【連載】新しい資本主義を巡る動向② 金融所得課税の強化の考え方


岸田政権における、新しい資本主義を巡る議論について、金融との観点では、①金融所得課税の取り扱い、②自社株買いガイドライン、③四半期開示の見直し、の3つの政策の動向がポイントであることは前回触れた。その中で、前回触れた四半期開示については、足元金融審議会ワーキンググループにおける議論が終了し、現在2種類存在する決算書類を一本化する方向で概ね決着したようだ。残りの2つはどのようになるのだろうか? 本稿では、この中で「①金融所得課税の取り扱い」について考えてみたい。

目次

「格差」と金融所得課税

金融所得課税強化は、「格差」への処方箋として考えられたものだ。上述の通り「1億円の壁」がもし存在するのならば、金融所得課税強化により金融所得が多いと推測される高所得者層の課税が強化されることは事実であろう。一方、金融所得課税の税率が一律である以上、低所得者層の金融所得に対しても課税強化になることは注意が必要だ。消費税のような明確な逆進性があるわけではないが、格差縮小に向けた再配分機能強化との観点では、金融所得に対しても累進税率が導入されることが望ましいことは言うまでもない。

フランスの経済学者トマ・ピケティは世界的なベストセラーとなった著書『21世紀の資本論』(邦訳はみすず書房)において、資本収益率が経済成長率を上回る状況(r>g)を証明した。このことは、金融所得に一律で低税率を課す二元的所得税が、税の再配分機能を損ねていることを示している。二元的所得税においては高所得者層において金融所得(≒資本収益率)が勤労所得より低い税率となるため、r>gを助長する方向へと作用するからだ。 ピケティが税制による富の再配分を重視し、全ての所得を包括的に課税対象とする包括的所得税に累進税率を課すことを指向している。格差縮小・分配強化のために金融所得課税を強化するということは、単なる税率引き上げに留まらない対応を要するものであることがわかる。

村松 健 氏
寄稿
SBI金融経済研究所
事務局次長
村松 健 氏
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