Embedded Financeの今後の可能性


Embedded Financeとは「組み込み金融」を指し、「金融以外の事業を展開する非金融企業が、既存サービスに金融サービスを組み込んで提供する」こととされている。規制緩和やFintech企業の躍進により、金融の新たな可能性を開くサービスとして昨今注目されている。本稿では、従来型金融とEmbedded Financeの違いや、今後の可能性および課題につき考えてみたい。

目次

ビジネスとして見たEmbedded Finance

ではEmbedded Financeのビジネスとしてはどうか? Embedded Financeは、決済、融資、保険など、複数の金融サービスをまたがる概念である。現在最も普及しているのは、上述のAmazonワンクリック購入に代表される「決済」であろう。一方、金融ビジネスとして考えた時には、収益的には融資への取り組みがポイントだ。今後、特に重要なのは、新たな需要を喚起する「後払い」サービスではないか。

後払いサービスは欧米では「BNPL(Buy Now, Pay Later)」と呼ばれている。BNPLとは、インターネットのECサイト等が顧客の購入意欲をつなぎとめるため、BNPL事業者と連携し、銀行(BaaS)融資を仲介することで、顧客に購入資金を供与するものである。欧米ではこのようなサービスは、主にクレジットカードを保有していない顧客から支持を受けているようだ。

BNPLは顧客の気持ちを大きくする効果が期待されている。欲しい商品があったとき、資金がたりなければ購入に至らないところ、シームレスに後払いサービスへ誘導することで、自動的にローンを組成され、購入することが可能となる。これが「気持ちを大きくする」との趣旨だ。

後払いサービスは、資金繰りに着目したファイナンスとの趣旨では、銀行における貿易金融や運転資金の融資と同じものと言える。異なるのは、気持ちを大きくする効果により融資金額を大きくしようとしていること、そして、当然ではあるが与信審査の仕組みが異なることだ。

欧米で拡大するBNPLだが、日本でも市場規模は2021年度には1兆円を超えたようだ。順調に拡大するBNPL市場だが、課題として、(1)市場の成長性、(2)過剰与信・消費者トラブル、があるのではないか。

(1)については、足元は順調に拡大している日本のBNPL市場だが、顧客の気持ちを大きくし、購買意欲をあおるとの手法が日本人の国民性に馴染むかは疑問がないわけではない。そもそも日本の景気低迷は、年金等将来不安に起因する個人消費の伸び悩みによるに起因する部分が相応にあるものと思われ、借金をしてまで購買意欲を満たすとのBNPLの商品性が、日本人の行動様式として定着するかは、やや難しい面もあるように思われる。

(2)については、過剰与信や消費者トラブルに関し、そもそもクレジットカードを保有できない顧客の購買意欲に訴求するBNPLの手法は、収入に不相応の買い物を促すものや、消費者の誤認によるトラブルなどを招きやすい部分があるように思われる。実際、国民生活センターの調査によると、2019年度の相談数は2018年度の約3倍の338件に急増しており、今後社会問題化する可能性も懸念される。2021年5月には後払い決済事業者7社により自主規制団体である「日本決済後払いサービス協会」が設立され、自主ルールによる統制が開始されており、今後の動向が注目される。

以上はBNPLを中心に検討したが、他のEmbedded Financeの手法においても、同様の論点はあるのではなかろうか。

村松 健 氏
寄稿
SBI金融経済研究所
事務局次長
村松 健 氏
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