【連載】金融機関の新しい人材育成―セルフコーチング① 金融機関は働き手の課題に取り組むフロントランナー

【連載】金融機関の新しい人材育成―セルフコーチング① 金融機関は働き手の課題に取り組むフロントランナー

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日本の働き手を取り巻く環境には、働き盛り人口の減少、低い労働生産性、低いエンゲージメントと、多くの課題がある。コロナ禍を経て、働き方が変わり、部下に対するマネジメント方法も変わってきている。金融機関は、テレワークなどの新しい働き方やキャリア面談など新たな施策の定着化に、先行して取り組んでいるフロントランナーである。

  1. 働き手の現状
  2. 金融機関の取り組み
  3. 金融機関は働き手の課題に取り組むフロントランナー

働き手の現状

令和3年版厚生労働省白書によると、日本の20~64歳の人口は、2015年に7,028万人だったのが、2025年には5%減って6,635万人、2065年には約37%減り4,189万人になるとと予想される。一方で、75歳以上の人口は、2015年に1,613万人(13%)、2025年に2,180万人(18%)、2065年に2,248万人(26%)となる。このままいくと、40年後には働き盛りの人口が現在の2/3になり、75歳以上の高齢者が全体人口の1/4を占める。

労働生産性の国際比較2021概要(公益財団法人日本生産性本部)によると、2021年の日本の労働生産性は、OECD加盟38カ国中28位である。就業者一人当たり労働生産性は78,655ドルと、米国の約半分となっている。

2017年、米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント調査(State of the Global Workplace/GALLUP PRESS)によると、日本の「熱意あふれる社員」の割合が6%と米国の32%と比べ大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスだった。
働き盛り人口の減少、低い労働生産性、低いエンゲージメントと、働き手の現状には、多くの課題がある。

金融機関の取り組み

2020年に入り、日本でも新型コロナウィルスが拡がり始めた。国や自治体からテレワークの実施が推奨され、多くの金融機関がテレワークを推進した。テレワークガイドラインや環境の整備、オフィスの縮小やフリーアドレス制の導入、さらにはジョブ型雇用と、感染予防の対策が新しい働き方に変わるきっかけとなった。
2022年2月に帝国データバンクが発表した「企業がテレワークで感じたメリット・デメリットに関するアンケート」によると、金融機関のテレワーク実施率は、全業界で最も高く77.8%となっている。さらに「メリットの方が多い」との回答は、66.7%と高い数値を示している。

多くの金融機関では、テレワークの浸透に伴い、これまで検討してきた施策を加速させ、上司部下の1 on 1ミーティングやキャリア面談などを定着させている。上司のプレイングマネジャー化が進んでいたところに、非対面の業務遂行が日常となり、会社に行けば自然と仕事を覚え、キャリアアップしていく時代は過去のものとなった。
1 on 1ミーティングにより、上司が部下に丁寧に向き合い、部下の話に耳を傾け、部下の強みを引き出すことが求められている。
筆者は、1 on 1を実施されている金融機関の管理職の方に感想をお伺いしたところ、部下は、「話を聴くことで安心する」「仕事ぶりを見ていると伝えることで安心する」「褒めることでやる気を出す」といったコメントをいただいた。一方で、「どうしても時間がかかる」「管理職の負担が増えている」という言葉もいただいた。今後は、忙しい管理職をサポートする仕組みを考える必要が出てくるだろう。

寿命と雇用期間が延びる中、会社が全社員のキャリアに責任を持つことは、現実的ではない。キャリア面談において、自己分析やキャリアプランを作成し、自分のキャリアは自分で考え、そして行動することが促されている。

金融機関は働き手の課題に取り組むフロントランナー

働き盛りの人口が減り、生産性が低く、エンゲージメントも低い日本において、コロナ禍が働き方を大きく変えた。その中でも、金融機関は、テレワークを積極的に導入し、1 on1ミーティングやキャリア面談の定着化を図りながら、時代に合った人材マネジメントに果敢に取り組んでいる。金融機関は、日本の働き手を取り巻く課題に対し、先行して取り組んでいるフロントランナーである。

次回は、人材育成について解説する。

寄稿
ピープルエナジー株式会社
代表取締役
伊集院 正 氏
保険会社を経て、1999年KPMGコンサルティングに入社。ITリスクマネジメントおよび金融機関のコンサルティングに従事する。2017年より金融セクター担当の執行役員パートナーとして、金融ビジネスの拡大に寄与。2022年、ピープルエナジー株式会社を設立し、従業員セルフコーチングプログラム「Change」の提供をスタート。