2021年8月24日(火)開催FINANCE WEBINAR「データ分析サービス『Custella(カステラ)』を通じたAI及びBIの活用について」


2021年8月24日、セミナーインフォ主催FINANCE WEBINARの基調講演にて三井住友カード株式会社 白石 寛樹 氏にご登壇をいただき「データ分析サービス『Custella(カステラ)』を通じたAI及びBIの活用について」についてご講演いただいた。

目次

データ分析サービス「Custella(カステラ)」を通じたAI及びBIの活用について

白石 寛樹 氏

基調講演➁

【講演者】
三井住友カード株式会社

データ戦略部長
白石 寛樹 氏

<決済データの潮流と三井住友カードにおけるデータ利活用の歩み>
決済データについて、国内のキャッシュレス決済の割合は29.8%となっており、中でもクレジットカードの決済データ割合は、2020年で決済全体の4分の1となっている。さまざまな要因で決済に占めるシェアは伸びてきているがまだまだと感じている。一方で、日用品の決済手段においては、クレジットカードの決済比率が36%であり、カード利用が多いと感じており、同じ決済データであっても、質が大きく変化していると考えられる。

当社のクレジットカード決済データにおいても、約20年前だと、ひと月当たり800万件というボリュームであったが、それから10年後でひと月当たり7,000万件まで増大しており、現在に至っては2億4,000万からさらに増えており、大きなトランザクション件数へと増加している。これはカバーできる消費行動の量が増え、日常と非日常の垣根を越えて、質も量もデータがリッチになってきていることを示していると感じている。

また、向上してきたのはデータだけではなく、データを意思決定に生かすために必要な「データ」「アルゴリズム」「マシンパワー」「ツール」「人材」などの各要素も進化してきていると感じており、特にデータ、アルゴリズム、マシンパワーの3つについては、加速度的に進化・発展している。現在では、AIは自宅の個人のパソコンでも気軽にプログラミングすることが可能な時代になり、ビジネスユースのツールの選択肢の増加も相まって、弊社の決済データの活用価値も高まってきていると考えている。

データの活用先について、「コスト削減や効率化」「トップライン(利益拡大)」「新規事業」の3つになると考えている。1つ目の「コスト削減や効率化」については、カード会社では不正使用の検知、それから与信などはデータ活用のメインテーマであり、データを分析し、意思決定の精度を向上させるために活用している。2つ目の「トップライン(利益拡大)」については、近年デジタルマーケティングが普及していることで、決済データの活用幅が増えてきていると感じており、データを自社の事業やサービスに適用することが可能になっている。3つ目の「新規事業」については、新しい事業にデータを生かすという事で、新サービスのCustellaを通じたデータ分析力の強化について説明をする。

<新サービスのCustellaを通じたデータ分析力の強化>
新サービスのCustellaは、2019年の10月にリリースし、昨年本格展開を始めている。Custellaの由来は主に加盟店さまを中心とした企業向けのデータ分析サービスとして、決済データの活用によって企業の意思決定に貢献し、その先の消費者の皆さまに価値を提供したいという事で「カスタマーを照らす」という語呂合わせで命名している。加盟店の先の消費者の皆様を照らして、提供価値を加盟店と一緒に見つけていきたいという想いを込めている。

具体的なデータについては、顧客属性データと加盟店売上データの2種類をメインに活用しており、属性データは、カードのお申し込み、更新のタイミングで得る情報で、性別、年代、居住地などのベースの情報、年収、支払い余力などが含まれる。これらの個人情報を特定するようなことは一切なく、個人情報を除去し、集計した統計データをサービス提供している。加盟店売上データについても同様で、カードの利用、利用件数、金額、業種などを分析し、固有のお店が特定されない形の統計データとして、傾向をつかむ分析結果を提供している。

統計データから分かる事として、いつ、どんな人が、どこで、どんな業種でいくら決済したかという情報、いわゆる顧客の購買行動をハックすることが可能であり、テクノロジーの発展により、マーケティングなどの意思決定に活用することが可能だ。

<取り組み事例>
マクロ分析の取り組みとして、コロナ禍における決済の推移のデータを指標化したグラフを紹介する。2019年の消費増税前の駆け込み需要やキャッシュレス還元などでキャッシュレスが伸び始めていた矢先、コロナ禍が始まり、落ち込んでいる。また、第3回の緊急事態宣言においては、決済指標の件数ベースで見ると、横ばいで宣言の抑制が効いてないことが見て取れる。あくまでも弊社データの基準の下であるが、客観的なデータとして活用している。さらに、本データを年代別に分解した場合、全体のトレンドは同じだが、世代間の差が定量的に読み取ることも可能だ。各世代の20代、30代と世代ごとのグラフ同士の距離の差が、緊急事態宣言を踏まえた行動変化の差として考えられる。現在、世の中に起こっていることを読み解く手掛かりとしては、このマクロ分析でも十分に気付きを得る事が可能だ。

次は、マクロミル社と共同で分析した試みであり、弊社の決済データで行動の事実を把握した上で、マクロミル社のアンケートデータによって、その前後に意識調査を行い、重ね合わせて解釈した取り組みだ。

コロナ禍の行動変化を読み解くために物差しを2つ作り、1つ目として、休日のお出掛け範囲をカード利用者の居住地からカードの利用場所までの距離を緯度・経度で算出して、定量的に観測、2つ目にECの決済や自宅で食事を取るためのスーパーでの利用など、家中消費と言える決済を計測した。この2軸で見て、コロナの前、それから今とでどのような増減があるかというのをキャッシュレス行動データと意識データ両方で統計、集計を行い、重ね合わせて分析をした。

結果としては、コロナによって、休日のお出掛けが減り、かつ家の中の消費は逆に増えたというセグメントが全体の消費者の皆さまの中の2割以上を占め、一番多いという情報が得られた、コロナ対策を取っていると考えられるが、一方で意識調査にて判明したことは、元々はアウトドアなどアクティブな志向性が高く、旅行や外食を我慢されているような特徴も伺えた。このような分析結果に対し、確実性を高めるためにこうした仮説を持った消費者の皆様にデプスインタビューを行い、変化の読み解きを行っている。

とある企業では、この仮説を基に企画を実行するなど、肌感で感じているような変化をデータで裏付けしながら、アクションへ繋げていく事が可能であり、データによる意思決定の1つであると考えている。

その他にも、とある生命保険会社では、自社の保険契約者のお客様が、同業種他社の保険商品の併用状況のデータを活用し、併利用者がいる場合に、併利用の発生タイミングとライフイベント相関性の分析を行った。AIによるライフイベントを決済データから抽出し、ターゲティングし、DMを配信し、効果検証から、ネクストアクションを検討するために利用している。

最後に、プロモーションの活用として、弊社のカード加盟店からコンテンツを預かり、会員へのプロモーション、DMの配信などを行う送客のサービスを提供していたが、加盟店や弊社の施策の担当者、マーケターがターゲットセグメントを決定して実行していた。これに合わせて、Custellaのアプローチでは、その設計の中にAI処理を組み込んでおり、膨大な過去の決済データの中から、今回のプロモーションに反応していただけそうなお客様をAIに推測させ、人間が必ずしも発見してこなかった条件も加えていくようなことが可能になった。

さらに、こうしたターゲティングの事前の分析だけではなく、プロモーションの後に結果を可視化、提供しており、加盟店の次の意思決定にも貢献する、まさにBIの提供を目指し取り組んでいる。

<三井住友カードにおける課題>
課題は、前述したデータを意思決定に生かすために必要な要素全てにあると言っても過言ではなく、多種多様なデータと連携可否、マシンパワーの処理能力の向上、分析ツールの選定・活用人材など多くの課題がある。全ての課題に共通するのは、人材の重要性がひときわ高まっている点である。

弊社データ戦略部の中では、データ人材を「データビジネスプランナー」「データアナリスト」「データサイエンティスト」「データエンジニア」の4種類に定義している。Custellaをサービスとして提供するためには、この4種類のデータ人材要件が全て必要であるが、これらを全て対応できる担当者はほとんどおらず、実際にはチームを組成して、協力しながらプロジェクトを進めていく必要がある。そのために各タイプのデータ人材をどのように集め、育て、チームとして機能させるかが課題であり、取り組んでいる。

人を集めるという点では、積極的に外部からの採用は行っているが、獲得には苦労している。このような人材は引く手あまたで日本市場に枯渇しており、この外部の調達という方法だけでは限界があると考えている。次に重要になるのが、社内のデータ活用推進や、社内人材の発掘と育成である。社内のプロジェクトで潜在的に社内で素養がある人物や、それぞれの持ち場、各部で孤軍奮闘していたような担当者と合流して取り組むことで人材を発掘して育成することを強化していくべきだと感じている。合わせて、そのようにして見いだした人材と外部から合流してくれた人材を合わせて、育成するための仕組みも構築している。実際の取り組みとして、データ人材のスキル定義として、組織内で必要な能力要件を定義し、セルフチェック形式で、自分自身の保有スキル、スキルレベルの確認、今後のスキルの伸ばし方を自覚できるようなフォーマットを作成している。これを上司や組織内で共有し、研修の受講やチームの移籍などのアクションに生かすチャレンジを開始している。

研修についても模索をしている最中であり、様々なデータ分析系の研修メニューにおいても、関連性を認識しながら有機的に捉える必要があると考えており、OJTと座学とを組み合わせ、データ分析を基軸に必要なスキルを体系的に習得できる研修にも取り組んでいる。

最後に、研修などでの個人レベルアップの取り組みがチームへと伝播するためにも、案件共有会という、データ分析の実例などを紹介し、参加者から素朴な疑問を受け付けるというイベントを週に1回開催している。そのほかにも、データサイエンスを語り合うような部内イベントの試みも行っている。これら2つもさらなる工夫を凝らし、時間を有意義に使い、それでいて楽しみながらレベルが上がるというイベントを実行していく必要があるなと感じている。


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