- 金融機関が抱えるDX推進とコストの課題
- 効果が即効・永続する5つの「新しいやり方」
- テクノロジー活用による高速・無痛のコスト改革
- ZBSの「10〜15%コスト削減」、コスト構造抜本的変革の「20〜50%コスト削減」
- Day1からメリットを享受する「コスト構造の抜本的改革」
- コスト削減で財務成果を出すための7つの要諦
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。
金融機関が抱えるDX推進とコストの課題
現代日本の金融機関にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)は待ったなしの課題である。しかしそのための資金をどのように捻出するか。この課題に悩んでおられる金融機関は少なくない。DX推進のための原資確保というテーマは、特に地方銀行において顕著である。その原因の一例として、コスト削減に取り組むにも、勘定項目の切り方がコストマネジメントに適しておらず、コスト構造の把握が困難であることなどが挙げられる。
アクセンチュアではそうした金融機関の課題解決に貢献するアプローチとして、「ゼロベースド・スペンディング(ZBS)」と20%〜50%のコスト削減を目指す「抜本的な構造変革」を提唱している。ZBSと構造変革は、いわば筋肉質な経営体質への転換を促す、聖域なきコスト削減のアプローチである。
ZBSではあらゆるコストを「単価×数量」で見える化し、目的との照合による必要性で判断する。「昨年対比」とはまったく異なる視点でのコスト削減の考え方であり、リバウンドを起こさせないコスト構造の仕組みづくりとカルチャー変革を目指す。では、金融機関の「体質改善」に切り込むZBSおよび「抜本的なコスト構造変革」とは何か、具体的にご紹介していく。
効果が即効・永続する5つの「新しいやり方」
そもそも「コスト削減」は、古くて新しいテーマである。「一度もコスト削減の取り組みを実施したことがない」という金融機関は存在しないか、極めて稀有な存在だろう。アクセンチュアでは現在、金融機関がこれまでに取り組んできたコスト改善策はすでに限界に達しており、これ以上の効果は望めないのではないかと考えている。必要なものは、まったく新しい視点で構成される「新しいやり方」の実践である。
一般的なコスト削減の取り組みは「自律性」「即時性」「自発性」「網羅性」「永続性」の5つの段階に沿って進行する(下図参照)。各段階に沿って新旧のやり方を比較していく。
●自律性
コスト削減は主に経営層の「鶴の一声」のようなリーダーシップのもと、各部門・部署に精神論で削減目標を達成させる「力技」でなされることが多いものであった。しかしこれからはそうした掛け声によって始まるコスト削減ではなく、Intelligent Automationによる業務の自動化で省人化・省力化を目指す自律的な取り組みとなる。いわば、平常時を前提として組織全体にコスト削減のための取り組みを浸透させるガバナンスが出発点となる。
●即時性
旧来のコスト削減の取り組みは、経験豊富なコンサルタントが3カ月程度をかけて分析し、実行フェーズに入ってからも財務上の成果が出始めるまでに約2年を要する気の長いプロジェクトであった。しかしビジネス環境の変化が著しい現代においては、「効果実証済み・導入実績あり」のソリューションを即時に適用して財務効果を直ちに享受することが必要である。
●自発性
かつてのコスト削減は「痛みを伴う改革」などのスローガンのもと、時間をかけて社内を説得し、あるいは負担を強いる形でコストを抑制する人力の改革であった。しかしそうした精神論による強引な改革は本当に効果が出やすいのだろうか。むしろ「無痛・高速」であるほうが理想的だろう。アクセンチュアは「AI&ロボ」の利用による自動化こそが新しいやり方であると考えている。
●網羅性
本来、コスト削減の取り組みには網羅性が不可欠ですある。削減すべき分野の検討が抜け漏れたり、個社レベルでの利益改善に留まってしまったりするケースが往々にしてあるためである。コスト削減の取り組みは業界全体や業界を超えた広範囲な社会の利益率向上へとつながるべきだといえる。そのためには個々のコストの内訳や関係性を見極めた、網羅性のある取り組みが必要である。
●永続性
コスト削減は企業のダイエットである。リバウンドでせっかくの取り組みが緩んでしまい、再度のコスト削減が必要となる場面がしばしば見られる。リーダーシップや精神論、人力、個社レベルでの取り組みによる取り組みではこうした「緩み」を防ぐことは困難である。しかし「自動化」を前提とする新しいやり方は財務効果を永続させる効果があり、フルポテンシャルが最大化・永続化する特長を持っている。
テクノロジー活用による高速・無痛のコスト改革
ご紹介した「新しいやり方」でポイントとなっているのがAIやロボによる「自動化」と、業務の自動化による「省人化・省力化」の実現である。アクセンチュアではすでに効果実証済みのソリューションをご提供しており、金融機関は「痛み」を伴う改革ではなく、「テクノロジー」の活用によるスマートな取り組みでコスト削減の効果を享受できる。
このテクノロジーは、無益・無痛なコストと業務は捨て去り、有益・無痛の効率化を最速で実施するものである(下図参照)。「①コスト細目可視化AI(Aurora-J)」は、伝票データや勘定元帳のデータ統合を自動的に分解、再編成するAIである。ExcelやAccessなどのデータが膨大で「人力では困難」と言われていた作業を超高速で仕分・分析する。
続いて「②業務価値VS.人件費作戦地図生成ツール」が、「誰が・どのような稼働をしているか」「どのような会議に出席しているか」「どのような価値を出しているか」といった情報を計測・分析することで、付加価値の低い業務の排除と人件費抑制効果を特定する。さらにリモート会議における参加者の貢献度や発言内容も捕捉し、人・仕事・価値の関係性を明確にする。
こうした新しいやり方によるコスト削減の取り組みの仕上げといえるのが「③自動化・生産性向上ツール群」の活用である。これは、数百社におよぶグローバル規模の企業に対し、アクセンチュアが数十万時間のBPOの累積経験で磨き上げた自動化処理と生産性向上のテクノロジー群である。これらのツールには最新のAIやRPAが導入されており、単体やつまみ食い、部分最適のRPAでは実現不可能な「抜本的な生産性向上」を超短期間で実現する。
第3のツール群は、アクセンチュアのBPOセンターが実際に活用しているものであり、その効果は実証済みである。世界中のお客様から業務をお預かりし、生産性を向上させているアクセンチュアの洗練させてきたツール群が、日本の金融機関の業務効率の向上をご支援する。
ZBSの「10〜15%コスト削減」、コスト構造抜本的変革の「20〜50%コスト削減」
以上で見てきたような「新しいやり方」と「テクノロジーの活用」で、アクセンチュアは金融機関のお客様のコスト削減をご支援する。
しかし、より健康な肉体を得るには、ダイエットによるスリム化だけでは不十分であるのと同じように、いわゆる「体質改善」を行い、「筋肉質」な組織を実現、かつ健全さを企業文化として浸透させなければならない。
コスト削減で捻出された資源を成長分野への再投資につなげるには、AIによるコスト可視化やAmbition目標の設定、効果の定着化を目指す「ZBS(ゼロベースでのコスト削減)」と「コスト構造の抜本的変革(Structural change)」を両輪として、高い効果を狙っていくことが重要である。後者はBPO(事務のアウトソーシングや効率化)、AO/IO(ITアウトソーシング)、オフィスのあり方の抜本的見直しなどによって構成される。
ZBSによるコスト削減は多くのお客様で10〜15%のコスト削減効果が実証されている。さらに、お客様のコスト構造へと踏み込んだ抜本的変革を行い、業務そのものやオフィスのあり方まで改革していくことで、さらに20〜50%のコスト削減といった劇的な効果に結びつく。この20〜50%のコスト削減は、日本の金融機関でも同様に実現可能であると考えている。
そもそもなぜ管理会計の情報ではコスト削減が困難なのだろうか。それは勘定科目の切り方がコストマネジメントに適していないからである。アクセンチュアが提供している「240種類の客観的コストカテゴリー」とAIによる自動分析マシンを組み合わせることで、コストアイテムごとの削減機会を明らかにする。このことは、「誰がそのコスト削減を担当するのか」という、責任の所在を明確化する。
アクセンチュアは管理会計データをコスト削減に適した構造へと整理・再編成していくノウハウと知見を有しており、金融機関に求められるきめ細やかな対応も可能である。
コスト削減プロジェクトは、往々にして「総論賛成・各論反対」に陥りがちな性質を持っている。それゆえに、分析の結果、削減するべきコストと領域が特定され、その具体的方法や目標が示されたのちの実行の段において「やる・やらない」の最終決断は常に経営層のトップ判断でなされるべきものであると言える。
また議論においては、常に透明度を高めて経営層の議題とする。その際の具体設定と適切・精確な情報に基づく意思決定をアクセンチュアはご支援している。
Day1からメリットを享受する「コスト構造の抜本的改革」
「コスト構造の抜本的変革」は20〜50%のコスト削減を実現しうるアプローチだが、より深く踏み込む取り組みであり、そもそもの「考え方」から大きく変化させる必要性と切り離せない。この取り組みはBPO、AO/IO、オフィスのあり方の抜本的見直しの3要素で構成される。
●BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)
アクセンチュアはコンサルティングに加え、実際にお客様の間接・直接業務を受託し、その業務をお預かりして実行する事業を展開している。
アクセンチュアのBPOは現状業務を精査し、受託後の効率化を見込んで値決めをおこなう点に特徴がある。そのためお客様は契約後の「Day1」から削減効果のメリットを享受できます。
アクセンチュア側は「先行投資」として業務コストを持ちつつ、コスト削減効果で運用を低コスト化していく。この差分でアクセンチュアは投資を回収するが、お客様は契約期間でコストを平準化してご請求となるので、将来的に得られるBPOの効果を「先取り」することができる。これが「Day1からのメリット享受」の仕組みである。
そのためアウトソーシング期間が長ければ長いほどコスト削減効果が高まることから、5年、7年、10年といった中長期でのご契約を選択されるお客様が一般的となっている。
BPOにおける最大のハードルは現状維持バイアスである。これは現場ほど強く作用しがちであるため、アクセンチュアはお客様側経営層と共に現場を訪ね、丁寧かつ根気強く改革の重要性やテクノロジーの有効性をご説明するコミュニケーションを重ねている。
具体的にどのような業務領域に、どのようなアウトソース可能範囲があるかは、アクセンチュアとお客様の協議によって見極めていくが、ドラスティックな効果創出をご期待いただける。(適用範囲の例は下図参照)
また、アクセンチュアのBPOはお客様の人材不足問題の解決にも寄与する。アクセンチュアが間接管理業務を受託することで、それまでこの領域を担当されていた社員の方々は自社のトップライン向上に貢献する業務へとシフトできるなど、より前向きな人材戦略が可能となる。
●AO/IO(ITアウトソーシング)
ITのコスト削減においても、ZBSの考え方で取り組んでいく方法論は有効である。アクセンチュアはIT分野でもアウトソーシングの効果を最大化するサービスを展開している。
多くの金融機関がITシステムの管理や開発、運用保守を外部ベンダーへ受託しているが、ある企業では受託先が50社以上になるなど、管理負荷が極めて高い状態にあった。アクセンチュアはコンサルティングによって受託先の整理統合に貢献し、50社の受託先を3社程度へ集約。健全な競争を保ちながらも、IT関連の業務効率を高めることに成功した例がある。その際、アクセンチュア自身もITの保守運用に参画し、さらなる最適化を進める力学が作用する仕組みを維持している。
なお、日本の地銀の場合、ITや業務の周囲で共通の課題を持つケースが多くみられる。地銀同士での共有化・共用化によるコストシェアやオペレーションの共通化が有効な手段として検討に値するだろう。
●オフィスのあり方の抜本的見直し
新型コロナウイルスの影響によるオフィスのあり方の見直しはコスト削減の観点でも避けられないテーマとなった。
リモートワークとなり、デジタル環境でのワークスタイルへの移行が強制的に進んでしまった昨今では、社員1人あたりに必要なオフィス面積を新しい計算式によって算出し、不動産で借りるべき平米数の再確認を進めている。また、オフィスレイアウトにおいても執務スペースは情報交換やディスカッション、最新の提案につながるようなコラボレーションの場としての性格を強めている。
オフィス賃料は、今後大きく姿を変えていく分野になる。アクセンチュアは、お客様にとって最適なオフィスはどのような姿であるべきかのご相談から実行までをご提案している。
コスト削減で財務成果を出すための7つの要諦
以上のように、本記事ではZBSの考え方やAIに代表される自動化ツールによるコスト削減、大胆なアウトソーシングの活用による踏み込んだ構造改革による抜本的なコスト削減を解説してきた。
最後に、本記事を締め括るにあたり、コスト削減で財務成果を出すための7つの要諦をご紹介する。
- 初期診断でSize of the prizeを見極め
- 成功報酬の積極的な導入
- トップ直結の最上位プライオリティのプロジェクト
- 他社にないアクセンチュアソリューションで大きな財務成果
- 粘り強く丁寧なコミュニケーション
- 機動的なプロジェクト運営
- 一度下げたコストをリバウンドさせない仕組みの導入
これら7つの項目の実行によって、コスト削減による財務成果をクイックに享受できるとアクセンチュアでは考えている。
アクセンチュア金融サービス本部では、より早く最新の動向や弊社のインサイトをご紹介するために、金融業界向けの「金融ウェビナー」を継続的に開催している。ウェブを使ったバーチャルな1時間のライブセッションで、パソコンやモバイルから簡単に参加でき、匿名で質問することも可能。詳しくはこちら。
- 寄稿
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アクセンチュア株式会社長谷部 智也 氏
ビジネス コンサルティング本部
マネジング・ディレクター
ストラテジーグループ