【連載】保険×DX~社会との共通価値創造(CSV)に向けて~② テレマティクスデータを活用した「CSV×DX」の取り組み


自動車のコネクテッド化やIoT技術の進展により、自動車から様々な走行データ(テレマティクスデータ)が取得できるようになっている。このビッグデータであるテレマティクスデータを活用して、保険を超えた新たな価値をどのように提供することができるのか、あいおいニッセイ同和損保が取り組む、「CSV×DX」と合わせて紹介する。

  1. 「CSV×DX」とは
  2. テレマティクスデータとは
  3. データビジネスプロジェクトの取り組み
  4. 今後の展望
目次

「CSV×DX」とは

昨今、自然災害の多発・激甚化やサイバー攻撃の巧妙化等、未知のリスクへの対応の必要性が増すとともに、カーボンニュートラルをはじめとした社会課題の解決に貢献する企業を評価する価値観が社会に広がっている。
このような環境変化に対して、保険会社の役割も変化が求められている。従来は万一の際の「補償」を提供してきたが、これからは事故・災害による被害を「未然に防ぐ」、事故が発生した場合も「影響を減らし、回復を支援する」という保険本来の機能を超えた新たな価値の提供にも注力し始めている。
そこであいおいニッセイ同和損保が打ち出したのが、「CSV×DX(シーエスブイ バイ ディーエックス)」である。最先端・独自の技術やデジタル・データの活用、特色あるパートナーとの協業により、お客さま・地域・社会が真に求める新たな価値を提供していくことで、国内外のあらゆる事業を通じて、お客さま・地域・社会とともに社会・地域課題の解決にグローバルに取り組むものである。

本連載の第1回で論じた「テレマティクス自動車保険」は、まさにこの「CSV×DX」を体現する商品である。この保険を通じて取得できる走行データが、テレマティクスデータである。

テレマティクスデータとは

テレマティクスデータとは、コネクティッドカーや、車両に設置した通信機能付きデバイス等を通じて取得した、走行距離、急ブレーキ・急加速・急ハンドルといった運転挙動等のデータである。あいおいニッセイ同和損保は、テレマティクス自動車保険のパイオニアとして、2004年よりテレマティクス自動車保険の販売を開始し、2023年9月末時点で地球約365万周分の走行データを蓄積している。

あいおいニッセイ同和損保では、保険業法改正によるデータを活用したビジネスモデルの隆盛を背景として、テレマティクス自動車保険で得られる走行データをはじめとするビッグデータを利活用する「データビジネスプロジェクト」を2021年に立ち上げし、保険引受利益以外での収益確保の道筋を作り始めている。事故の未然防止や、万一の事故が発生した場合の経済的負担の軽減、および保険だけでは対処の難しい社会課題の解決に向け、テレマティクスデータをはじめとする各種データを活用したソリューションの開発に取り組んでいる。

データビジネスプロジェクトの取り組み

データビジネスプロジェクトは、社内外の様々なデータを活用し、保険の枠を超えた新たなデータビジネスの創出・拡大を目指すプロジェクトである。お客さまの行動や企業活動の「デジタルシフト」が急速に進むなか、損害保険会社としても様々なデータを活用し、お客さまに寄り添った新たな価値を創出していくことが重要となっている。
あいおいニッセイ同和損保はテレマティクス自動車保険の提供を通じて、走行データに基づく安全運転のスコアリングや事故発生につながる危険な運転挙動の精微な検出等、先進的なデータビジネスをグローバルに展開しているが、本プロジェクトでは、これらの先行優位性を活かしつつ、データ分析やデータビジネスに必要な人財確保等のガバナンス拡充に取り組むとともに、多様な企業・自治体とのアライアンスや共創を通じ、保険の枠を超えたさらなる価値創造に取り組んでいる。

例えば、テレマティクスデータを活用して危険な運転挙動が多発している地点を洗い出し、行政へ交通事故防止対策を働きかけ、対策効果を定量的に検証する「交通安全EBPM支援サービス」等が挙げられる。EBPMは、Evidence Based Policy Making(証拠に基づく政策立案)の略で、政府が推進しており、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータの活用が求められている。
このEBPMを支援するものとして福井県・福井県警察と取り組んだ新たな交通安全対策では、精度の高い交通安全の立案・実行等を支援したことが評価され、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が2022年度に開催した「冬のDigi田甲子園」で優勝し、最高位である「内閣総理大臣賞」を受賞した。この取り組みは、テレマティクス自動車保険を活用することで、地域の個別課題を解決し、住民の暮らしの利便性と豊かさの向上や地域の産業振興につながった事例として高い評価を得ている。

交通安全分野では他にも、安全計画策定の義務化に伴い散歩ルートにおける交通量や安全性の確認等が求められている保育事業者向けに、危険な運転挙動発生率と交通量を地図上に可視化した「テレマティクス交通安全マップ」を提供している。
交通安全分野以外においても、インフラ老朽化対策の一環として、道路の管理・舗装業務の効率化・高度化をサポートし、快適・安全なクルマ社会の実現に貢献する「路面状況把握システム」を開発している。これは、テレマティクスデータの緯度経度、走行速度、前後・左右・上下の各方向の加速度等から、路面状態に異常がありそうな箇所を推定し、地図上に可視化するものである。専用車両や専用装置による測定を必要とせず、当社が元々保有しているテレマデータを活用するため、低コストで道路管理業務の効率化・高度化を実現することができる。

さらに、テレマティクスデータをパートナー企業のデータ等と掛け合わせて多角的に分析し、新たなサービスの共創を目指す「ADテレマアナリティクス」の展開や、一般社団法人 渋谷未来デザインと共同で「渋谷トラフィックWG」を組成し、産学官を横断したデータ連携を通じて渋谷区の行政課題に取り組む等、自治体・企業等と連携した具体的な取り組みも進めている。
こうした成果や知見を活かしながら、各種データを活用した「CSV×DX」の推進ならびに新たなデータビジネスの創出に取り組んでいる。

今後の展望

社会環境の変化を背景にお客さまのニーズは刻一刻と変化している上、デジタル技術の急速な進展により、新しい価値観に基づく商品・サービスの提供が急務となっている。
こうした背景から当社は、交通安全EBPM支援サービス等のソリューションの積極的な展開や、デジタルマーケティングによるお客さまへの最適な保険提案の実現、事故やけがの後の補償から補償前後のサービスの充実化といった領域へ注力している。また、保険会社が保有するテレマティクスデータ以外のデータ利活用や、先進的な異業種企業とのデータビジネス共創も進めている。
これらの取り組みを進展させることで、これまでの「保険」という概念を変える商品・サービスを提供し、業界や産業界におけるゲームチェンジを実現することを目指していく。

本稿では、あいおいニッセイ同和損保が保有するビッグデータであるテレマティクスデータ等を活用したCSV×DXの取り組みについて論じた。

第三回では、CSV×DX取り組みの高度化、グローバル取り組みについて論じていく。

著者写真
寄稿
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
デジタルビジネスデザイン部長
小泉 泰洋 氏
20年近く商品開発部門で商品企画・商品戦略を立案。2019年度より経営企画部にて「スタートアップ、大企業、地方公共団体とのビジネスアライアンス」等を担い、2023年度から現職にてビジネスとデータを掛け合わせた事業開発を担当
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