- 常陽銀行におけるWebマーケティングの取り組みについて
- 金融業界が抱えるオンラインでの課題
~オフラインのノウハウをWeb接客に活用するには~
- 金融機関における顧客接点改革とCustomer360
- Webサイト/アプリのパーソナライズ最前線
~顧客起点のコミュニケーションで効果を最大化するには?~
- 金融業界におけるマーケティングAI活用とは
- iBank が目指す新しい金融サービスのカタチ(neoBank)
常陽銀行における
Webマーケティングの取り組みについて
- 基調講演
【講演者】
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株式会社常陽銀行
ダイレクト営業部
企画グループ 調査役市川 友英 氏
常陽銀行におけるWebマーケティング強化の背景及び取組みの効果を紹介する。高齢者も含めインターネット利用が当たり前となる外部環境を勘案し、行内体制面の強化を実施。2014年には非対面チャネルの企画・運営・顧客接点(コールセンター)部門を1フロアに集約させた。約100名体制の非対面営業体制を構築し、スピーディーな社内決裁を実現している。
Webマーケティングでは、徹底した「ユーザー目線」のマーケティング実践が重要である。顧客の意向や要望をWeb上に落とし込む。特に重要な取組みを5つ挙げる。第一に、ユーザー行動観察調査。ホームページのリニューアル時に、顧客にテストサイトを見てもらい、率直な感想や意見を盛り込んだ。第二に、定期的なアクセス解析。様々なWeb解析ツールを活用し、費用対効果も含めたアクセス解析を定期的に実施している。第三に、コールセンター受付内容の反映。可能であれば即時にホームページを更新するなど、顧客の声をスムーズに反映している。第四に、コンテンツマーケティング。第五に、企業別職域サイトの展開。取引先企業に出向く営業等に加え、企業別のサイトを構築し、その中にも各種ローン等の情報を掲載してプロモーションを展開している。
これらの結果、公式ホームページの年間来訪ユーザー数が直近5年間で約3倍となった。また、無担保ローン申込の約9割をWebで獲得。更に投資信託では販売件数の約6割をインターネットバンキングで獲得している。
無担保ローン分野の具体的な取組事例を紹介する。商品特性上、銀行のローン関連ページは日常的に閲覧されるものではない。その中でどう対応しているか、3つに分けて説明する。
一つ目は、顧客をよく知ること。2017年に自動車ローンのカスタマージャーニーを作成した。当行のローンとディーラーのローンそれぞれの利用者にWebアンケートを実施。顧客の行動や考えを時系列で分析して各施策に活かしている。また、2018年にUSERGRAMを導入。顧客のモーメントのデータ分析、すなわち顧客の行動の逆引きが可能となっている。
二つ目は、集客強化。当行ホームページのページビューランキング上位に、コラムが複数入っている。コンテンツマーケティングにおいて、コラムはかなりの強みだ。このコラムは、女性向けサイトに約100記事掲載しているものであるが、HP内のバナーからコラムへ流入する数はかなり少ない。実際には、コラムへキーワードを埋め込む等のSEO対策を実施することで各種検索エンジンから直接集客を図っている。コラムに広告タグを設置、リターゲティング広告等で追尾することで、獲得強化につなげている。
三つ目は、離脱防止策。EFOツールをローンの入力フォーム全ページに設置。ベンダーから受領した月次レポートを踏まえた改善策の展開を重視している。例えば、借入金額入力での離脱が多かったため、未定の場合は想定金額を入力するよう文言を追記した結果、コンバージョンレートが改善した。またSprocketのWeb接客ツールを導入して各ページ内の導線を強化。更に、各ローンのページに直接「よくあるご質問」を掲載し、その中にQ&Aを追加した。銀行ローンの強みを知ってもらえるQ&Aを上位表示させ、離脱防止を図っている。
今後の展開及び取組みとしては、契約離脱率改善による獲得金額の増加、顧客接点の更なる強化、そしてデータ分析・データ利活用を通じたマーケティング高度化が課題だ。USERGRAMによる分析内容を踏まえてSprocketの接客ツールで改善を図るなど、足元ではかなりの効果が出てきている。これらを通して、Web契約の利用拡大や新規顧客獲得、顧客の利便性及びサービス向上を図っていきたい。
金融業界が抱えるオンラインでの課題
~オフラインのノウハウをWeb接客に活用するには~
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【講演者】
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株式会社Sprocket
代表取締役深田 浩嗣 氏
金融のビジネスは、デジタルの登場により大きく変化している。ユーザーの体験、特に情報に接触するルートの変化が大きい。ただし、デジタルは万能ではない。市場のすべてがデジタルになる訳ではなく、どこかで頭を打つ時期が来る。アナログとデジタルの両方を上手く融合させていくために、どう考えていくのかが重要だ。
温故知新、すなわち、歴史・伝統・安定・アナログといった要素が強みを発揮できる場面が今後も必ずあると考える。これらをどのようにデジタルと融合していくのか。そのヒントが、ユーザーの情報接触態度の変化に隠されている。
昨今、情報を探す場合、とりあえずスマートフォンを見るという行動が中心である。「ながら見」が基本であり、画面は当然小さい。しかし、Webの情報は増えていく一方であり、「ながら見」のユーザーにとって情報過多となっている。情報が見つからなければすぐに帰ってしまう。これまで、デジタルによる情報の発信は、ユーザーが能動的に情報を見つけられるという前提であった。これはスマートフォン時代には成立しない。特に、金融商材はその影響が顕著である。ユーザーと販売側の間に大きな知識の差があり、かつ、興味を持ちにくい。このため、キャンペーンや割引などわかりやすいアピールに流されがちだ。発想を転換し、こちらからユーザーに働きかけるアプローチがあっていいと考える。
古来のおもてなしの発想をデジタルに取り入れ、スマートフォン時代に適した顧客体験を提供し、かつ、結果が出せるマーケティングコミュニケーションを構築する。これを提案したい。「Web接客」と呼ばれ始めているこの手法は、集客の次の段階であるサイト内の改善に位置づけられる。Web接客は、能動的なコミュニケーションが可能な「ポップアップ型」と、ヘルプデスク的な「チャット型」の二つに分類される。後者は人的対応による1to1であり間接的な効果であるのに対し、前者は自動化による1to1であり成果に直結することが特徴だ。
ポップアップ型Web接客は、リアルタイムでユーザーの行動を追跡し、タイミングを見計らってあたかも声をかけるように情報をプッシュする仕組みである。同時に効果測定を行い、結果の分析及び改善の実施を行う。どの検討段階にユーザーがいて、どの時点で離脱されるのか。それに対し、予防的にどのように声をかけていくか。このような発想で組み立てていく。
常陽銀行のマイカーローンの事例では、「何をお探しですか?」と四つの選択肢を提示。何を見ていいかわからないユーザーの心理に対処するために、選択肢を絞ることが重要だ。また、声をかけるタイミングをユーザーにとって適切な頃合いに設定している。
三井住友カードのリボ払いの事例では、「このサービスはご存知ですか?」と能動的に案内をかけ、その先のコンテンツに誘導。商材に興味がないユーザーも、知っているかと問われれば、少し話を聞いてみる心理になる。結果、リボ払いの申込が2.5倍に上がる効果が出ている。
メディケア生命の生命保険の事例では、シミュレーションが終わった頃合いで、「納得したプランが作成できましたか?」という声をかけている。三つの選択肢中に、「家族でじっくり考えたい」という、家族事の商材に有効なキーワードを入れることで、その後の資料請求につなげている。
これまでとは違う切り口により、オンラインでも接客的なコミュニケーションを取り入れることが可能である。Sprocketでは、ツールの導入、コンサルティング、改善施策にトータルで対応可能であり、9割以上の顧客が費用対効果の目標を達成している。コンバージョンを上げたい方、Web接客に取り組みたい方は、ぜひ当社のサポートをご活用いただきたい。
株式会社Sprocket :https://www.sprocket.bz/
金融機関における顧客接点改革とCustomer360
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【講演者】
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株式会社セールスフォース・ドットコム
デジタルマーケティング事業本部
マーケティングクラウド営業部 第二営業部 部長岩渕 史武 氏
金融業界は現在生き残りを賭けた厳しい時代に突入している。異業種からの新規参入、GAFAへの競業と協業、新たなテクノロジーへの適応等、課題が山積しているなか、お客様のニーズは刻々と変化している。デジタルの急速な普及に伴いサービスの利便性は引き上げられる一方、データ保護への不安なども大きい。このような状況のなか、デジタルを活用し、お客様に対しどのような価値を創造することができるだろうか。
Salesforce Researchの調査*によると、消費者の約8割が企業のサービスに対し顧客体験の一貫性がない、約7割が企業は自分たちのニーズを正しく理解できていない、約6割が企業は自分たちの行動に基づいた対応をしてくれていない、と感じている。具体的な体験に置き換えてみるとデータがあるにも関わらず既に契約した商品をサイトでお勧めされたり、ニーズへの理解が薄かったり、一度クリックしただけの興味のない商品が繰り返し広告表示されたり、といったことが挙げられるだろう。
お客様の不満を解消し、期待に応えられる企業になるには、「インサイト」と「エンゲージメント」の二つの軸が重要だ。お客様の属性や購入意欲等のデータから「インサイト」を導き出し、それをもとにしたコミュニケーションを行い「エンゲージメント」を高めることで、お客様の期待に応えるサービスを提供することができる。この二つの軸を実現するには、企業内には様々な解決すべき課題があるが、Salesforceでは、それらの課題へのソリューションとして新しい顧客アプローチが可能になるCustomer360を提案したい。
Customer360とは、お客様との様々なチャネルでの接点を統合IDで一元的に把握・管理し、シングルカスタマービューで提供するものだ。従来個別に提供・データ連携してきたサービス、例えばLTVの向上や新規顧客の獲得等のマーケティング機能、チャットボットやコールセンター等のカスタマーサービス、営業支援、Web手続きを可能にするコミュニティ機能などもすべて一元的に管理することができる。
ここで一つ事例を紹介したい。近年多数の金融機関様において、デジタル変革を実現するためにSalesforceの採用が加速している。中でもSMBC日興証券様の事例は、デジタル活用により顧客価値を高めた好事例だ。同社はもともと対面営業によるきめ細やかなOne to Oneマーケティングを得意としているが、6年ほど前から対面営業と同じレベルまで非対面チャネルのレベルを引き上げるべく力を入れており、複数のデジタルチャネルを駆使したマーケティング施策を行っている。その同社が、2018年3月よりSalesforceのマーケティングクラウドを導入、Salesforceのプラットフォーム上でマーケティング施策を運用することにより、1口座あたりの収益が2倍以上に増えている。
Customer360では、この事例からさらに一歩進んで、非対面と対面を織り交ぜた動きも一元的にコントロールしていくことができる。チャネルを超えたすべての動きを統合IDで把握・管理・AI分析することにより、ターゲティング、潜在顧客へのアプローチから始まりカスタマージャーニーを描き、来店時は担当営業がこれまでのお取引状況や今の関心をリアルタイムに把握したうえで営業応対を行い、後日のWEBアクションや営業担当からのフォローアップ電話などにつなげていくことができる。
Customer360を中心としてインサイトを導き、お客様とのエンゲージメントを高めることで、顧客体験の一貫性、ニーズの正しい理解、自分たちの行動に基づいた対応というお客様の3つの期待に応えることができるのだ。
※“State of the Connected Customer”, Salesforce Research, 2019
株式会社セールスフォース・ドットコム:https://www.salesforce.com/jp/
Webサイト/アプリのパーソナライズ最前線
~顧客起点のコミュニケーションで
効果を最大化するには?~
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【講演者】
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株式会社ブレインパッド
アライアンスマネジャー今野 淳一 氏
ブレインパッドは、東証一部上場企業で唯一のデータ活用を専業に社員約300名のうち100名超がデータサイエンティストである。サービス内容は大別して二つ。データ活用による課題解決や業務プロセスの最適化といった「ビッグデータ活用サービス」と、各種ツールを活用した「デジタルマーケティング支援」だ。
金融事業会社(都市銀行、地方銀行、証券業界、保険業界など)での幅広いデータ利活用の支援事例を紹介する。まず、都市銀行、ネット銀行などの銀行において、クラウド環境への統合データ基盤構築のご支援から施策立案、実行支援及びツールの提供を実施。次に、某証券会社において、分析組織の立ち上げから、DBマーケティングシステムの構築、予測モデルなどを活用した各種マーケティング施策の改善など、組織横断的なデータ活用の推進をトータル的にご支援してきた。
その中でもコールセンターの生産性向上支援はいつ・どういう人に電話を掛けたら一番つながりやすいか、約定金額を最大化できるのかを予測分析して最適化を行った。結果、本人通電率が25.5%から34.1%に、約定金額が通常比2.2倍に改善した。某生命保険会社においては、保険の更新時期に契約内容の転換が起こりやすい顧客を予測するモデルを作成。営業のアプローチを担当者の知見からデータ主導に変えることで、約定率が従来と比較して123%に向上した。
海外の動向にも見られるように、事業の成長にはデジタル上で顧客一人ひとりへのパーソナライズが不可欠である。パーソナライズは顧客との関係性強化に有効であり、顧客も望んでいるものといえる。パーソナライズの考え方について、大きく三つの観点から説明する。第一に、「対面」のコミュニケーションをベースにすること。銀行の窓口対応では、用件を聞いた上で、顧客に特定の対応を行う。同じことをWebやアプリで実現すれば良い。京葉銀行インターネット支店のWebサイトでは、最初に口座開設有無について質問を表示。回答内容により、その後の対応が変わる。例えば、「はい」と答えると、「初めてのお客様」というメニューは優先順位が下がり、「取引」が上位表示される。また、横浜銀行のインターネットバンキングでは、当社のRtoaster導入により、約5万件ある顧客の興味関心の把握に成功。マイページ画面上で顧客が選択した「興味のあるテーマ」に合わせて、その後の対応や選択肢を変えている。
第二に、顧客の「あしあと」を活用すること。あしあととは行動(閲覧)データのことである。行動データの把握により、対面や顧客属性情報からは紐解けない、顧客のインサイト(隠れた心理)の理解が可能となる。
第三に、パーソナライズの手法を考えること。Webのパーソナライズでは、「ルールベースによるターゲティング」と「機械学習またはAIによる1to1」が重要である。顧客像(セグメント)と、それに対するコンテンツ(商品・サービス)が明確な場合は、「ルールベース」によりパーソナライズするべきだ。一方、顧客像が明確でない場合は、「機械学習またはAI」を活用し、コンテンツを自動最適化すると良い。また、商品・サービスが多くルールベースでは難しい場合は、ECサイトのように、「機械学習またはAI」を活用したレコメンドを利用すると良い。
最後に、当社のツール「Rtoaster」を紹介する。ユーザーの新規獲得から育成まで、データに基づくマーケティング施策を実行する、パーソナライゼーションプラットフォームだ。業種・業界を問わず300社以上の導入実績がある。Rtoasterの導入により、Web接客やアイテムのレコメンド、機械学習やAIを使った自動最適化などを実施可能。今後も、豊富なパートナーと連携しながら、顧客企業の課題解決を図っていく。
株式会社ブレインパッド:https://www.brainpad.co.jp/
金融業界におけるマーケティングAI活用とは
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【講演者】
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株式会社アドフレックス・コミュニケーションズ
執行役員高橋 悠人 氏
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【講演者】
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グーグル合同会社
チャネルセールス事業部
ストラテジックパートナーマネジャー倉田 尚弥 氏
マーケットにおけるユーザーの行動は大きく変化している。一日当たりのメディア接触時間は、2006年には80%がマス四媒体であったが、2018年には約半分に減り、残りの半分はデジタル端末となった*。特に、スマートフォン等のモバイル端末が3%から33.6%に拡大。モバイルの比率がインターネットの中でも非常に高まっている。
モバイル化の進展により、インターネットの利用者が増加し、利用頻度も高まっている。パソコンが主流だった時代と違い、常にインターネットに接続されているような状態だ。これはユーザー行動の大きな変化の一つといえる。
もう一つの大きな変化は、検索行動である。Googleでは、日本での一週間の検索回数を約35億回と分析している。検索データは人々の興味関心や深層心理を映し出す。例として、「電球」「リップ」「傘」の検索回数を見てみる。2018年の検索回数は、2015年比で、順に2.8倍、1.6倍、2.0倍だ。低価格な商品であっても、ユーザーは検索した上で購買していることがわかる。また、「今日の天気」や「近くの」の検索回数も増加。Googleが位置情報を検索結果に反映するため、ユーザーは位置情報すら入れずに検索している。更に別のGoogleの調査によると、87%のスマートフォンユーザーが店の場所を来店前に検索し、82%のユーザーが購買の意思決定をするために店内で検索している。ユーザーの行動は、オンラインとオフラインを行き来する複雑なものとなっている。こうした変化を踏まえ、Googleでは、まずモバイルファーストの取組を行い、その後はAIファースト、機械学習を通じた最適化を推進している。
AIのデジタルマーケティングへの活用について、要点を二つお伝えする。まず、AIは24時間365日眠らないという特徴があること。今後デジタルマーケティングが複雑化していく中で、人力で対応できる領域には限界がある。その中で、常時学習して最適化を続けられることは、AIの大きな可能性と考える。次に、全てをAIに任せればいいという訳ではないこと。例えば、現状では、AIはゼロからイチを作ることが不得意と言われている。AIが得意なことはAIに任せ、人でしかできないことは人が対応する。最適な役割分担を考えていくべきだ。
Web広告におけるAIの活用について、リスティング広告の事例を紹介する。アドフレックス・コミュニケーションズでは、昨年9月から、「AdScale(アドスケール)」というツールを国内独占で提供している。世界では35か国、6,750社以上で導入実績がある。国内でも導入が拡大し、銀行など金融業界からの引き合いも強い。その理由は、AdScaleによる粒度の細やかな分析・運用と人による設計・コンサルティングの両輪で事業を支援していることにある。
アドフレックス・コミュニケーションズでは、リスティング広告以外にも様々なAIサービスを提供している。世界最先端のAIツール活用により、お客様のパートナーとして事業拡大の一役を担っていきたい。
※㈱博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2018」調べ
株式会社アドフレックス・コミュニケーションズ:https://www.ad-flex.com/
iBank が目指す新しい金融サービスのカタチ(neoBank)
- 特別講演
【講演者】
- 永吉 健一 氏
事業戦略部 iBank事業グループ 部長代理
iBank マーケティング株式会社 代表取締役
016年4月、株式会社ふくおかフィナンシャルグループの企業内ベンチャーとして、iBankマーケティング株式会社を設立した。コアプロダクトは、金融機能と非金融機能(情報メディア等)を融合させたスマートフォン専用アプリ『Wallet+』。従来の金融商品・サービスをアンバンドリングした現行のフィンテックを、リバンドリングして新しいマネーサービスとして提供している。
iBankには三つのコンセプトがある。第一に「フィンテック」。お金周りのシンプルな機能を束ね、スマートフォンの中で提供している。Wallet+には、残高照会、取引明細照会、収支管理、ポイントサービス、余剰資金の貯金や投資、不足分のローン借入れといった幅広いながらもシンプルな金融機能を搭載。ランチャー画面では非金融サービスとの連携も進めている。20~40代がメインユーザーであり、スマートフォン利用世代に幅広くリーチ。稼働率も月間アクティブユーザーが約60%と、福岡銀行本体が提供するバンキングアプリの2~3倍高い状況である。
第二に「ローカルエコシステム」。金融以外のサービスも搭載している。銀行が持つ顧客の金融情報と、Wallet+で得られる非金融情報を組み合わせたデータベースを構築。これにより、顧客の価値観、趣味・嗜好、行動などを把握できる。現在180社超のパートナー企業が、Wallet+を介して顧客との接点を確保。ターゲティングメールなど効率的な「個」客へのリーチを実現している。第三に「オープンバンキング」。Wallet+では、照会系に加え、更新系など様々なAPIを組み合わせて新しい金融サービスを実装。オープンAPIの追い風もあり、複数の金融機関が導入を検討している。
iBankのサービス構成要素は大別して二つだ。まず、「日常消費の捕捉」。デビットカードとWallet+を組み合わせることで、いつ・どこで・いくら使ったといった情報を蓄積し、収支管理機能として日常消費を見える化する。毎月の収支状況に応じて、貯蓄や資産運用、あるいはローンの借入れなどを促し、簡単に実行まで行えるサービス設計となっている。
次に、「非日常消費の喚起」。まとまった資金が必要な、住まい、自動車、旅行、子育てなどの情報コンテンツを配信。また、「目的預金」による目的達成のサポートを実施することで、ユーザーの興味関心データを蓄積。“お金に色がついた”データをパートナー企業と連携して上手く活用することで夢の実現を後押ししている。
この二つの領域をスマートフォンという顧客接点でつなぐことで、シームレスなサービス体験を実現している。
今後の展望として、既存サービスの機能改善・高度化はもちろん、新サービスの開発・導入も順次実施していく。現在、新事業として、ブロックチェーンを活用した地域ポイントプラットフォームを構築中。更に、AI、機械学習、自然言語処理などを取り入れることによる分析業務の高度化もトライアルを始めているところだ。
iBankは、ある時はデジタルテクノロジーの文脈で「フィンテック」のサービス、またある時は顧客起点でイノベーションに挑戦するエコシステム型の新形態「ネオバンク」であるといえる。銀行と顧客の間に立ち、優れたUI・UXを武器に革新的な金融サービスを提供する。海外ネオバンクの代表格「SIMPLE」と同様のビジネスモデルだ。現時点で日本で実現しているのはiBankのみである。
iBankは、「銀行代理業」と「電子決済等代行業者」の両面の顔を持つユニークな存在だ。銀行への送客を考えながらも、ユーザーのニーズに基づいてサービス開発を行うことに軸足を置いている。今後も、非金融のパートナーとの連携を強めながら、金融と非金融がつながる新しいプラットフォームを目指していく方針だ。