経済安全保障を巡る世界の動き

(1)アメリカ

アメリカは対立関係にある中国を念頭に、エマージング技術(AI・量子化学等)や先端基盤技術(半導体等)の囲い込みを行っています。アメリカは地政学上の脅威を「中国」としており、あらゆるサプライチェーンにおける中国排除の動きを加速させています。たとえば、ファーウェイなど中国企業への先端半導体供給の規制を行う、エマージング技術14分野の機微技術管理を行うなどです。
さらに2023年4月に「新ワシントンコンセンサス」という新しい経済戦略を発表し、国内産業の強化やサプライチェーンの強靱化など新たな動きを加速させています。加えて同盟国等との連携を強化するため、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」においても、2023年5月にIPEFサプライチェーン協定の実質妥結が発表されました。

(2)中国

中国では2014年、「総体国家安全観」とされる概念を提唱しています。総体国家安全観は、対外安全保障と国内安定、伝統的安全保障と経済・社会安全保障を同時に追求するという概念です。この概念に基づき、さまざまな安全保障関連法令が整備されています。
たとえばデータの取り扱いに関しては、2017年6月にサイバーセキュリティ法が成立、2021年9月にデータセキュリティ法が成立、2021年11月に個人情報保護法が施行されるなど、データの越境管理を法制化しています。
他にも「中国製造2025」と呼ばれる産業政策を2015年5月の時点で発表しており、次世代情報技術など10の重点分野と23品目を設定しています。さらに「信頼できない主体リスト」規定の交付・施行がされており、このリストは中国版エンティティリストとして警戒されています。

(3)EU

アメリカと中国の板挟みに合うEUでは、2021年2月に「オープンな戦略的自律(Open Strategic Autonomy)」と呼ばれる新しい貿易政策を公表しています。オープンな戦略的自律は、以下の6つの柱を設定し、EUの戦略的利益と価値を反映したリーダーシップなどを、周辺国や世界に影響力を与えることをコンセプトにしています。

<オープンな戦略的自律の6つ柱>

  1. WTO改革
  2. グリーン/責任ある・持続可能なバリューチェーンへの貢献
  3. デジタル/サービス貿易
  4. EU規制の実効性強化
  5. アフリカを含む近隣諸国とのパートナーシップ強化
  6. 貿易協定のエンフォースメント強化とLevel Playing Fieldの確保を設定

さらに2023年6月に「経済安全保障戦略」を発表し、サプライチェーンにおける中国依存の仕組みを軽減する取り組みとして「デリスキング」という概念を提唱しました。欧州理事会議長であるシャルル・ミシェル氏は、経済安全保障戦略の発表に際して、「経済関係における中国との適正なバランスを取り戻さなければならない」と述べています。

施行までのスケジュール

経済安全保障推進法は、内閣府より2022年5月18日の交付後、6月以内〜2年以内に段階的に施行したいとしています。

以下はそれぞれの制度の施行スケジュールです。

制度 スケジュール
重要物資の安定的な供給の確保 2022年9月:閣議決定
運用開始済
基幹インフラ役務の安定的な提供の確保 2023年4月:閣議決定
2024年度春頃より制度運用開始予定
先端的な重要技術の開発支援 2022年9月:閣議決定
運用開始済
特許出願の非公開 2023年4月:閣議決定
2024年度春頃より制度運用開始予定

まとめ

経済安全保障推進法は、世界情勢の不安定化や社会経済構造が変化している背景から成立しています。日本のみならず世界各国で「経済安全保障」についての概念が注目されており、サプライチェーンに関するリスクなどへの対応は急務といえます。
すでに施行されている制度もあり、今後は期間インフラ役務の安定的な提供の確保などが順次施行予定です。新しい時代に対応する経済安全保障推進法が、平和と安全、国民の繁栄につながることを期待しています。

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