【連載】新たなフェーズに入った新型コロナウィルスとの戦い~新型コロナへの医療・看護の提供は十分ではない


  1. 救急病院での体験~診察せず解熱剤を処方して終わり
  2. 救急病院では、新型コロナの初期医療を提供すべき
  3. 医療提供に優先順位をつけて新型コロナ患者の収容先を確保する
  4. 建物の構造上、新型コロナ患者を受け入れられないというのは嘘
  5. 医療提供を拒絶する病院は、その理由とともに名前を公表せよ
目次

救急病院での体験~診察せず解熱剤を処方して終わり

新型コロナに感染して痛感したことは、日本の医療提供の態勢整備が遅れていることだ。新型コロナと戦ってくれる医療機関は、本当にごく一部に過ぎない。

発症後の診察、投薬などの初期医療を提供する民間の救急病院が少ないことが、新型コロナ患者の重症化を招き、命を落とす原因になっている。感染者が多すぎて、収容する病院の確保ができないことが問題と考えられているが、それは根本原因ではない。

まず、私の体験談を話すと、39度の発熱があったため、夜10時過ぎに自宅隣の救急病院に事前連絡し、徒歩で向かった。発熱のため、通常5分の距離に数十分かかった。

救急病院に着くと、診察室には入れてもらえなかった。入口の2重扉の間で待たされた。若い医師が出てきた。ガラス越しの別室にいて、防護服を着ていない。スピーカーを使って、解熱剤(カロナール)を処方して終わり。聴診器をあてず、レントゲンを撮らない。救急では、抗原検査やPCR検査は行わないので、明日、PCR検査の予約を取ってから、もう1度、来てくれという。すべて「ルール」で決まっていることだと言う。

この救急病院では、新型コロナの医療に関しては、解熱剤の処方とPCR検査しか行わないのだ。新型コロナが疑われる発熱患者には、解熱剤を処方して「診察」の義務を果たし帰ってもらう。PCR検査は行うが、その結果、陽性になった者は、新型コロナ専門病院に行ってもらう。

リスクが高く収益を生まない新型コロナの患者は、自分達からはなるべく遠ざけて、専門病院に任せるという経営判断なのだ。ホームページをみると、自宅隣の救急病院(民間総合病院)の病床数は450床を超える。新型コロナ専門の都立広尾病院の病床数(426床)よりも多い。民間の救急病院の経営判断だからやむを得ないと済ませて良いものだろうか。

救急病院では、新型コロナの初期医療を提供すべき

新型コロナでは、すでに国民1万人以上が命を落としている。救急病院の看板を掲げるからには、ワクチンを接種し防護服を着た医師、看護師が常駐して、本来の診察を行うべきだ。たとえば、救急病院であれば、以下の3つの初期医療は提供できるはずだ。

①救急病院に発熱患者がきたとき、まず、抗原・PCR検査を実施する。少なくとも抗原検査は、短時間で陽性・陰性の判定ができる。クラスター感染を防止する観点から発熱患者だけではなく、すべての受け入れ患者に行って当然の検査だ。

②ワクチンを接種し防護服を着た医師が、発熱患者に聴診器をあてて肺の音を聴く。肺部のレントゲンを撮って、血液検査を行う。そして、入院すべき患者を特定する。新型コロナの場合、肺炎の進行が極めて速い。肺炎の徴候を早期に発見することが重要だ。

このとき、新型コロナ専用のレントゲン室を増設する必要はない。今や、相応規模の病院は移動式の小型レントゲン機器を持っている。病床、診察室など、どこでもレントゲンは簡単に撮れる時代だ。

③上記の診察・検査結果を踏まえ、投薬治療が必要な新型コロナ患者に対しては、直ちに薬を処方して、治療を開始する。症状の進行を、早期に抑える投薬治療も重要だ。

新型コロナの治療は対症療法になるが、症状に応じた標準的な投薬治療の基準・目安が厚労省から示されている。入院治療を受けて初めて分かったのだが、投薬治療のパターンは決まっているのだ。

すぐに新型コロナ専門病院に入院できるのであれば、救急病院で薬の処方をする必要はない。しかし、入院先が見つからないときには、救急病院は、ホテル・在宅の患者に対して、可能な範囲で投薬治療を行うべきだ。

新型コロナは、初期段階で、息苦しさなど自覚症状がないまま、数日間で肺炎が急速に広がる怖い病気だ。救急病院が、解熱剤だけを処方して、患者を無責任に放り出してしまうから、入院を待つあいだに重症化して命を落とすことになる。救急病院であれば、民間病院であっても、新型コロナ患者の命を救うために、最低限の態勢を整備して、医療の使命を果たしてほしい。

医療提供に優先順位をつけて新型コロナ患者の収容先を確保する

新型コロナ患者の収容先の確保に関しては、別次元の議論が必要だ。収容先は、新型コロナ専門病院からという考え方になるのは自然だ。しかし、感染爆発が起きて、治療を要する新型コロナ患者が累増する局面では、新型コロナ専門病院だけでは病床が不足することになる。新型コロナ専門病院では、重症患者の受け入れを優先する。治療を要する中等症・軽症の患者を受け入れる病床を、別途、確保する必要がある。

新型コロナの中等症の患者は、酸素供給を必要とすることが多く、入院しなければ、命を落とす危険がある。軽症の患者も、症状が悪化すれば、同様だ。投薬治療をして、肺炎の進行状況をモニタリングしなければならない。

命を落とす危険のある患者が急増している一方で、医療・看護を提供する病床・スタッフは限られている。要するに、緊急事態宣言下で、医療・看護の提供に優先順位を付けるべき時期に至っているということだ。

病床やスタッフなど医療資源に限りがある以上、直ちに命にかかわるほどではない病状の方には、病床を空けてもらったり、新規の入院を控えていただく。そのようにして、命を落とす危険がある新型コロナの患者を収容する以外に方法は考えられない。

たとえば、回復期(リハビリ)入院などで、直ちに命にかかわるほどではない患者4人を、本人・家族の同意を得て、在宅治療にしてもらう。あるいは、新規の受け入れを停止し、4人分の空きベッドを作る。現在、どの病院でも4人部屋は一般的なので、4人分の空きベッドを作れば、新型コロナ患者を収容する専門病室を1室作ることができる。そこに、中等症、軽症で、酸素供給が必要な新型コロナ患者1~2人を受け入れるのだ。

新型コロナ患者の医療・看護の負担は大きい。通常の医療・看護に必要なスタッフの2倍の人数が必要と言うのであれば、新型コロナの患者は2人受け入れられる。4倍の人数が必要と言うのであれば、新型コロナ患者は1人しか受け入れられない。

建物の構造上、新型コロナ患者を受け入れられないというのは嘘

病院建物の構造上、受け入れができないという声も聞かれるが、新型コロナ患者を受け入れたくないので、言い訳をしているだけだ。少なくとも知恵を働かせようとしていない。

新型コロナ専門病院に収容されて、病室の隔離は、そんなに難しいものではないことが分かった。

新型コロナ専門病院である都立広尾病院で、私は2つの病室で隔離治療を受けた。はじめは、6階フロアーに4つある4人部屋の1つに隔離収容された。6階はフロアー全体の半分程度が隔離スペースになっている。隔離スペースの中にはトイレ、シャワー室もあり、比較的軽症の患者が共用利用している。

その後、7階フロアーの奥に1つだけある4人部屋に移った。当該4人部屋だけが隔離スペースになっている。患者は、その部屋から出ることは禁止されている。患者は簡易トイレを使い、シャワーではなく使い捨てのウェット・タオルで体を拭く。

どの病室に患者を搬入するときも、全館放送が流れ、搬入経路から病室にいたるまで、スタッフ全員を一時的に退避させる。防護服を着たスタッフが患者を搬入する。

フロアーの一定エリアを隔離できればよいが、それができない場合、部屋単位で隔離すればよいだけだ。建物の構造上、新型コロナ患者を受け入れられない理由などあり得ない。

日本で医療崩壊が起きているのは、新型コロナの感染者数が多いからではない。むしろ国際的にみると日本の感染者数は少ない。多くの病院で「医療の使命」が忘れられているから、多くのコロナ患者が適正な医療・看護を受けられずに命を落としている。

医療提供を拒絶する病院は、その理由とともに名前を公表せよ

緊急事態宣言下では、感染対策のため、飲食業、サービス業を中心に営業自粛や時短が要請される。要請に従わない場合、事業者名が公表されたり、罰金が科されることもある。

政府や地方自治体は、人流や経済活動の制限をするよりも前に、医療機関に対して、新型コロナ患者の初期医療や収容先の確保に関して、もっと強く指示するべきだ。現行法制の下でも、医療・看護の提供に関する指示ができる仕組みにはなっている。

ただし、医療・看護の提供ができない場合には、その限りではないという例外規定があり、それを濫用する病院が少なくない。政府や地方自治体は、もっとリーダーシップを発揮し、民間病院の協力を取り付けるべきだ。

緊急事態宣言下において、飲食業、サービス業などに営業自粛、時短の要請がなされ、したがわなければ罰則まであるのに対して、民間病院には、国民の命を守るために、今すぐ必要な医療・看護の提供を拒絶する権利が認められている。バランスを大きく失していると言わざるを得ない。不公平であるだけでなく、国民からの医療不信につながる。

緊急事態宣言下にあっても、国民には、等しく、適正な医療・看護の提供を受ける権利がある。いや、緊急事態宣言下だからこそ、その権利が保障されなければならない。

病床数やスタッフの人数などからみて、相応の規模の医療機関には、新型コロナ患者に対する医療・看護の提供を指示すべきだ。提供すべき医療・看護の項目を列挙して、その提供ができないという医療機関には、その理由を書面で回答させる。その回答書と病院名を公表すれば良い。

手続きを透明化するだけで、もっと多くの病院が協力し、命を救うという「医療の使命」を果たすべく、本気で動き出すだろう。

寄稿

正太郎(しょうたろう)

金融、ガバナンス、リスクマネジメント、監査の専門家。
金融専門誌にコラムを執筆。

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