気候変動シナリオ分析についての3つの観点
企業と投資家や金融機関が、気候変動問題をテーマとして対話をおこなっていく上で、気候変動シナリオを理解することは重要である。様々な社会的課題の中でも特に非常に長期にわたるテーマであり、不確実性も高いことから、あらかじめ前提条件が共有されていなければ有効な対話をすることが難しいからである。
TCFD提言におけるシナリオ分析は、開示項目の戦略の中で“2℃以下のシナリオを含めた異なる気候関連のシナリオの下で組織戦略のレジリエンス”を開示することが推奨されている(※1)。
また、TCFDは、最終提言が公表と同時期にシナリオ分析に関する実務的な論点についてはガイダンスも公表している (※2) 。しかし、現在に至るまでのシナリオ分析ついての開示は、日本だけではなく世界的に見てもあまり進んでいないのが現状である (※3) 。
また、開示情報を利用する金融機関にとっても気候変動シナリオの取り扱いは悩ましい問題の1つではないだろうか。少なくとも金融機関はシナリオ分析について3つの観点で対応しなければならない。
① 企業から開示されたシナリオ分析から企業の戦略を読み解きエンゲージメントをおこなう情報利用者としての観点である。
② 企業とのエンゲージメントの結果、保有することとなった金融資産に内在する気候変動リスクの管理の観点である。
③ ステークホルダーに対して自身の戦略をシナリオ分析によって開示する情報作成者としての観点である。
金融機関にとっては、この3つの観点からのシナリオ分析に対して円滑に対応していかなければ、理想とする金融行動には至らない。ここでは、金融機関固有の情報利用者とリスク管理の観点から、現状における課題とその課題を緩和する方法や考え方について述べていきたい。
脚注 ※
※1 “”カッコ内の日本語訳は、TCFD最終報告書のサステナビリティ日本フォーラム翻訳版による。
※2 シナリオ分析に関して、テクニカルサプリメントとして公表されている。“The Use of Scenario Analysis in Disclosure of Climate-Related Risks and Opportunities”(2017)
※3 TCFDの開示推奨項目で最も進んでいないのは、「シナリオ分析」(調査対象企業の13%)であった。(2021StatusReport(2021) P30参照)
- 寄稿
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株式会社日本政策投資銀行松山 将之 氏
設備投資研究所 主任研究員(博士(経営管理))