- 3G、VUCAの時代を生き抜くための財務
- 財務部門が主導する企業価値向上 ~改訂コーポレートガバナンスコードを踏まえた新たな役割~
- デジタル時代の経理・財務業務基盤 ~インテリジェント・オペレーションへの変革~
- グローバルネットワークにおける国際税務の課題と戦略的活用
- 効果的な経営支援へのCFO ~経理・財務・経営企画の役割と課題~
3G、VUCAの時代を生き抜くための財務
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基調講演
【講演者】
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コニカミノルタ株式会社
財務部長田中 亨 氏
コニカミノルタは2003年にコニカとミノルタが経営統合し、持ち株会社コニカミノルタホールディングスとして活動を開始した。2006年8月には双方の創業事業である写真フィルム・カメラ事業から撤退という事業ポートフォリオの転換を果たし、その後、経営体制の再編により再び事業会社としてグループ一体となって歩みをはじめた。現在は材料・光学・画像・微細加工などの分野におけるコア技術と200万社に及ぶ厚い顧客基盤を強みに、課題提起型のデジタルカンパニーを目指している。
当社は経営統合以来一貫してジャンルトップ戦略を取り続け、コア技術の補充発展や人財・ノウハウ強化のため、グローバル規模でM&Aを積極的に推進するなど、環境変化に合わせた経営判断を行ってきた。これによりGroup化、Global化が進展し、それに伴うリスクの増大によりGovernanceの重要性が増している(3G)。
また、VUCA(volatility,uncertainty,complexity,ambiguity)と言われるように、現代の市場環境は先を見通すことが困難だ。このような環境を生き抜くためには、グループ本社が各グループ会社に横断的な働きかけを行い、経営資源を適切に配分する機能を果たすことが重要だ。
当社の財務部門では、コーポレート財務機能を見直し、①財務部主導のモニタリングとコントロールによりグローバルでの資金・財務取引・財務リスクを統合的に管理すること、②財務の安定性と効率性の最適バランスが保たれるような資本政策を実施することの2つを目標として掲げた。その第一歩として、グローバル財務管理の基盤構築をすべくTreasuryManagement System(TMS)を導入した。金融機能を担う日本、シンガポール、欧州、北米、中国の5つの拠点を取りまとめるグローバル・トレジャリー・センター(GTC)が中心となり、財務ガバナンス体制を構築している。
TMSは、企業や企業グループ全体の資金管理、財務リスクマネジメント、金融商品への対応などを一元的に行うシステムのことだ。財務領域において当社が改善すべき3つの課題、①資金の可視化、②グローバル為替管理、③関係会社間決済のキャッシュレス化のいずれにおいてもその効果を発揮している。資金の可視化については、グループ各社が抱える資金の通貨・額をリアルタイムで把握できるようになり、グループ全体のキャッシュが見える化したことで、連結ベースの現金保有高を50%圧縮することに成功した。グローバル為替管理については、TMSにより各通貨ポジションを把握し、これまで各国子会社が個別に現地の銀行とやりとりしてきた為替ヘッジを日本本社で集中管理することで、為替差損を極小化することに繋げた。関係会社間決済のキャッシュレス化については、インハウスバンクにより国内資金決済の約35%を占める関係会社間決済をすべてキャッシュレス化し、資金決済コストの圧縮、財務業務の効率化を実現した。現在はリージョンごとの取り組みが中心だが、今後はグローバルでもCMS の取り組みを推進し、資金効率化を図っていきたい。
TMS導入にあたってはグループ内のコンセンサスを取ることがとても重要であると感じている。各社の資金はグループ全体に帰属するものであるという認識をベースとした全体最適の視点を醸成することが成功の鍵だ。
その他、文書電子化が前提となるが、テレワークとRPA導入による働き方改革も積極推進している。各部門でRPAを独自開発、保守・運用できるようプログラミング教育にも注力し、財務部門では目標30業務を掲げ、既にその大半をRPA化している。今後も時代の変化をいち早く読み、新しい時代に即した事業会社のあり方、財務部門のあり方を追求していきたい。
財務部門が主導する企業価値向上 ~改訂コーポレートガバナンスコードを踏まえた新たな役割~
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【講演者】
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インテグラート株式会社
代表取締役社長小川 康 氏
インテグラートは、ビジネスプランニングの研究に基づき、不確実な事業環境での事業投資業務支援と生産性の向上に一貫して取り組んできた。事業投資、すなわち設備投資・R&D投資・新規事業投資・M&A投資等の計画立案・リスク評価・意思決定・実行管理プロセスをコンサルティングとソフトウエアで支援している。本日は、事業投資を成功に導き企業価値を向上させるための手法について紹介したい。
日本版スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの登場により、近年は企業に対し、今まで以上に持続的な成長に関する説明責任が問われるようになった。事業投資は、中長期の成長に不可欠なものとして投資家からの期待が集まる一方、安定した本業では生じない規模の損失を生み出す可能性も高く、その推進には適切なリスク評価が求められる。しかし現状多くの企業において、事業計画は数字合わせによる達成根拠のない売上予測・利益予測となり、本来収支計画の妥当性を評価すべき財務部門は、その計画の内容やリスク要因を十分に理解できていないことがほとんどだ。結果として、見切り発車の事業計画が走り出し、そのまま計画が失敗に終わるというケースも多い。財務部門は事業部門に積極的に関与し、意思決定に際し十分に計画の内容を理解し、計画がスタートした後も継続的なリスクマネジメントをしていくことが求められている。
事業計画管理の具体的手法として、仮説指向計画法(Discovery-DrivenPlanning)を紹介したい。これは、企業の大きな失敗を防ぐためのリスクマネジメント手法として、巨額の損失を出したアメリカ企業の失敗例に基づき開発されたものだ。仮説指向計画法(DDP)では、事業が失敗する要因を「仮説(たら・れば)が外れるから」とシンプルに定義している。ここでいう仮説とは、この製品のコストダウンが30%できたら…、サービス展開が他社より早くできれば…といった、事業計画を構成する「成功に必要な条件」のことを指す。仮説指向計画法(DDP)においてもっとも重要なことは、この仮説を明確にすることだ。仮説を明確にし、継続的に検証を行うことで、妥当性の高い事業計画の実施と柔軟なリスクマネジメントを目指していく。
仮説指向計画法(DDP)の考え方を実務で用いる際、事業計画の数値計算に用いた仮説と設定根拠を記載した一覧表を作成・管理することが有効だ。計画立案の段階では一覧表をもとに売上・利益予測の妥当性を検討し、意思決定においては数値のみならずその仮説の内容、すなわち「我々は何に賭けているのか?」について必ず関係者間で合意を取る。意思決定後は一覧表を定期的に確認し「その仮説はまだ生きているのか?」を繰り返し検証することで、仮説が外れてしまった場合にも、次の一手を検討することができる。この二つの質問で仮説の設定根拠を管理することにより、事業投資の成功確率を上げていくことができる。実務では、計画立案・リスク評価・意思決定・実行管理のプロセスにこれらの内容が組み込まれていくことになるが、事業部門と財務部門とでプロセスごとに担当が異なるため、情報共有不足が起こりやすいという課題もある。事業部門に対し情報共有のメリットを具体的に示すなど、情報共有しやすい仕組みづくりをする工夫が必要だ。
当社ではこのような手法を活用しつつ、企業の事業投資を成功に導き、中長期の成長を支援していきたいと考えている。事業投資業務プロセスの運用を支援するインフラシステム「DeRISK」を2019年1月から販売開始するなど、より手軽に事業投資管理を行える環境整備にも努めている。関心がある方は、ぜひ気軽にご相談いただきたい。
デジタル時代の経理・財務業務基盤 ~インテリジェント・オペレーションへの変革~
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【講演者】
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ジェンパクト株式会社
代表取締役社長杉浦 英夫 氏
Genpactは「デジタル」を核とした業務変革の支援を行っている企業だ。元はGEのシェアードサービスセンターとして歴史をスタートし、バックオフィス・ミドルオフィス業務を担う中で、製造現場の品質改善で培った品質管理手法「リーン・シックスシグマ」をホワイトカラーの業務効率化に適用することで成果の創出に取り組んできた。2005年の独立以降は、そこで培った知見を活かし、現在は17ヶ国70以上のデリバリーセンターから、約8万人の従業員がグローバル企業の業務変革に当たっている。
近年、業務変革の領域にもデジタルの波が押し寄せ、かつてはコスト削減や生産性向上のみを目的としていた業務変革は、CX(顧客体験)の改善やコンプライアンス対応、売上向上など、様々な目的に向けて行われるようになった。競争力を確保するために、各社がデジタル化を推進していくことが求められるが、その推進にあたり、足元の課題を認識しておくことが重要だ。現在多くの企業では、業務に取り入れているシステムやデータが社内の各部署で分断されている。これにより、システムでサポートされていない隙間業務が発生したり、データや業務の連携において人手が発生したり、ワークフローの分断化により効率性が損なわれたりと、様々な問題が生まれている。RPAは小ロットのシステムとして、現在のシステムの枠組みを変えることなく個別業務の処理を自動化できるため、現在盛んに取り入れられているが、最終的なゴールとしては、フロント・ミドル・バックオフィスのフローを一体的に効率化したAIとも連携したインテリジェント・オートメーションを目指していかなければならない。
デジタルと一口に言っても、業務に創造的破壊をもたらすテクノロジーには様々ある。代表的なものとしてRPA、機械学習、AI、コグニティブ、アドバンスド・アナリティクス、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン、インメモリーコンピューティングの8つがあり、これらを活用することで、経理・財務業務の自動化の可能性は大きく広がっている。RPAはその第一のステップだ。RPAによる業務の自動化を開始点に、将来を見据えながら長期的なAI戦略の構築を並行して進めていく必要がある。そのためには、トップダウンにより組織全体での業務見直しを行い、無駄な業務を排除し標準化や集約化に取り組む過程で必要な業務を自動化していくことが重要だ。経理財務業務では、買掛金や売掛金の処理、経費精算処理や資金管理のプロセスなど、RPAの適用で平均約40~60% の業務の自動化が期待できる。例えば、基幹システムへのデータの登録や帳票の作成などは、RPAが得意とするところだ。
RPAによる自動化を入り口に、AIや機械学習も活用していく必要がある。AIと機械学習は、不正防止やコンプライアンスチェックなど、財務機能の中でも特に人の目につきにくいものを見つけ出す業務において強みを発揮するほか、データからのインサイト抽出、プロセス最適化など、CFOの意思決定支援にも活用することができる。インサイト抽出にあたっては、アドバンスド・アナリティクスの活用も極めて有効だ。当社では、業務変革のためのソリューションやツールをベンダーフリーで多数取り扱っている。すべての業務変革の基礎となるプロセス可視化の支援から始まり、お客様の状況に合わせたコンサルテーションやツールの提供、ノウハウの一体的または部分的な提供が可能だ。今後、グローバル視点で組織横断的に業務プロセスを効率化していくグローバルビジネスサービス(GBS)の考え方を中心に据えた業務変革や、継続的な成功のためのスキル育成によるデジタルケイパビリティの醸成などに積極的に取り組んでいきたい。
グローバルネットワークにおける国際税務の課題と戦略的活用
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【講演者】
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東京共同会計事務所
江良 泉 氏
2017年1月にトランプ政権が発足し、アメリカで法人税の大型減税を中心とする大規模な税制改革が実現された。業績不良になどによる税収減リスクを伴う直接税よりも、消費に伴い確実に回収できる間接税の重要性が増しているのは世界的な流れとなっている。一方で、間接税、特に関税に関する自社のコストを正しく認識している企業はまだ少なく、コスト対策も行われていないのが実態。東京共同会計事務所は、5年前から関税対策のサポートを行う専門部署を立ち上げ、経済産業省から委託を受けてEPAに関する相談窓口を設けている。現在累計で1万件を超える様々な相談が寄せられ、関税に対する日本企業の意識は徐々に高まっていると言える。
関税をコントロールしていく上で、自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)について理解しておくことが重要。貿易の際は、全ての国に対し世界貿易機関(WTO)で定められた一定の関税率(MFN 税率)が適用されるが、FTA・EPAによって特定の国家間で取り決めを締結している場合、その取り決め内容に応じて通常よりも低い関税率が適用可能だ。トランプ政権では、保護主義政策を推進する中でいくつかの手法を用いているが、その1つがFTAの枠組みの中で行われており、すでに締結済みのFTAに関し条件の再交渉を行ったりしている。この流れに対抗するために、またサプライチェーンのグローバル化や2国間FTAの増加によるルールの複雑化などを背景に、近年多国間で結ばれる自由貿易協定(メガFTA)が台頭しつつある。日本も2019年には日EU EPAやTPP11の発効を控えている他、RCEPも交渉中である。
メガFTA活用のインパクトは大きい。まず、二国間のFTAに比べて規模が格段に大きく、現在発効済みのFTAでは世界全体の貿易額の22.5%しかカバーできていなかったものが、RCEPまで含めるとそのカバー範囲は60%を超える。主要国は競ってFTAカバー率を増加しており、グローバルビジネスにおいてFTAを用いることは今や常識となっている。さらに、FTAの活用による関税コストの削減は、営業利益にダイレクトに影響を与える。例えば、売上高100億円、材料費30%、営業利益率4%の企業が関税コストを3%削減すると、削減した関税コスト約1億円はそのまま営業利益に加算され、それだけで営業利益25%増を実現できる。日EU、TPP11、RCEPのメガFTAが発効し日本企業のFTA利用可能範囲が劇的に拡大することで、今後FTAの活用は競争力確保のために必須の取り組みとなるだろう。
他方、FTAには複雑なルールが設定されており、活用においてコンプライアンス上の問題が発生した場合、関税の追徴・罰則等のペナルティーが発生する場合がある。ペナルティーの多くは意図的な不正ではなく解釈違いや間違いによるものだ。FTAを実際に活用するには、原産地基準など、FTAを適用可能か判定するための複雑なルールを正しく理解する必要がある他、専門知識の習得や関係部署との連携が必要になる。さらに、日EU、TPP11では日本商工会議所で証明書が発行出来ず、各社が自己申告書類を作成する必要があるなど、既存のFTAよりも企業への負担が大きい。これらの課題解決のためには、関係部署と横断的にかかわる専門組織の設置が有効だが、より手軽な方法として、当社ではFTAの判定や申告の支援を行うソリューションを用意している。専門知識を持った会計士・税理士らが多数在籍しているため、導入前の懸念事項に対し個別のアドバイスをすることも可能だ。今後グローバルでビジネスを展開する上で、FTAを活用した関税コスト対策は急務であろう。ご関心のある方はぜひ気軽にご相談いただきたい。
効果的な経営支援へのCFO ~経理・財務・経営企画の役割と課題~
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【講演者】
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スリーエムジャパン株式会社
代表取締役 副社長執行役員昆 政彦 氏
CFOをはじめ、経理・財務・経営企画部等の管理部門が果たすべき役割とは何であろうか。一般的には「説明責任」を果たすことであると理解されているが、スリーエムジャパンでは、そこに「執行責任」も含まれると考えている。結果に過ぎない過去の財務数値にとらわれるのではなく、経営を成功に導くために、事業部門と同じ目線で数字の裏側を読みとく視点を持つことが重要だ。バックミラー型、すなわち過去を映し出す鏡に過ぎなかったこれまでの管理部門は、未来を照らすヘッドライト型に変革していかなければならない。
ヘッドライト型の管理部門を目指すための3つの柱を紹介したい。第一の柱は「社長と同じ目線に立つ」ことだ。本来予算とは、戦略を伝達するための機能を担っているものであるが、多くの企業で経営戦略と予算は分断されており、予算を策定する側が戦略を理解しておらず、予算の根拠を説明することができないために、現場において予算の裏にあるメッセージを読み取ることができないという問題が生じている。管理部門は、CEOが掲げる理念と、その理念が落とし込まれた中長期経営計画、さらにはそれをブレイクダウンした年度予算を一気通貫で理解することが重要だ。当社では、5つの事業分野をグローバルで展開しているが、経営の方向性を示すための5カ年計画を毎年策定し、それをベースにした初年度計画の策定、予算計画、事業戦略の策定、ビジョンとの照合というサイクルを一体的に回している。
ヘッドライト型の管理部門を目指すための第二の柱は「市場と同じ目線に立つ」ことだ。これは自社にとっての最適な資本構成を見つけ、そこから導き出される必要キャッシュフローを達成する視点を持つことだ。このとき、事業市場や企業能力から導き出されるキャッシュフローとの間に生じるギャップをどう埋めるかが課題となるが、管理部門はこの課題をクリアにするために、自社における価値創造ストーリーを理解し、事業部門に働きかけていかなければならない。
第三の柱は「戦略実行目線に立つ」ことだ。戦略実行に当たって管理部門には二つの大きな役割があると考えられる。まず一つめは、価値創造ストーリーを加速させる価値創造プロモーターとなることだ。価値創造ストーリーにおいてはイノベーションを発生させることが重要であるが、特にビジネスに直接結びつくイノベーションに対し管理部門が積極関与し、育んでいく必要がある。当社では、エンジニアに自主性を与える企業文化を醸成することや、良質な知を得るためのコミュニケーションの場を与えること、製品と分離した技術蓄積環境を用意することなどに取り組んでいる。技術の蓄積は、例えば、もともとOHP機器に使われていた高精細表面加工技術を交通標識や液晶テレビ、スマートフォン用フィルムに展開させたように、新たな価値創造ストーリーを生み出すものである。二つめは経営支援の役割だ。当社では、経営企画部門にあたるビジネスカウンセルというポジションをCFOの直下に置くことで、事業戦略と財務諸表の両方を見据えながら各部署への予算配分等を行える体制を整えた。また、アクションベースのフォワードルッキング会計を採用することで、予測のPLを作りながら事業部門にリアルタイムで数値のフィードバックが行えるように整備している。財務諸表も、公表用のものだけでなく内部管理用のコントリビューションPLを作成し、各国ごと、地域ごとのPLを実態に近い形で把握できるようにしている。
当社ではこのように、管理部門・事業部門が一体となって経営を推進している。当社の取り組みを通じ、これからの管理部門の役割を考えるヒントとしていただければ幸いだ。