四半期開示をめぐる議論
四半期開示とは中間・期末以外の四半期末においても企業業績の取りまとめを行ない、開示する行為を指す。岸田首相は、昨年10月の所信表明演説において、「企業が、長期的な視点に立って、株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵を受けられる『三方良し』の経営を行うことが重要です。非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなど、そのための環境整備を進めます」と発言し、四半期開示の見直しを行なうことを宣言した。
四半期開示の見直しは、岸田政権の標ぼうする「新しい資本主義」の中に位置付けられるものである。ショートターミニズムと言われるような、短期的な利益と株価への反映を重視する株式投資が増加してきたとの問題意識に基づき、中長期的な視点で企業を評価すべきとの観点から、現在3カ月毎に行なわれている企業情報の開示に前向きな変化をもたらすことを目指している。
日本における四半期開示は、決算短信については2003年度から、決算報告においては2008年度から導入されたものだ。四半期開示は、企業を取り巻く経営環境の変化が激しくなってきていることなどから、会社に対する投資判断に資する情報として、当該会社の業績などにかかる情報を、投資者に対しより適時に提供するための制度であり、その趣旨は首肯されよう。以降、証券市場に存在する情報の非対称性を緩和する手法として、その重要性が認知されてきた。
しかしその後、リーマンショックやHFT(High Frequency Trading, 高頻度取引)の拡大により、欧米を中心にショートターミニズム批判が巻き起ったことから、四半期開示はその原因の一つとして批判にさらされることとなる。ショートターミズムとは短期志向を指し、一概には言えないが、発行体の立場としては長期的な成長を顧みず短期的な利益向上に注力する経営手法をとること、投資家の立場としては短期的売買を繰り返すような投資手法を指すようだ。四半期開示自体が実務的に企業にとって負担感のあるプロセスであったこともあり、欧米では2010年代前半に見直しの動きが盛り上がり、英独仏については2014~15年に四半期開示が任意となった経緯がある(米国は義務として四半期開示を継続)。
日本においては、2018年に金融審議会ディスクロージャーWGにおいて議論が行なわれ、「現時点において四半期開示制度を見直すことは行わず、今後、四半期決算短信の開示の自由度を高めるなどの取組みを進めるとともに、引き続き、我が国における財務・非財務情報の開示の状況や適時な企業情報の開示の十分性、海外動向などを注視し、必要に応じてそのあり方を検討していく」との方向性が定められた。現在では、今般の岸田首相の方針を踏まえ、足元は金融審議会ディスクロージャーWGにおいて、再度四半期開示の見直しに関する議論が行なわれている状況だ。
- 寄稿
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SBI金融経済研究所村松 健 氏
事務局次長