日本版SPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)の行方


SPACとはSpecial Purpose Acquisition Company(特別買収目的会社)の略称であり、買収を目的として設立される会社を意味する。米国発祥のスキームであり、新規株式公開(IPO)の際に用いられる仕組みである。従前より日本での制度化が議論されており、足元では、内閣官房の「新しい資本主義実現会議」の提言案にも含まれている状況だ。本稿では、SPAC制度や米国の状況を概観すると共に、日本での検討状況を確認したい。

目次

日本での検討状況

日本では昨年6月に政府が発表した「骨太方針2021」において、日本経済の新陳代謝を早めるためのスタートアップ支援、およびIPO価格の適切性を担保するための枠組みとして、日本におけるSPAC制度の導入が提唱された。また、その後、日本取引所グループの「SPAC制度の在り方等に関する研究会」においても年末にかけて検討が行われた経緯がある。なお、昨年11月に公表された内閣官房の新しい資本主義実現会議の提言案においても「SPAC制度の検討」が盛り込まれており、日本におけるSPAC導入のための外堀は着実に埋まっている状況だ。

一方、日本におけるSPAC導入は課題も多いものと思われる。まず、米国のSPACは「実績を有し信頼に足るスポンサー」の存在が前提となっている。一般の投資家はSPACが買収する非上場会社ではなく、スポンサーを信頼して投資を行うこととなる。米国に比べ蓄積に乏しい日本において、そのようなスポンサーがどの程度存在するかは疑問だ。また、上場後の情報開示が十分になされるかについても懸念されるところだ。SPACはある種の「裏口上場」スキームであることは否めず、制度実現時には日米の違いを踏まえ、投資家保護を十分に検討する必要があろう。

なおIPO価格の適切性を担保できるかどうかという点についても問題がある。日本のIPO市場は公開価格が低く、調達額が少なくなるとの問題点が指摘されている。SPACのスキームにおいては、非上場企業の買収金額が、SPACの合計調達額を上回ることがない。しかし、このことは公開価格の適切性とは無関係である。むしろ、公開価格の前提となる非上場会社の買収価格の決定に、投資家が直接関与できないことの方が問題であるように筆者には思える。ここでも信頼できるスポンサーの有無が焦点となってくる。 日本での議論においても、個人投資家中心かつスタートアップ企業が比較的上場しやすいマザース市場の存在や、本家米国においても2021年には監督当局の規制が強化されたことを受けた慎重論もあるようだ。SPACが非上場企業の上場を促進する効果はたしかにありそうだ。一方、日本の市場に合致した仕組みかどうか、「新しい資本主義」にふさわしいかどうかは、慎重な判断を要するものと思われる。

本稿中、意見に係る部分は筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を示すものではない。

寄稿
SBI金融経済研究所 https://sbiferi.co.jp/
事務局次長
村松 健 氏
1996年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、株式会社日本興業銀行(現みずほ銀行)入行し、2021年11月より現職。著書に『銀行実務詳説 証券』、『NISAではじめる「負けない投資」の教科書』、『中国債券取引の実務』(全て共著)、論文寄稿多数。日本財務管理学会所属。
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