外部ベンダーと有価証券運用システムを開発 運用管理や発注を“オールインワン”で実現[日本生命]


日本生命とグループ会社のニッセイ情報テクノロジーは、ブルームバーグ・エル・ピーと協業し、日本生命の新たな有価証券運用システムを開発・導入した。スピード対応が求められるIT課題の解決に、「オープンイノベーション」は欠かせない。日本生命の資金証券部 専門部長の藤盛信氏と財務企画部 担当課長の郷司環志氏に、有価証券運用システムの特徴や、グループが掲げるIT戦略について聞いた。

  1. ポートフォリオの多様化にIT基盤強化で対応する
  2. グループ会社間で共同利用 追加投資や時間コストを抑制
  3. 低金利環境下での長期・安定した収益拡大へ
目次

ポートフォリオの多様化にIT基盤強化で対応する

─日本生命が有価証券運用業務のシステム化に取り組んだ背景は。

藤盛 日本生命では、安定的な収益確保を目指し、ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)の考え方に基づいて、バランスの取れた分散型ポートフォリオの構築に努めている。当社は、超低金利環境の長期化に伴い、海外企業の社債に投資する海外クレジットや伝統的資産とは異なるリスク特性を持つファンドなど、成長・新規領域への投資を強化してきた。

その結果、ポートフォリオの多様化・複雑化が進み、有価証券の約定業務やポートフォリオ管理業務の業務負荷が増加。タイムリーなポジション管理や投資意思決定の制約となることが資産運用部門の課題となっていた。

資産運用部門は、厳しい運用環境下でも運用力の強化が恒常的に求められる。そこで、投資行動を下支えするIT基盤を強化する必要性を認識し、2017年に運用部門関係者でワーキンググループを組成した。構想に1年、開発に2年を費やして、当社の新たな有価証券運用システムが誕生した。このシステムは、「証券取引システムパッケージ」と「ポートフォリオ管理システムパッケージ」によって構成されている。

─システム導入効果について。

郷司 当システムを構築する際、グループ会社のニッセイ情報テクノロジーは、ブルームバーグ・エル・ピーと協業で開発と導入を進めた。これまで国内生保向けに特化してきたニッセイ情報テクノロジーの有価証券運用システム「NISSAY IT-XNET」と、グローバル展開するブルームバーグの証券取引・ポートフォリオ管理機能との間でデータ連携し、包括的な自動化・効率化を実現している(図表1)。

「証券取引システムパッケージ」は、債券や株式などの売買取引を実施する際、発注やレート比較、取引執行といった業務を行うための電子取引システムだ。従来まで取引先と電話やメールで行っていた発注や約定情報のやり取りを電子化したことで、例えば、電話対応では難しい複数引き合いなどのスムーズな対応が可能となった。

約定後の取引結果の内容照合においても効率化が図れた。システム間でのデータの移し替えは、これまでは手作業でダウンロードやアップロードを介して行うなど煩雑さがあったが、一連の処理を包括的に自動化した。

藤盛 他方、「ポートフォリオ管理システムパッケージ」は、当社の保有する独自データとブルームバーグ内のデータの組み合わせを指す。従前、担当者は社内のデータベースから手作業でダウンロードし、エクセルやアクセスなどのツールを用いて、データ加工や集計を行っていた。

こうした定例業務を広範囲に自動化できたことに加え、パフォーマンス分析や相場変動時のポートフォリオへの影響分析など、より高度な分析を正確かつ迅速に実施。このように、ポートフォリオ管理における手作業が自動化されたことで、投資対象資産の運用分析に割く時間が確保でき、利回り向上やリスク抑制への貢献が期待できる。

グループ会社間で共同利用 追加投資や時間コストを抑制

─システム導入後、どのくらい業務改善効果が見られるか。

郷司 発注業務とポートフォリオ管理を合わせて、年間1200時間の時間的コスト削減を想定している。また、当システムが対象とする資産はおよそ60兆円(時価ベース)であり、利回り改善による収益への影響は大きい。マーケット環境などにもよるが、運用利回りが向上するよう有効活用していく方針だ。

藤盛 ブルームバーグが提供するシステムソリューションは、世界中の運用関係者が利用しているため、グローバルのユーザーニーズが結集されている。ブルームバーグも継続的に機能高度化を図っていくだろう。自社開発の独自システムの場合は、機能を拡張するたびに追加投資を考慮しなければならない。しかし、当システムを利用すれば、追加投資に依存せずにポートフォリオ管理や売買執行の継続的な高度化が可能となる。

日進月歩で進化するテクノロジーの世界では、スピードも重視される。グループ会社ごとに業務ルールやシステム設計、思想などが異なる中、すべてを調整しながら開発を進めていくには膨大な時間が必要と考えられることから、グループ会社のリソースだけを活用してゼロから開発を進めていくより、ブルームバーグのような外部リソースを取り入れ、1年でも2年でも時間的コストを短縮できることは重要だ。

─ブルームバーグと協業した経緯と期待する効果は。

郷司 当システムはグループ会社間での共同利用が可能な点も強みと言える。グループベースでの運用体制強化を下支えするIT基盤としての活用可能性を見出せるからだ。もともと当社の運用担当者が活用してきたブルームバーグシステムを、さらに有効活用できる面からもIT基盤強化が図れるだろう。

今回の開発プロジェクトでは、国内外の保険会社やアセットマネジメント会社の計11社に外部ベンダー導入状況をヒアリングした。豊富な運用実績を持つ外部ベンダーを複数検討したが、投資部署の担当者向けのデモを通じた評価結果や、IT投資に対する効果の両面から、最終的にブルームバーグを選定した。

ブルームバーグとの協業を推す意見として多かった声は、もともと当社の投資部署担当者が市況の調査・分析やニュースをチェックする際に活用しているブルームバーグのシステム上で、自社ポートフォリオ管理や発注が“オールインワン”で実現できる点だ。今回のプロジェクトを通じ、グループ会社の持つ機能を組み合わせたことで、自社の既存システムの統合を推進できた。

低金利環境下での長期・安定した収益拡大へ

─「有価証券運用業務システム」を他社の類似システムと比較した際の優位性は。

藤盛 システムはあくまでも業務課題解決の手段であり、同じシステムであっても利用方法が会社によって異なる。他社システムと一概には比較し得ないものと考慮した上で我々が言えることは、外部パッケージと既存システムの統合的な利用を、グループ会社のニッセイ情報テクノロジーの支援の下、グループ一体で実現できたことが一つの実績となった点にあると考えている。

当社の旧有価証券運用業務システムは、ニッセイ情報テクノロジーが提供するサービスや同社による開発・保守により基盤強化を進めてきていた。しかし、有価証券領域に限らず、良いものは外部リソースも含めて導入・活用することで業務改革は起こすことができる。今後はより積極的にオープンイノベーションを志向し、当社の運用力強化に寄与するIT基盤の構築を、効果的かつ迅速に実現可能な方法を常に採択していきたい。

郷司 先述したように、新しい有価証券運用システムの開発は、ポートフォリオ管理や発注にフォーカスを当てて進めてきたが、融資や不動産といったほかの領域でも外部ベンダーとの協業を検討中だ。我々は、現場の担当者のIT課題の解決を、いかに迅速かつ低コストで実現できるかを信条に調査を進めている。外部リソースをどう自社に取り込んで、単純な効率化に留まらず業務の質を向上させるかなど、高度化につながるものを見極めるため、プロジェクトの検討には非常に注力している。

─今後のIT戦略の展望について。

藤盛 当システム開発プロジェクトは、5つの投資部門を横断し、外部ベンダーを含めて50名ほどが開発に携わる過去にない大規模なものとなった。グループ全体の様々な思いを集約する機会はなかなかない。各投資部門がひざ詰めでコミュニケーションを取り合い、まだ出来上がっていないシステムに対してどんな使い方が有用なのか議論を重ねたことは、非常に有益な時間だった。ただし、関係者が増えれば増えるほどスケジュール通りに進めることが難しくなる点は課題だ。

2019年末から本格稼働したこのシステムは、「ポートフォリオの概要とマーケット環境の変化が素早く把握できる」と好評だ。各部門から、新しい使い方をしたいとの声も日々挙がっているとも聞く。そうした状況に備え、将来的にポートフォリオを現状とは別の切り口で見るといったことも、柔軟に対応できる設計だ。

郷司 ブルームバーグは運用関係者にグローバルに利用されているパッケージシステムであり、当社の資産の保有の有無に関わらず幅広い投資対象の分析が可能だ。そのため、新たな投資対象を検討する際、当該システムのリスク分析機能などを活用することで、従来対比で対応力の向上が見込める。

また、今回のプロジェクトにより、グループ会社間でポートフォリオ管理機能の共同利用が可能となったことで、グループベースでの運用体制強化を下支えるプラットフォームとしての活用や、グループ会社への機能拡張も含めて検討可能と考えている。当社は、さらなる投資手法の多様化など資産運用の高度化を通じて、低金利環境下での長期・安定的な収益拡大に努めていく。

インタビュー

日本生命
資金証券部 専門部長
藤盛 信 氏

1997年入社。運用リスク管理室で市場リスク管理、クレジット投資部で社債
運用を経験。以降、円債・円金利デリバティブのポートフォリオ
マネジメント、短資運用等を担当。2020年3月より現職。

インタビュー

日本生命
財務企画部 担当課長
郷司 環志 氏

2006年入社。証券管理部にて有価証券バックオフィス業務、Nippon Life
Global InvestorsAmericas, Inc.(日本生命の資産運用現地法人)で外国債券
運用を経験。以降、資産運用部門におけるIT戦略策定・企画、システム開発
プロジェクトマネジメント等を担当。2019年3月より現職。

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