資産運用アドバイスの需要増
新型コロナウィルスの感染拡大により、世界中の金融市場が大きな混乱を見せるなか、IFA(独立系金融アドバイザー)事業者の預かり残高が増加するという興味深い現象が報じられている。世界的な株安を受け、個人投資家の投資意欲が強まる一方、金融市場の激しい変動にどう対処すべきか、専門的なサポートに対する需要が高まっていることが背景にあると思われる。
米国では、2008年のリーマン・ショック後に退職を迎えたベビーブーマー世代を中心に老後資金運用に関する問題意識が社会的に高まったことなどを受け、資産運用アドバイス業界が過去10年で大きな成長を見せている状況にある。
日本でも、2019年夏に金融庁発端による「老後2000万円」問題が社会問題化した。そのタイミングで今回のコロナショックが起きたことは、今後10年程度の長期スパンで資産運用アドバイスを提供するIFA業界の成長につながる可能性がある。
また、主要オンライン証券会社による株式売買委託手数料等の無料化や投資信託の手数料切り下げの動きなど、従来型の証券・資産運用ビジネスから利潤が消失している。そのなかで、多くの金融機関が最後のフロンティアとして資産運用アドバイス領域に強い関心を見せていることもあり、生活者と金融機関それぞれのニーズが業界成長を支えることを予想する。
「投資助言」は訴求力が弱い
資産運用アドバイスビジネスの成長の可能性について、「日本人は欧米人とは異なってアドバイスにお金を払うカルチャーが無い」という否定的な意見をしばしば耳にする。しかし、米国Cerulli Associatesの調査によると、直近でも「資産運用アドバイスにお金を払う」と回答した米国人は約半数に留まっており、米国においても有償で資産運用アドバイスを受けることがカルチャーとして存在するという状況は無い。
資産運用アドバイスがビジネスとして拡大するために解消すべき真のボトルネックは、事業スキームの欠如であると考える。これまで資産運用ビジネスの代表的スキームだった投資信託は、確かに投資運用付加価値を提供するには最適なものだったが、その契約書で個別の投資家への資産運用アドバイスやアフターフォローを詳細に定義することはできず、新しい時代の資産運用アドバイスサービスに対応するスキームとはなり得ない。個別にそうしたサービスや対価を定めるためには、投資一任スキームが最適であり、今後のビジネス拡大のためにはその広がりが必須であると考える。
投資助言スキームも資産運用アドバイスを個別の契約で定め、提供することが可能であるが、ポートフォリオマネジメントに伴う金融商品の売買執行を顧客に任せ、対価となる助言報酬を現金で請求することが多い投資助言スキームはサービスとして顧客訴求力が弱いと言わざるを得ない。
現に、米国で資産運用アドバイスの提供を担う代表的な業態であるRIA(登録投資顧問業者)は、日本では投資助言業者と誤解されることが多い。しかし、そのサービス提供のほとんど(残高基準で90%超)は投資一任スキームを通じて行なわれている。
プラットフォーマーと役割分担
ただ、現在の日本の金融商品取引法では、小規模なIFA事業者が、米国RIAのように、自ら投資運用業として登録し、投資一任スキームを具備するのは残念ながら現実的ではない。
この点、一部のIFA事業者が証券会社の投資一任スキームを活用しているように、資産運用アドバイスを担う事業者が金融商品プラットフォーマーと役割分担し、自らはあくまで金融商品仲介業者としての立場に留まりつつ、実質的には資産運用アドバイス付加価値を最大限提供するという日本独自のスキームが現実的な解として考えられる。
資産運用アドバイスに対する需要や期待が高まるなか、その代表的な担い手であるIFA業界が今後大きく成長するかどうかは、IFA事業者のみならず、それを支える金融商品取引業者その他のプラットフォームの充実にかかっていると言えよう。
- 寄稿
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日本資産運用基盤グループ
代表取締役社長
大原 啓一 氏2003年東京大学法学部卒業。2010年London Business School
金融学修士課程修了。野村資本市場研究所・DIAMアセットマネジメント
などを経て、2015年にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業、
2017年9月まで同社代表取締役社長。2018年に日本資産運用基盤株式会社
を創業。