新たな感染の波が立ち上がった
新型コロナウイルスに感染した。この1年間、会食はしていない。平日は自宅とオフィスとの往復のみ。昼食も一人で食べる。休日の外出は、全くないわけではないが、人込みは極力避けていた。保健所に「感染経路不明」と判断された。個人的には、感染力の強い変異種に通勤途上で感染した可能性を感じる。
療養ホテルに隔離され、その後、新型コロナ専門病院で入院治療を受けた。そのとき、みかけた新型コロナの陽性者・患者は、圧倒的に20、30代が多い。療養ホテルでは、小学生とその母親が、何組も収容されていて驚いた。新型コロナ専門病院では、同室の若者が、大量の酸素供給を受けながら投薬治療を受けても回復せず、重症病棟の集中治療室に移っていくのも見た。
変異ウィルスの新たな感染の波が立ち上がり、新型コロナとの戦いのフェーズは明らかに変わった。多くの専門家が一致して指摘する変化点は、以下の4点だ。
- 感染力の高い変異種の広がりがみられる。
- 幅広い年齢層で感染が拡大している。
- 若くても感染し重症化する事例が増えている。
- 感染経路が不明なケースが圧倒的に多い。
変異種が感染力を高めていること、また、元気に活動する者が感染を広げていることは間違いないだろう。感染経路が不明なケースが圧倒的に多いということは、飲食などの場に限らず、通勤・通学、職場・学校、屋外を含めた人が集まる場所での感染を否定できない。
人流の抑制と抗原・PCR検査の積極的活用が必要
ウィルスの感染力は強まり、ワクチンは、まだ行きわたらない。感染を抑えるには、①人流の抑制と②抗原・PCR検査の積極的な活用による陽性者の隔離収容しかない。
政府・地方自治体の動きをみると、「人流の抑制」というフレーズが使われるようになった。広島など一部の地方自治体では、抗原・PCR検査を拡大する動きもみられるようになった。しかし、まだ全国的な取り組みにはなっていない。
ウィルスは生き延びるため、来年も再来年も、より感染力の強い変異種を生みだすだろう。ワクチンの効果が減殺されてしまう可能性もある。もはや現行の感染対策を続けていれば、万全と言える状況ではない。
個人的な見解だが、緊急事態宣言下、人流の抑制、経済活動の制限を行う法的整備は絶対に必要である。それに伴う損失補償と迅速な支払いの仕組みもワンセットで整備しなければならない。
人流の抑制、経済活動の制限は、憲法上の私権制限に関する議論を惹起して、国会審議が混乱したり、選挙に影響することを政治家は懸念している。赤字国債の発行が巨額に膨らんでいる日本の財政状況では、到底、経済損失を補償し切れないというのが財政当局の本音だろう。だから重要な論点にもかかわらず、これまで、まじめに議論されてこなかった。
現在の飲食、サービス業者に偏った営業自粛、時短の要請と不完全な損失補償では、国民の間に不公平感や分断を生む。その効果も不十分であるため、短期集中での収束は難しい。かえって、長期間、リバウンドを繰り返す結果を招いている。
現行の感染対策で十分という判断は甘い
人流の抑制、経済活動の制限には、さまざまな経済団体、協会から反発、批判が聞かれるようになった。
とくに、大規模な商業施設、イベント会場、映画館等では、感染の報告がないため、現行の感染対策で十分と考えている向きが少なくない。営業自粛、無観客開催の要請に対して、強い反発、抗議を示している。
テレワーク、オンライン授業が大きく進まないのも同じ理由だ。交通機関での感染の報告はない。通勤・通学は感染リスクを伴うという認識が必ずしも形成されていないため、危機意識がなく、さまざまな理由をつけて、テレワーク、オンライン授業に消極的な企業・学校が少なくない。
感染の報告がないのだから、これまでの感染対策で十分である。人流の抑制、経済活動の制限をするならエビデンスを示せ、と声高に主張している。これ以上の経済損失には耐えられないとか、新型コロナ対策への疲れや飽きの気持ちもあり、現行の感染対策で十分ではないか、これ以上、何をしろと言うのだという意見への同調を生んでいる。
しかし、冷静に物事を考えれば、感染の報告がないことをもって、感染の事実がないと決めつけることはできない。感染の事実を把握できていない、ということもあり得る。
大規模な商業施設、イベント会場、映画館、交通機関が実施している現行の感染対策に意味がないわけではない。それらは、大規模な感染クラスターを抑えることはできていると判断して、まず間違いではないだろう。ただ、それらの場所で、小規模の感染が繰り返されていたとしても、その事実が報告されず、感染経路が不明となっているのかもしれない。エビデンスが判明してからでは、感染対策は後手に回ってしまう。
現時点で、最も重要視すべき事実は、感染経路が不明な事例が大多数になってきたということである。感染経路について、残念だが何も把握できていないというのが実情だ。「急所」をおさえた感染対策は理想であるが、感染経路を把握できていない以上、「急所」がどこかは分からず、成功するわけがない。
感染者が増え、その経路が明確に分からないのであれば、結局、人と人の接触の中で、ウィルスは感染するという前提に立ち返り、対策を考え直すしかない。
感染者数が増えているのか、減っているのか、その結果をみれば、ウィルスの感染力との相対比較で、現行の感染対策が十分かどうかは分かる。感染者が累増しているのであれば、現行の感染対策は十分ではない。
感染対策としては「ロックダウン」が効果的で公平。短期で終わり、経済損失も少ない。
個人的には、国・地域全体を対象とする「ロックダウン」を行うのが最も効果的で、最も公平な感染対策だと思う。
飲食・サービス業を狙い撃ちにして営業自粛、時短の要請をするのではなく、社会的機能を維持するエッセンシャル・ワーカーを除いて、全員がステイ・ホームを徹底することが、最も有効で公平な対策だ。「ロックダウン」の期間は定めず、ステージ1に落ち着くまで続ける。
「ロックダウン」というと、大変なことのように思えるが、1回目の緊急事態宣言のときを思い出してほしい。「ロックダウン」に近い人流の抑制、経済活動の制限が行われた。やり過ぎという評価は不当だ。感染者数を最小限に抑えることができたのは、1回目の緊急事態宣言のときだけだ。
2回目以降の感染の波は、いずれも検疫・水際対策の失策から、変異種の侵入を許したため、引き起こされた。一部業種に対する営業自粛、時短の要請しか行われず、感染者数は十分に低下しなかった。それにもかかわらず、緊急事態宣言を解除したため、リバウンドが起きたのだ。同じ過ちを繰り返すなかで、感染の波は、確実に高くなっている。今、起きていることを直視するべきだ。
また、「ロックダウン」の期間中に、抗原・PCR検査を積極的に活用して感染者を隔離収容することも、併せて行うことも重要だ。
咳、のどの痛みなど少しでも症状がある者に対しては、抗原・PCR検査を受けるように徹底する。無症状の者に対しても、抗原・PCR検査を受けるよう呼び掛ける。なるべく多くの人に協力してもらうために、検査費用は政府・地方自治体が負担するべきだ。
「ロックダウン」と抗原・PCR検査の積極的な活用以外に、有効な感染対策はない。短期で感染は収束し、経済損失も少なくなる。
- 寄稿
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正太郎(しょうたろう)
金融、ガバナンス、リスクマネジメント、監査の専門家。
金融専門誌にコラムを執筆。
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