販売チャネルのNPSを共有し販促活動の改善に繋げる
顧客の体験価値に重きが置かれる昨今、企業にCX(カスタマーエクスペリエンス)の専門部署が設けられつつある。CXの関連部門は単独で置かれるかコンタクトセンターなどと統合されているケースが多いが、アクサ生命保険(以下、アクサ生命)ではCXチームにデジタルとデータ分析の専門チームを加えた、「デジタル&CX/スマートデータ本部」がCX、ひいては顧客満足度向上を目指し、さまざまな施策に取り組んでいる。
同社執行役員デジタル&CX/スマートデータ本部長兼チーフデータオフィサーの齋藤裕美氏は、「今後、お客さまとのタッチポイント(接点)の中心には必ずデジタルが存在し、CXとデジタルは切っても切れない関係になるという考えの下、現在の3部門混成のチームができあがった」と説明する。
アクサ生命のCX向上への取り組みの一つが、顧客向けアンケートとNPS(ネットプロモータースコア)を活用したデジタル販促だ。同社では保険商品の新規契約や給付金請求の手続きをした顧客にEメールやSMSでアンケートを実施し、5段階の満足度と商品や対応に関するコメントを公式ホームページで公開している。
カスタマーエクスペリエンス課課長の松澤有氏は、「当初、公式ホームページでの公表は賛否両論あったが情報公開の透明性を高め、NPSの分析結果と併せて活用することでアフターフォローの重要性が認識され、営業部門でのアクションにつながった。アンケートと分析・集計のベースをデジタル化したからこそ、お客さまのニーズにあったアクションを実施することができている」と話す。
加えて社内のイントラネットでは同項目のほか、アンケートに対する回答率や評価結果などを販売チャネルごとに公表。顧客満足度の推移の把握に役立てるとともに、改善に必要な施策の検討をデータに基づき行っている。
既存顧客のフォローアップと利便性向上に特化
デジタルデータを基にしたCX戦略の一環として、現在実施しているのが「アクサを体験しようキャンペーン」だ。2019年6月に実施した同キャンペーンは、特に一年以上アクサ生命との接点を持っていない顧客を中心にフォローアップするものだった。
「日本の主な保険会社と当社のNPS結果を分析したところ、スコアが9~10の『推奨者』や0~6の『批判者』の比率に大きな差は見られなかった。となると、スコアが7~8の『中立者』の顧客を『推奨者』に変え、『中立者』の数も増やすことがNPS全体の改善につながるのではないかと考え、スコアが5~8で1年間接点の無かった顧客に働きかけるキャンペーンを企画した」(松澤氏)
働きかけた後にあらためてアンケートを行ったところ、キャンペーンに参加した顧客とそうでない顧客との間で50ポイントの差が出るなど、一定の効果が出ているため、今後も続けていくという。元々、CXチームに在籍していた松澤氏はデジタルやデータチームとの協働に対して、「数字やデータを分析した結果を基に、関係各所へ新しい施策の意図や必要性、導入後の効果を説明できるようになったうえ、アイデアレベルの企画も形にしやすくなりCX戦略の多様性が広がった」と振り返る。
アクサ生命では、2020年からはタッチポイントのさらなる拡充にも力を入れる。3月26日にはLINE公式アカウントの運用を開始した。ブランディングや新規開拓ではなく、既存顧客の利便性向上に特化している点が同社のアカウントの特徴だ。既存顧客にはメールで告知しただけだったが、一般的なメールプロモーションでのCVR(コンバージョンレート)を大きく上回る人数が登録し、同社商品の解約払戻金などを2クリックで照会できるサービスを導入したところ、2週間で「友達数」は2万人を超えたという。
「ここ3年の取り組みの成功は、松澤をはじめとしたCX担当者がデジタル、データ、営業やカスタマーサービスなど、さまざまな部門を巻き込んでいけたからだと考える。特にデジタルやNPSなどはツールの一つであり、『会社がお客さまに提供する価値を高めるために何が必要か』という課題意識を部門の垣根を越えて共有できたところが大きい」と斎藤氏は語る。
- 寄稿
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アクサ生命保険齋藤 裕美 氏
執行役員
デジタル&CX/スマートデータ本部長
兼チーフデータオフィサー
(所属・肩書きは2020年4月末時点)
- 寄稿
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アクサ生命保険松澤 有 氏
カスタマーエクスペリエンス課
課長