地銀統合が進まなかった理由
地方銀行は、明治5年に出された国立銀行条例に基づいて開設されたいわゆるナンバー銀行(第一、第二、第三、第四・・・)を泉源とし、地元の名家や資産家など地場資本を中心に形成された銀行が中心である。戦時下の国家総動員法に伴う統合により、いくつかの例外を除き、1県1行態勢が定着した。その成り立ちから、地域経済との一体性を有し独立色が強く、1県1行態勢が根強く残ることとなった。
一方、第二地方銀行は無尽会社を発祥とし、昭和26年の相互銀行法制定により相互銀行へ、昭和43年の金融機関の合併および転換に関する法律により普通銀行へ転換した。無尽とは、複数の個人や法人等が講などの組織に加盟し、金品を払い込み、抽選等により参加者に金品を還元する仕組みである。結果としてオーナー系が多く、地方銀行とは大きくカルチャーが異なることから、地方銀行との統合が進みづらい構造となった。
しかし現在は、地方経済の衰退やマイナス金利を背景に業務基盤が揺らぐ中、従来はご法度であった越境や業態を超えた統合が拡大している。
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地銀統合の様々な形態
現在の地銀統合は、①同一県内での統合、②近隣県での統合、③遠隔県間の連携、といった地域別の組み合わせの違いで整理できる。
地銀業態の厳しい経営環境が地域経済の衰退に起因するものであるとしたら、①②のように重複する機能の集約等により地域経済に応じた適正規模を追求することは、地域経済の規模に応じたオーバーバンキング是正との観点では正しいアプローチのように思われる。①についてはみちのく銀行と青森銀行の経営統合、②については九州フィナンシャルグループ(肥後銀行、鹿児島銀行)が代表例として挙げられよう。③については、隔地間ではあるものの、システムや資産運用といった重複業務の統合により、業務の効率化・高度化を図るものであり、①②の折衷案と言える。代表例としては、ほくほくフィナンシャルグループ(北陸銀行、北海道銀行)が挙げられる。
統合には至らずとも、連携強化などにより機能を強化する動きもみられる。システムでの連携を中心とした広域アライアンスである「TSUBASAアライアンス」や、複数の地銀とのJVで証券子会社を設立している東海東京証券の動きなどが注目されよう。
地銀をめぐる新たな動き
そのような中、先般銀行法が改正された。この改正はデジタル技術の発展や少子高齢化を背景に、規制緩和により銀行の収益機会を拡大することを目的としている。具体的には、銀行にシステム販売や人材派遣業を解禁すると共に、地域活性化に資する企業には100%出資が認められることとなった。また金融機能強化法においては、経営統合のおけるシステム統合などの初期費用に補助金を提供する仕組みが導入された。
金融庁はこれらの措置による統合を含む地銀の強化を促すことで、ビジネス・オポチュニティーの創出やリスクマネーの供給を促し、地域活性化へとつなげることを企図している。
またSBIグループは「第四のメガバンク構想」として、島根銀行や清水銀行など複数の地銀と提携し、システムや資金運用のサポートを行い、収支改善のサポートを行っている。現在帰趨が注目されている新生銀行はこの構想の核になる存在と思われ、今後が注目される。
これらの動きは直接間接両面で地銀のビジネスモデルに影響を与え、地銀統合の推進力となるのではないか。
すべては地域経済再生のため
以上をふまえ最後に、地銀統合の意義を確認したい。地銀統合は厳しい経営環境下での地銀の生き残り策との側面は否めないが、より本質的には「地域経済再生」が目的となるべきだ。統合がゴールではなく、地域経済再生に有機的に結びつくことが重要であろう。
地域経済再生のための取り組みのポイントとして、3つ挙げたい。第一はグローバル化だ。地銀は融資顧客の対応や資金運用などにおいて、地域経済のグローバル化を牽引する存在となるべきであろう。第二は顧客の資産形成への取り組みだ。若年層を中心に将来に備えた資産形成ニーズは高まっており、地銀は着実な資産形成の伴走者としての期待が大きい。第三は目利き力の強化だ。地銀は地域経済へのリスクマネーの供給が期待されているが、単なる資金供給者にとどまらず、攻守両面で事業運営への適切なアドバイスを行う目利き力が問われるだろう。
地銀統合により、これらの取り組みを行う体力を捻出する必要がある。外部業者との補完関係構築も課題だ。ここまでやって初めて地銀統合の意義が実現するのではないか。
上記のポイントは地方固有のものではなく、メガバンクも同様の課題を有している。ただし、地方経済がより深刻な状況にあることを踏まえると、地銀への期待は大きい。地銀が今まで地域経済に大きな貢献をしてきたことを否定する者はいないだろう。現在はより踏み込んだ対応が求められている状況ではないか。本質的な意義を見据えた地銀統合の進展に期待したい。
本稿中、意見に係る部分は筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を示すものではない。
- 寄稿
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みずほフィナンシャルグループ
村松 健 氏1996年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、
株式会社日本興業銀行(現みずほ銀行)入行し、現在に至る。
著書に『銀行実務詳説 証券』、『NISAではじめる
「負けない投資」の教科書』、『中国債券取引の実務』
(全て共著)、論文寄稿多数。日本財務管理学会所属。