【連載】新しい資本主義を巡る動向② 金融所得課税の強化の考え方


岸田政権における、新しい資本主義を巡る議論について、金融との観点では、①金融所得課税の取り扱い、②自社株買いガイドライン、③四半期開示の見直し、の3つの政策の動向がポイントであることは前回触れた。その中で、前回触れた四半期開示については、足元金融審議会ワーキンググループにおける議論が終了し、現在2種類存在する決算書類を一本化する方向で概ね決着したようだ。残りの2つはどのようになるのだろうか? 本稿では、この中で「①金融所得課税の取り扱い」について考えてみたい。

  1. 金融所得課税見直し議論の現在
  2. 「格差」と金融所得課税
  3. 期待されるのは成長戦略
目次

金融所得課税見直し議論の現在

昨年9月の自民党総裁選において、岸田首相は金融所得への課税強化につき言及した。日本においては「二元的所得税」の考え方に基づき、個人の所得税の対象を「勤労所得」と「金融所得」に分け、前者については累進課税を適用し、後者については一律で20%の税率を適用している。このことが結果として、金融所得に恵まれた高所得層を優遇することになっているのではないかという問題意識が背景にあるようだ。所得が1億円を超えるあたりから勤労所得と金融所得を合算した税率が低下する「1億円の壁」と呼ばれる現象が、課税強化の背景として大きく採り上げられている。

一方、総裁選後の2021年10月10日には、金融所得課税の見直しは当面考えていないという認識を示すこととなる。岸田内閣発足前後から、日経平均株価が8営業日連続の値下がりしたこと、いわゆる「岸田ショック」が、岸田首相が慎重姿勢に転じた原因と考えられる。

ただし、金融所得課税強化が完全に消え去ったわけではない。昨年12月の自民党令和4年税制改正大綱には、「なお、高所得者層において、所得に占める金融所得の割合が高いことにより、所得税負担率が低下する状況がみられるため、これを是正し、税負担の公平性を確保する観点から、金融所得に対する課税のあり方につき検討する必要がある。その際、一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮しつつ、諸外国の制度や市場への影響も踏まえ、総合的な検討を行う。」との文言が盛り込まれており、中長期的な検討課題としては、消えた訳ではない。

村松 健 氏
寄稿
SBI金融経済研究所
事務局次長
村松 健 氏
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