【連載】新しい資本主義を巡る動向① 四半期開示の行方


岸田政権における、新しい資本主義を巡る議論が注目されている。岸田政権が金融・資本市場の信任を必ずしも得ていないと言われる中、そのスタンスを伺う意味で試金石とされているのが、①金融所得課税の取り扱い、②自社株買いガイドライン、③四半期開示の見直し、の3つの政策の動向だ。本稿では、この中で四半期開示の見直しにつき考えてみたい。

目次

四半期開示不要論の是非

では果たして四半期開示は不要なのだろうか?より具体的に言うと、四半期開示より発行体や投資家の短期志向を助長するといった弊害や、経理・監査・情報処理に関する負担は、四半期開示が証券市場の情報の非対称性の解消との効果を上回っているのだろうか?

この問いに明確な回答を見出すことは困難だ。参考になるのは英独仏の動きであろう。これらの国々は2014~15年に四半期開示を任意制としているものの、大宗の企業で簡略化された形での開示は継続されているようだ。このことから得られる含意は、やなり四半期開示自体は必要があり(なので残っている)、一方、投資家は必ずしも現在のような詳細な開示を求めているわけではない、ということであろう。

なお、学術的な研究においては、四半期開示がショートターミニズムを誘発することを断定することは難しいとのコンセンサスが存在する。また、一部の研究では、四半期開示により企業の透明性が高まり、企業経営者の利己的な行動を抑制する効果が観察されている。つまり、四半期開示には悪い面ばかりではなく、良い面も存在する、ということであろう。 岸田政権のリーダーシップの下、日本における四半期開示のあり方に関する議論が深化することは大変慶ばしいことだ。東京が国際金融センターを目指す上でも、重要な議論と思われる。一方、四半期開示の効果と弊害は、各国ごとの証券市場の成熟度や、求められる内容の量や精度により判断すべき問題であることをふまえ、その是非のみにとらわれない柔軟な議論が行なわれることを期待したい。

<参考文献>藤谷涼佑「四半期開示見直しの議論をめぐって」 証券アナリストジャーナル2022第60巻第3号

本稿中、意見に係る部分は筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を示すものではない。

寄稿
SBI金融経済研究所 https://sbiferi.co.jp/
事務局次長
村松 健 氏
1996年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、株式会社日本興業銀行(現みずほ銀行)入行し、2021年11月より現職。著書に『銀行実務詳説 証券』、『NISAではじめる「負けない投資」の教科書』、『中国債券取引の実務』(全て共著)、論文寄稿多数。日本財務管理学会、日本信用格付学会所属。
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