域金融機関に参入のチャンス
  3. 税収増・雇用創出のメリット課題は地元の合意形成か

インバウンドを加速させる“コト消費”の器

インフラ整備による投資の加速やインバウンドの増加、雇用推進など、IRの実現による日本経済へのメリットは計り知れない。東洋大学 国際観光学部 国際観光学科 教授の佐々木一彰氏は、「ここ数年、訪日外国人旅行者は増加傾向にあるものの、客単価は伸び悩みを見せている。日本版IRが実現すれば客単価を底上げする“コト消費”の器となり、日本経済の成長に大きく貢献するだろう。また、既にスタートしている各国のIRビジネスとは異なり、最後発の日本は、これから最先端の技術を盛り込んだIRの在り方を模索できる。これが成功すれば、日本版IRのビジネスモデル自体を海外に輸出し、国際競争力を高めることができるのではないか」と語る。

他方、日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は、「IRが実現すれば、日本の観光ビジネスに欠けていたピースが埋まることになる。例えば、日本最大級の収容人数を誇る東京ビックサイトや東京国際フォーラム、品川プリンスホテルでも、海外と比較すると施設の規模は小さく、国際会議やサミットの会場として日本は選ばれにくい実状があった。IRをきっかけに、これまで不足していた大型の展示場や会議場、ホテルなどが完成すれば、日本の観光戦略上の大きな武器になる。また、諸外国に比べて市場規模の小さかった、居酒屋やナイトクラブなどをはじめとしたナイトエコノミー(日没から翌朝までの時間帯に行われる経済活動)が充実するだろう」と強調する。

IR事業者は大型の資金調達へ地域金融機関に参入のチャンス

具体的にどのような企業がIRビジネスに関係してくるか。2018年7月成立の「特定複合観光施設区域整備法」(IR整備法)の「特定複合観光施設(IR)区域制度」の規定によると、IR施設の定義は、カジノ施設に加え①国際会議場施設、②展示施設等、③我が国の伝統、文化、芸術等を生かした公演等による観光の魅力増進施設、④送客機能施設、⑤宿泊施設から構成される⼀群の施設などで構成され、これらが一体の施設として民間事業者により設置・運営されるものとされている。

①や②として想定されている施設には、「MICE(マイス)」にする関連する施設などが挙げられる。MICEとは、「Meeting(会議・研修・セミナー)」「Incentive tour(報奨・招待旅行)」「Convention またはConference(大会・学会・国際会議)」「Exhibition(展示会)」の頭文字をとった造語であり、企業などが開催するビジネスイベントなどの総称だ。企業の研修やセミナーのほか、国際的な映画祭やスポーツイベントなどに活用される複合施設がこれに該当する。佐々木氏は、「MICE施設には企業活動や研究・学会活動などを目的とした人々が世界中から集まる。ほとんどの場合、旅行者の滞在費は企業や教育機関が負担するため、MICE分野における旅行者は通常の観光客の2倍程度の消費が期待できる」と語る。

③として想定されているのが、劇場や演芸場、音楽堂、競技場、映画館、博物館、美術館などのエンターテインメント施設をはじめ、レストランなどの飲食店が挙げられる。佐々木氏は、「日本の魅力を発信し世界から観光客を集める役割が求められている魅力増進施設には、映画やアニメ、ゲームなどのコンテンツ業界の参入も考えられる」と話す。

また、日本型IRでは、観光客を施設に囲い込むのではなく、日本各地に送りだすゲートウェイとしての役割が求められている。そのため、④では、主要都市のみらならず日本各地の魅了を発信するためのショーケース機能に加え、利用者の関心に応じた旅行計画の提案や交通・宿泊の手配をするコンシェルジュ機能を備える必要がある。送客施設の分野では、旅行代理店やチケット販売店、鉄道会社などが関係してくる。

最後の⑤では、国内外のホテルの参入活発化が予想されている。さらに、①~⑤に直接関わる業種だけでなく、IR施設の建設に関わる建築業者をはじめ、施設内の設備を供給する電気メーカーやIT(情報通信)企業など、IRビジネスに関係する業種は多岐にわたる(図表1)

IRビジネスの恩恵は金融機関にまでおよぶ。石川氏は、「IR関連投資は、1案件でおよそ5000億~1兆円の規模になると言われている。当然、IR事業者は、金融機関から大型の資金調達を検討するだろう。そうなれば、各金融機関がシンジケート団を構成し対応することになるが、その際、地域金融機関も積極的にシンジケート団に参加することで自社の競争力アップにつなげることができるのではないか」と提案する。

日本のIRビジネスに着目しているのは国内の事業者だけではない。現在、2020年春の事業者決定に向け選考を本格化させる大阪府・市のIR誘致には、既にラスベガスのベラージオを運営する米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同チームやシンガポールのリゾート・ワールド・セントーサを運営するゲンティン・シンガポールなど、複数の海外IR事業者が名乗りを上げている。

海外のIR事業者が日本のIRビジネスに参入する狙いとは何か。佐々木氏は、「海外売上比率を高めたいと考える各国のIR事業者にとって、未開拓かつインバウンドが伸びている先進国・日本は非常に魅力的に映る。特に、日本に比べて強い株主圧力を受ける海外企業が、大規模な投資をしてまで日本に参入しようとするのは、それなりのビジネスチャンスを見込んでのことと考える」と話す。

ただし、IRビジネスへの参入を検討する事業者には乗り越えなければならない壁がある。「まずは、自治体側にIR事業者として選ばれる必要がある。IR事業者だけが儲かるようなビジネスモデルではなく、地域の魅力が高まり、地元経済に恩恵のある運営の在り方を提示できるかがポイントだ。同時に、カジノ管理委員会の厳格な背面調査をクリアする必要がある」(石川氏)。

税収増・雇用創出のメリット課題は地元の合意形成か

IR整備法の「特定複合観光施設(IR)区域制度」の規定によれば、IRを誘致できるのは、47都道府県と20の政令指定都市に限られており、一般市町村は誘致主体にはなれないとされている。また、国土交通大臣が認定するIRの数は3つとされており、現在この限られた枠を巡り各自治体の誘致競争は激化している。

IR誘致は自治体にとってどのようなメリットがあるのか。佐々木氏は、「IR整備法では、カジノ事業者に対してカジノ収益の30%の納付金を課しており、そのうち15%は国庫納付金として国に納められる一方、残りは自治体に納められるため自治体の税収アップにつながる」と語る。石川氏は「IR施設の建設・運営などは地元に新たな雇用を生み出す上に、無人化・機械化が進む工場の誘致などに比べIRに関連するサービス業のほうが雇用創出力が大きい。また、IR施設には外国人や富裕層向けのサービスを提供するテナントが入居することが予想されるため、労働者の賃金は比較的高い水準になる可能性がある」と話す。

自治体にとってメリットのあるIR誘致だが、誘致申請までの道のりは険しい。そもそも、IR誘致申請の前提条件として、各自治体は都道府県または政令指定都市の首長の同意や議会議決、市町村の首長の同意を得る必要がある。仮に自治体側が誘致を表明したとしても、近隣住民や関連企業などの理解を得ることができなければ、IR誘致の申請をすることはできないのだ。

佐々木氏は、「『ギャンブル依存症の人が増える』や『治安が悪化する』など、反対意見の多くは、『カジノ=怖い』といったイメージから来ている。こうした意見のほとんどは、IRに対する理解不足が原因だ。各自治体は、地元住民の理解を得るためには、IRに対する正しい情報発信に努める必要がある。例えば、厳しい審査を通過した透明性の高い企業だけがIRの運営を許される点や、過度な利用に対する歯止めの効いたルールが設けられている点などを強調しつつ、地元住民が懸念するギャンブル依存症や犯罪率などに関して、海外の事例を交えながら具体的な数字データを示すことが効果的ではないか」と話す。

とはいえ、地元の合意を得られたとしても、それでIR誘致の成功が約束されているわけではない。石川氏は、「魅力的なテナントを集めた複合施設を地元に作るだけなら、単なる箱物行政となってしまう。各自治体が地元の魅力と結び付けた独自性のあるIRのコンセプトを打ち出せるかが重要になる。また、シンガポールでは、マリーナベイ・サンズがMICE中心のIRとして役割を担う一方、セントーサはリゾートとしてのコンセプトを全面に打ち出しており、2つのIRをはしごする観光客も多い。同様に日本でも、各地域のIRが役割分担をして連携することができれば、国内のIRをめぐる観光ツアーなどを訪日外国人旅行者に向けて提案することもできる」と強調する。

他方、佐々木氏は、「IR誘致成功のカギを握るのは、事前対策としての情報収集・分析だ。世界のIR研究は非常に進んでいるため、海外の論文などを踏まえ、地元のIRビジネスの在り方を検討していただきたい」と話す。

2020年1月30日現在、IR誘致を表明している自治体は、大阪府・市、和歌山県、長崎県、横浜市の4つ(図表2)。既にIR誘致を表明している各自治体について石川氏は、「2025年に控える万博とセットでIR誘致を進めている大阪府・市は、地元の理解を獲得するために着々と準備を進めてきており、現在のモメンタムを維持できるかがポイントになる。和歌山県は、関西国際空港からのアクセスの良さや、温泉やパンダの名所など、独自の観光資源の魅力を打ち出しつつ、いかに隣接する大阪と差別化するのか注目したい。また、長崎県は、福岡空港・長崎空港が近い上に、ハウステンボスなど観光ビジネスの成功事例を持つ。豊富な経験を生かし九州第一弾のIRとなれるか注目だ。横浜市は、立地・観光資源・財政面の点で申し分ないが、地域住民の反対運動も目立つ。自治体がいかに反対派を説得していくのかがポイントになるだろう」と話す。

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【 インタビュー 】
東洋大学
国際観光学部
国際観光学科
教授

佐々木 一彰 氏

【 インタビュー 】
日本総合研究所
調査部
マクロ経済研究センター
所長

石川 智久 氏

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