「決済ビジネスにおけるデジタルマーケティングについて」

特別講演

【講演者】
株式会社クレディセゾン
執行役員 カスタマーサクセス事業部長
(兼)デジタルマーケティング部長
川原 友一 氏

<クレディセゾンのデジタルマーケティング>

クレディセゾンでは、マーケティング戦略として「人がやらないことを考える」「コンセプトを大切にする」「ベネフィットを訴求する」という3点を重視し、独創的なコンセプトで、顧客の皆様の印象に残るようなマーケティングを展開。

この戦略方針は、次の二つのデジタルマーケティングの方向性にも表れている。
・カード利用活性やファン拡大を目的とした顧客コミュニケーション
・データ利活用ビジネス(決済データを活用したデータマネタイズ)

<ファン拡大を目的とした顧客コミュニケーション>

デジタルマーケティングの軸の一つが、デジタルメディアを駆使した顧客コミュニーションである。クレディセゾンならではのアプローチの詳細を見ていこう。

●対面カウンターからデジタルメディアへ

これまでクレディセゾンでは、全国の商業施設内に設けた対面のセゾンカウンターにて、社員が直接顧客相談に対応することで、顧客とのコミュニケーションを果たしてきた。

しかし、今では顧客自身が商品情報やクチコミを調べたり、発信している時代に変化し、顧客サポートがデジタル上で完結してしまう。そこで、こちらからデジタルメディアに近づいていくことで顧客との接点を設け、コミュニーションを活性化するという戦略にシフトしている。

●友だちのような関係性づくり

顧客コミュニケーションにおいて心がけているスタンスは、友だちのような関係性。合理的な機能性も大事だが、それよりも親しみやすさや気が利くといった感情的な価値を重視して、友だちにクチコミを伝えるような情報のやりとりができる関係性づくりを目指している。

●独創性のあるプロモーション企画

カード利用者へのコミュニケーションとして、積極的に取り組んでいる施策の一つが、プロモーション企画だ。よくあるポイント還元競争とは一線を画し、顧客の印象に残るプロモーションを実施できるように独創的な企画に取り組んでいる。

例えば、「セゾンのお月玉」と称したキャンペーンでは、カード利用者から抽選で毎月1万人に現金1万円をプレゼント。当選者には、ありがちなキャッシュバックなどではなく、あえて自宅へ現金書留で送付している。

一定のコストをかけてでも、顧客の手元に現物を届けているのは、そのほうが印象に残りやすく、当選の喜びを実感してもらいやすいと考えているから。他にも、スターバックスのドリンクチケットや似顔絵プレゼント、ペーパークラフトなどのプレゼントキャンペーンなども実施している。

狙い以上の波及効果として、TwitterやInstagramなどのSNSを通じて、プレゼント当選者が自主的に当選報告をしてくれることもある。顧客自らがクチコミ情報を発信し、プロモーションを拡散してくれることで、ウィンザー効果によるイメージアップが図れるというメリットもある。

●顧客コミュニーションのミッション

デジタルメディアでの顧客コミュニーションには、大別すると2つのミッションがある。

●情報発信
ユーザーに向けた情報発信にはファンの獲得や潜在顧客の掘り起こしなどの狙いがある。サービスの魅力を伝え、顧客に最適な情報を選んで届けたり、具体的な利用シーンをイメージしてもらったりすることで、間接的に「セゾンカード」の認知度をあげ、日常的なカード利用の促進につながる。

●顧客サポート
近年の傾向として、サービスに対する疑問や不安は、サポートセンターへの問い合わせではなく、SNSなどのつぶやきなどで発露している。そこで、先回りして検索サイトやSNSメディアに網を張り、疑問や不満、お悩みなどを抱えた顧客のつぶやきを積極的に発見。直接語りかけることで距離を縮め、親しみや驚きなどを醸成しながら、デジタル上で解決に導いている。

●ペルソナ別のターゲティング

セゾンカードには多様な券種があるため、カード別に分けても顧客層の姿が見えづらい。そこで、全てのカード会員を「セゾンカード会員」と捉え、女性、若年層、子育て層、シニア層などのライフスタイルごとに整理。分類した顧客の利用状況や時節を踏まえて適切な情報提供ができるように、ペルソナ別にマーケティングを展開している。

例えば、若年層向けに特化したコンセプトカードを発行し、Z世代に人気のタレントやメディアを活用。子育て世代には、親子で楽しめるアイテムの紹介、子育ての悩み相談などを通じて日常的なコミュニケーションを展開。同様に、シニア層には健康や家族の悩みに寄り添うWebサイトの立ち上げなど、それぞれのライフスタイルにあったニーズに応えることで信頼関係の構築を図っている。

ペルソナ別にアプローチしやすいように、SNSアカウントも、公式アカウントに加えて、特化型アカウントを複数用意。自社メデイアとSNSを行き来しやすい環境をつくることで、親しみやすさと共感性を高めている。

●カスタマージャーニーに沿ったアプローチ

顧客との適切な距離感は、関係性がどの程度深まっているかによって変わってくる。クレディセゾンでは、カードの認知から、積極的にカードを利用してくれるコアユーザーになるまで、次の6段階のカスタマージャーニーを想定。

1.カードの認知
2.入会(カード取得)
3.初期稼働
4.問い合わせサポート
5.継続利用
6.クチコミ拡散

このカスタマージャーニーの流れをイメージし、さまざまなデジタルメディアを組み合わせながら、段階に応じた適切な情報を提供できるように対応している。

例えば、カードを入手したばかりの初期稼働段階であれば、申し込みからどのくらいでカードが届くのか、支払いサイクルはどのようになっているかなどのハウツーを紹介。

問い合わせサポートのフェーズとしては、「確定申告に必要なWeb明細の入手方法」「引っ越しに伴う住所変更のやり方」などのよくある質問に含まれる情報は、時期を見ながら先回りして案内。ユーザーからの疑問やセゾンカードへの感想がTwitter上でつぶやかれた場合は速やかに反応する「アクティブサポート」にも取り組んでいる。

カード継続利用、解約防止の観点では、誕生日などの節目ごとに感謝の気持ちを伝えたり、限定キャンペーンを展開。このように、顧客の視点に立ってニーズを検討しながら、段階ごとに対応を変えたアプローチを続けている。

<決済データを活用したデータマネタイズ>

クレジットカード情報には、即座にデータが収集できる「速報性」、あらゆるジャンルの購買行動の把握がしやすい「網羅性」、属性情報が正確だという「信頼性」がある。

こうした情報は、プライバシーに配慮して匿名加工することで、外部企業にとって有益な統計データとして利活用することができる。

・事例1:オムニバス
運用型広告(トレーディング業務)に強みを持つオムニバスを子会社化し、データを利活用することで、決済データで顧客をセグメント化。オウンドメディア以外の外部Webメディアでの広告配信を可能にしている。

・事例2:サイバーエージェント
2021年にクレディセゾンとの合弁会社「CASM」を設立。カード決済データを活用したマーケティング事業を共同で展開している。

・事例3:ナウキャスト
データ分析が得意な企業であるナウキャストにデータ加工を依頼し、ショッピングセンターなどの商業施設を展開する外部企業へと提供。外部企業は、商業施設へのテナント誘致にデータを利活用している。

このように、収集したカード情報データをクレディセゾン内に留めるのではなく、匿名化して安全なデータとして有効活用することで、企業は顧客のロイヤリティを高めることができ、顧客は質の高いサービスを楽しむことができるという好循環が生まれると見込んでいる。

顧客が喜んでくれるサービスを提供することを目指し、クレディセゾンのデジタルマーケティングは、今後も進化を続けてゆく。