- 地方都市で普及が予測されるシェアリングエコノミー
- シェアリングエコノミーがもたらすインパクト
- 新たな需要を創造するシェアリングエコノミー
- 金融分野におけるシェアリングエコノミー「ソーシャルレンディング」
- シェアリングエコノミー時代の金融機関の役割
- まとめ
地方都市で普及が予測されるシェアリングエコノミー
シェアリングエコノミーとは
シェアリングエコノミーとは、世の中に余っているヒト・モノ・お金・時間を、必要とする多くの人と共有・交換して利用する社会的な仕組みである。
自宅の空き部屋を旅行者に貸し出す「Airbnb」や、自家用車を使って依頼主を目的地まで送る「Uber」、好みのスタイルを設定するとスタイリストの選んだ洋服が自分の手元に毎月届く「airCloset」など、国内でも様々なサービスが開始されている。
便利で快適な生活を実現する様々なサービスが日々生まれる現代の高度産業社会において、シェアリングエコノミーが急速に普及しているのは、必要なものを、必要なときに、必要なだけ利用できる合理性や経済性が評価されているからである。
シェアリングエコノミーで地域課題解決を目指すシェアリングシティ
近年シェアリングエコノミーに取組む自治体が増えているのは、このサービスが人口減少や高齢化、過疎化などに端を発する地域課題を、民間のノウハウを活かしながら解決する可能性を秘めているからである。
例えば2016年5月、公共交通機関の撤退が相次ぐ京丹後市丹後町で、自家用車で住民や観光客を有償運送するライドシェア(相乗り)サービスがスタートした。
2016年11月24日には、秋田県湯沢市、千葉県千葉市、静岡県浜松市、佐賀県多久市、長崎県島原市はシェアリングエコノミーによって地域課題の解決を目指すシェアリングシティになると宣言した。
国内におけるシェアリングエコノミーの普及には様々な業法規制の緩和が必要となる場合が伴うものの、2016年1月、東京都大田区では、一般住宅の空き部屋を宿泊施設として活用する「民泊」を認める条例が全国で初めて施行するなどの例もあり、地方自治体によるシェアリングシティ宣言は、今後シェアリングエコノミーの普及を加速させる可能性が高い。
シェアリングエコノミーがもたらすインパクト
シェアリングエコノミーの市場規模
総務省「平成27年度版 情報通信白書」によるとシェアリングエコノミーの市場規模は、グローバル全体で2013年に約150億ドルの市場規模が2025年には約3,350億ドル規模に成長する見込みであり、様々なシェアリングサービスが誕生している。
出典:総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年)
また、経済的な側面だけでなく、シェアリングエコノミーはICT技術を用いた現代的な手法で異なる分野の人たちの交流を促進し、失われたコミュニティを再生する側面もあり地域住民の生活の質(Quality of Life)を高めることが期待されている。
2020年以降に抱える社会的課題に対する対応
2020年東京オリンピック・パラリンピック以降を想像していただきたい。
10年後の2030年には、日本国民の3人に1人が65歳以上に、20年後の2040年には、団塊ジュニアが高齢期を迎え1,500万人の働き手が消える。2050年には日本の総人口が現在より約3,100万人減少し約9,500万人に、高齢化率は約40%となり、働く世代1.7人で1人のお年寄りを支えることになる。また、少子高齢化に伴い全国の未利用公共施設や空き家の増加も予測され、行政コストの更なる増大が懸念される。
こうした社会課題には、地域の個別課題を把握する地方自治体と働き手の確保や生産性の向上にノウハウを持つ民間企業が協力しながら解決していくことが重要であり、地域課題を解決するシェアリングエコノミーは単なる一過性のブームではなく、今後も市場拡大の一途を辿りそうだ。
新たな需要を創造するシェアリングエコノミー
世界的に急成長しているシェアリングエコノミーとしては、宿泊シェアリングのAirbnbが有名であるが、2015年11月、同社は同社サービスが日本にもたらした経済波及効果について、年額約2,220億円、雇用に対する波及効果は約2.2万人とする調査結果を公表した。
共同で調査を実施した早稲田大学根来教授によると、日本は現在、訪日外国人の増加などで宿泊施設が不足しているため、Airbnbは新たな宿泊施設の供給に貢献し、同サービスの経済波及効果は日本にとって「真水」の効果になると説明している。
シェアリングエコノミーについては、既存事業が取り込んでいた需要を奪うといった見方もあるが、急激な訪日外国人の増加による宿泊施設、移動手段などのインフラ需要に「既存事業者の供給が追いついていない地域でのサービス」に限っては、新たな需要を創造し、既存事業者が取り込んでいた需要を奪うことはない。
金融分野におけるシェアリングエコノミー「ソーシャルレンディング」
金融ビジネスの分野においてもIT技術を使った新たな金融サービス「フィンテック(FinTech)」の登場でシェアリングエコノミーは普及しつつあり、お金のシェアリングエコノミーとして「ソーシャルレンディング(Social Lending)」が注目されている。
ソーシャルレンディングとは
ソーシャルレンディングとは、お金を貸したい人(個人投資家)と借りたい人(中小企業や個人等)をインターネット上で結びつける融資仲介サービスであり、P2P融資とも呼ばれている。
個人投資家にとっては少額・短期投資が可能で市場に左右されず貸し倒れリスクは負うが安定した配当を受けることが可能であり、一方金融機関から融資を受けられないような中小企業等にとっては消費者金融よりも低金利での融資を受けることが可能になるというメリットがある。
ソーシャルレンディング企業事例
ソーシャルレンディングの国内最大手maneoマーケット株式会社(2007年8月30日設立)では、現在39,732人の登録ユーザー数があり、成立ローン額593億2,992万円(2016年12月26日現在)で事業は拡大傾向にある。
ソーシャルレンディングは、従来の金融機関がカバーできていない中小企業や個人などの資金需要者に対し融資を提供することから、地域金融機関の需要を奪うことなく、新たな需要を創造し普及していくことが期待される。
シェアリングエコノミー時代の金融機関の役割
今後、社会課題を解決する一つの手段として、シェアリングエコノミーに取組む地方自治体や企業が増える中、金融機関には資金供給者として以外にどのような役割が期待されるであろうか。考えられる金融機関の役割について考えてみたい。
シェアリングエコノミー企業の創業と創業後を支援
中小企業白書(2014年版)によると、起業家が起業を断念しそうになった際に直面した課題は「資金調達」とする回答が最も多い。一方で、起業に関する相談相手として、地域金融機関は「商工会・商工会議所」や「経営コンサルタント」を下回る回答割合となっており、起業に関する相談相手として存在感を高めることが期待されている。
金融機関は創業までの支援にとどまらず、創業後も創業期、創業直後期、成長期、安定期と企業の成長サイクルに合わせた支援を実施し、他の金融機関と差別化を図る。
例えば創業期には事業性の高い事業計画の策定支援、創業直後期には事業計画の練り直しや産官学連携などネットワークの構築支援、成長期にはシステムの拡張や高度化、知的財産権などに関わる支援、新規事業の創出支援など様々な支援のニーズが考えられる。金融機関は様々なリソースを活用し、支援することが重要である。
自治体とシェアリングエコノミー企業をマッチング
地域の地理的要因や産業構造、就労状況、企業の集積状況等により有効なシェアリングサービスが異なる。シェアリングエコノミーの普及拡大に向けては、金融機関が有する地域内外のネットワークを活用し、地域課題を明らかにし、どのようなシェアリングサービスが有効なのか分析を行い、シェアリングエコノミーに取組む地方自治体やシェアリングエコノミー企業に情報提供するとともに、マッチングを行う。
ソーシャルレンディング提供会社と提携
2015年5月、英国の新興銀行メトロ・バンク(MetroBank)が、ソーシャルレンディング大手Zopaと提携し、個人融資を開始した。日本国内の地域金融機関においても、独自に有する信用調査やネットワークを活かし、ソーシャルレンディング提供会社と提携することで、新たな顧客の開拓に繋がる可能性がある。
継続的なビジネス開発会議の開催
ビジネスの創出を目的としたビジネス開発会議を関係企業や自治体を交え定期的に開催する。会議では、異なる立場の代表者による情報交換の場として、ビジネス創出、法規制対策等についての専門的または生活者の視点から検討を行う。
まとめ
知り合いとそうでない人の接し方に大きな差がある日本人の社会において、シェアリングエコノミーは馴染まないといった意見もあるが、地方自治体がシェアリングサービスの提供に参画することで、信頼性が向上しシェアリングサービスの利用は促進されるだろう。
金融機関は資金供給者としての役割だけでなく、コンサルティング能力を発揮しシェアリングエコノミーの分野で創意工夫のある取組みを行うことで、新規顧客の獲得に繋がるだけでなく、地域における存在感を高めることができると考える。
- 寄稿
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株式会社NTTデータ経営研究所石上 渉 氏
マネージャー