- シェアリングエコノミーとは
- シェアリングエコノミー・ビジネスの具体例
- シェアリングエコノミー・ビジネスに関する法規制
- シェアリングエコノミー・ビジネスに関する業法規制の有無と留意点
- ビジネスモデル構築段階における法務戦略
- シェアリングエコノミー・ビジネス構築事例 ①ライドシェア(移動のシェア)
- シェアリングエコノミー・ビジネス構築事例 ②知識・スキルのシェア
- シェアリングエコノミー・ビジネスの展望
- 結語
シェアリングエコノミーとは
シェアリングエコノミーとは
“シェアリングエコノミーとは、個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む。)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動” として捉えることとする。
シェアリングエコノミー検討会議・内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「シェアリングエコノミー検討会議中間報告書」(2016年11月)
シェアリングエコノミーは上記のように定義される。噛み砕いて言えば、インターネットを利用して資産等を他人にシェアすることを指す。
シェアリングエコノミーにより、これまで限定された範囲でのみ活用されていた既存の資産等をより多くの人が効率的に活用することができ、また、個人が多種多様なサービスを提供したり、享受したりすることが可能となる。
レンタカー業など、これまでも資産を貸し出すサービスは存在したが、インターネット上のマッチングプラットフォームを利用して、個人等が保有する資産を、当該資産を活用したいと考える他の個人等に活用させる点が、シェアリングエコノミー・ビジネスの特徴である。
シェアリングエコノミー・ビジネスの具体例
「空間」をシェアする宿泊予約サービスの「Airbnb」や、「移動」をシェアする配車サービスの「Uber」をはじめとして、様々な形態のシェアリングエコノミー・ビジネスが登場している。これらは、従来のホテルやタクシーとは異なる新たな価値を提供しており、既に国・地域によっては社会の重要なインフラとして定着している。
また、「モノ」をシェアするフリーマーケットアプリや、「スキル」をシェアする家事代行サービス等も、シェアリングエコノミー・ビジネスの一つである。このように、シェアリングエコノミー・ビジネスは、多様な領域(分野)で展開されており、今後も新たな領域で展開されていくものと予想される。
シェアリングエコノミー・ビジネスに関する法規制
シェアリングエコノミー・ビジネスを法規制の観点から捉えた場合の特徴として、現時点(2016年12月)では、シェアリングエコノミー・ビジネスを全般的に規制する法律は存在しないという点を指摘することができる。
したがって、展開する領域およびビジネスモデルによって、シェアリングエコノミー・ビジネスに適用される法規制は異なるため、まずは展開を予定している領域に業法規制が存在するか否かを確認・検討する必要がある。
業法:旅行業法、保険業法等、特定の業界について規制する法律の多くが「~業法」との名称であることから、特定の業界について規制する法律を総称して業法と呼ぶ。ただし、業法には、「~業法」との名称ではないものも存在する。
業法規制の有無によるシェアリングエコノミー・ビジネスの3分類
シェアリングエコノミー・ビジネスを展開することが想定されるビジネス領域は、業法規制の有無の観点から、以下の3つに大別することができる。
- 業法規制により許認可等の取得が必要な領域
(例:旅館業法が適用される場合の民泊ビジネス、保育ビジネス等) - 業法規制により許認可等の取得が必要か否かについて、グレーゾーンにある領域
(例:スペースシェア(会議室等)、子育てビジネス等) - 業法規制のない領域
(例:家事代行サービス等)
以下では、各領域における留意点について解説する。
シェアリングエコノミー・ビジネスに関する業法規制の有無と留意点
業法規制により許認可等の取得が必要な領域
この領域においてシェアリングエコノミー・ビジネスを展開する場合には、既存の業法に従って許認可等を取得する必要がある。
なお、当然ではあるが、業法規制の有無やその内容は国によって異なっており、外国において特に業法規制が存在しないサービスであっても、日本においては業法規制が存在し、許認可等が必要となることがある点には注意が必要である。
業法規制により許認可等の取得が必要か否かについて、グレーゾーンにある領域
シェアリングエコノミー・ビジネスは、多かれ少なかれ既存のビジネスモデルとは異なった新たなビジネスモデルを採用しているため、現在の業法規制が典型的に想定しているビジネスモデルの枠内に収まらない場合が多く、業法規制の適用があるか否か即座には判断が付かないこともある。
そのような場合、業法規制の適用があるか否かについては、多くの場合法解釈の問題となるが、参考となる裁判例等が存在しないことがほとんどであり、明確な解釈を導き出すことが難しいことが多い。
実務上、通達やガイドラインにより行政による法解釈が示されている場合には、これらを参考にすることとなるが、これらが出されていない場合には、弁護士等から意見を聴取したうえでビジネスを進めていくこととなる。
さらに、留意すべきは、ビジネスモデルの組み方を少し変えるだけで、法規制の適用の有無が変わってくる可能性や、適用される法規制の内容が変わってくる可能性があることである。類似のビジネスが既にサービス・インしているからといって、業法規制の適用がないと安易に判断することは避けるべきである。
その他、各領域に共通する留意点
ビジネス領域や事業者のサービスへの関わり方次第では、業法以外の法律(民法、労働法、職業紹介法、税法等)により、事業者が規制の適用を受け、又は責任を負う可能性があることにも留意すべきである。
ビジネスモデル構築段階における法務戦略
前記のようにグラデーションのある法規制の中にあって、シェアリングエコノミー・ビジネスをスムーズに展開していくためには、ビジネスモデル構築の段階からの法的な検討が非常に重要になる。
すなわち、ビジネスを構想する段階で、どのような領域においてどのようなタイプのビジネスを構築するか、そのビジネスは法規制との関係でどのように位置付けられるのか、どのようにして法令に抵触する可能性を最小化しビジネスを進めていくのかといったことを柔軟に考えるべきである。
シェアリングエコノミー・ビジネスは、一旦サービス・インした後にビジネスモデルを変えることは難しく、また、それが可能であったとしても多大なコストがかかる可能性があるため、ビジネスモデルを構築する段階から同時並行的に法務的な検討も行う必要性が高い。実際、筆者らも、シェアリングエコノミー・ビジネスのビジネスモデル構築の段階から法律専門家として関与することも多い。
ビジネスの構築の仕方によって法規制のかかり方が変わってくることを理解していただくため、具体例として以下2つを挙げる。
シェアリングエコノミー・ビジネス構築事例 ①ライドシェア(移動のシェア)
自家用自動車を用いるドライバーを紹介するサービス
自家用自動車を有償の運送の用に供することは原則として許されず、例外的にこれを行うためには、基本的には国土交通大臣の登録又は許可を受けなければならない(道路運送法78条)。
したがって、自家用自動車を用いて運送サービスを提供したい個人と運送サービスを享受したい個人とをマッチングさせ、運送サービスを享受した個人から提供した個人に対し報酬として金銭を支払わせるという態様でシェアリングエコノミー・ビジネスを展開することは困難である。
レンタカー利用者とドライバーとをマッチングするサービス
他方、運転者が、利用者の所有する自動車を使用して利用者の送迎を行う場合のように、自動車の提供とともに行われるものでない場合には、そもそも運送行為が成立しないため、道路運送法の対象とはならず、許可等は不要であるとされている。
平成18年9月29日付け事務連絡「道路運送法における登録又は許可を要しない運送の態様について」(自動車交通局旅客課長発出、各地方運輸局自動車交通部長・沖縄総合事務局運輸部長宛)
運送の態様又は対象となる利用者の範囲次第では、自動車運転代行業又は人材派遣業等とみなされる可能性があり、この場合には関係法令が適用される。
このように、運転者が自動車の提供とともに運送をしない場合には道路運送法の対象とならないという点に着目したシェアリングエコノミー・ビジネスとして、レンタカー利用者とドライバーとをマッチングするサービス(ジャスタビ)が登場している。
相乗りマッチングサービス
自動車の実際の運行に要するガソリン代・道路通行料・駐車場料金をサービスの提供を受ける者が支払うにすぎない場合、社会通念上、通常は登録等を要しないと解されている。この点に着目したシェアリングエコノミー・ビジネスとして、相乗り(1台の車に複数名で乗り合わせ、移動に要する実費(ガソリン代等)を当該複数名で割勘すること)のマッチングサービス(notteco)が登場している。
その他の留意点
なお、ライドシェア・サービスを提供するに当たっては、旅行業法など、道路運送法以外の法規制の適用の有無についても検討すべき場合がある点に留意する必要がある。
シェアリングエコノミー・ビジネス構築事例 ②知識・スキルのシェア
個人の知識やスキル等をサービスとして提供できるオンラインマーケットにおいて、離婚相談のサービスを提供することは、場合によっては、非弁護士の法律事務の取扱いの禁止を定める弁護士法72条に抵触する可能性がある。
他方、恋愛相談のサービスを提供するにとどまり、法律相談にわたらない場合は、原則として、弁護士法との抵触の問題は生じない。
シェアリングエコノミー・ビジネスの展望
シェアリングエコノミー・ビジネスにまつわる法規制は、概ね規制緩和の流れの中にあり、また、グレーゾーンの解消に向けた制度等が整備されつつある。このように、シェアリングエコノミー・ビジネスを行うための素地は整ってきているということができるが、個別の領域における法規制の動向を注視することは必須である。
以下では各領域ついての今後を展望する。
①業法規制により許認可等の取得が必要な領域
シェアリングエコノミー・ビジネスは、業法が想定していなかった新たなビジネスモデルを採用していることが多いため、シェアリングエコノミー・ビジネスの健全な発展のためには、それぞれの規制領域における適時適切な規制緩和や、既存の業法規制とは異なる新たな規制枠組みの導入が必要となることも多いと考えられる。
民泊ビジネスは、まさに規制緩和の動きの渦中にある。民泊ビジネスが旅館業法2条所定の「旅館業」に該当する場合、事業者は都道府県知事等の許可を取得する必要がある。宿泊施設の構造や設備、あるいは運用に関して、旅館業法は様々な観点から規制をしており、また、手続も煩雑であることから、上記の許可を取得することは容易とはいえない。
しかし、いわゆる「民泊特区」において都道府県知事等の認定を受けた場合、旅館業法の適用が除外される。また、いわゆる「民泊新法」が平成29年にも成立する予定であるが、当該新法により、旅館業法が適用されない場合が拡大することが見込まれる。
民泊ビジネスの例のように、シェアリングエコノミー・ビジネスにまつわる法規制は、大きな流れとしては規制緩和に向かっていくと予想される。規制緩和が実施されれば、法規制のかからない形又はより負担の少ない形でビジネスを構築すること等が容易になると考えられる。
また、新規の事業を行おうとする事業者につき、安全性等の確保を条件として、企業単位で、規制の特例措置の適用を認める制度も新設された。この制度がより一層活用され、シェアリングエコノミー・ビジネスの発展に繋がることも期待されるところである。
②業法規制により許認可等の取得が必要か否かについて、グレーゾーンにある領域
シェアリングエコノミー・ビジネスが法令に抵触する可能性が払拭できなければ、ビジネスの展開が阻害されかねない。そこで、弁護士等の活用により、展開しようとするシェアリングエコノミー・ビジネスにまつわる法規制の内容、当該法規制に当該ビジネスが抵触する可能性等のリスクを把握し、法令違反とならない根拠を明確にしたうえで、ビジネスを進めることが考えられる。
また、法規制に抵触するか否かが不明確である場合、行政や他の企業等との提携が進まず、あるいはサービスの提供者・利用者に不安を与えることも考えられるため、産業競争力強化法(平成25年成立)9条に基づくグレーゾーン解消制度を利用することも検討に値する。
このグレーゾーン解消制度は、新たに実施しようとする事業活動等に関する規制について規定する法律等の解釈および当該事業活動等に対する適用の有無について、所管の省庁に確認を求めることができるというものであり、当該制度を利用することで、個別の事業について適法(ホワイト)であることを明確にできる可能性がある。
近時では、例えば、事業者が企業向けの会員制サービスである無償社宅シェアサービスを導入するに当たり、会員企業の社員が出張する際に宿泊等に利用できる場所を無料で提供する行為について、事業者が宿泊料金を徴収せず人を宿泊させることから「旅館業」には該当しないということが、当該制度により確認されている。
以上のように、様々な領域におけるシェアリングエコノミー・ビジネスが法令に抵触することとなるか否かを明確化していくことは、ビジネスの発展に寄与するものと考えられる。
③業法規制のない領域
現在は業法規制がないとしても、今後、資産等を提供する個人等とマッチングプラットフォームの運営者それぞれに対し、最低限の規制やガイドライン等が整備される可能性はある。それゆえ、規制の動向を注視していく必要があろう。
また、業界として自主ルール等を制定することによりトラブル等の生じる可能性を最小化することは、検討の余地があるといえるだろう。この場合、シェアリングエコノミー・ビジネスを実施する主体は様々であることから、どこまでの範囲のプレーヤーを取り込んで自主ルール等を制定するのかということが問題となると思われる。
結語
シェアリングエコノミー・ビジネスを取り巻く法規制には、グラデーションがある。そのグラデーションの中で、ビジネスをどのように構築すれば、スムーズに展開させられるか。本稿が、シェアリングエコノミー・ビジネスを構想する段階で、法規制のグラデーションの中における位置付けを意識した法務戦略を立てる一助となれば幸いである。
- 寄稿
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大江橋法律事務所山本 龍太朗 氏
弁護士
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大江橋法律事務所木田 晃一 氏
弁護士