- 改正保険業法とは
- 改正保険業法で変わること
- 保険募集の定義の明確化
- 新たに定義された「募集関連行為」
- 「意向把握義務」に対応する実務
- 「情報提供義務」に対応するための実務
- 保険募集人に対する規制の整備
- まとめ
改正保険業法とは
改正保険業法(保険業法等の一部を改正する法律)とは、保険商品の複雑化や販売形態の多様化、乗合代理店の出現などにより、保険会社の経営環境が大きく変化したことを受けて、新たな環境に対応するための募集規制の再構築等を目的として改正された金融規制法である。
保険業法
保険業法(ほけんぎょうほう、平成7年法律第105号、英語表記:Insurance Business Act)は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営および保険募集の公正を確保することにより、保険契約者などの保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする(保険業法第1条)日本の法律である。平成8年(1996年)4月1日施行。
– 保険業法
Wikipedia
改正保険業法で変わること
改正保険業法では、保険募集の定義が明確化され、募集関連行為という概念が導入される。
また、顧客ニーズを把握する「意向把握義務」や「情報提供義務」を導入するなど、募集プロセスの各段階にきめ細かく対応する基本的なルールが創設される。
保険募集人に対して、規模・特性に応じた直接的な体制整備を義務づける。
保険市場を活性化するために、海外展開の際の子会社規制の緩和、保険仲立人に関する規制の緩和や、共同保険における契約移転手続に係る特例の導入、運用報告書の電磁的交付方法の多様化なども実施される。
以下、それぞれについて詳しく説明していく。
保険募集の定義の明確化
保険業法では「保険募集」の定義は「保険契約の締結の代理又は媒介を行うこと」と抽象的なので、具体的にどんな行為がこれに該当するか必ずしも明確ではない状態だったが、改正保険業法では何が保険募集に該当するのかが一定程度明確になる。
保険募集に含まれるもの
改正監督指針では、保険契約の締結の勧誘とそれを目的とした保険商品の内容説明、申し込みの受領などが保険募集に該当すると解される。
総合的に判断されるもの
また、以上に掲げられたものでなくても、次の両方に該当する場合、具体的な報酬水準や推奨、説明の程度などから保険募集となるかどうか「総合的に判断」される。
- 保険会社又は保険募集人などからの報酬を受け取る場合や、保険会社又は保険募集人と資本関係等を有する場合など、保険会社又は保険募集人が行う募集行為と一体性・連続性を推測させる事情がある
- 具体的な保険商品の推奨・説明を行うものである
改正監督指針には、高額な紹介料やインセンティブ報酬を払って見込み客の紹介を受ける場合、本来行うことができない具体的な保険商品の推奨・説明を行う蓋然性を高めると考えられることに留意する、という文言がある。
しかし、これは万が一にも、税理士や金融機関などからの顧客紹介ビジネスが「保険募集」に該当することのないよう、保険会社又は保険募集人において適切かつ慎重な態勢の構築が求められる、という趣旨であって、顧客紹介ビジネスが今後一切できなくなるというのは誤解だ。
新たに定義された「募集関連行為」
契約見込客の発掘から契約成立に至るまでの広い意味での募集プロセスのうち保険募集に該当しない行為が「募集関連行為」と新たに定義される。例えば、保険商品の推奨や説明を行わず、契約見込客の情報を保険会社、保険募集人に提供するだけの行為などが該当する。
募集関連行為と外部委託先管理
保険募集人が募集関連行為を第三者に委託する場合、当該第三者への支払手数料の設定について慎重な対応が必要になるだけでなく、不適切な行為を行わないよう、以下の点に留意しつつ管理、監督を行うことが必要になる。
- 比較サイトなど、商品情報の提供を主な目的とするサービスで、誤った商品説明や特定商品の不適切な評価を行っていないか
- 募集関連行為従事者において、個人情報の第三者への提供に係る顧客同意の取得などの手続きが適正に行われているか
- 募集関連行為従事者において、保険募集行為や特別利益の提供など、募集規制の潜脱につながる行為が行われていないか
「意向把握義務」に対応する実務
現行保険業法では明文はないが、改正保険業法では「意向把握義務」が導入される。
改正監督指針では以下のような意向把握の方法が挙げられており、取り扱う商品や募集形態を踏まえた上で、適切な意向把握を行うための体制整備が求められる。
- 意向把握型
- 意向推定型
- 損保型
- 事業保険
- 団体保険
以下では、主なパターンの意向把握型と意向推定型について詳しく解説する。
意向把握型(主に保険ショップなど)
まずはアンケートなどで意向を把握し、個別プランを提案していくパターン。契約締結までの大まかな流れは以下のようになる。
① アンケートなどで意向を把握
② 個別プランを提案
③ 把握した意向とプランの関係性を説明
④ 最終的な意向の確定
⑤ 最終的な意向と当初把握した主な意向の比較
⑥ 比較を記載した上で、相違点があれば確認・説明
⑦ 最終的な意向と保険契約の内容が合致しているか確認
⑧ 契約締結
意向推定型(提案型ビジネスなど)
顧客属性や生活環境などで意向を推定し、個別プランを提案していくパターン。契約締結までの大まかな流れは以下のようになる。
① 顧客属性や生活環境などで意向を推定
② 個別プランを提案
③ どんな意向を推定してプランを設計したか説明
④ 推定した意向とプランの関係性を説明
⑤ 提案を通じて顧客の意向を把握
⑥ 最終的な意向の確定
⑦ 最終的な意向と事前に把握した主な意向の比較
⑧ 比較を記載した上で、相違点があれば確認・説明
⑨ 最終的な意向と保険契約の内容が合致しているか確認
⑩ 契約締結
意向把握の際に把握する情報
- どのような分野の保障を望んでいるか(※1)
- 貯蓄部分を必要としているか
- 保障期間、保険料、保障金額に関する範囲の希望、優先する事項
- 外貨建保険等の投資性商品は、投資の意向に関する情報を含む(※2)
※1:遺族補償、医療保障、介護保障など
※2:資産価額が運用成果に応じて変動することを承知しているか、市場リスクの許容など
どこまで徹底して意向把握する必要があるのか
意向把握については、これまで意向確認書面で確認していた「意向」以上のものを把握しなければならないわけではない。把握ないし確認すべき「意向」は、従来の意向確認書面で確認していた「意向」とほぼ同内容である。
また、改正監督指針の例示されている先述の方法を墨守しなければならないわけではなく、その趣旨を踏まえて適切な意向把握がなされるような工夫は当然に許容される。
一方、通販やネットなど非対面で顧客が申し込みを行ったとしても、顧客が具体的な加入商品の希望を表明したとしても、意向把握の手続きを全て省略することはできず、顧客が誤解をしていないか等の確認は必要である。
他方で、かような場合に意向把握の手続きをフルセットで行わなければならないものでもない。
なお、スタンドに設置されたパンフレットを顧客が自ら取って申し込んだ場合は、そもそも保険募集されていないと評価される場合もあろう。
意向把握に備えた体制整備
保険代理店は、意向把握に関する体制の整備として以下の対応を行う必要がある。新たに対応が必要となるものであるため、見落とさないよう確認したい。
- 意向把握、確認のプロセスを社内規則で定める
- 所属募集人に対して適切な教育、管理、指導、研修を実施する
- 適切な意向把握実施の確認のために、「最終的な意向」または「最終的な意向と比較を行った当初(事前に)把握した主な意向」の把握に用いた帳票類を保存する
実務上、意向把握の帳票の取扱は、保険会社が用意するひな型を利用して作成、提出するだけでなく、代理店が自前で作成するケースも想定されるが、いずれにせよ、保険会社に帳票の保存を任せることもできる。
なお、成約に至らなかった場合、意向把握の帳票の保存は、法律上は必要ない。また、保存期間は必ずしも保険期間満了までではなく「適切と認める期間」とされる。
「情報提供義務」に対応するための実務
現行保険業法では「顧客に対する説明」「重要事項の説明義務」を定めている以外は、虚偽説明の禁止、虚偽告知の禁止、不利益事実を説明しない乗換募集の禁止、誤解を与える比較表示の禁止、断定的判断の提供の禁止、重要事項に関する不当表示等の禁止など、顧客への情報提供に関しては、禁止規定が多い。
改正保険業法では積極的な情報提供義務を課し、内容と範囲と履行方法を具体的に定めているが、現行実務を大きく変えるものではない。
一方、複数の所属保険会社を有する乗合代理店の情報提供義務は非常に難解だ。「比較推奨販売を行う場合」「比較推奨販売を行わない場合」それぞれに情報提供義務が発生する。
比較推奨販売を行う場合(顧客の意向に沿った保険商品の選別をする場合)
比較推奨販売を行う場合、複数の所属保険会社を有する乗合代理店が、比較可能な同種の保険契約の中から、顧客の意向に沿った保険契約を選別して提案する。この際、規模や特性に関わらず、適切な比較・推奨を行うため、以下の2つの事項に係る情報提供義務が発生する。
- 比較可能な同種の保険の概要
- 提案理由
比較可能な同種の保険の場合、比較可能である全ての商品の概要を明示する必要がある。
商品特性で絞り込んだ上で選別して提案する場合、商品特性や保険料水準など顧客のいかなる意向を反映して絞り込んだのかという客観的な基準と、その商品を推奨する理由などの説明を行う必要がある。
比較推奨販売を行わない場合(代理店の意向に沿った保険商品の選別をする場合)
比較推奨販売を行わない場合、複数の所属保険会社を有する乗合代理店が、比較可能な同種の保険契約の中から、顧客の意向ではなく乗合代理店の意向で(商品特性や保険料水準など客観的基準によらず予め定めた理由、基準で)保険契約を選別することにより提案する。この際、以下の事項に係る情報提供義務が発生する。
- 提案理由
この際、同種の保険の概要説明は不要となるが、乗合代理店が商品を提案した理由や基準を説明する必要がある。この理由や基準には、特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続、経営方針上の理由まで幅広く許可されるが、一定の具体性を有する理由でなければならない。
参考事例によるケーススタディ
●7社の乗合代理店で7種類の商品から提案した場合
●長生きのリスクに備えて死亡時の資金準備をしたいという意向
各ケースの情報提供義務は以下のようになる。
【ケース1】7種類の中から顧客の意向に沿って商品Aを選別・提案
- 7種類全ての概要
- 商品Aの選別理由
【ケース2】7種類のうち「低解約返戻金型」4種類に絞り込み、商品Aを選別・提案
- 把握した意向を踏まえて「低解約返戻金型」4種類に絞り込んだこと
- その4種類の概要
- 商品Aの選別理由
【ケース3】経営方針から3種類に予め絞り込み、その中から商品Aを選別・提案
- 経営方針でこの3種類に絞り込んで提案していること
- その3種類の概要
- 商品Aの選別理由
他の商品と比較を行う際の注意
乗合代理店は情報提供の際、保険業法300条1項6号「誤解させるおそれのある比較の禁止」を踏まえ、顧客が保険契約の内容を正確に判断するのに必要な事項(優位性の根拠など)を示す必要がある。
比較・推奨に対する体制整備
商品の提示・推奨を適切に行うために、乗合代理店は推奨の基準や記録、証跡の保存などについて一定のルールを設ける必要がある。同じ代理店に所属する募集人が、それぞれ個別の基準で提示・推奨を行うことは許されない。
記録、証跡の保存については、情報提供が適切に行われているかの確認、検証に資する記録や証跡の保存が必要となる。確認、検証は、記録や証跡に基づき、定期的かつ必要に応じて行うことが求められる。
なお、「各保険会社間における公平、中立」を掲げている乗合代理店では、商品の絞り込みや提示、推奨の基準や理由は、商品特性や保険料水準などの客観的な基準や理由でなければならない。
保険募集人に対する規制の整備
現行保険業法は言わば保険会社中心主義で、保険会社による保険募集人の実態把握や管理、指導が可能だとし、保険募集人の体制整備は保険会社による指導監督を通じて間接的に義務づけている。
改正保険業法では、保険募集人が複数の保険会社の乗合代理店の場合など、保険会社による保険募集人の実態把握や管理、指導に一定の限界があるとし、保険募集人に対しても、業務規模、特性に応じて、直接的な体制整備が義務づけられる。
改正保険業法への対応として、今後は保険代理店が自ら問題意識を持って、保険募集管理態勢や顧客情報管理態勢を初めとした適切な態勢整備を実施する必要がある。
まとめ
保険募集等に関わる全ての方々が改正保険業法について正しく理解し、対応していく必要がある。
改正保険業法とは何か?という基礎から、その実務対応にいたるまでを説明した本稿が、一人でも多くの保険業界のビジネスマンに読まれ、正しい理解が広がることへの一助となれば幸いである。
- 寄稿
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村田・若槻法律事務所足立 格 氏
弁護士