INSURANCE FORUM 進化する保険ビジネスモデルとマーケティング・イノベーション<アフターレポート>


セミナーインフォ主催セミナー「INSURANCE FORUM 進化する保険ビジネスモデルとマーケティング・イノベーション」が2017年11月9日(木)に都内で開催された。テクノロジーの進化は、保険ビジネスや顧客接点のあり方を大きく変えるとともに、消費者の生活スタイルや嗜好にも著しい変化をもたらしている。約200人の参加者は、業界先進企業による取組事例紹介のほか、テクノロジーやマーケットの最先端を走る企業各社の講演を熱心に聞いた。セミナーの概要を紹介する。

目次

三井住友海上におけるCRM戦略

加藤 大輔 氏

基調講演
三井住友海上火災保険株式会社
営業企画部 営業IT推進室
お客さまITユニット長 課長

加藤 大輔 氏

戦略を推進するICT環境整う

当社を取り巻く外部環境が激化している。保険業界全体では、少子高齢化で保険契約者が減少。代理店においては全国展開している大型の保険ショップが台頭する一方で専属代理店の数は減っている。

顧客に関しては、スマートフォンの普及で自ら情報を収集して発信できるようになってきた。オンラインショップでおすすめ商品を表示するレコメンド機能などを通じて、異業種の顧客体験に慣れている人も増えている。企業と直接つながる素地ができているといえよう。

テクノロジーでも急激な変化が見られる。とくに情報通信技術(ICT)の分野では、クラウドサービスの出現やビッグデータ、アナリティクス技術の進展、人工知能(AI)の発達、そして実装と修正を繰り返しながら改良していくアジャイル開発手法の広がりで、安価かつ迅速にシステムをつくることが可能になってきた。

これらの変化により、顧客情報のデータ管理を通じて良好な関係を構築するCRM(顧客管理)の重要性が一層高まってきたと痛感している。CRM戦略を推進するためのICT環境も整ってきた。

LINEとの連携でサービス利用促す

顧客調査を行ったところ、損害保険会社に対して78%の方が信頼できると答えた。しかし、78%のうちの44%が「感覚・イメージ」で信頼できると回答。「報道・ニュース」は11%、事故対応や契約手続きなどの「実体験」に基づいて信頼できると感じている人は22%にとどまった。

損害保険会社として優れた保険商品と、もしもの時に素晴らしい顧客体験を提供するのは当たり前だが、現状では顧客との接点が少ないため、顧客認知やロイヤリティ向上には限界があると考えている。したがって本業以外のサービスで顧客との接点をつくることで、顧客認知やロイヤリティの向上を図る必要がある。ただし、当社はダイレクト型損害保険会社ではない。顧客の理解をより深めるCRMと同時に、代理店と良好な関係を築くARM(代理店管理)の両輪で戦略を進めている。

本業外のところで顧客との接点をつくるため、2016年よりデジタルマーケティングを取り入れている。例えば誕生日を迎えて年齢が変わると保険料が安くなる可能性があるので、「年齢条件アラート」を配信。さらに契約のお礼やアンケート、「災害事前アラート」なども配信する。情報配信の予定や結果は代理店にフィードバックし、情報を共有。これによって年齢条件アラートを配信した後に、代理店が顧客をフォローすることができる。

デジタルマーケティングを取り入れたことでコスト抑制や一定頻度による情報提供が実現でき、かつ個々の顧客に合った適切な情報提供が可能になった。さらに誕生日前の保険商品提案のようなアプローチもオートメーション化によって漏らさずに対応できるようになった。長い目で見ると顧客の脱落防止や保険商品の推奨度の向上、クロスセルへの効果も期待できるだろう。

我々は現在、「お客様との繋がり」の強化に向けた新たなプラットフォームの導入を検討しており、デジタルマーケティング以外に「アナリティクス」と「ダッシュボード」の推進を図っている。前者のアナリティクスでは、お客様起点のビッグデータ分析によってパーソナライズされたサービスの提供を目指す。後者ではお客様の窓口になる代理店に顧客対応のベストプラクティスをひとまとめにして提供するダッシュボードの仕組みを検討している。

CRM戦略の推進にあたっては、さまざまな課題がある。とくにダイレクト型損害保険会社ではない当社がいかにメールアドレスを集めるかは、大きな課題だ。

当社の「Webサービス」に登録すれば、メールアドレスの取得と同時に「広告配信同意取付」や「配信停止機能」といった特定電子メール法の要件を満たすことができる。しかし、Webサービスの登録は苦戦している。理由は、お客様にとってWebサービスを利用する際に必要になるIDやパスワードを覚えることは煩わしいからだ。

そこでLINEと連携してIDやパスワードを入力せずに、お客様が必要なときにWebサービスを利用できるようにした。「事故連絡」と入力すると、事故時の連絡先が案内されるなど、利便性はかなり向上した。とはいえ、Webサービスの登録率の目標達成の道のりは、まだまだ遠いといえるだろう。

InsurTech ”三種の神器”の活用法 ~Improve(改善)からInnovate(革新)へ~

大喜多 雄志 氏

【講演者】
アクセンチュア株式会社
金融サービス本部 経営コンサルティング部門
マネジング・ディレクター

大喜多 雄志 氏

三浦 友紀 氏

【講演者】
アクセンチュア株式会社
金融サービス本部 経営コンサルティング部門
マネジャー

三浦 友紀 氏

自律的に成長するエコシステム

人工知能(AI)などのテクノロジーの進化によって、顧客は自らのリスクを見極め、それに見合った保険を選んでリスクに備えるようになる。この顧客主導型のリスク対応は、自身のリスクが正しく分からない人にカバー範囲の広い商品を勧める従来の保険ビジネスに未曽有の影響を及ぼすだろう。保険会社には顧客主導型のリスク対応への備えが求められている。

数あるテクノロジーのなかで、特にAPI、AI、ブロックチェーンは、保険会社のコントロールが利きやすく、顧客生活への影響度が高い。この3つの技術を、 InsurTechのカギを握る“三種の神器”と銘打って、活用法を探っていく。

最初のAPIは、外部パートナーのアプリケーションをつなぐ窓口役だ。保険会社は外部パートナーと連携することで、より高度な商品やサービスの提供が可能となる。このようなエコシステムは利益シェアモデルが前提となるため、単体企業の儲けではなく、エコシステムを構成する複数企業でいくら儲けるかが重要な指標となる。加えて、複数の企業の間をつなぎAPIを促進する「中間業者」も現れる。

米国のKAISER PERMANENTE社は、Google傘下のAPI中間業者のapigee社と組んでオンラインサービスプラットフォーム「My Health Manager」を構築。グループ傘下の病院や医師グループとデータベースを共有し、過去の医療データ、類似症例、治療方針、診断結果などの情報を顧客に提供することで、治療から予防を目指したトータルヘルスケアサポートの実現を図っている。

「My Health Manager」は今では全顧客の半数にあたる440万ユーザーが年30回程度利用しており、この利用頻度の高さがビッグデータの獲得とさらなる付加価値提供に至っている。自律的に成長するエコシステムの成功事例といえよう。

2番目のAIとは、情報の「捕捉」「認識」「対応」といった人間の持つ機能を備えたシステムと定義づけられる。過去データや経験といった学習データによってAIの可能性は無限だ。我々は7年後にはインターフェースの多くは画面を持たず、例えば音声や映像が主体となり、AIが日常生活へ内包されていくと予測する。保険事業でも顧客に最も近い存在になるのではないか。

英国の保険会社AVIVAは、将来は「声」が顧客との関係性強化の主要手段になると想定している。現在はその初期段階として、音声認識スピーカー「Amazonエコー」用のアプリケーションを開発し保険用語のQ&Aを提供している。Amazonのデジタルエコシステムに参加したことで、副次効果として英国の1800万人の顧客基盤へリーチすることができる。

新ルール策定者のポジションを確立

InsurTech三種の神器の最後は、エコシステムなどイノベーションを支えるのに不可欠な基盤のブロックチェーンだ。足元はブロックチェーン2.0の段階で、スマートコントラクトとして自動契約への適用など金融領域での応用が進んでいる。2020年頃からの同3.0では、金融から非金融への拡大が始まり、医療や政府関連事業などへの適用が予想される。

オランダの年金運用機構apgは、年金運用管理システムとしてブロックチェーンを基盤としたアプリケーションを開発し、公共機関や地方自治体、企業、保険会社など様々なステークホルダーを巻き込みながら情報を分散管理することで、システムの高度化を推進している。

顧客主導型のリスク対応の時代では、「幅広い顧客ニーズに備える」「顧客に価値を実感してもらう」「競合に対し優位な立ち位置を作る」という3つの戦術の着実な実行が重要だ。保険会社は、API、AI、ブロックチェーンというInsurTech三種の神器をベースに、目的別エコシステムを構築して顧客コミュニケーションの高度化を図り、新市場などに対するルール策定者のポジションを確立しながら、自社の持続的な成長を実現していく必要があるだろう。

AI×デジタル×マーケティングの最前線 ~現役コンサルタントが語る、保険マーケティングにおけるAI活用成功のポイント~

紺野 賢 氏

【講演者】
SAS Institute Japan株式会社
ソリューション統括本部
シニア アナリティクス コンサルタント

紺野 賢 氏

AIで“個”客ごとに顧客経験を最適化

保険ビジネスの顧客マーケティングを取り巻く環境は多様化が進む一方、よりきめ細かい、顧客のニーズや嗜好にそった提案やサービスが求められている。しかし営業店や代理店、Web、スマートフォンなど多数の顧客チャネルに加え多種多様な保険商品、そして就職や結婚、出産といった顧客イベント(コンテキスト)の組み合わせは膨大な数になる。これではいくら営業員を増やしても、最適なタイミングで最適な商品を適切なチャネルから提案し、対応を継続するのは難しい。そこで注目を集めているのが人工知能(AI)の活用だ。

「AI」の定義は企業によって異なる。現状では、音声や画像の認識、予測モデル、オムニチャネル、機械学習、最適化、API HUBなどの技術要素により、人間の一部の仕事をさせる仕組みをAIと呼ぶことが多い。

例えば、カナダの金融機関ScotiaBankはオムニチャネル基盤にAI技術を活用し顧客経験の向上を実現している。英国の通販系小売業のShop Directは、500万人以上の顧客とのコミュニケーションをパーソナライズ化。従来は顧客セグメント単位でクーポンを割り振っていたものを、顧客単位にクーポン金額を再計算している。

米国の百貨店Macy`sでは、来店客に最適なクーポンを顧客のスマートフォンに送信し、そのクーポンで商品と引き換えできる売り場までの案内経路も示している。これは、AIの位置情報捕捉とリアルタイム処理で顧客の反応率を最大化する試みだ。

AI活用成功のポイント

これらの事例から、今、AIに求められる要素が見えてくる。AIには、取引内容やWebの行動履歴、位置情報や顔の表情といった全方位ビッグデータを活用して顧客の個を「認識」する要素とともに、リアルタイムでのデータ分析に基づき顧客のニーズや行動を予測し対応の「最適化」を図り、まるで“ひとり”のコンシェルジュが全接点横断で対応するかのように一貫性ある最適な“個”別対応を「実行」する役割が求められる。必要機能は情報の収集から実行まで多岐にわたるため、データ統合や機械学習をはじめ、各要素を社内システムで一気に構築することは非常に困難といえるだろう。

AI導入を成功させるには、AI技術を適用する領域を明らかにし、適切な組織を構築し、AIプラットフォームを構築することが重要だ。我々は4つのステップを提案している。第1に「人間しかできないことを整理する」。例えばどのデータを分析に用いるのかを判断しデータを加工・統合する作業は人間にしかできない。また、人間である顧客に刺さるサービスやクリエイティブ、セールスライティングは、やはり人間にしか作れないだろう。

そのうえで第2の「必要な機能要件を整理する」作業を進めたい。画像解析やテキスト解析、APIによる外部データの取り込みなどによりデータソースを拡大することで、“個”客の理解がより深まる。“個”客ニーズや行動を予測し、最適な対応を判断するには機械学習、ディープラーニングが有効だろう。全ての接点でAIが最適対応するチャネル統合管理も、顧客満足度の向上効果が高い。

第3のステップが「適切な組織を構築する」だ。ある企業では最高経営責任者(CEO)直下の部署としてAI推進室を設けており、そこから営業やマーケティング、ITなどの各部門と連携を図っている。こうすることでAI戦略が全社規模の取り組みへと昇華しやすいほか、営業やマーケティングのような実行部署と、顧客向けコンテンツの制作部署との意見集約がしやすいといったメリットがある。

そして最後の4ステップ目が「HUBとなるプラットフォームを用意する」ことだ。この基盤プラットフォームには、データに基づいた仮説検証や得られた洞察の業務への適用とシステム化が、それぞれ正確かつ高速に実施できることが求められる。仮説検証や業務への適用は、どのような規模・種類のビジネス課題に対しても実施できなければならない。

我々SASはアナリティクス領域のソフトウエアとコンサルティングサービスのリーディング・カンパニーとして、今回紹介した、マーケティングのAI活用に求められる、「認識する」「最適化する」「実行する」の全ての要素を一貫して実現することができる。デジタルとリアルチャネルを融合しAI技術を効果的に活用することで、保険会社が顧客に最適なカスタマージャーニーを提供することを強力に支援する。

多様化するコミュニケーション時代に最適な動画活用 ~保険業界における情報伝達のポイント~

今鉾 悠史 氏

【講演者】
株式会社Jストリーム
営業本部 マーケットソリューション推進部 1課長

今鉾 悠史 氏

視聴環境と発信する情報に変化

これまで、様々な業界でVHSやDVDなどの動画メディアを用いた研修や業務支援が行われてきた。昨今では、インターネット環境やスマートフォンの普及、各種ソーシャルメディア利用の広がりなど、動画の視聴環境の整備が進んでいることもあり、ますます世の中に動画が浸透してきている。

動画で発信する情報も多様化している。従来は提供する商品やサービスに紐づいた研修や、経営層のメッセージの伝達に活用されることが多かった。働き方改革を中心としたワークライフバランスの見直しが求められる現在、社員の自己啓発やスキルアップの支援のほか、育休・産休取得者や在宅勤務者への情報提供の手段としても動画が活用されている。

動画のメリットは大きく分けて3つある。1つ目が情報量の豊富さだ。海外のクリエイティブエージェンシーの発表によれば、動画1分あたりの情報をテキストに置き換えると約3600ページ分に相当するという。動画はより多くの情報を伝えるための有効な手段となる。

2つ目が、記憶に残りやすいことだ。「幼い頃に見た映画のワンシーンを今でも鮮明に覚えている」といった体験が誰にもあるように、人の記憶には文字だけよりも、視覚と聴覚の両方に訴えかける映像のほうが残りやすいと言われている。

3つ目が、視聴者の行動とコンテンツの関係を、時間軸で表現・計測できることだ。動画は「再生時間」という指標を持っており、この指標を用いて動画内でよく再生される箇所、つまり注目されるポイントがわかる。インターネットを介した動画の場合は「いつ」「どの情報を」「どの程度」視聴されたかも簡単に計測できる。

視聴者の属性に合う動画を制作

保険業界における動画活用への関心は高い。2016年の「INSURANCE FORUM」で行ったアンケートによれば、情報提供手段にすでに動画を活用している企業は回答者の60%となり、今後の実施を検討している企業を含めると90%以上の企業が動画活用の意向を示していることがわかった。

活用のシーンとしては、顧客向けの保険商品紹介、社員教育や販売代理店研修、支店での優れた取り組みや業界の最新動向の共有に加えて、新卒や中途入社社員などの社内コミュニケーション活性化を目的としたものが多い。

保険業界における動画活用事例を紹介したい。ある生命保険会社では、定年退職後に退職金を得た顧客に終身保険を紹介する動画を作成した。

ターゲットとする年代の関心を引くため落語調のストーリーで保険商品のメリットを伝えるようにし、ディスクレーマーを映画のエンドロールのように流す演出にしている点が特徴的だ。その商品は金融機関の窓口での販売を想定したものだったので、音声を再生しなくても動画の内容が理解できるよう字幕テロップを随所に挿入するなどの工夫も施している。

この動画のポイントは、保険に詳しくない人にも関心を持ってもらい、「詳細な説明を聞きたい」という問い合わせにつなげることを意識した構成にしている点だ。そのために動画自体の演出を工夫するととともに、視聴者の属性に応じた内容に落とし込まれている。

社内向け、販売代理店向けの動画を多数用意している損害保険会社では、自社の社員と販売代理店の販売員の双方がアクセスし閲覧できる動画サイトを設けている。同サイトはアクセス時のログイン情報に基づいて閲覧可能な動画が変わる仕組みだ。この仕組みを導入することで動画コンテンツの一元管理や更新の負荷軽減を実現するとともに、成績優秀者からはどのような動画ニーズがあるのかも分析できる。

動画そのものや動画の管理体制はもちろんだが、付加する機能にも工夫の余地はある。ある保険会社では動画のコメント機能を介して、成功事例の共有や意見交換などを視聴者同士が行うことで、社内コミュニケーションの活性化とスキルアップを図ることに成功した。

動画を制作する手段も多様化している。プロの制作会社に依頼するほか、最近では自社に簡易的なスタジオを構築したり、社内向けの簡易な動画であれば機材をいくつか揃えて撮影したりする企業も多い。動画の効果を最大限に生かすうえでは、利用目的に最適な方法で動画を制作することが重要だろう。

「つくし世代」(20代若者)を動かすための、新しいマーケティング手法

藤本 耕平 氏

【講演者】
株式会社アサツーディ・ケイ
若者プロジェクトリーダー

藤本 耕平 氏

情報発信者となる「支援者」の育成

保険業界における若者へのアプローチは、今非常に難しいものとなっている(ここでは主に20代を若者と定義する)。保険商品に対し、「必要であっても、なるべくなら避けよう」と考える若者が大半だ。

若者の特性の一つに、今が楽しければいい「刹那主義」というものがある。昔と異なり、目まぐるしく変化する時代を生きる若者には、「今日の当たり前が明日の当たり前とはいえない」認識が植え付けられている。そのため、将来のリスクを考えることは先送りしがちであり、親世代以上にその傾向が強いのだろう。

今の若者は、何に対しても自分にとっての価値を見出さないと動かない。情報が溢れる時代において、自分に関係のないことはすべて遮断する一方で、一度好意的に受け入れると周囲に情報拡散するため、味方にすると効果の高いターゲット層でもあるといえる。「生命保険」というワードだけで敬遠しがちな若者との距離を縮めるためには、彼らの感覚や文脈でアプローチしなくてはならない。

従来、テレビCMなどを通じて企業は消費者と直接コミュニケーションをとってきた。しかし昨今は、若者の感覚や文脈を的確に捉える「支援者」が加わることで、より効果的に消費者にアプローチすることが可能だ。

例えば、消費者のレストランの探し方は、お店側の情報を一方的に発信する「ぐるなび」のようなポータルサイトを活用する時代から、レストランを実際に利用したお客さんの情報を収集し、参考とする「食べログ」のような口コミ時代へと変遷してきた。

今は口コミ時代からさらに派生し、自分の価値観と似ている、または信頼できる人をフォローする時代に変わってきている。消費活動は自分のお気に入りの人を基盤とし、その人が勧めるお店を利用し、その人が勧める化粧品を買うことなどが主流となりつつある。企業は今後、この「支援者」となる情報発信者をどのように囲い込み、育成していくかに注力していくことになるだろう。

“隙間づくり”された商品が重要

若者が情報発信を行うツールといえば、TwitterやInstagramなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が一般的だ。企業が宣伝したい情報を多く発信してもらうには、若者がSNSに投稿したくなるモチベーションを捉えなければならない。そのモチベーションは、大きく分けて4つある。

1つ目は、「友達と楽しみを共有する」ことだ。例えば、氷菓子の「ガリガリ君」シリーズでは一時期コーンポタージュやナポリタン味など奇抜なフレーバーを発売し、“友達が食いつくネタをシェアしたい”若者の気持ちをうまく活用した商品戦略を展開した。このように、発見感や“いじれる”感をくすぐったキャンペーンは若者間で一気に波及する。

2つ目は、「自分をブランディングする」こと。例えば、女子大生の間で流行っている「撮影女子会」は、プロにドレスアップしてもらい、プロのカメラマンに撮影してもらえるサービスだ。企業は、若者に自分をブランディングできる機会を与えると投稿されやすくなるだろう。ただし、露骨にアピールすると本人が周囲に批判されるため、嫌味のなさも兼ね備えていることがポイントだ。

3つ目は、「みんなとの思い出づくり」。非日常をシェアできるようなイベントなどは支持されやすい。

4つ目は、「友達に感謝される」こと。「ありがとう」といわれることで承認欲求が満たされる。お得情報などのキャンペーンは、拡散することで感謝されるため、効果的だ。恩が大きいとお返しが気まずいため、気軽さとさりげなさが重要になる。例えば、エナジードリンクでお馴染みのレッドブルのサンプリングを配布する宣伝車を見つけて場所を知らせるなどだ。

保険業界でも、若者のモチベーションに働きかける動きが散見される。例えば、年々増加する独身者の、「もしも働けなくなった時」に備えた住友生命の「Wステージ 未来デザイン 1UP」や、少額から気軽に利用ができ、SNSの活用を推進している明治安田生命の「かんたん保険シリーズ ライト!」など、従来の保険と若者の関係性を打開するような商品が積極的に展開されている。

価値観多様化世代は、モノの個性に頼らず自分の感性で自分らしさを表現したいという特徴がある。商品設計やアプローチの際は、ブランドの持つ世界観や完成品を提供するのではなく、若者自身がパーツを選択できるような“隙間づくり”をしていくことが重要だろう。

保険業界における多様化するダイレクトマーケティングモデル

櫻井 英一郎 氏

特別講演
チューリッヒ生命
ダイレクト営業部 部長

櫻井 英一郎 氏

助成想起と商品力を活用した戦略

当社は、1996年から日本で営業を開始した。日本上陸後、テレマーケティングで一気に保有契約件数を伸ばしたが、以降は横ばいが続いていた。2013年から2015年までの3カ年計画において、現代表者 兼 最高経営責任者の太田健自が打ち出した「100日計画」をはじめとする様々な取り組みが功を奏し、2012年以前までの保有契約件数と比べ、約3倍まで成長している(2017年11月9日時点)。

ダイレクトマーケティング市場では、テレビが影響力を持っていた時代からWebの影響力が高まりつつある時代へと移り変わってきている。最近では、保険を検討するとき、大半の消費者はまずインターネットで社名を検索するだろう。

社名検索するタイミングは主に4つある。まずは、「広告を見かけた時」だ。次に、結婚や家の購入など「ライフステージの変化があった時」。または「近親者の不幸があった時」。若者の場合は、「親に言われて」考え始めるパターンもある。

ダイレクトマーケティングの観点から見ると季節変動やイベントとの相関性が強い。生命保険の売上が伸びる月は、2月3月、10月、11月が多い一方、大型連休などがある5月や8月、お正月などは楽しいことが優先されて保険への関心度は下がり、売上も下がる傾向が見受けられる。

社名検索は売上に最も寄与するといわれるが、検索回数を増やすためには消費者に自社ブランドや商品を広く認知される必要がある。大規模な広告を打っていくなどして市場認知度を高める方法をとっている企業もあるが、当社は「小さいコストで大きな収益を得る」方針を採用しているため、マス広告の費用などで月に何千万~何億円ものコストをかけることは現実的とはいえない。

当社の市場認知度、つまり消費者が生命保険会社と聞いて生保の「チューリッヒ」を思い浮かべる確率(純粋想起率)はかなり低い一方で、助成想起については損保の活動が大きな助けとなり、「チューリッヒ」の想起率は高い。消費者は、生保と損保を混同しているが、三者にとって重要な問題ではない。よって、助成想起を前提にチューリッヒ生命にたどり着いたお客様に対し、当社の強みである商品力を活用していく戦略を推進している。

消費者の検証作業の肯定が重要

最近の消費者は、商品を購入する前に検討行動を行う傾向が強い。気になる商品をいくつか調べて比較するため、比較サイトの第三者評価はかなり重視されるところだろう。当社のホームページでは、お客様が欲しい情報に素早くたどり着けるよう、なるべく動線をシンプルにして、かつ必要となりそうな情報はあらかじめ一覧表にするなどの工夫を施している。

そもそもお客様は、商品や保障の内容、保険料などが自分の認識と相違ないかを確かめるためにメーカーのホームページを訪れている。そこで当社は、必ず他社と比較されることを前提としたコミュニケーションを想定し、商品アプローチを展開している。パンフレットやホームページにはニーズ喚起情報をほとんど掲載せず、さらに必要保障診断や保険のいろはを教えるようなコンテンツなどは、他社で済ませてあるだろうという前提だ。

メーカーのホームページ上で確認作業を行う際、お客様の中で構築されたイメージと実際の商品内容の乖離が大きいと、お客様の加入意志は一気に喪失してしまう。そのため、メーカーはお客様の検証作業を肯定していくことが重要だと考える。お客様には、自分の意思で選んだと実感していただくことが大切だ。

お客様は一通りの検証作業を済ませ、イメージとの乖離がなければ一気に加入の意思を固める。しかし、保険自体あまり積極的に考えたいものではなく、早く終わらせたいという傾向が強いため、「決めたらすぐにでも申し込みをしたい」という心情を持つ方はとても多い。

この段階でポイントとなるのは、ツールの使いやすさだ。使い方がわかりやすく手間を感じさせないインターフェースは、お客様満足度に直結する。実際、当社のホームページを閲覧するお客様の回遊状況は、流入から申し込みまでほぼ寄り道なしで成立している。申し込みの際の告知不備などの対応も自社で行っているため、申し込みの成約率が業界平均80%前後に対し、当社は86.5%と高い水準だ。

消費者を自社のお客様とするには、基本的にお客様の検討行動を尊重するものの、メーカー側での誘導も必要だといえる。お客様の無意識下に働きかけ、自社のコントロール下に入ってもらえるような仕掛けをさらに強化していきたい。

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