みずほフィナンシャルグループが推進する顧客視点のDX戦略

みずほフィナンシャルグループが推進する顧客視点のDX戦略

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個人の生活にデジタル技術やメディアが浸透する中、潜在顧客に適切な働きかけをするうえではサービスやマーケティングのDX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせなくなっている。本稿では、みずほフィナンシャルグループが推進するDX戦略について話を聞いた。

  1. キャリアデザイン支援の推進と処遇制度の見直し
  2. 専門家集団やコミュニティで知見と学びを横展開

販売チャネルのNPSを共有し販促活動の改善に繋げる

みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)は、2019年度に発表した5カ年経営計画で「次世代金融への転換」を掲げ、デジタライゼーションへの取り組みや外部との協働を強化している。背景にはグローバル化や少子高齢化、そしてデジタル化という社会構造を根本から変えるメガトレンドがある。みずほFGでは、「非金融を含めた金融を巡る新たな価値創造をしていかなければ金融機関として勝ち残れない」という意識が高まっている。

現代の多くのビジネスは、デジタル化技術なしでは成り立たなくなっている。金融機関にとっては、顧客ニーズの変化やFinTech企業など異業種からの参入が急速に進展している。みずほFGにおいても、デジタル化技術を活用したコンサルティング中心の次世代店舗の展開やペーパーレス化の推進、法人顧客へのデジタル戦略の提案など、あらゆる業務領域でデジタル対応が必要となってきている。こうした環境変化に迅速に対応し、「金融を巡る新たな価値」を創造するためにも、従事する業務によらず社員一人ひとりのデジタルリテラシー向上が欠かせない。

グローバルキャリア戦略部教育チーム次長の土屋光崇氏は、「今後の人材育成では全社員がデジタルリテラシーを向上させると共に、変革をけん引できるリーダーを輩出していくことが求められる。当グループでは、そのために自主・自律・挑戦によるキャリアデザイン支援を積極的に推進している」と明かす。

専門家集団やコミュニティで知見と学びを横展開

従来、新規プロジェクトやジョイントベンチャーへの参加は会社が決定してアサインしていたが、例えば、LINEと共同で開業する新銀行「LINE Bank」や地銀などと連携したデジタル通貨プラットフォーム「J-Coin Pay」のプロジェクトへの参画メンバーの一部や、ベンチャーキャピタルのWiLと立ち上げた「Blue Lab」への短期トレーニーは公募とした。みずほFGでは、従来からオンライン教材や研修会といった場を提供しているが、実践に役立つ経験をどう提供するかが課題であり、新たなキャリアデザインの機会を模索している。

「データの分析やビジネスへの活かし方を学び、社内外で通用するバリューを高めて、専門性を向上・発揮してもらうことが狙いだ。そのためには職務と成果に応じた処遇制度へと変わる必要があり、それを実現すべく評価体系の見直しを進めている。結果として、当グループが『やりたい仕事』や『なりたい自分』を実現できる組織になり、魅力的な人材獲得にも繋がると考える」(土屋氏)

デジタルサービスを展開するシステムを構築・導入するうえで、現在はクラウドコンピューティング(以下、クラウド)の利用が一般化している。クラウドを自社のビジネス拡大に活かすうえでは、活用経験のある人材の所在や得られた成果などさまざまな知見を集約することが重要となる。みずほFGでは2019年からクラウドに関する専門家集団である、CCoE(Cloud Center of Excellence)を社内に設置し、自社のクラウド活用の高度化を図っている(図表)。

一般に見られるCCoEはITチームのメンバーだけで構成され、技術紹介に留まるケースが多いという。別業界からみずほFGに中途入社したリテール・事業法人業務部変革推進チーム調査役の山泉亘氏は、「当グループでは営業支援や事業開発など業務部門の人材が発足時から参加しているため、早い段階からビジネスでの活用を検討できている」と分析する。

同グループではCCoE発のプロジェクトがすでに動き出しており、既存サービスへのクラウド活用など成果も出ている。一方、新たなチャレンジで得られた成果や課題は単一部署での共有に終始しがちだ。みずほFGでは、知見を気軽にアウトプットし共有できるコミュニティのERG(社員リソースグループ)の立ち上げを積極的にバックアップしている。

2019年1月にはデジタルとテクノロジーのコミュニティ「コクリエ」が立ち上がり、1年間で約400人の参加者が集まった。発起人の山泉氏は、「社内でのデジタル化技術への関心の高さがうかがえる。外部からスピーカーを招聘して他社でのデジタル化技術の活用事例を聞いたり、社内事例の勉強会を開いたりしている。新たなサービスを考えるうえでのヒントを得られるほか、『自分が知らない』ことを再認識できる場にもなる」とコクリエの意義を語る。

ERGをベースにした学びの広がりは社内の期待も大きい。「『次世代金融への転換』は、全社員の気づきや学びとその横展開があって初めて達成できることだと考えている。今後もオープンな学びの場と挑戦の機会を整えていきたい」(土屋氏)

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