デリバティブとは
デリバティブとは
金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがありますが、これら金融商品のリスクを低下させたり、リスクを覚悟して高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブです。
こうしたリスク管理や収益追及を企図したデリバティブの取引には、基本的なものとして、その元になる金融商品について、将来売買を行なうことをあらかじめ約束する取引(これを先物取引といいます)や将来売買する権利をあらかじめ売買する取引(これをオプション取引といいます)などがあり、さらにこれらを組合わせた多種多様な取引があります。
– 知るぽると –
デリバティブとは?
デリバティブ事業の拡大を抑制する規制群
金融危機以降導入される規制は、大きく以下2つに分けられる。
- 市場の透明性向上を図るもの
- 金融機関の健全性確保を図るもの
デリバティブ事業に関しては、市場の透明性向上を図るもの(例:店頭デリバティブ取引規制)の負荷がこれまで懸念されていた。しかし、導入のマイルストーンが明らかになる中、今後の事業拡大においては、金融機関の健全性確保を図るものに関するレバレッジ比率規制や、FRTB(トレーディング勘定の抜本的見直し)などが重しとなる可能性が浮上してきた。
レバレッジ比率規制とは
レバレッジ比率規制とは、バーゼル自己資本比率規制を補完するものであり、2018年の施行が予定される。その目的は、銀行部門における過度のレバレッジの積み上がりを抑制することにある。先の金融危機では、銀行自己資本比率は多くの場合高い水準に保たれていたものの、市場の圧力により、資産価格の下落を増幅するような形でレバレッジの削減が迫られた。
バーゼル自己資本比率では保有資産のリスク量が勘案されるが、レバレッジ比率では考慮されないことが特徴である。このため、国債などリスク量が低くともレバレッジを積み上げることで収益を上げるビジネスは投資銀行において成り立ちづらくなる。投資銀行のデリバティブ事業において、影響を受けているのが、クライアント・クリアリング(清算取次ぎ)であろう。
クライアント・クリアリングとは
クライアント・クリアリング(清算取次ぎ)とは、清算機関への会員権を持たないバイサイドによるデリバティブ取引の清算を、会員を持つブローカーが取り次ぐものである。
店頭デリバティブ取引にかかる清算集中義務により拡大基調にあったが、クライアント・クリアリングにおいて顧客から得た担保は、レバレッジ比率計算において、算出式上「分母」に計上されてしまう。このため、クライアント・クリアリングは規制対応上、投資銀行にとって拡大がしづらい事業となってしまった。
FRTB(Fundamental Review of Trading Book)とは
FRTBとはトレーディング勘定の抜本的見直しを指す。金融危機においては、参加者による資産の投売りにより、価格が想定以上に下落する市場流動性リスクが顕在化した。これを受け、トレーディング勘定における市場リスクについては、規制の改訂が続いていた。
2019年に導入が予定されるFRTBは、市場リスクの計算法をある種「抜本的」に見直すものである。例えば、内部モデルにおいてそれまで用いられていたVaR方式では、テール・リスク の捕捉が困難であること、参照期間に不足があることなどが限界として指摘されていた。
VaR方式とは・・・統計的手法を使って、市場リスクの予想最大損失額を算出する指標。
FRTBでは、市場の透明性向上を図るものについてはテール・リスクに備えるための新たな算出法(「期待ショートフォール方式」)が、金融機関の健全性確保を図るものについては、ストレス期のデータをリスク量の計算に含めることが提案された。更には、市場流動性リスクの捕捉のため、流動性ホライズンなどの発想が新たに取り入れられることとなっている。
FRTBの導入により、自己資本比率上計算される市場リスクの量が数十%増加するとの分析もなされており、B/S負担を要する一部デリバティブについては、レバレッジ比率規制と同様、投資銀行にとって事業拡大の足かせとなる可能性がある。
B/S(Balance Sheet)とは・・・貸借対照表のこと。
二極化する欧米投資銀行のデリバティブ事業
これら規制を受け、投資銀行のデリバティブ事業に対する取り組みは二極化が顕在化してきた。その取り組みは、苦戦する欧州勢と、躍進する米国勢の大きく2つに類型化できる。
苦戦する欧州勢
欧州銀行は、金融危機後の苦戦が広く報道されている。例えばドイツ銀行は2015年には67億ユーロ(約8,500億円)の最終赤字となり、投資銀行事業の縮小を含む事業の最適化を模索している。クレディ・スイスも29億スイスフラン(約3,900億円)の赤字を計上した。今後の規制によるリスク・アセット増大を見越し、いずれも複雑なデリバティブなど相対的に資本を要する事業の縮小・撤退を表明している。
躍進する米国勢
こうした欧州勢を尻目に事業拡大に転じつつあるのは、米国勢である。その背景の1つは相対的に余裕のあるレバレッジ比率とされる。中でもCitiは、クライアント・クリアリング事業の拡大、他社からのデリバティブ・ポートフォリオ買取りなどの積極さが際立っている。
積極さが際立つCitiの取組
先に述べたとおり、クライアント・クリアリング事業は、規制対応上、ブローカーのB/Sに不利に働く。しかしCitiは、清算集中による事業可能性を睨み、顧客からの担保金を自社B/Sから除外できないか2013年初頭頃より会計士や弁護士、当局と協議を行い、除外できる旨を取り付けたとのことである。同社は、米国における店頭デリバティブ清算事業において、顧客から得た担保金のうち約40億ドルをB/Sから除外したとされる。
果敢さを窺わせるのは、他社からのデリバティブ・ポートフォリオの買取りである。業界で著名とされるのは、ドイツ銀行のシングル・ネームCDSポートフォリオ買取りである。ドイツ銀行は、前身であるバンカース・トラストでの事業基盤から、米国デリバティブ市場では主要マーケット・メイカーの1つと認知されていた。
しかし、市場流動性の低下・資本負担から2014年に同事業からの撤退を表明した。これを機にCitiは2,500億ドルに上るデリバティブ・ポートフォリオを買取ったとされる。同社は拡大したポートフォリオを梃子に、米国デスクによるシングル・ネームCDSの取引は2015年には15%拡大した模様である。
国内金融機関の戦略検討に向けて
国内大手金融機関の自己資本比率は海外勢と違わぬ水準にあるものの 、レバレッジ比率は若干見劣りするのが実情である。金融機関が今後の戦略を検討する際、出発点となるのは、「自己資本とレバレッジの最適点をいかに見出すか」という視点ではなかろうか。収益性の検証も必要であるため、最適解を見出すのは容易ではないが、本稿の分析からは、例えば以下2つのような事項が浮かび上がった。
- クライアント・クリアリング事業をどう考えるか
- 他社ポートフォリオ買取りの余力はあるか
クライアント・クリアリング事業をどう考えるか
国内金融機関においても、B/S負担が依然課題と思われる。一方、顧客との関係から、撤退・縮小は難しいとの声も聞く。担保金のB/Sからの除外というCitiのケースは日本では適用が困難かもしれないが、自社B/Sの状況を鑑み、攻めに打って出る取り組み自体は示唆に富む。
他社ポートフォリオ買取りの余力はあるか
自社のB/S耐久力検証もさることながら、マーケット・メイキングやヘッジ・オペレーションなど買取り後の業務態勢構築の視点は欠かせないだろう。広範な事項の検討を要すため、高度な判断が必要であるが、グローバル事業における品揃えを拡充する一助となる可能性はある。
まとめ
規制・技術が進展する中、デリバティブ市場の構造は大きく変化しつつあるとの指摘もある。金融規制が導入段階に入る中、規制対応から戦略構築へいかに早く思考をシフトできるかが、今後のポジショニングを大きく左右するのではなかろうか。
- 寄稿
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株式会社野村総合研究所池田 雅史 氏
ホールセールソリューション
企画部
主任研究員