FINANCE FORUM 金融マーケティングの最適化とデジタル活用<アフターレポート>


2018年11月8日、セミナーインフォは「FINANCE FORUM 金融マーケティングの最適化とデジタル活用」を開催した。デジタル化の進展による金融機関における顧客接点のあり方が大きく変化するなか、金融機関にとっ て、最新テクノロジーを活用した顧客接点の構築と新たな顧客体験の創出がテーマになっている。フォーラムでは、みずほ銀行個人マーケティング推進部参事役の西本聡氏の基調講演を皮切りに、デジタルマーケティングや新たなブランド広告の事例紹介などが行われた。

  1. みずほ銀行のデジタルチャネル戦略
  2. 金融機関におけるデジタルマーケティング施策
  3. 潜在顧客を掘り起こす新しいブランド広告の姿と、その事例の紹介
  4. AI×行動データの『モーメント分析』でデータドリブンマーケティングを加速させる
  5. イオン銀行のデジタル&マーケティング戦略
目次

みずほ銀行のデジタルチャネル戦略

基調講演

【講演者】
株式会社みずほ銀行
個人マーケティング推進部
参事役

西本 聡 氏

みずほ銀行は2018年5月、邦銀では初めてアマゾンのパブリッククラウド「AWS」を活用した個人向けスマートフォン(スマホ)バンキングをスタートした。同年8月には、Apple Payを使ったモバイル決済「Mizuho Suica」の提供を開始、おつりで投資アプリ「トラノコ」を運営するTORANOTECとスマホアプリを通じた資産形成分野での連携も動き出した。

このように様々なデジタルチャネル戦
略を実践しているが、戦略自体の立て方は極めてオーソドックスだ。キーワードは、①顧客ニーズ②自社の提供価値・存在意義③PEST(ポリティカル、エコノミック、ソーシャル、テクノロジカル)④3C(カスタマー、コンペティター、カンパニー)⑤4P(プロダクト、プレース、プロモーション、プライス)⑥マーケティング─の大きく6つあり、それぞれに対して忠実に取り組むことを心がけている。

中でもポイントは①の顧客ニーズだ。一例を挙げると、金融機関の残高照会は顧客にとって「目的」か「手段」か。多くの顧客にとって残高照会は「目的」だろう。ただし、さらに考えを進めれば「今月のクレジットカードの引落が足りるか確認したい」といったような、その先にある真のニーズが見えてくる。一般に金融機関のサービスメニューは、残高照会、出入金明細照会、振込、振替などの項目の羅列となっており、わかりやすいというメリットがあるので銀行も顧客もこれでよしとしている部分がある。本来は、顧客が抱いている根源的な目的に対応するにはどうしたらよいか突き詰める工程が欠かせないといえるだろう。

例えば、当行は2010年にスマホバンキングのサービス化を始めた。現在に至るまでの経緯を振り返ると、まず2010年に顧客の利便性向上や新規性の打ち出しを目的に案件化。収益性の優先順位はあえて下げて臨んだ。2013年には画面タッチや音声の技術進歩を踏まえて戦略を構築した。2015年には「FinTechへの取り組み」を明確にし、スマホバンキングは自前主義でいくか他社連携を採用するかといった戦略実現の手段も再考している。

サービス化からの5年間で口座開設など基本メニューのアプリが揃い、ホームページ上のチャットサービス「みずほMessenger」も始めた。そこで、顧客ニーズという観点から全チャネルの役割を改めて整理。スマホバンキングに代表されるリモートチャネルは口座照会や決済など日常取引における継続的な接点、支店のようなリアルチャネルは住宅購入や退職といったライフイベント発生時の相談窓口と位置づけた。あわせて、自社の提供価値を考慮したリモートチャネルとリアルチャネルの融合「オムニチャネル」もまとめた。

スマホバンキングの一連の取り組みを通じて、バンキングアプリ系は多くの顧客が利用することが分かった。一方、他社との提携に基づくアライアンス案件は新規口座の獲得に貢献する。最近の営業現場では、前述の「トラノコ」などを利用して「おつりで資産運用というものをやってみたい」とおっしゃるお客様も多く、口座獲得のキラーコンテンツの一つになっている。

アライアンスは、「API (アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」と「キャッシュレス」の両分野でも有効なアプローチである。特にキャッシュレス案件では、銀行口座と直結する仕組みと、一般論として銀行への信頼感を背景としたサービス展開を目指すことを除き、自前主義は基本的に採らない方針だ。

総合金融コンサルティングに向けたデジタル基盤の確立には、アライアンスを最大限に生かす必要がある。外部にも目的達成の手段としてアライアンスを積極的に呼びかけている。

しかし、アライアンスありき、技術ありきの案件はときに“打ち上げ花火”となる。例えば、当行でも、2011年にATM・店舗検索アプリにAR(拡張現実)機能を搭載したが、AR自体の利用は少ない。金融機関のデジタルチャネル戦略では、顧客中心主義を起点として、コンセプトやデータの流れ、アライアンスを採り入れたスキームづくりが求められる。まずは顧客の利便性を向上して、その結果として収益の獲得やコスト削減がある。何よりも、顧客体験価値を上げていくことが非常に重要と考える。

金融機関におけるデジタルマーケティング施策
~ネクストベストアクションと顧客360°ビューの実現~

【講演者】
日本オラクル株式会社
バンキング・イノベーション・アドバイザー
ディレクター

内田 克平 氏

データ分析や勘定系などのパッケージのほか、オラクルではデジタルマーケティングの領域においても世界最大級のクラウドサービスのラインアップとシェアを誇る。特に金融機関向けクラウドサービスでは単純な商品のオファーや購買支援に留まらず、金融機関と顧客が長年にわたって良好な関係を構築できるよう、カスタマージャーニーを捉える─顧客の行動・思考・感情などをトータルに把握する─ことをコンセプトに掲げている。

デジタルマーケティングにおいては、ターゲット層を定義し、セグメントごとの特徴とどんなデータが得られるかを捉えることが重要だ。当社では、資産形成層や金融資産を3000万円以上保有する上位資産形成層を「既存顧客層」、それ以上の金融資産額を「富裕層」、口座を保有しているもアクティブに資金が動いていない顧客を「新規層」と定義している。

既存顧客層や富裕層の顧客には金融機関の営業担当者が付いて個々人にアドバイスを行う。そのため、営業の接触履歴のほか、取引履歴、家族情報、職業や事業に関する情報、SNSの情報など、マーケティングに利用できるデータは多岐にわたる。一方、新規層の顧客には基本的には営業担当者は付かない。そのため、デジタルを駆使して顧客と接点を持つ際には新規層をターゲットとすることが多いが、基本的にはATMの利用履歴やウェブサイト・スマートフォンでの行動履歴ぐらいしかあつかえるデータがない。

パーソナライズのためのデータに制限がある新規層へ効果的なマーケティングを行うため当社が提案しているのが、第三者が提供する、「サードパーティデータ」の活用だ。一般的には行政や調査会社が提供するデータがイメージされるが、当社では独自にサードパーティデータを集積・提供する「データ・マネジメント・プラットフォーム」を設けている。プラットフォームでは50億のデジタルIDを管理しており、複数のデジタルデバイスやブラウザのIDから同一人物かどうかを判定したり、販売がうまくいった顧客モデルを設定して、似た顧客の属性データを抽出したりできる。

他方で、既存顧客層では基本的に、長い付き合いの中で次の商品、次のサービスへとつなげていくことが求められる。そのためには1日、1カ月、3年と短期から長期にわたって顧客のライフジャーニーを徹底的につかんでいく「360°ビュー」という発想が重要だと考えている。

例えば米国大手銀行の事例では、「3年後に車を買う」といった顧客のゴールを設定し、その実現のためのサポートを行う「ゴールベースアプリケーション」を用いて、顧客から直接データを取得して「360°ビュー」を構築している。アプリケーションでは、ゴール達成のためのアドバイスを提供するため、顧客にさまざまな情報を入力してもらう。本人の属性情報から、ビジネスのつながりや所属しているクラブやサークルといったソーシャルなつながりなどだ。本人だけでなく、家族の分も含めて登録してもらえれば、それぞれの現在の資産状況だけでなく今後どれぐらい資産を築けるかの未来予測も分析できる。

アドバイスの内容もカーローンをライバル金融機関と比較し最も得するプランを提示したり、顧客と似た属性の人の傾向(車の車種、カーリースの利用率、ローンの利用金額など)を提供したりできる。また、「子供を対象とした非課税口座の紹介」や「高校進学に必要な資金の例示」などゴールに関連しないものの、顧客の人生にプラスとなる提案もライフサイクルに合わせて行える。

もう一つ重要なのが、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益やコストも勘案した「ネクストベストアクション」を営業担当者に促すことだ。当社の「オラクル・ファイナンシャル・サービス・カスタマー・インサイト」では、顧客の入力データやビッグデータを用いて予測モデルを構築しており、それぞれの顧客にモデルを適応し、最適なアクションを促せる。

有効なデジタルマーケティングには、いかに効果的に施策を実行できるかがポイントとなる。当社では、顧客のニーズやジャーニーをどのように把握・整理し、得られた視点からサービスを考えて、実際に展開できるようになるまでをサポートするワークショップを開催している。ぜひマーケティングと営業双方の担当者に活用していただきたい。

潜在顧客を掘り起こす新しいブランド広告の姿と、
その事例の紹介

【講演者】
GumGum Japan株式会社
Head Of Sales

松本 亮 氏

【講演者】
株式会社常陽銀行
ダイレクト営業部 企画グループ長

丸岡 政貴 氏

昨今、インターネット広告業界では「運用型広告」をめぐる問題が波紋を呼んでいる。そもそも運用型広告とは、閲覧状況に応じて配信先や料金などが自動的に変化する広告を指す。一般的に、運用型広告は、CTR(クリック数)を上げるため、ユーザーの特性に応じて自動的に広告の配信先を拡大する。しかし、この仕組みが時に広告主の意図していない不適切なサイトにまで広告を表示してしまい、企業ブランドイメージを毀損するという事態を引き起こしている。ほかにも、不正に閲覧数を操作し広告費をだましとる「アドフラウド( 不正取引)」や、「ビューアビリティー(視認性)」が低いにも関わらず、表示回数に応じて一定の広告費を広告主に請求する問題などがある。

こうした背景もあり、日本国内でネット広告に対する不信感は広がりつつある。某調査によれば、「ネット広告で不快な気持ちになったことがある」と回答した人の割合は約75%、そのうち半数以上の人が「閲覧中のページとは関係ない広告が表示されたから」と答えている。クリック数を追求するあまり、広告表示に注意を払ってこなかった広告業界の姿が浮かび上がる。今後、ネット広告は、「ユーザーに良い印象を与え、表示される内容が確実に視認され、自分事として受け止めてもらえる」広告へと転換する必要がある。

当社の人工知能(AI)と自然言語処理技術を活用した画像認識テクノロジーは、運用型広告に偏る日本のネット広告市場の変革につながると考える。具体的には、ユーザーが閲覧する記事の中にある画像や文字情報を読み取り、どのような記事内容かを理解する。そのうえで、関連性の高い広告を出したり、望ましくないサイトでの広告配信を制御したりできる。識別の精度は高く、例えば車のパーツの一部を読み込ませるだけで、車の車種や年式、価格を割り出してくれるほどだ。ライフイベントに特化したマーケティングが注目される金融業界において、当社の画像認識テクノロジーを採用することで、ユーザーの関心事項をリアルタイムに捉えたターゲティングが可能になる。さらに、広告配信先を適切に管理できるため企業ブランドを守ることができる。

常陽銀行は、茨城県を中心に商圏を構える地方銀行だ。現在は、栃木県の足利銀行との経営統合により、めぶきフィナンシャルグループを形成している。

当行がウェブ広告事業に力を入れ始めた背景には、地銀を取り巻く環境の変化が関係している。長引く低金利の影響により、全国の地銀が厳しい経営環境に置かれる中、新たな収益源として無担保ローンに脚光が集まるようになった。その後、各行の無担保ローン分野への取り組みが進むにつれてウェブ広告の活用も広く浸透していった。同時に、各行が地域外へ商圏拡大に動き始める中で、ウェブ広告の入札単価は高騰する状況にあった。こうした局面において、新しい広告市場の開拓や、広告の精度向上による投資対効果の改善が必須であった。

そこで、当行はGumGum社のテクノロジーの採用に踏み切った。GumGum社のテクノロジーでは、記事の中の写真や文面と商品の親和性が高い場合にのみ広告が表示される仕組みのため、ユーザーは商品の利用を想起しやすくなると考える。また、ブランドイメージを毀損しにくく、広告の無駄打ちの抑制につながる点も評価したポイントだ。加えて、クリック回数に応じて利用料金が変わる成果報酬型の広告ではなく、固定料金の広告にすることで、表示回数を安定的に確保しつつ価格変動を抑えることができると考えた。そのほか、広告がユーザーの目に触れることを重視する観点から採用を決めた。

GumGum社のテクノロジー採用の実績として、CTRが0.66%となっており、常陽銀行として掲げる目標水準の0.5%を超える成果がでている。また、ビューアビリティーは、88.82%となっており、日本のウェブサイトの平均水準の2倍以上を確保できている。今後、当行は無担保ローンだけでなく、そのほか商材の広告戦略への適用を検討している。

AI×行動データの『モーメント分析』で
データドリブンマーケティングを加速させる

【講演者】
株式会社ビービット
エグゼクティブマネージャ / エバンジェリスト

宮坂 祐 氏

デジタル化の進展に伴い、マーケティングの在り方が変わろうとしている。その起点が、2007年のスマートフォン(スマホ)の登場だ。スマホの普及は、人々が常時ネットに繋がる状況を作り出し、生活を大きく変化させている。実際に、1日のスマホの利用時間は増加傾向にある一方、テレビの視聴率は低下しており、各人が接触するメディアが分散している。

こうしたなか、大量の人に向けた情報発信とチャネルの確保を組み合わせ、できるだけ多くの人を購買に結びつけようとする「ファネル型」のマーケティングモデルでは十分な成果を得られなくなっている。今後は、顧客と寄り添い、いかに離れがたいサービス・体験を作るかという「ジャーニー型モデル」への転換が求められる。

ジャーニー型モデルのマーケティングで先行するのが、日本よりもデジタル化が進む中国だ。例えば、大手総合金融グループの中国平安保険は、金融サービスを中核に、医療や飲食、住居、移動、娯楽の5つの生活領域に関連するアプリサービスを提供することで顧客との接点作り出し、日常生活から金融サービスに誘導する動線を確保することに成功している。

同社は、各アプリを通じて、顧客のペインポイントを解決し、それによりアプリの利用者を拡大。アプリから取得した顧客情報を活用し、適切な金融サービスの提案につなげるなど顧客体(ユーザエクスペリエンス)を改善している。また、ユーザエクスペリエンスの向上は、顧客のロイヤリティを高め、継続的なサービス利用に繋がっている。

データをもとに顧客状況を理解し、顧客体験の継続的な改善を図り、収益向上につなげるマーケティングのプロセスを「UXグロースハック」と呼ぶ。これをいかに磨くかがデータ活用の鍵となるのだ。

UXグロースハックの実現には、効果的なデータ活用が欠かせない。そのためには着目するデータを見極める必要がある。従来のデータ分析は、ページビュー数やコンバージョンレート(CVR)、直帰率や離脱率などの集計データに着目するケースがほとんどであった。集計データは、全体の傾向を把握するうえで重要な指標となるが、これらの数字がどのような状況で生じた結果であるのかを捉えるのは難しい。そこで、集計データに加えて、顧客一人ひとりの行動データに着目する「モーメント分析」のアプローチに注目が集まっている。モーメント分析を行うことで、集計データだけでは読み取れなかった顧客の行動の状況や背景が読み取れるようになる。

近年、マーケティングの世界で話題となっているのが、「データドリブン(DataDriven)」と「人工知能(AI)」だ。多くの企業が関心を示す一方、データ活用をマーケティングに結びつけることができている企業は少ない。また、AIの活用に関しても、技術の可能性は感じつつも、どのように活用するかについて検討中の企業がほとんどだ。

デジタルマーケティングにある程度力を入れている企業でも、「成果につながらない」や「ツールをうまく使いこなせていない」、「部門横断的なUXを設定できていない」、「データを扱える人が限定されている」など、さまざまな悩みを抱えている。

こうした企業は共通して、集計データを基にした具体的な改善施策の企画でつまずく場合が多い。そこで当社は、企画立案を効率よく実施するため、AIと行動データを組み合わせたモーメント分析を提唱している。

例えば、膨大な情報の中からAIが「Where(どの点に特徴があるか)」を抽出し、人間はその情報に関して「Why(なぜそのような特徴があるのか)」、「How(どのように生かすか)」を考える。AIと人間がそれぞれ得意な分野を担うことで、企画立案を含めたデータドリブンマーケティングのサイクルがうまく回ると考えている。

効果的なモーメント分析を実現するのが、2017年3月に当社がリリースした『USERGRAM(ユーザグラム)』だ。

ユーザグラムは、各顧客の行動の流れを把握できるだけでなく、収集した顧客情報の中から「会員登録をした人」、「商品購入をした時間帯」、「購入金額が〇〇円以上の人」などあらゆる条件に合致する人を絞り込むこともできる。そのため、顧客の行動の背景や理由を予測することが可能になる。また、抽出された顧客情報から共通点を導き出し、マーケティングに生かすことで効率的な顧客誘導につなげることができる。

イオン銀行のデジタル&マーケティング戦略
~お客さま満足度No.1への挑戦~

【講演者】
株式会社イオン銀行
執行役員
デジタルマーケティング統括部長

山本 洋一郎 氏

イオン銀行は現在、全国で2700万人の会員を抱えるイオンカードのイシュアを行っている。当行が成長軌道に乗る契機となったのは、2014年にイオンの中期経営計画の4シフトの一つに「デジタルシフト」が掲げられたことだ。それを受けて当行は「スマホシフト」の戦略をとった。実際、顧客の生活パターンや金融取引も変化しつつある。2014年にはネットとリアルで半々だった申し込みは、2018年にはネットからの申し込みが65%を超えるまでになった。

このような環境変化から、当行では顧客がスマートフォン(スマホ)を通して新しさや楽しさ、便利さを体感できるようなデジタル&マーケティング戦略を採用している。中でも重視しているのが、直感的で自己完結できるユーザーインターフェース(UI)を実現し、ユーザーエクスペリエンス(UX)を向上させること、そしてデータドリブンな組織へ変革していくことだ。

データドリブンな組織への変革は、①次世代への技能引き継ぎ②分析者の組織へのロイヤリティの低さ(定着しにくさ)③分析専門組織の必要性に対する社内理解の共有─という3つの悩みの解消からスタートした。

①のスキル伝承のためには内部育成ができる分析組織の組成、②の分析者の定着に対してはロイヤリティの高い新入社員をゼロから分析者に育てることで解決を図った。そして、それらのために必要なアナリティクスセンターの設立を中期経営計画に盛り込み、③の分析専門組織の必要性に対する社内理解の共有を乗り越えることができた。

以前は組織内に散らばっていた分析者は、今ではアナリティクスセンターに集約されている。将来的にはアナリティクスセンターがハブ的な役割をもち、各部門に一人ずつ分析者を置くことで、データに基づく意思決定が可能な組織を目指している。

消費行動の仮説では「AIDMAモデル」や「AISASモデル」が有名だが、当行は顧客の金融行動から「e-seasモデル」を考案した。顧客の金融行動はまず、イベント(event)から始まる。例えば、住宅を購入するというイベントに伴い住宅ローンのニーズが発生するといったケースが考えられる。それを受けた顧客の次の行動が、インターネットなどでの検索(search)だ。
 検索の結果たどり着いた企業とのエンゲージ(engage)を深めるのが3つ目のステップになる。日本では一般に、金融リテラシーがあまり高くないため、企業はこのステップにおいて教育(education)の役割も果たす必要があるだろう。

エンゲージを深めた結果起こるのが、申し込みというアクション(action)だ。そしてその後も、企業は継続的なサポート(support)を行っていくことになる。これらの頭文字をとったのが「e-seasモデル」だ。当行ではこのモデルをカスタマ―ジャーニーと結びつけ、マーケティングに組み込んでいる。

例えばイベントのステップでは、住宅購入などの金融行動につながるイベントを見逃さないために、アナリティクスセンターで顧客の消費行動と金融行動の結びつきを見出す試みを進めている。次のインターネット検索のステップでは、SEO(サーチエンジンへの最適化)の強化が主たる対策だ。これにより、当行のホームページへの年間自然流入数は125%に増加した。

またエンゲージのステップでは、ポータルサイトやアプリのUI、UXの向上に取り組んでいる。ポータルサイト上にお金に関するコラムを掲載することで、エデュケーションの面も充実させているところだ。他にも、顧客のアクションを促進するために住宅ローン申し込みの入力項目削減などを行っている。

これからもお客さま第一の理念に向かいお客さまがより便利にネットとリアルを使い分けるオリジナルな「イオン銀行」を目指していく。また、データサイエンティストの育成にも注力していきたい。分析力だけでなく、ビジネスを実現する力も兼ね備えたハイブリット型のデータサイエンティストの輩出が、アナリティクスセンターの役割の一つだ。

テクノロジー進化の速い現代において、アライアンスはますます重要性を増している。単独の銀行、金融機関だけではできないことを、ぜひ当行と共に成し遂げていただきたい。

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