- りそなグループのITを活用したオペレーション改革への取り組み
- FinTechのトレンドとワークスタイル変革の本質
- ドキュメントに基づく金融業務改革実現とそのステップ
- 「顧客本位」・「現場主導」の金融業務変革とソリューション
※【特別講演】「東京海上日動のビジネスプロセス改革の取り組み」のレポートはご用意がございません。
りそなグループのITを活用したオペレーション改革への取り組み
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基調講演
【講演者】
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株式会社りそなホールディングス
片山 光輝 氏
本邦最大の信託併営リテールバンクとして、首都圏や関西圏を中心に国内約580の有人店舗を展開するりそなグループにおける、IT活用事例を紹介したい。
りそなでは、お客さま接点を拡充する「オムニチャネルの進化」、地域金融機関連携や、モバイルアプリ活用による首都圏・関西圏以外のお客さま開拓等による「オムニリージョナル体制の確立」、全従業員を対象とした「オムニアドバイザーの育成」の3つを基本戦略の柱として、次世代リテール金融サービスモデルの構築を行っている。
最適なサービス追求のためアライアンスも積極的に行っており、お客さまの生活スタイル等に合わせたサービスをスマートフォン上で提供する「りそなJALスマート口座」、LINE Payへの電子マネーチャージ機能、freeeとの連携による法人向け業務効率化サポート等はその例だ。
また、ブロックチェーン技術活用による国内外送金業務の実現に向けたコンソーシアムにも、幹事行として参加している。
オペレーション改革は、銀行の常識を捨てることから始まり、CSの観点からは、「(お客さまを)お待たせしない」、「(伝票に)お書きいただかない」「(印鑑を)押していただかない」という「3ない」の実現を、事務プロセス改革の観点からは、「ペーパーレス」、「キャッシュレス」、「バック事務レス」という「3レス」の実現を基本コンセプトとして進めてきた。
重要施策の店舗スタイル変革では、ATM、営業店端末、現金入金機を連携DBにより繋ぎ、全ての処理を店頭で完結させるクイックナビの導入や、生体認証による書類記入の廃止等を行った結果、約50%の営業店事務量削減を実現した。
住宅ローンの営業支援システム構築にも力を入れ、案件情報の全てをデータ化し、受付から実行まで一気通貫で協業できる仕組みを取り入れた。融資業務においても、ペーパーレス化や債権回収管理の自動化等の改革を行ってきた。現在は、受付タブレット端末の設置やリモート相談対応等により、更なる店舗効率化を図っている。
これらの改革を支えるりそなのシステムの主な特徴としては、コミュニケーションハブを中心に勘定系と各種チャネルの全てがつながるハブ&スポーク型の構造をとっており、これが連携DB活用によるクイックナビ導入により締上げ時間30分での完了を実現した。
また、銀行識別子を保有し単一の元帳とプログラムで複数行の取引を管理する論理分割方式を採用したことにより、効率的で低コストの運用を可能とし、お客さまへ利便性の高いサービス提供を実現している。
2010年のインターナルプライベートクラウド導入は、7年間で約17億円のコスト削減につながっている。IT人材育成の観点では、業務所管部への異動やアウトソーサーとの相互出向を積極的に行い、ITスキルと業務スキル双方の強化を図っている。
メインフレーム更改対応においては、互換性担保のない最新OSへ一気にジャンプアップするという、それまでの常識を覆すチャンレンジを行ったことが、最大の成功要因だったと言える。
米国IBM本社へのサポート要請や、綿密なプロジェクト計画策定により、日本の金融機関で初となる最新OS導入を実現し、サービスの早期リリースと、約30億円ものコスト削減を達成した。同時に、情報システムについても利用実態に応じたリストラクチャリングを行い、メインフレームからオープン系へと移行した。
今後は更に、システムの24時間365日稼働、ならびにシステム面に留まらず、店舗営業を含めた完全365日体制を確立すべく、チャレンジを進めていく。
FinTechのトレンドとワークスタイル変革の本質
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【講演者】
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Sansan株式会社
Sansan事業部 マーケティング部
戦略企画マネジャー柿崎 充 氏
数年前までクラウドは金融機関に受け入れられない風潮があったが、最近ではメガバンクがシステムのクラウド全面移行を発表する等、金融機関でもクラウド全盛の時代に突入した。当社が提供しているクラウド名刺管理サービス「Sansan」も、昨年からメガバンクをはじめ複数の金融機関で導入が始まった。
当社では全ての社内システムをクラウド化している。例えば、facebookが提供する企業向けSNS「Workplace」を採用することにより、従来当事者同士のみでやりとりしていたメッセージを全員で共有できるようになった。
特にネガティブな事象が発生した際、管理者や他部門を巻き込んでスピーディーな対応がとれる等、効果を実感している。
ドキュメントの作成・共有や更新には、Googleが提供する「G Suite」を採用し、同一ファイル上で複数人での同時編集が可能となった。これにより情報共有および意思決定に要する時間が大幅に短縮された。
これまで、中央集権型でクローズドな報連相があたりまえだった働き方の構造が、分散・参加型の形に変化しており、それに合わせ、テクノロジー活用の目的も業務の効率化から組織の機動性へと変化している。中央集権的な管理主体を必要とせず、各個人でのやりとりを可能とするブロックチェーン技術も、この現在のトレンドを後押する存在だと言える。
これから注目すべきはAI活用だ。既に音声認識による議事録作成が当たり前にできる時代になっており、オープンソースAIの登場で、あらゆる分野で日常業務におけるAI活用が加速している。
インフラを「つくる、持つ」という自前主義の発想から、次々と新しいサービスが生まれる中で、「捨てる、使う」を繰り返しながら、すぐに試す発想へと変わっていく傾向が、現在のテクノロジートレンドから重要だと見ている。
Sansanの導入目的の約9割は、日本企業の最優先課題であるワークスタイル変革だ。ビッグデータとAIを用いた最近の研究結果において、生産性や、イノベーションを生む創造性の高さは、人とのつながりの多様性と関連性が強いことが明らかになっている。
分散・参加型の組織は、人とのつながりの多様化に有効である。特に、日本企業が遅れをとっているオープンインイノベーションの推進は、この多様性促進の観点からも重要だ。
Sansanは現在6,000社に利用されており、組織のルールや変更が難しいとされる金融機関でも、変革のきっかけとして導入されている。
クレディセゾンでは、全役職員の名刺集約により完成した30万件のDB(データベース)が営業に活用され、新規契約数30%増加に貢献した。
三井住友銀行では、担当者異動に関わらず情報を蓄積できる体制づくりや、近隣支店との情報共有に活用されている。M&Aの場面においても、顧客情報を統合管理する目的で導入されるケースが多く、統合が加速している地方銀行からの問い合わせも増えている。
Sansanが幅広く企業に受け入れられる要因の一つは、スキャナやスマホアプリで名刺を撮影するだけで99.9%の正確性でDB登録が可能になる手軽さだ。
また、Open APIにより他システムとの連携が可能で、例えば、Sansanから訪問先の住所を取得し、経路案内サービスと経費精算システムに連動することで、経費精算と経理事務に関する作業を大幅に削減した事例もある。
このようにSansanの名刺DBを様々に活用し、新たな顧客価値を提供していきたい。
ドキュメントに基づく金融業務改革実現とそのステップ
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【講演者】
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ミールソリューションズ株式会社
取締役 技術統括尾崎 正治 氏
金融ビッグバン以降、金融機関の業務量は、取扱商品の拡大や内部統制の強化に伴って大幅に増加し、インターネットを含めた販路の多様化により、情報管理も複雑化している。資料作成の場面においても、順守すべき消費者保護関連の法令の整備が進んだことで、業務内容の透明化や証跡確保等、業務負担は増加傾向にある。
金融機関が直面する様々な課題は大きく2つに分類できる。1つは、コンプライアンスに準じた販売資料作成を正確かつ効率的に行うこと、もう1つは、社内文書作成や業務記録にかかる間接的な業務コストの削減だ。
これらの課題に対して、我々は2002年の創業以降、保険業界をはじめ様々な業種の企業に、文書処理に関する業務ソリューションを提供してきた。その中で、ドキュメントのライフサイクル管理の導入と、ドキュメントを媒体とした業務改革の実現を、課題解決の指針として示している。
販売資料作成の場面では、作成者のスキルに依存することなく、規定に準じた募集文書の作成や、漏れのない正確なチェック体制で審査が行える仕組みづくりと、その過程の適切な管理が重要だ。
我々は、作成、審査、印刷、保管、共有という、一連のライフサイクルを一元管理する仕組みを提案している。ライフサイクル管理とは、各工程で行われた業務の履歴を管理し、保管されたものを再利用して、また作成に移るという業務の円滑な運用のための仕組みを表している。
提供するシステム・ソリューションは、ユーザー端末への専用アプリ導入を要さないブラウザ経由の編集操作の実現、要素単位での編集や修正を可能にする構造化文書XMLによる文書表現、行程管理DBによる管理の3つを柱として構築している。
販売資料作成時は、サーバーで管理された豊富な種類のテンプレートや高品位なフォントの共用、編集可否を細かく制御できるロック機能、禁止語句チェック機能等が利用できる。審査時は、前回文書との差分を一覧表示する機能や、付箋機能を用いて、効率的なチェックや修正指示が行え、審査ワークフローも文書毎に自動決定することが可能だ。
承認後は文書に修正不可ロックがかかり、必要な場合は印刷会社にリアルタイムでデータが通知され、すぐに印刷を開始することができる。
そして、承認文書はもちろん、審査履歴やコメントもアーカイブとして管理することで後の調査を可能にする等、内部統制の仕組みも備えており、これらの全てを活用して、正確性と効率性の両方を実現している。
この仕組みを社内業務に適用させた、業務改革の提案も行っている。ドキュメントは、基幹システムで分断されている各業務をつなぎ、意思決定の判断材料やプロセスを蓄積する媒体の役割を担っている。
テンプレート利用や基幹システムデータの自動連携、自動化不可部分の差分チェック、ワークフロー処理をシステム化し、操作やコメントを記録できる仕組みを構築し、長期化、高コスト化しがちな基幹システムの変更を求めることなく、これをサテライト・システムとして導入することで、業務プロセスにおける正確性と効率性の実現をサポートしている。
これらを支える要素技術としては、上記ライフサイクル管理で紹介したXMLという基盤フォーマットの利用に加えてHTMLへの変換機能、システムによるドキュメントとデータの自動紐付け、リビジョン情報や回収ステータスの管理機能等が必要となる。
業務の全体最適化に向けたプロジェクトの中では、現行文書の分析、テンプレート設計、基幹システムとのデータ連携等を考慮に入れた文書構造設計のステップが最も重要であり、当社でもここに重点を置いて、顧客企業の業務改革を進めている。
今後はAI技術の導入により、ビッグデータ活用による文章表現チェックやシステム改善等も視野に入れ、より良い提案を行っていきたい。
「顧客本位」・「現場主導」の金融業務変革とソリューション
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【講演者】
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株式会社ジェネックスパートナーズ
取締役 シニア・パートナー安田 雄彦 氏
業務変革を収益力強化につなげるためには、まず顧客視点であらゆる課題解決を図ってファンを増やすことが重要であり、さらにそれを現場が推進できるよう、デジタル・ソリューションを活用した仕組みを作ることが変革の要諦である。それは現場事務の効率化だけでなく、営業現場と本部両方での業務の付加価値をいかに高められるかがポイントとなる。
また、陥りがちな業務変革の落とし穴にも注意が必要だ。業務変革を各部門による部分最適のアプローチと捉え、組織を分断した効率化が行われた結果、顧客視点からは上手くかみ合っていないケースも多くみられる。
グローバルな傾向として、デジタルサービスに肯定的な顧客ほど、相談等の対面サービスや、あらゆる場面がシームレスにつながった顧客体験を求める傾向にある。
日本の金融機関への満足度は、先進他国のそれに比べて半分程しかなく、相談の場として認識される割合も低い。対面、非対面チャネルを全社的にとらえて、顧客に何を提供するのかの問い直しが必要だ。
本日は業務の中からさらなる変革余地のありそうな、「本部のルーティン事務」、「各種業務に関する事務」、「対顧客営業」の3つを抽出し、それぞれの変革の方向性と有効となるソリューション、およびそれらを活用した自律的で持続的な変革を実現させる仕組みについて概説する。
まず、「本部のルーティン事務」の効率化は、ホワイトカラーの業務を自動化するRPA (Robotic Process Automation) ツールの有効活用がポイントだ。導入済企業では劇的な定量効果が既に現れており、少なくとも5倍程度の生産性向上が見込めると言われている。
RPA導入プロセスにおいて、当社では3日間のワークショップを行っている。自動化対象業務の洗い出しからRPA操作設定とパイロット実施までを、担当者自身が実際に体験してもらうことで、自分達だけで持続的に自動化を完結できるノウハウを体得できる。
弊社協業先のデリバリーコンサルティング社が提供するデスクトップ型RPAツール「ipaS」は、様々なアプリケーションとの連携や、簡単な操作性が特徴である。小口分散で投資対効果の視点から最も自動化しにくいとされてきた本部ルーティン事務の自動化が安価で手軽に対応可能となる。
次に「各種業務に関する事務」では、プロセス効率化からさらに進めて「事務そのものの削減」という抜本的な視点が不可欠だ。
IT化や業務センター集中化による店頭バック業務の効率化から一歩進め、窓口第一線での業務をなくすという発想が必要で、セルフ化や非対面チャネルへの誘導を行い、他方で、相談目的の来店を誘導する等、店舗を付加価値の高い相談の場に変えて行く取り組みが有効である。
その際、日常取引のモバイルシフトにおいては、モバイル側で顧客自身が使ってみたいと思うレベルにまで到達することが重要である。
例えば、米国ではUSAA銀行の先駆的なモバイルバンキングをはじめ、バンクオブアメリカのデジタルアンバサダーの店頭配置やチャットボットを使ったアプリによる提案等、新しい仕掛け作りに積極的な各米国銀行の取り組みは参考になる。
最後に「対顧客営業」における改革のポイントは、営業現場が顧客ロイヤルティの現状と課題を理解し、メンバー間で共有し、定期的に改善を行うことだ。ただ、現場任せだと各支店でバラツキが出やすい。
そこで弊社協業先のジェネックスソリューションズでは、接客や技術のバラツキ解消をサポートするツール「ClipLine」を提供している。タブレット端末を使い、1分程度の短尺動画を集めたEラーニングの要素に加え、本支店間の双方向コミュニケーションによる遠隔指導、ナレッジ・ノウハウ蓄積を可能とするこのツールは、他業界でも現場の品質改善に活用されている。
ソリューションをうまく活用した顧客本位・現場主導での金融業務変革による生産性向上の余地は、まだ多くあると考えている。