- 新型コロナの怖さ ― 息苦しさがないまま肺炎が進む
- 酸素飽和度の目安 ― 95で救急車を呼ぶ。92で酸素供給を開始
- パルスオキシメータ ― 1人1台、常備して酸素飽和度を計測
- 呼吸する姿勢 ― フラットに寝るより、少し頭を起こす
新型コロナの怖さ ― 息苦しさがないまま肺炎が進む
新型コロナの初期段階では、肺の炎症が広がっていても、息苦しさを感じたり、咳込むなどの自覚症状がないケースが多い。本人が、そもそも異変に気付かなかったり、しばらくすれば回復するのではと思ったり、もう少し様子をみてみようと考えたりする。このため、医療機関を受診するタイミングを逃してしまいがちだ。
PCR検査で陽性と判断されると、ホテルでの隔離療養となる。ホテルが決まるのに時間がかかる。ホテル入所後、症状が悪化してはじめて、入院に至る。
入院してはじめて、CT、レントゲン、血液検査が行われ、肺炎の状況が分かる。数日間で肺炎は広がってしまうので、入院して検査を受ける頃には、肺炎が広がって、重症化していたりする。
下手をすると、入院する病院が決まる前に命を落とすという最悪の結果となる。
私自身の経験を紹介すると、発熱・発症した当日とその翌日、Zoomで研究会の司会を務めたり、大学でオンライン授業を行っていた。一時的に体温が39度まで上がったが、解熱剤の処方を受けて37度台に低下した。何の問題もなく、1時間30分の大学授業を行うことができた。息苦しさなどは全く感じなかった。
ただ、今から思い返すと、大学のオンライン授業中に1、2回、咳が出ることはあった。少し喉の調子が悪いなという程度で、まさか大事に至るとは考えていなかった。
発症から3日目、PCR検査の結果が分かり、新型コロナ・陽性と判定された。体温は、解熱剤を飲んで37度台になった。酸素飽和度もパルスオキシメータで、日々、計測していたが、96、95であった。普段よりも若干低めと感じたが、誤差の範囲と思い込んでいた。
当時、私自身は、静養すれば回復に向かうだろう、と甘い期待を抱いていた。一時的にせよ39度の高熱が出たこと、また、咳も出ていたことは、肺が炎症を起こし始めている兆候ととらえるべきであった。酸素飽和度が95というのも、本当は入院を要するレベルであったことを後で知った。
私は、保健所の医師と相談し、ホテル療養にすることにした。万一、症状が悪化すれば、そのとき入院を申し出ればよいと考えていた。今、振り返ると甘い判断だった。
ホテル療養になったが、その翌日、酸素飽和度が一時的に85まで低下した。意外かもしれないが、静かにしていれば、咳込むこともなく、息苦しささえ感じなかった。パルスオキシメータの故障だと疑い、取り換えてもらったほどだ。
夜21時頃、新しいパルスオキシメータで酸素飽和度を計測し直しても、90に届かなかった。素人の私でも、酸素が不足していることに不安を覚えた。このまま就寝し、酸素飽和度が低下して倒れてしまっても、誰も助けてくれない。翌朝10時にホテルに詰めている看護師が電話をかけてくるまで誰も気づかない。
この段階で、私自身が入院しようと判断して、ホテルに申し出た。ホテルの従業員は看護師に連絡した。看護師と内線電話で話をした。看護師は「東京都の担当者に、これから連絡して入院先を探します」と言った。こうして、23時頃、都立広尾病院に救急搬送された。
救急搬送をしてもらうだけでも、数時間の時間を要している。症状が悪化して、息苦しくなってから申し出たのでは遅い。判断のタイミングが遅れると、まさに「命取り」になる。
酸素飽和度の目安 ― 95で救急車を呼ぶ。92で酸素供給を開始
新型コロナに感染する前から、パルスオキシメータで酸素飽和度を計測していたが、酸素飽和度の危険レベルに関する知識がなかった。
酸素飽和度は、99~96が正常値と言われている。測り方次第では95になることもある。私は、コロナ発症してから、ときどき酸素飽和度が95になっても、誤差の範囲だと思い込んでいた。
PCR検査で陽性になると、毎日、保健所から健康状況を確認する電話がかかってくる。そのとき、「酸素飽和度が95に低下したら、救急車を呼んでください」と明確な指示を受けた。新型コロナ感染者の場合、95で入院治療を要するのかと驚いた。そのように言われても、率直なところ、本当に95で入院を要するのだろうかと、半信半疑であった。
酸素飽和度は96,95のレベルだった。96の値もあることから、保健所の医師と相談の結果、ホテル療養に決めた。
療養先のホテルでは、パルスオキシメーターを1人1台、渡される。指を変えて何度か計測し、高い値を記載するように指示を受ける。指を変えて計測しても、95以下の場合は、入院治療に移すかどうか、ホテルに詰めている医師、看護師と内線電話で相談する。療養ホテルでも、酸素飽和度で95のレベルが、入院判断の材料になっていた。
新型コロナ専門病院の都立広尾病院に移ると、酸素飽和度が94、93というのは経過観察レベルだ。「今、酸素飽和度は93ありますから、自律呼吸ができています。大丈夫ですよ」と言われた。モニタリングは必要だが、すぐに死に至る危険なレベルではない、という意味だ。
しかし、酸素飽和度が92以下に低下すると、現場の看護師の表情が途端に厳しくなる。「酸素が足りていませんね。酸素供給をはじめましょう」と言われて、ただちに酸素マスクやゴムチューブを使って酸素供給が始まる。
はじめは1L/分からはじまり、私の場合は3L/分の酸素供給を受けた。同室の患者のなかには、5~7L/分の酸素供給を受けても、酸素飽和度が上がらない方が複数名いた。彼らは、重症病棟に移された。おそらく気管挿管、ECMOなどの生命維持の集中治療を受けることになったのだと思う。
入院時に、万一の場合は、気管挿管、ECMOによる生命維持を望むかを聞かれ、承諾している。家族の同意も得ている。
パルスオキシメータ ― 1人1台、常備して酸素飽和度を計測
新型コロナの場合、息苦しさなど自覚症状がないケースが多いため、酸素飽和度の情報は、病状を自己判断するうえで重要だ。
今や、酸素飽和度を計測するパルスオキシメータと体温計は、家庭に常備しておくべきだ。家庭内の感染対策を考えると、1人1台の常備が必要だ。
保健所によっては、新型コロナ陽性者には、パルスオキシメータを貸与しているが、台数に限りがあるうえ、手元に届くのに数日かかる。
家庭に、パルスオキシメータと体温計を常備して、普段から計測する習慣が大事だ。
私の場合、新型コロナに感染する前から、体温計とパルスオキシメータは、家庭に1台ずつ常備して、毎日、朝・晩、体温と酸素飽和度を計測していた。家庭内での感染対策はあまり意識していなかった。今は1人1台を常備している。
もう一つ、感染前から常備していたのは、スポーツ用の酸素缶だ。5L缶8本を常備していた。昨年12月頃、第3波が起きたとき、救急車の搬送先が見つからず時間がかかるというニュースをみて購入を決めた。効果があるかどうかは分からず、単なる「気休め」と考えていた。実際、5L缶1本は5分足らずで空になってしまう。
ただ、病院での酸素供給は1L/分ではじまった。5L缶が8本あると、30~40分間は酸素供給ができる計算だ。自宅で、酸素飽和度が低下し、救急車を呼んだとき、到着するまでの一時的な酸素供給には使用できると思われる。その意味では、「気休め」とも言い切れない。手元にあれば安心かもしれない。
呼吸する姿勢 ― フラットに寝るより、少し頭を起こす
都立広尾病院に入院したとき、はじめに、仰向け・フラットに寝るよりも、少し頭を起こした姿勢のほうが、気道・胸が広がって呼吸が楽になると教えられた。確かに、ベッドを調整してもらうと、呼吸がしやすい。
病院のベッドは、ボタン一つで、頭を起こすなど姿勢を制御できる。自分でボタンを操作して、色々試してみると、姿勢によって酸素飽和度が大きく変化することが分かった。
私の場合、退院直前まで、仰向け・フラットの姿勢にすると酸素飽和度は低下した。横向きに寝ると酸素飽和度が90程度に下がってしまって、慌てることもあった。退院前後から、酸素飽和度をチェックしながら、仰向け・フラット、横向きに寝る練習や深呼吸をする練習を行った。
- 寄稿
- 正太郎(しょうたろう)
金融、ガバナンス、リスクマネジメント、監査の専門家。
金融専門誌にコラムを執筆。
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