【連載】金融機関の新しい人材育成―セルフコーチング② 金融機関の人材育成を補完するセルフコーチング

【連載】金融機関の新しい人材育成―セルフコーチング② 金融機関の人材育成を補完するセルフコーチング

印刷用ページ

多くの課長は、プレイヤーとしての仕事が忙しく、部下マネジメント業務に時間を割けていない。金融業界に入職する人材は減少傾向にあり、理系人材の採用もそれほど伸びていない。金融機関は、資格奨励などにより人材育成を進めているが、貴重な人材の育成の要となる管理職は多忙なため、管理職の部下マネジメントを補完する仕組みが求められる。セルフコーチングは、この解決策の一つとなる。

  1. 管理職の現状
  2. 金融機関の人材動向
  3. 金融機関の人材育成を補完するセルフコーチング

管理職の現状

「第6回上場企業の課長に関する実態調査(学校法人産業能率大学)」によると、プレイヤーとしての仕事が11~20%を占める課長は15.7%、41~50%は14.5%、71~80%は13.0%となっている。81%以上を占める課長も7.6%いる。プレイヤーとしての仕事が無い課長はわずか0.5%である。99.5%の課長がプレイヤーとしての役割を兼務している。

プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障があるかを尋ねたところ、「とても支障がある」が10.9%、「どちらかといえば支障がある」が38.6%である。約50%の課長は、プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障をきたしている。

課長として「期待されていること」と「応えられていないこと」のギャップを尋ねたところ、ギャップとして最も大きなものは、「長期的なキャリアを見据えた部下育成」となっている。

課長として悩みを感じていることを尋ねたところ、トップ3は「部下がなかなか育たない」「部下の人事評価が難しい」「職場の(or自分の)業務量が多すぎる」である。部下マネジメントにもっと時間を割きたいが、忙しくて対応できない、部下をどう評価してよいのかわからない、その結果、部下がなかなか育たない、といった現状が見えてくる。

部下育成の取り組みについて聞いたところ、「能力開発の機会提供」および「キャリア形成支援」がともにできている方は50%となっている。約半数の課長は、中長期的な成長を見据えた部下とのかかわりができていないと言える。

多くの課長は、プレイヤーとしての仕事が忙しく、部下マネジメント業務に時間を割けていない。特に、部下の能力開発にかかわる機会提供やキャリア形成支援は、必要と認識しながらも約半数の課長が実施できていない。

金融機関の人材動向

金融機関の中でも銀行の就職ランキング、採用数は、ともに低下している。メガバンクの2015年の新卒採用数は5,000名超だったのが、2023年春は1,100名となる予定だ。
「厚生労働省雇用動向調査結果」によると、2016年までは金融機関への入職率が離職率を上回っていたが、2017年からは2020年を除き離職率が入職率を上回るようになった。これは、金融業界の人数が毎年減ってきていることを意味している。

「東京大学の概要(東京大学)」によると、医学系研究科および薬学系研究科を除く大学院理系学生の金融業界への就職は、2015年より増加傾向にあるが、4%を下回っている。米国金融機関のIT人材が日本の金融機関の10倍以上と言われる中、理系人材の採用人数は、まだまだ少数だ。

「ITパスポート試験統計情報勤務先別一覧表」によると、金融機関のITパスポート受験者は激増している。2021年度の応募者数は約6万人で、6年前の約20倍、3年前の約8倍だ。ITパスポートの資格取得を必須としたり、推奨としている金融機関が多いようだ。

デジタル社会となり理系人材が求められる中、理系人材の採用は、それほど伸びていない。管理職が忙しく、人材育成にあまり時間を割けていない中、金融機関は資格取得の奨励などを進めている。

金融機関の人材育成を補完するセルフコーチング

金融機関は1on1ミ―ティングの定着や資格奨励などで人材育成を進めている。しかし、近年金融業界の人材は減少傾向にあり、理系人材の採用も増えていない。多くの管理職はプレイングマネジャーとして多忙を極め、貴重な人材の育成に十分な時間を割けていない。
管理職の部下マネジメントを補完し、部下がキャリアを自ら考え歩んでいく人材育成の仕組みが必要だ。自分で自分をコーチングするセルフコーチングは、この解決策の一つとなる。セルフコーチングを身に着けることで、問題にぶつかった時、悩んだ時、落ち込んだ時、自ら進むべき方向が明らかになり、自信をもって行動することができる。

次回、セルフコーチングの理論と方法について解説する。

寄稿
ピープルエナジー株式会社
代表取締役
伊集院 正 氏
保険会社を経て、1999年KPMGコンサルティングに入社。ITリスクマネジメントおよび金融機関のコンサルティングに従事する。2017年より金融セクター担当の執行役員パートナーとして、金融ビジネスの拡大に寄与。2022年、ピープルエナジー株式会社を設立し、従業員セルフコーチングプログラム「Change」の提供をスタート。