金融機関のためのスモールスタートから始めるリスク管理体制の構築


リスクには、大きく2つに分けることができる。①自分である程度コントロールできるリスク、②自分ではコントロールが難しいリスクである。近年は、自分ではコントロールが難しいリスク(経済ショックリスク、災害リスク、パンデミックリスク)に対する管理体制の構築が重要な課題となっている。本稿では、リスク管理構築のポイントを大きく2つに分け解説する。

  1. リスク管理体制の必要性
  2. リスク管理体制構築のための2つのポイント
  3. 管理体制構築のポイント①リスクの洗い出し
  4. 管理体制構築のポイント②リスク・カルチャーの醸成
目次

リスク管理体制の必要性

社会・企業は様々なリスクに晒されており、持続的な社会・事業活動を実現するためには、これらリスクを適切にコントロールする体制が必要になります。リスクには、大きく分けて、自分である程度コントロールできるリスクとして、取引相手方のリスク、市場性のリスク、人に関するリスクがあります。

また、自分ではコントロールが難しいリスクには、金融危機等の経済ショックリスク、地震等の自然災害リスク、新型コロナウイルス感染症等のパンデミックリスクがあります。特に、近年は後者のリスクの存在感が一段と増しているため、両者を有機的に取り込んだリスク管理体制の構築が重要な課題となっています。

▼リスク管理体制の構築について詳しく学ぶ
さらに詳しく学びたい方はこちら

リスク管理体制構築のための2つのポイント

しかし、リスク管理体制を構築する場合に、目指すべきゴールの設定や、実際に何から手を付けたらよいのか迷うケースも多いのではないでしょうか。また、実際に手を付けた後も、事前には把握できなかった新たな問題に遭遇し、トライアンドエラーを繰り返すケースも多いと思います。こうした試行錯誤を、組織として如何に咀嚼し、論理的に整理していけるかが、有効なリスク管理体制構築の鍵を握ります。

それでは、リスク管理体制の構築に向けて、どのように臨むべきかを考えたいと思います。ポイントとしては、トライアンドエラーの繰り返しを前提に置くこと、組織への浸透がきちんと図られることの2点を押さえるべきであると考えます。そのため、大きな目標(リスク管理委員会等の設置)は定めつつも、そのアプローチ方法は、施策の成功だけでなく、失敗も含めて企業のノウハウとなるようなチーム体制で臨むことが重要となります。もちろん、このチーム体制には経営層のしっかりとコミットメントが必要です。

具体的なアプローチ方法ですが、再現性を意識しているため極めてシンプルです。この再現性の意味は、端的に言うと、誰がやっても同じ効果を期待出来る、第三者が適切に評価することが出来ることの2点を意味します。リスク管理体制の出来具合にランクを付けることは難しいですが、少なくとも高ランクの要素にシンプルさは含まれるでしょう。

スモールスタートで始めるリスク管理体制の構築事例として、1年間の準備期間を経て、リスク管理委員会の立ち上げに成功した事例に触れたいと思います。

構築のコンセプトは、小さなPDCAサイクルを回していくことにあり、短期間でリスク管理体制の在り方やリスク評価に関するノウハウを蓄積することを意識しています。リスク管理体制の構築は、リスク評価とリスク・カルチャーの醸成の2つのタスクに分けられます。

リスク評価、リスク事象を洗い出す(自社の特徴を知る)、リスク事象を評価する、リスク事象への対処方針を決める、といった流れになります。リスク・カルチャーの醸成は、リスク管理の考え方や行動指針を組織に浸透させるために実施します。

管理体制構築のポイント①リスクの洗い出し

リスク事象の洗い出しは、網羅性の観点を重視して、自社が抱えるリスク事象をリストアップしていきます。リストアップする際は、同じジャンルのリスク毎に分類していきます。

次に、リスク事象の評価を行いますが、評価の軸は、リスクの大きさ、現状、改善策(改善コスト)になります。こうした評価をベースに、個々のリスク事象に対して、どういった順番で改善していくのかといった優先順位を付けていきます。最後にリスク事象への対処方針を決めていきます。なお、これらを円滑に行うためのレポーティグライン等の組織体制の整理も行います。

管理体制構築のポイント②リスク・カルチャーの醸成

リスク・カルチャーの醸成では、リスクとは何か、なぜリスク管理が必要なのか、リスク管理にはどういったメリットがあるのか、といった必要性を経営層から従業員に伝えていきます。リスク管理は、車に例えるとブレーキの役割になります。つまり、車が速く安全に走るためには、優れたブレーキが必要になるのと同じで、事業を安全に加速させるためには、優れたリスク管理が必要になります。もう一つ重要なのが、リスク管理は収益に大きく貢献するということ、この視点を組織に埋め込むことを進めます。

リスク管理は、極論を言えば、全てのリスク事象に全力で対応することが最も望ましい形になります。しかし、これは現実的ではありません。そこで、リスク事象への対応の強弱を付けることが肝になり、特に、スモールスタートで始めるリスク管理体制の構築では、一段と重要になります。

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岡崎 貫治 氏
寄稿
リスク計測テクノロジーズ株式会社
代表取締役
岡崎 貫治 氏
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