MANAGEMENT FORUM 持続的な企業価値向上のための経理・財務戦略<アフターレポート>


2019年9月12日(木)、セミナーインフォ主催「MANAGEMENT FORUM 持続的な企業価値向上のための経理・財務戦略」が開催された。デジタル化の進展や世界的な社会構造の変化といった激変する経営環境の中、CFOをはじめとした経営陣や経理・財務部門の果たすべき役割は日に日に大きなものとなっている。本フォーラムでは、「持続的な企業価値向上のための経理・財務戦略」に焦点をあて、事業のグローバル化や人材の確保・育成、イノベーション等の視点から、激動の時代における経理・財務業務が進むべき方向性について迫った。

  1. 持続的な企業価値向上に変革を起こすべく経理・財務の役割
  2. デジタル時代のCFO組織
    – 戦略アドバイザーとしての機能を強化するためには?
  3. 実績ではなく、仮説を管理することによる企業価値向上への貢献
  4. 村田製作所のグローバル視点の成長戦略とそれを支える経営管理制度
目次

持続的な企業価値向上に変革を起こすべく経理・財務の役割

橋本 勝則

基調講演

【講演者】
デュポン株式会社
取締役副社長

橋本 勝則 氏

持続的な企業価値について、デュポンの変革を一例に説明する。デュポングループは1802年創業のアメリカの会社である。創業から200年超の間、画期的な製品を生み出しながら、時勢に応じて事業の売却・買収を行い、事業ポートフォリオを変革させて持続的な企業価値を実現してきた。

事業ポートフォリオが変わっても不変な当社のコアバリューが四つある。「安全・衛生」「環境保護」「最高の倫理基準・法律順守」「人の尊重」。世界中の社員が同じ判断で行動できるよう、絶対必要条件としている。全社員の意思決定の基準であり、価値観の基準である。これにより、会社としての一貫性を保つことができる。

欧米の経営者は株主価値を強調し、日本の経営者は顧客価値と従業員価値を強調することが多いが、本質的な違いはない。顧客価値と従業員価値を実現して初めて株主価値につながるといえる。最近では、欧米でも全体のステークホルダーに目を向ける揺り戻しの動きがある。

続いて、経理・財務が生き残れるために必要な変革について、五つのポイントをお伝えする。

第一に、経理・財務のスタッフである前にビジネスパーソンファーストでいること。まず、決算業務に代表されるような定型業務を削減する。全社ベースのERP導入、シェアードセンターの活用、BPO、業務の自動化により生産性を上げる。併せて、価値創造業務を増やしていく。自身がいかにビジネスに貢献しているかの意識付けが重要だ。価値創造の分野でも経理・財務が直接的に働きかけることはできる。例えば、売上増加やコスト削減への財務的観点からの助言、コーポレートレベルでの節税や金融収支、為替の差損益の管理など。間接的には、企業倫理に関することや内部統制、コンプライアンスなど活躍の場は多い。

第二に、資金調達・運用・外国為替管理に特化したプロフェッショナルの育成。

第三に、経理の片手間ではないタックスプランニングの強化。税金は最大のコストであり、適切な節税は重要だ。投資先の選定にも大きく影響がある。経理・財務の大きな活躍が期待できる分野である。

第四に、内部監査を若手育成のためのエントリーポジションと位置付け、会社全体のプロセスの基礎を学ばせる。

第五に、経理・財務の若手のローテーションを高めて将来のリーダーを育成すること。最初の10年間で3~4ポジションを経験することが望ましい。

経理・財務を活かしきれていない組織とリーダーにも変革が必要である。社長や事業部長といったリーダーになる前に、営業一筋、製造一筋、研究開発一筋ではない、様々な経験を経るべきだ。また、数字で語れないビジネスリーダーに、経理・財務に精通した参謀の必要性を知らしめること。経理財務、会社法務、IT活用のスタッフなどが1つのチームとなった事業運営体制の整備や、業績予測の認識及び精度向上によりビジネスの将来に向けて手を打つことなどが肝要である。

コーポレートとして横串を通すことも重要と考える。ある事業部が稼いだ金を新規事業へいかに回すか、ある事業部で育った人間をいかに振り向けて新規事業を育てるか。人・モノ・金を適宜再配分していくべきである。

更に、使命と目標を明確化するなどグループ会社のガバナンス変革。加えて、従業員のキャリアのゴールは執行役であり取締役の過半数が執行役を兼務していれば取締役会決議は自己承認と同じである。

将来的に、経営企画と経理・財務を合流させることも有意義だ。経営企画の財務基礎知識の弱さを経理・財務のスタッフが補完するなど、協力し合うと望ましい。生え抜きローテーションでの人材育成に加え、外部人材も意図的に取り入れるなど、優秀なコーポレートスタッフを揃えていくことも重要である。

デジタル時代のCFO組織
– 戦略アドバイザーとしての機能を強化するためには?

田中 淳一

【講演者】
ジェンパクト株式会社
代表取締役社長
グローバルシニアバイスプレジデント

田中 淳一 氏

ジェンパクトでは2つの事業を行っている。テクノロジーで効率化された業務アウトソーシング「インテリジェントオペレーション」と、デジタル技術を活用した変革コンサルティングサービス「デジタルトランスフォーメーション」。この両輪で大規模な変革を推進している。

今日のデジタル時代でCFO組織に求められていることは何か。世界経済フォーラムのレポート「The Future of Jobs 2018」では、2025年には業務自動化の比率が52%となるなど、自動化が大きく拡大すると予測している。経理財務業務については、機械・AIに代わることで7500万人分の仕事が消える。一方で、1億3300万人分の業務が増加し、労働者の54%がスキルの変更が必要となる。必要な学習時間は101日分。経理財務業務は、自動化により消える仕事TOP10中4つを占め、新しい役割・業務に変わっていくことが同レポートで示されている。

当社の調査によると、CEOの殆どがCFOに高い期待を抱いている。一方で、3分の1のCEOがCFOの対応が不十分と認識。特に、会計データと分析力を駆使して競争力向上を図ることが、CFOへの強い要請だ。そのために必要な「広義のデジタルトランスフォーメーション」を3段階で説明する。

第一に、作業の自動化、インテリジェントオペレーション。ガートナーのハイプサイクルでは、RPA・AIは既に幻滅期に突入し、これから真価を見極めて浸透していく時期とされている。

RPA・AIで実現できる効果は何か。従来の一般的な業務遂行では、単純作業のみを行う人や管理業務の対応できない領域が存在し、高度化には手が付かない状態であった。RPA・AI導入により、ロボットが各業務の主な作業者、人が管理者となる。業務範囲が拡大し、AIがサポートして高度化も実現する。RPA導入時に対象業務の特定を現場任せにすると、最初から最後まで意思入れがない業務しか抽出されない。一見すると判断業務でも、分解すると適用可能な業務は多い。全体最適を図るべきであり、ボトムアップの業務オペレーションと、トップダウンで継続的に改革を行う「デジタルハブ」をセットにすることで実現する。デジタルハブが経営層・事業部・ITデジタル部門をとりまとめるなど、トップも交えた改革の推進が重要だ。

第二に、知見・ノウハウの形式知化及び自動化。担当者の経験と勘に基づく経営から、データドリブンによる科学的な意思決定スタイルへと変革する。AIベースのアナリティクスツールが主流になり、単独のデータだけでなく、外部要因や予測を含めた高度
な分析・判断が可能となった。これにより、経理財務プロセスの最適化や財務予測の精緻化といった経理財務部門の課題に適合し始めている。

ある大手製造業の事例を紹介する。サプライチェーン改善のため、プロセスを解析し、分断されていた各データを一元でつなぐフローを構築。同時に、AIベースのアナリティクスを導入した結果、需要予測精度が32%向上し、在庫を約50%削減した。

第三に、ビジネスモデル・サービス自体の変革。労働生産性をいかに上げて高付加価値化をしていくか。この視点でCFO組織を考えてみる。業務分類を「戦略・計画」と「実務」に分けた場合、現状は概ね3:7である。この比率を逆転して財務機能を強化することが、目指すべき姿と考える。そのためには、デジタル化・業務改革により低付加価値業務の効率化を行い、戦略・計画支援業務の効率化・高度化を実現することが必要だ。

デジタルによる自動化は、全部門の必須事項であり、仕事の内容も変わっていくと考える。経理財務部門では、正確な業務処理に加え、情報の読解、分析及び事業へのフィードバックを行い、トップライン向上に貢献していくことが求められている。

講演企業情報
ジェンパクト株式会社:https://www.genpact.com/jp/

実績ではなく、仮説を管理することによる企業価値向上への貢献

小川 康

【講演者】
インテグラート株式会社
代表取締役社長

小川 康 氏

損失発生を防止する、追加投資のタイミングを逃さない、などの事業における予防を実践するためには、予測に関する非財務情報の活用が不可欠である。中期経営計画に関するデータを紹介すると、3年先の売上目標を達成した企業は19.0%、同じく営業利益目標については18.2%に過ぎない。(※1)また、過去の計画が「かなり達成されている」とした企業は12%にとどまる。(※2)

計画の達成度を高めるための施策トップ3は次のとおりだ。1位:策定完了後も継続的に仮説(計画値達成のための前提条件)の妥当性を検証すること。2 位:根拠となる仮説の明確化。3位:期中での見直し(環境変化に応じた作戦変更)の定期的な実施。仮説の定期的な検証は、先述の「かなり達成されている」と回答した企業の85%で既に実施されている。(※2)

未来の数値は全て仮のものと認識すべきである。無数に起こり得る結果の一つが書かれているに過ぎず、それは誰かが作ったものだ。従って、数値が作られた想定の組織的共有が大切である。リスクの顕在化、特に損失発生を防止するためには、従来の
実績管理だけでは不十分である。非財務情報に注目して早期に次の一手を打ち、企業価値を高めていく新しい管理手法が必要だ。

「仮説指向計画法」は、大きな損失を防ぎ、より高い成果を達成する方法論である。事業はなぜ失敗するのか、という問いに対して、仮説指向計画法は、「事業は仮説(たら・れば)が外れると失敗する」と定義する。要点は、数字よりも仮説(=成功に必要な条件)の明確化に重点を置くこと。前提条件や想定ではなく、計画は外れるものという意味を込め、仮説と呼ぶ。「我々は何に賭けているのか」を共有し、組織で取り組むべきである。経理財務部門には、仮説は何かを質問する役割を担っていただきたい。

従来のマネジメントでは、見通しと着地点の乖離に気づくのが遅い。事後的な確認ではなく、仮説に関する新たな情報を常に求めていくことが、仮説の外れにタイムリーに対応できる仕組みである。

企業価値を高めるプロセスのポイントは、事業担当に任せきりにせずに、管理担当が仮説を継続的に管理することだ。例えば、欧米企業の事業部に配属されたファイナンスコントローラーは、ファイナンスの観点から投資案件などの意思決定に参画する。事業の進捗をモニターして状況をチームに伝え、状況に応じて適切なアクションや次の投資を促す。コントローラーが営業利益向上に貢献するためには、小・中・大の視点を持ち、企画段階から現場と情報共有・議論する必要がある。

この仕組みをどの企業でも構築できるように開発したのが、当社の経営管理システム「DeRISK」(デリスク)だ。DeRISKは、感度分析やシナリオ分析等を活用し、仮説の明確化と管理を行い、高いリターンの実現を狙う。Excelファイルを基にシステムが自動作成したインターネットブラウザ上のフォーマットに、仮説を入力して事業部と管理部門が議論する。企業内部に、健全な対立構造をつくり、思い込み(バイアス)を修正する仕組みだ。また、定期レビューを効率的に実行し、仮説の履歴を残せるため、事業の推移を確認・共有できる。仮説の変化を関係者で共有し、社内外の変化への迅速な対応を促す。更に、AIが過去案件との類似をサジェストするなど、DeRISKは様々な支援を行う。Excelを用いる現行業務からの導入が容易で、付加価値の高いシステムである。

仮説を明確にするために大切なのは、基本に忠実であることだ。外部環境、事業環境の分析から始めて仮説を明確にした後に、感度分析やシナリオ分析がある。そして、社内外の新たな情報を継続的に追加していくことが欠かせない。最初から良い仮説は出てこない、と割り切り、着実に仮説の改善に努めることが現実的である。皆様の事業の成長達成を、当社に支援させていただければ誠に幸いである。

※1  日本証券アナリスト協会「企業の中期経営計画に関する特性及び株主価値との関連性について-中期経営計画データを用いた実証分析-」(2016 年)

※2 株式会社アイ・ティ・アール「中期経営計画の現状と課題~望まれる仮説検証サイクルの実施~」(2019年)

講演企業情報
インテグラート株式会社:https://www.integratto.co.jp/

村田製作所のグローバル視点の成長戦略とそれを支える経営管理制度

南出 雅範

特別講演

【講演者】
株式会社村田製作所
取締役 上席執行役員
企画・管理本部 経理・財務・企画グループ統括部長

南出 雅範 氏

村田製作所は、最先端の技術及び部品を創出する総合電子部品メーカーである。材料や生産プロセスの多くを内製で開発・製造し、グローバルな販売ネットワークが強みだ。生産比率は国内が65%、売上高は海外が90%超を占める。地域や技術は時勢に合わせてスイッチしてきた。安定的な成長は、価値創造モデルを確立して愚直に回し、それに合った経営管理制度を入れてきた結果だ。

三次元マトリクス組織とは何か。第一に、製品別縦割り組織。当社では約100のSBUを管理している。第二に、工程別横割り組織。事業所長や工場長が責任者となり、生産活動などの場所(法人)経営を行う。第三に、本社機能スタッフ、開発本部、生産本部及び営業本部。共通基盤を担い、事業間や事業経営と場所経営の利害調整を行う。当社では、SBUと製造拠点はN対Nの関係だ。どの事業部の工場かは限定しない。その分、意思決定の統一や浸透には仕組みが必要だ。全事業を横断し、開発、販売、生産及び管理を共通的に行っている。

当社の価値創造プロセスは、ネットワーク、技術開発力及びこれらを総合する組織連携力で成り立っている。グローバル販売ネットワークによる世の中の変化や顧客ニーズの先読み。継続的な投資による新商品開発。強いモノづくり力に支えられたタイムリーな供給。このサイクルを回すことで、製品を生み出して社会に提案し、Innovatorin Electronicsを実現する。それを支える共通の言語が社是(経営理念)だ。

当社のマトリクス経営の内容を3つに大別して説明する。

まず、経営管理制度。全社中長期及び事業別・機能別中期で管理。事業戦略はバランスド・スコア・カードを作成。3つのロードマップ(マーケット・テクノロジー・プロダクト)を描き中期ですり合わせを実施。経営資源の最適利用のため、事業ポートフォリオもマネジメントしている。

次に、経理・財務制度。予算は単年度にし、四半期でモニタリング。損益は部門別と世界連結部門別で管理。見積原価計算を行い、細かく振替価格を設定。投資経済計算を実施。社内金利制度(EVA)を設け、ROICを重視している。

最後に、組織・人材強化。ローテーションを高頻度で実施。また、原則年に1回、事業間や機能間の人的資源を再配分。加えて、次世代グローバルリーダーや地域のリーダーを育成。経営理念の浸透、QCサークルなど現場の強化も実施している。

現在、全社ポートフォリオのマネジメントに力を入れている。年に数回の事業検証では、対象事業に、SBUの企画・経理・人事も入って議論している。

また、得意先の全世界的な生販活動に対応する制度を設けている。例えば、開発拠点(種蒔き拠点)と生産拠点(刈取り拠点)が複数国に分かれる場合、前者にコミッションを付与し、連携を阻害しないよう留意している。

社是(経営理念)は、戦略の基盤、経営活動の基盤及び迷ったときの判断基準である。そして、従業員への周知が必要だ。当社では、人と組織の自立、組織間シナジー、そして企業文化の融合のために、グローバルで理念の浸透活動を展開している。

2003年以降、経営風土改革を積み重ねてきた。目指すのは、「CS指向」「現場指向」「環境の変化にスピーディーに対応する」「自由闊達な議論により創造性、チャレンジ精神を大切にする」経営風土だ。実現のために、経営品質改善、ワークショップ、各工場間の相互訪問などの活動を展開してきた。一番大きな変化は、全社の横断力が強化されたことだ。

規模の拡大・事業内容の変化に伴い、経営管理制度やシステムの変革は経営課題の一つとなっている。また、経理財務は日本で集中的に管理してきたが、地域統括の機能もさらに発展させていくこと。テーマごとに各地域の子会社同士を結び付け、人材の交流や育成を行うなど、海外拠点を強化し真のグローバル化を実現していきたい。

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