
2023年1月26日(木)開催 NONBANK WEBINAR「カード・ノンバンク事業者におけるデジタル活用の高度化」<アフターレポート>
# イベントレポート 印刷用ページ2023年1月26日(木)セミナーインフォ主催NONBANK WEBINAR「カード・ノンバンク事業者におけるデジタル活用の高度化」が開催された。昨今の新型コロナウイルスの感染拡大の長期化により、顧客のキャッシュレス化が加速度的に進むなど、業界の取り巻く環境が大きく変化してしている。顧客のニーズの多様化に柔軟に対応するため、カード・ノンバンク事業者においても、デジタルの活用が進んできている。本イベントについては、基調講演にてイオンクレジットサービス、特別講演としてクレディセゾンにご講演頂き、最新のデジタル活用事例をご紹介いただいた。
「決済市場におけるDX戦略」

- 基調講演
【講演者】
- イオンクレジットサービス株式会社
執行役員 システム本部長
光石 博文 氏
<イオンクレジットサービスが担う役割>
イオンクレジットサービス株式会社では、イオンカードを筆頭に、イオンデビットカード、WAONポイント、電子マネーWAONカード、AEON Pay、イオンウォレットなどを提供し、金融サービスを通じて「イオン生活圏」内のインフラを担っている。
イオンでは、あらゆる事業が一体となり、それぞれの地域に根差した商品、サービス、生活基盤を提供する「イオン生活圏」の構築を目指している。
イオングループはグループ全体に約300社が属し、営業収益が約9兆円、グループ従業員総数は約56万人、連結カード(クレジットカード)会員として約4732万人を有する。イオンクレジットサービスではイオングループの決済基盤を担っている。
規模の大小はあるが、1000以上のサーバーを稼働させて常時140ほどのシステムを運用。会員情報の安全・安心な管理に努めている。
<イオングループ決済市場のDX戦略>
イオングループの決済基盤として、イオンクレジットサービスでは決済市場のDX戦略に取り組んでいる。
●キャッシュレス比率の向上
日本市場をみると、経済産業省が公表している2021年度キャッシュレス決済比率は32.5%。主要各国はすでに40%~60%台に到達していることを考えると、日本市場の遅れは顕著だ。政府は2025年までに4割程度、将来的には約80%までの引き上げを目指していくという。
イオングループでも総力をあげて、キャッシュレス比率の向上に取り組んでいる。
●顧客体験のDX
さらに、マーケティング戦略として、顧客一人ひとりに最適な商品やサービスを提供することを目指す際にもキャッシュレス決済のDX戦略が重要になる。
従来のマーケティングでは、どの商品が合計いくら売れたかを把握できても、誰が何を購入したのかまでは把握していない。
一人ひとりの顧客のニーズをつかみ、そのニーズに応えていくには、顧客起点でアプローチしていくことが必要。顧客理解の手がかりになるのが、販売店と顧客との大事な接点である「決済」だ。決済時にいつ、誰が、何を購入したのかという記録を蓄積し、データベース化することで、顧客への最適な提案が可能になる。現金取引では、顧客理解のための情報収集はできないので、やはりキャッシュレス決済のDXを目指していくことが重要だ。
<キャッシュレス決済促進に向けた重点施策>
キャッシュレス決済促進を加速していくためには、運用環境の整備も必要だ。イオンクレジットサービスでは、顧客の利便性の向上やシステム環境改善を図る施策の実施を重点的に進めている。
●AEON Payの普及
2021年9月からコード決済サービス AEON Payをスタート。今後は、AEON Payをイオン生活圏内での決済基盤とすべく、重点施策として促進を進めている。
多様な決済メニューと決済チャネルに今後対応していき、 フルラインナップの決済メニューを搭載することで、顧客が自由に決済方法を選択できる仕組みにする。
さらに、決済チャネルを多様化することで、コード決済だけでなく、生体認証などの新たな決済方法にも対応していくことを見込んで、機能の拡充を進めている。
●オーソリシステムの強化
「オーソリ」とはオーソリゼーションの略で、クレジットカードの有効性を確認するための承認システムだ。
キャッシュレス決済の促進を目指す上で、当然ながら、24時間365日ノンストップで稼働できる仕組みを構築し、運用できる状態にしておかなくてはならない。
試算してみると、仮に何らかの原因でシステムが数分間瞬断しただけでも、数万人の顧客の決済に影響がでることになる。それだけ重要なシステムだけに、イオンクレジットサービスでは2021年10月にシステムの更改を実施。取引量が現状の約5倍に増加しても耐えられる処理能力に増強した。
●ポイントの統合
これまで、イオングループ内にはポイント専用のWAON POINTカード、イオンカードの利用に応じて獲得できるときめきポイント、電子マネーWAONのWAONポイント、複数のポイントサービスが存在しており、複雑になってしまっていた。
そこで、2021年9月に全てのポイントをWAON POINTに集約させるようなポイント制度の変更を実施。膨大な数のアカウントを管理する大きなプロジェクトとなったが、大きな事故もなく、比較的スムーズにポイント移行を完了。新たなポイントシステムとしての運用が始まっている。
●イオンウォレットのリニューアル
今後展開していく施策として、イオンカードの公式アプリ「イオンウォレット」の活用拡大も予定している。
「イオンウォレット」は、これまではイオンカードの付帯サービス用のアプリという位置づけで、カードの利用明細や請求額の確認のために利用されていた。
今後は、顧客に対するアプローチを広げ、幅広く金融サービスを利用いただくために、デザインを一新し、顧客用途によってカスタマイズを可能にするなどの機能拡充を計画。イオングループ金融サービスのスーパーアプリにバーションアップしていく予定だ。
●基盤戦略(クラウドシフト)
これからの時代、顧客ニーズにスピーディに対応していくためには、グループ各個社がシステムを保有して運用管理するのではなく、グループ全体でクラウドシステムを共有していく仕組みづくりが必然となる。
そこで今後の企画、開発、運用の効率化を図る基盤戦略として、クラウドサービスの積極的な活用(クラウドシフト)を加速。全体を俯瞰した統合的な監視、運用ができるように処理の自動化や効率化を図っている。
ただし、先述した通り、イオンクレジットサービス内には約140のシステムが存在するため、段階的に移行を進めている状態だ。時間がかかる作業にはなるが、既存のレガシーシステムはやがてすべてクラウドに移行することを目標に計画を進めている。
●イオングループのデータ利活用
クラウドシフトを実現することで、顧客情報をマーケティング活用できるという利点も生まれる。
クラウド上に新たなDWH(データウェアハウス)を新設して名寄せを実施することで、各社ごとに管理していた情報(会員情報、決済情報、アプリに保存された情報など)をひも付けて一元化。グループ内でのマーケティング情報として利活用し、サービスの質向上、顧客ニーズのタイムリーなアプローチなどにつなげてゆく。この施策も、近い将来DX戦略の要となると見込まれている。
●セキュリティの強化
顧客に安心して決済サービスを利用していただくには、堅牢なセキュリティ対策を講じておく必要がある。
イオンクレジットサービスでは、サイバーチームCSIRT(セキュリティの問題が生じた際に対応する専門チーム)を組成。不正利用などを未然に防ぐため、フィッシングサイトの摘発や海外からのサイバー攻撃への対処、新たな認証システムの導入などに取り組んでいる。
●プロダクトアウト専門部隊の組成
2022年度から積極展開している取り組みの一つが、顧客に対するプロダクトアウト。顧客ニーズを軸に、商品・サービスを企画・開発し、市場展開する「マーケットイン」に加えて、先端テクノロジーを軸に、自社で独自の価値を検討し、顧客に利用・評価していただくという考え方だ。
企画や開発を担う新組織として、2022年4月からシステム部門に専門部隊を組成。プロダクトアウトを組み合わせた新商品企画に取り組むことで、より魅力的なサービスの提供につなげていく構えだ。
これからも、イオンクレジットサービスでは、決済を軸にイオン生活圏と金融を融合。顧客一人ひとりにタイムリーにアプローチできるサービス展開を追求していく。