ウクライナ侵攻で変わる米国のサプライチェーン ~「サプライハーネス」の構築~


ワシントンにおいて、ロシアのウクライナ侵攻は大きな衝撃を与えた。冷戦後の国際秩序の崩壊とまで危惧されているウクライナ情勢は、改めて地政学的リスクの重要性を国際社会にまざまざと見せつけている。それだけではない。グローバル化が深化した世界での国際紛争は、グローバルサプライチェーンの脆弱性も露わにすることとなった。
本稿では、米国におけるサプライチェーンの調査から、サプライチェーンに関するこれまでの施策、および今後の展望について解説していく。

  1. 米国サプライチェーンの変遷
  2. 米国サプライチェーンの調査
  3. バイデン政権の施策
目次

米国サプライチェーンの変遷

そもそもサプライチェーンはコロナ禍をきっかけに、既に広範囲に混乱が広がっていた。米国においてコロナ禍初期では、マスクなどの個人防護資材(PPE)がほとんど中国に依存していたことが露わになり、米国内での供給が希薄になったことで爆発的な感染拡大につながった。経済活動が再開した後は、半導体不足による自動車価格高騰を始め、幅広い商品にまでインフレの波が押し寄せている。当時マスクが不足していなければ、コロナの感染が抑えられ、それによりトランプ前大統領が再選を果たせたかは分からない。ただ足元のサプライチェーン混乱によるインフレ高進は、バイデン大統領支持率低下の主因となっていることは間違いない。サプライチェーンが政権の命運を左右するといっても過言ではない。サプライチェーンから、さらに強固で多様化した「サプライハーネス」が求められる時代となっている。

そういう意味で、バイデン政権が発足後1カ月という初期に、大統領令14017号により、サプライチェーンの調査に着手したことは評価できるだろう(図表1)。同大統領令は商務省など4省に対し、100日以内にそれぞれの重点セクターに関する、短期的なサプライチェーンの課題と対応方法の調査を指示すると同時に、長期的な課題に対しては1年間の期間を設け、国防総省など7省に調査を命じた。

阿部 賢介 氏
寄稿
丸紅米国会社ワシントン事務所
政策経済調査マネージャー
阿部 賢介 氏
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