「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」の必要性
「包括的なライフステージサポートサービス」を提供するために、「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」という役割はとても重要と考えられる。これはお客さまへ提供される提案・情報が個々人にパーソナライズされているためだ。収集された個人情報を、AIを含むシステムで解釈しても最終的には“収集された個人情報だけでは個々人を定義しきれない”“お客さまに提供する提案・情報のどのオプションを個々人に提案すべきか決めきれない”という二つの壁に当たる。現在のテクノロジー技術ではこれらを埋めきれないため、このギャップを人間=「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」が埋めることでサービスを提供する。
「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」は、システムでは捉えきれないお客さま個々人の事情や性格、嗜好などを考慮しながら、システムで提供されるサービスや情報を提案することになる。
「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」を支援する「プラナー支援プラットフォーム」
では「プラナー支援プラットフォーム」はどのようなものとなるだろうか。いくつかの必要な機能とあった方が良い機能を列挙してみよう。
▽企業として分析・保持している一般的なインサイト情報の表示機能
▽上記に説得力を持たせる統計、トレンドや記事のクリップなどの外部情報の表示機能
▽ライフステージイベントとそれに紐づく一般的なインサイトやサービス情報の表示機能
▽お客さま個々人にパーソナライズされたインサイトやサービス情報の表示機能
これらの機能はそれぞれ「健康維持・回復力」「就業維持・復帰力」「収入維持・回復力」毎、ライフステージイベント毎に深掘りができるようになっていた方が良いであろう。また、外部サービスについては概要と特徴のサマリーとともに、リンクをたどれるようにしておいた方が便利である。
▽お客さま個人の情報表示機能
▽お客さま個人の契約情報表示機能
これらの機能はこれまでのシステムと近いためイメージしやすい。
▽お客さまに提示/提案した情報の履歴情報、またフィードバックの入力欄と履歴情報
▽お客さまのSNS投稿やブログなどからの感情分析情報
▽お客さまのリアルタイムの感情分析情報(音声通話やビデオ通話の場合)
これらの機能はより深いレベルのお客さまの関心/興味を「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」に提供できるため、あった方が良い機能として最終的には求められるであろう。
「プラナー支援プラットフォーム」構築への考察
これまでの内容から容易に理解できるように、「プラナー支援プラットフォーム」の構築は一筋縄ではいかないと考えられる。収集するデータの種類やその「データ分析プラットフォーム」も含めて、完成までに長期にわたるシステム構築が求められる。一方で、全く新しいサービスコンセプトのため、要件が決めづらく、試行錯誤も継続されるであろう。
結論として、これまでのウォーターフォール型のシステム構築手法ではなく、例えばバックエンドの「ライフステージサービス基幹プラットフォーム」や「データ分析プラットフォーム」はエンタープライズアジャイル型で、「プラナー支援プラットフォーム」はスクラム型でなど、構築手法自体も戦略的にアプローチする必要があるであろう。
こういったアプローチでのシステム構築となるため、さらに二つの関連する考慮点が必要になるかもしれない。すなわち、リリースの多様化/高頻度化に対応するテストフレームワークの成熟化と「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」に対するトレーニングのシステム化/簡便化である。
多くの企業ではテスト戦略や回帰テストの自動化を含むテストフレームワークの構築などが始まっているが、他業界と比較して保険業界は遅れている印象を受ける。先進的な企業では上記に追加して第三者検証(開発チームとテストチームの分離)も開始されており、こういったものは一朝一夕には成熟度が上がらないため、早急な着手が求められる。
また、トレーニングのシステム化/簡便化はトレーニングプラットフォームの導入やビデオの利用で開始できるが、そもそもはトレーニングの必要性を最小限にするために、いわゆるカスタマーエクスペリエンスに基づいたプラットフォームの構築が必須となる。「プラナー支援プラットフォーム」の構築にはこういった考慮も十分に行う必要があるであろう。
いうまでもないことだが端末の選択も考慮が必要だ。
現在でもそうだが、今後も“セキュリティの堅牢なタブレット端末を利用してのお客さまとのコミュニケーション”が主流となると考えられるため、原則としてはタブレット端末ネイティブでの開発が望ましい。また、「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」がお客さまからのフィードバック情報を入力するために、タブレット上にペンで手書きできるようにし、さらには手書き情報が自動的にお客さま対応履歴に追記されるなどの、“会話を止めない仕組み”の考慮も、ハードウェア、エクスペリエンスの組み合わせで可能となるテクノロジー技術水準にすでに到達している。
お客さまによっては「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」を通さずに自身で情報にアクセスする希望があるかもしれない。こういったポータルは今でも存在しているが、それらも「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」と同様に、「パーソナライズされたインサイト」やサービス情報を提供するようにビジネスアーキテクチャの一部として定義しても良い。
その場合、提供する情報として“「ライフステージ・プランナー/コンサルタント」を通してのみ提供する提案・情報と区別化すること”、“特定のライフサイクルイベントに依らないニーズを提供すること(健康増進・不安などへの情報)”が重要であり、いわゆるゲーミフィケーションや行動喚起の手法を含めることで、お客さまの興味を惹き続ける/飽きさせないようにする考慮が必要だ。
図表は「プラナー支援プラットフォーム」のコンセプトである。
おわりに
以上、イギリスでの実際の取り組みをベースに、お客さまのセカンドライフに対する不安を解消することによって保険会社の存在感を高めるための新しい役割、およびシステムコンセプトについて述べてきた。
これまでのビジネス範囲や業務範囲を踏み越えての新たなサービスの必要性については大枠で同意いただけるのではないだろうか。
中国の「平安保険」や、業界は異なるが日本の「でんかのヤマグチ」など、競争が激しくなっていく業界において差別化を図るために枠を踏み越える例はこれからも続くであろう。
今回紹介したものは、完全に踏み越えるというよりは拡大解釈をして差別化を図る取り組みと言えるため、保険会社にとっても検討を開始しやすいであろう。
一方で仕組や制度の縛り、テクノロジー技術の進展不足など、こういった取り組みを行うための壁は常に存在する。
今回はこれからのビジネス戦略、会社の仕組み、組織を変革しながら、新たなテクノロジーを適切に取入れて新しいサービスを構築し、他社と差別化を図ることで生き残っていく取り組みの一例として紹介した。
しかしながら、保険会社自身の“パーパス”を鑑みた際に、今回の一例はその延長線上にあるのではないだろうか。
こういった他社との差別化を図っていく企業が、すばらしい事業成果を得られることを確信している。
- 寄稿
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コグニザントジャパン株式会社
金融・保険クライアントパートナー
三沢 忠直 氏コグニザントジャパンの金融・保険事業の一環として、お客さまのIT戦略、導入、運用保守、トランスフォーメーションを支援。少子高齢化によるIT人材不足が顕在化する日本市場において、国内外をシームレスに利用する次世代のITフレームワークを推進。コグニザント入社以前は30年以上にわたり、製造、流通、アパレル、金融サービスなど幅広い業界を経験。また、日本のハイテク製造業でCIOとして日本本社ERPシステム刷新、SAPグローバルロールアウトを成功させる。