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ポストコロナ社会における東京国際金融都市構想の展望

東京都が2017年11月にとりまとめた「国際金融都市・東京」構想を契機に2019年4月に発足され一般社団法人東京国際金融機構(通称FinCity.Tokyo)。本稿では、法人設立準備段階から参画したFinCity.Tokyoのシニアマネジャーの濱川氏がこれまでの取り組みと今後の展望について解説する。

ポストコロナ社会における東京国際金融都市構想の展望
  1. 金融都市構想実現に向けた躍進
  2. 世界の中での日本の金融都市としての役割
  3. 資産運用業に係るインベストメントチェーン強化に向けて

金融都市構想実現に向けた躍進

2019年4月、一般社団法人東京国際金融機構(通称FinCity.Tokyo フィンシティ・トーキョー)は、東京都が2017年11月にとりまとめた「国際金融都市・東京」構想を契機に、国内初の官民連携の金融プロモーション組織として発足した。設立来、金融都市としての地位を東京が確立し、家計金融資産の有効活用と持続的な経済成長を実現することをミッションに、機関投資家、資産運用会社、フィンテック企業など金融事業者を主対象に、東京の金融市場に関する情報を伝達し事業進出を働きかけている。また、国内外の金融事業者の「声」を収集し、構想を推進する上での課題を抽出し、政策当局や業界団体等と対話を行い金融都市としての環境整備を推進している。国際金融都市構想に対する関心や当法人の活動に対する理解は確実に高まっており、会員数も当初は東京都、大手金融機関、業界団体など30社からスタートしたところから、現在はベンチャー企業なども含めて45社まで増え組織も拡大している。

これまでの活動を振り返ると、この一年は特に実りが多かった。海外からの金融系企業誘致も視野に、資産運用会社など金融ベンチャーの事業育成に向けた税制改正、資産運用会社の新規参入プロセスの簡素化・迅速化、独立系資産運用会社への金融支援・信用補完、高度金融人材やその家族・使用人の在留資格要件の緩和等が一挙に実現に向けて動き始めた。他金融都市との比較や利便性向上の観点からは、更なる努力が求められるが、税の領域にも踏み込んだ今回の制度改革は、政策当局も含めた関係者一同の金融都市構想実現に向けた本気度の現れであり、前例のない大きな前進である。

世界の中での日本の金融都市としての役割

一方、足元では、コロナ渦の克服が最大の課題であることは論を俟たない。これはポストコロナを見据えた熾烈な国際競争が既に始まっている中、金融都市としての競争優位性を確保する上で、都市としての独自性が一層問われることを意味する。この点、コロナショックを受けたわが国では、デジタルインフラやサプライチェーンの脆弱性が顕在化し、デジタルトランスフォメーションを加速する機運が金融業でも高まった。また、国際社会全体が低炭素から脱炭素に向かう中、わが国の経済復興も気候変動対策と両輪で進めていくことが確認された。こうして私たちが直面する「デジタル化」と「気候変動対策」の両課題は、表裏一体の関係にあり、2050年の脱炭素社会実現に向けてはグリーンで強靭なデジタルインフラの整備が平行して進められる。

さらに、気候変動対策には巨額の設備投資が求められる。世界的な潮流からも、ESG投資は今や投資市場の約3分の1を占める、気候関連財務情報が重要な投資判断基準となっている為、資金調達を行う企業サイドにおいては、非財務情報も含めた情報開示の充実が以前にも増して重要になっている。こうした市場の動向変化は、元より国内の産業基盤が厚く、環境も含めて技術力に秀でているわが国の企業が内外の資金を集める上では、その潜在的能力が試される大きなチャンスになる。

「デジタル化」と「気候変動対策」という2つの課題達成に要する設備投資需要と内外投資家の投資資金とを結びつけるのが、正にグリーファインナンスも含めたファイナンスである。そしてそれこそがポストコロナ社会における日本の国際金融センターとしての役割になるのではないか。この日本型金融センターのロールモデルは、コロナ後の経済復興を後押しするような「実体経済支援型」とも呼べるもので、香港が果たす中国本土へのGatewayとしての役割や、シンガポールの持つアジアと他地域とを結ぶハブとしての機能とも異なるものだ。それ故、アジア域内の両都市も含め他金融都市との関係という意味においては、競争とは言え各々がより良い社会の実現に向けて切磋琢磨し、機能向上を図っていくことになろう。

資産運用業に係るインベストメントチェーン強化に向けて

幸い日本は1900兆円にも及ぶ家計金融資産を有する。これがうまく気候変動対策の分野で高いリターンを生む投資に振り向けられれば、未だ5割超が現預金に眠る家計の資産運用にも役立つはずだ。従って、資金がうまく循環するメカニズムを作動させ、資産運用に係るインベストメントバリューチェンの機能発揮が国際金融都市を目指す上でのポイントになる。目先にはその為に克服しなければならない課題もある。

まず、資金の循環を促進する上では、リスク性資金を含めた長期の資金の出し手と資金を効率よく運用する資産運用者の存在が必要だ。即ち、総資産約400兆円にものぼる年金資産の投資対象アセットクラスの多角化を推進することや、運用能力は高くても、運用実績を示すトラックレコードが十分でない新興の資産運用者(Emerging Manager)に活躍の余地を広げ、資産運用業の競争力を促進することが今後の課題と考えられる。

例えば公的年金については、米国ではトラックレコードの期間が短く、運用残高が低い新興資産運用者でも年金運用を受託できる「マネージャー・エントリー制度」が普及している。これに対して日本でも、「マネージャー・エントリー制度」は整備されているが、運用実績、運用残高にともに「下限」が設けられ要求水準が高く、新興資産運用者の参入は実質的に不可能である。したがって、日本でも、新興を含めた多様な資産運用者の参入を後押しするような制度設計が望まれる。

企業年金については、足元でも国内年金資産の約3割を占め、かつ、少子高齢化社会で公的年金の給付要件が厳しくなりその重要性が高まる中、依然運用の高度化が十分に図られているとは言い難い状況である。年金基金間の情報格差や専門性ではなくジョブローテーションに基づく運用担当執行理事の選任などの人事制度等、個社ないしは日本の雇用慣行に基づく課題もあるが、企業年金が複数の規制の狭間に立たされ身動きが取れない状態であることは見過ごせない。年金法や金商法等を始めとする複数の法律への準拠に加え、監督官庁や規制当局毎に異なる立場、即ち、安全を優先して「リスク回避のために運用を原則伝統的資産に限るべき」とする立場と、運用執行体制を高度化したうえで「リスク調整後のリターンを最大化すべき」とする立場から発される、ともすれば相反する要件の板挟み状態から抜け出せないでいる。今後企業年金の高度化を図る上では、個々に自助努力を求める一方、年金基金が「プロの機関投資家」としての力を蓄え、実力を発揮できるよう、複雑な規制監督環境を時代のニーズに応じて解きほぐしていくことも課題になる。

新興資産運用者の市場参入促進と投資家への情報発発信に向けては、FinCity.Tokyoは第4回Tokyo Asset Management Forumを開催し、国内の年金基金を始めとする投資家に対して新鋭多彩な資産運用者が自己の投資哲学や運用方針を紹介する機会を設けている。今年は、オンライン開催ということが功を奏した面もあるが、去年までの約3倍に相当する400名以上が参加した。本プログラムの開催趣旨に対する関心は高まっており、また、業界内での危機意識も醸成されつつあると言えるのではないか。

今年春で当法人も設立して3年目を迎える。我が国の経済発展を推進するためには、東京都、政策当局、業界団体、会員に加え、海外金融都市との連携を図りつつ、前例や既成概念に捕らわれずに一つ一つ課題に対処していく所存である。

寄稿
FinCity.Tokyo
シニアマネジャー
濱川 明香 氏
航空、海運事業に従事した後、2016年に平和不動産に入社。
平和不動産本社の所在する兜町・茅場町地域における再開発事業、
黎明期の一般社団法人国際資産運用センター推進機構(JIAM)の
副事務長を経て、FinCity.Tokyoの法人設立準備段階から参画し現職。
早稲田大学法学部卒、一橋大学大学院法学研究科経済関係法専攻修士
課程修了。
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【 寄稿 】
FinCity.Tokyo
シニアマネジャー

濱川 明香 氏

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