サプライチェーンファイナンス再考

サプライチェーンファイナンス再考

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若干旧聞に属することではあるが、サプライチェーンファイナンス(SCF)を、証券化して販売していたグリーンシルが破綻した。グリーンシルに関しては、一部事業者との不透明な関係やリスクの高い取引に傾注していた可能性などが報道されており、今回の破綻がSCF自体に与える影響は限定的と思われる一方、低金利環境下SCFが投資商品として注目されていたことが確認された。ここでは、SCFの証券化に関する課題や、中長期的に目配りが必要となるサプライチェーン自体の今後の問題点について考えたい。

  1. サプライチェーンファイナンス(SCF)とは
  2. サプライチェーンファイナンスの証券化
  3. サプライチェーンの今後
  4. おわりに

サプライチェーンファイナンス(SCF)とは

SCFは、企業の売掛債権を購入することで売り手企業の早期資金化をサポートする仕組みであり、物流や商品の授受を伴う複雑なリスクが存在する一方、買い手企業の信用力が加味されることや、商品の換金による回収の可能性などが期待されるものである。また、実際のビジネスの構成要素となることで、相対的に高い利ざやが期待されることが多い。手形割引や外為取引における信用状の買い取りがSCFの原型と考えられる。

SCFは本来であれば銀行が行う業務だ。主要な銀行は上述の通り手形割引や信用状の買い取りにより企業に運転資金を供給しているが、バーゼルⅢの影響や、企業のグローバル化によるサプライチェーンの拡大と資金需要の増加に対応しきれない状況だ。このギャップを埋めるため、足元はSCFを原資産とする証券化商品が組成され、機関投資家による投資が加速している。

機関投資家がSCFに参入する事情としては、低金利環境下、機関投資家が投資機会を模索する中でオルタナティブ投資の一環としてSCFへ取り組んでいることが挙げられる。前述の通り、サプライチェーンが地理的・量的に拡大し資金需要自体が拡大していることも背景であろう。なお、新型コロナウィルスの世界的な流行により物流が滞ったことは、運転資金需要を喚起し、結果としてSCFの拡大を後押ししているようだ。

SCFの収益性について確認したい。ファンド調査会社であるユーリカヘッジの調査によると、2018年にSCFへ投資したヘッジファンドのリターンは平均6.7%に達し、2019年は米中対立の影響を受け収益性が低下したものの、5.34%と十分な水準を確保した。先進国の国債がマイナス金利となる中、高い収益性を示したことが、SCFの証券化と機関投資家の参入拡大を促したことは間違いない。

サプライチェーンファイナンスの証券化

SCFは上述の通り企業間の商取引債権を買い取ることで運転資金を供給するスキームであり、ノウハウがなく為替や預金の機能を有さない機関投資家が、直接投資することは難しい。よって機関投資家は、証券化の仕組みを通じて投資を行うこととなる。具体的には、SPVが銀行の債権を買取り、機関投資家がバックファイナンスをつける。SCFを証券化した場合の課題として、①流動性、②分散・モニタリング、③債権の登記方法、が挙げられる。

①流動性については、資産サイドの債権は期中での売却は困難であり、よって証券化商品の中途換金は難しい。また、通常の証券化商品は返済に応じて随時投資家へ元本返済を行うスキーム(パススルー)が一般的だが、SCFについては商流応じ債権の買い取りが継続的に発生することから、パススルーの適用は難しそうだ。総じて、流動性は高いとは言えない。

また②については、証券化商品の信用力は多数の債務者への分散により大数効果を働かせるか、個別債務者の信用力をモニタリングして合算管理するかの2つの考え方があるが、SCFの場合は上述の通り複雑なスキームと買い手企業の信用補完の要素が入ることとなり、信用力の把握にはノウハウを要する。債権の状況を適宜適切に管理できるような態勢整備が、重要だ。なお③については、有事に債権の所有権が主張できるような手だて、すなわち登記制度が必要となる。各国毎に一定の枠組みは存在するものと思われるが、近年は電子債権やブロックチェーンなど、新たな仕組みも利用可能であり、SCFの複雑性をふまえクロスボーダー取引にも耐えうる登記方法の確立を期待したい。

① から③を通じて、SCFは通常の融資取引とは異なりスキームが複雑であり、機関投資家が実態把握をするためには、透明性をできるだけ確保するとともに、機関投資家をサポートする仕組みが必要となるものと考えられる。

サプライチェーンの今後

中長期的には、SCFの前提となるサプライチェーン自体の課題にも目配りが必要であろう。サプライチェーンの今後の課題として、①地政学リスクへの対応と、②人権等のリスク、③データ保護との関係、を挙げたい。

①について、グローバル化に応じ、企業のサプライチェーンは全世界に拡大してきた。一方足元は、地政学リスクを背景にサプライチェーンの見直し気運が高まっている。特に米中対立は、安全保障上重要な商品の生産に関するサプライチェーンの再考を迫るものだ。具体的な事例としては、半導体や5G技術を巡る動きが注目されよう。今までのグローバル化から一転し、企業は何らかの地域紛争が勃発した場合、もしくは紛争までは至らなくても各種制裁措置が発動し物流がストップした場合など、サプライチェーンが途絶するリスクについてより詳細な検討を迫られている。そのような中で国内回帰も選択肢となっており、結果としてSCFのニーズが減衰する蓋然性も相応に存在する。

また②については、SDGsで掲げられた人権目標の文脈で、サプライチェーンにおいて何らかの人権侵害が起きていないか、企業は常に目を光らせる必要が生じている。具体的には、新疆ウイグル地区での中国の民族弾圧の動きが西欧諸国から指弾された事例が挙げられよう。新疆ウイグル地区はトマトや綿織物の一大産地であり、原材料を輸入している企業は、輸入先を同地区から他の地域に変更するよう、速やかな対応を迫られることとなった。また、オーストラリアなどでは、企業にサプライチェーンにおける適正な行動についての宣誓を促す「現代奴隷法」と呼ばれる法律が制定されたことも注目すべきであろう。サプライチェーンの拡大により隅々まで監視が行き届かなくなる中、企業の行動に対する目線はかつてないほど厳しいものとなっている。

最後の③はデータ、特に個人情報の越境を巡る問題である。GAFAやBATの興隆に代表されるように、インターネットの普及やビックデータなどに係る解析技術の発展により、現代はデータが富を生む時代となった。このような中、欧州や中国中心に、国境を超えるデータ移転を制限する傾向が明確となっている。日本においても、LINE利用者の個人情報が中国の業務委託先企業で閲覧可能となっていたことが、大きな問題となり、データの越境が当然に行なわれる時代となったことを再認識するきっかけとなったのは記憶に新しい。全ての企業のサプライチェーンに個人情報が係る訳ではないが、サービス業、とくにIT産業においては、国境を跨ぐ業務委託などが頻繁に行なわれているようだ。結果としてデータが越境することにより、サプライチェーンを形成するケースも多いものと思われる。①で述べた安全保障の観点も含め、影響を注視すべきであろう。

おわりに

本稿では、SCFおよびサプライチェーン自体について、証券化の動向や今後留意すべきトピックスをご紹介した。これらの動きが、サプライチェーンが従来の安価な労働力を目的としたものから、より「適材適所」へと脱皮する生みの苦しみなのか、それともグローバル化の反転を意味するのか、そしてSCFにどのような影響を与えるのか、現段階では評価は難しいが、引き続き動向に注視したい。

本稿中、意見に係る部分は筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を示すものではない。

寄稿
みずほフィナンシャルグループ
村松 健 氏
1996年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、
株式会社日本興業銀行(現みずほ銀行)入行し、現在に至る。
著書に『銀行実務詳説 証券』、『NISAではじめる
「負けない投資」の教科書』、『中国債券取引の実務』
(全て共著)、論文寄稿多数。日本財務管理学会所属。